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その14:男のモノを咥える少年娼婦

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「オマエの荷物と服だ。まずはその服に着替えろ」

 輜重隊しちょうたいの男が来て、アバロウニは、着替えるように言われた。
 そして、着替の服を手に取った。娼婦のための服なのだろう。

 男は出て行く様子はなかった。アバは男の前で着替えはじめた。
 その間、ジッと男に見つめられていた。
 遠慮のない、情欲の視線が白い肌に突き刺さるようだった。
 そのような目で見られるのも自分が女になってしまったからだと彼は思う。
 それは、もうどうしようもないことだった

 肩ひもをかけ、薄い布でできた服だった。彼の丈は短く白い脚が太ももまで露わとなる。
 ひらひらした頼りない服だった。 

「ほう、さすが…… 別嬪べっぴんだね。初日から大人気なわけだ」
「そうなの」
「ああ、オマエさんの噂でもちきりだぜ。予約が殺到している。一月先までびっちり客が埋まったぞ。こんなのは初めてだよ」
「そんなに……」

 一瞬、彼は恐怖を感じた。自分の肉体を求める男の数の多さ。それは、輪姦された記憶をよみがえらせた。

「なんだ? 大丈夫だよ。最初なんで、無理させるなって、将軍が言っているからな」
「将軍?」
「ああ、ヘベレケン様だよ。ここ輜重隊じゃ「将軍」とか「将軍様」て呼ばれているんだよ。今日は3人で終わりだ。慣れたら5人か、まあ、もっとできるならもっと増やすけどな」

 ヘベレケンを「将軍」と呼んだ男の言葉には親しみと尊敬が入り混じったものがあった。
 
 着替えが終わり、アバロウニは、仕事場に向かう。傭兵団の娼婦としての仕事場に。
 男に股を開き、自分の身体に射精させるだけの仕事。
 肉奴隷だった彼にとって初めてのことではない。
 
「分かれば、教えて欲しいんだけど」

 不意にアバロウニは口を開いた。

「なんだい?」
「ボクはいくらあれば、ボクを買えるの?」
「ん?」

 男はアバロウニの質問に視線を上に向けた。

「詳しくは分からんが、100グオルドは超えるんじゃないか?」
「100グオルド?」
「オマエさんくらいの若さで器量の奴隷だろ…… 最低でそれくらいだろ。下手すりゃもっとだな」
 
 グオルドという単位には、アバロウニはなじみが無かった。
 奴隷時代はお金など無縁であったし、故郷の村では銀貨のシルバルで十分生活ができたからだ。
 
 男はグオルドについて説明した。
 銀貨であるシルバルが100枚で金貨のグオルドになる。
 100グオルドというのは、銀貨1万枚ということになる。

 輜重隊の男だけにスラスラと立て板に水だった。
 日ごろから金や物の勘定をするのが仕事だ。
 そしてここではアバロウニも「物」だった。 

「え? そんなに……」

 アバロウニは銀貨1万枚という数字に気が遠くなる。
 それは1万人の客をとらねば稼ぎ出せない金額ということになる。
 稼いだ金は食事やその他、生活するために遣う必要もある。
 いったいどのくらいで、そんな金が貯められるか、アバロウニには見当がつかなかった。

「1日5人客をとって、まあ1年間300日働く。1500シルバルだ。8年くらいか……」

 男はソラで計算した結果を口にしていた。
 アバはただ「8年」という数字だけが耳に残る。彼にとっては気が遠くなる長さだ。
 それにそれは、稼いだ金を全て貯めた場合の計算だった。
 現実にはその倍以上かかるかもしれないとアバは思う。

「まあ、オマエさんくらいの器量なら、サービス次第でチップも増えるだろう。稼ぎはもっといくかもしれないな」
「チップ?」
「男の要求に応えてやることだよ。特別サービスの対価にお金をもらうってことだ」

 男は説明を続けた。
 要するに、娼婦はただ、身体を開き、男が射精するか、時間まで身体を自由にさせればいいのだ。
 彼がキリシャガに仕込まれたような、男を悦ばせる技をする必要はなかったのだ。
 
 しかし、客と交渉し、特別なサービスをする自由はある。
 そこでの「チップ」は自分のものにできた。

「まあ、その口で男のモノを咥えれば、チップはもらえるだろさ」

 男はアバロウニの春の花のような色をした唇を見て言った。
 
「口を使えば、もっと稼げる?」
「稼げるだろうなぁ……」

 アバの言葉を聞いて、男はゴクリと唾を飲み込んだ。
 この目の前の美麗な娼婦が、己の男器官に舌を這わせているのを思い描いたのだ。

「100グオルドは、俺の見立てだ。正確な金額は、訊いといてやろうか?」

 男は優しげに言った。
 ただ、その顔はオスの下心が丸見えだった。
 おそらく、情報と交換に、身体を求める気なのだろう。
 
「あの…… お願いします……」

 それでもアバロウニはお願いする。
 本当は自分はいくらなのか。
 自分を買うためにお金はどれくらい必要なのか?
 それは知っておくべきことだったからだ。 

(もし、お金を稼いで、自由になれるなら…… でも、自由になって――)

 彼はその先で思考を止めた。先のことよりも目先のこと、なにかすがりつくような希望が欲しかったからだ。

        ◇◇◇◇◇◇

 灯明皿の炎の明かりがゆらゆらと揺れる。

 にゅちゅにゅと湿った音をたて、薄明りの中で男のモノを彼は咥えていた。
 炎の明かりよりも紅い髪をした娼婦だった。

 口の中で、男のモノに舌を這わせる。丹念に、怒張した血管を舌先で感じるような舐め方だった。
 男は、どこを感じるのか? 
 男の肉体を持ったこともあり、キリシャガに仕込まれたアバロウニは、そのことをよく知っていた。

「ああああ、おぉぉぉ、なんてぇぇぇ、ああああ―― 出ちまう、出ちまうよぉぉぉ」

 男が限界を訴える。口の中の怒張が更に硬度を増した。
 口の中で、射精までさせる約束にはなっていない。その場合はもう1シルバルを要求している。
 サービスはここまでだった。

 アバロウニは咥えていた男のモノを吐きだした。
 ピンク色は、テラテラと妖しく光っていた。
 彼は赤い舌で口の周りを舐めた。

「は、は、は、ああああ、すげぇぇ、これが…… こんなの初めてだぜぇ――」

 男は、アバロウニを押し倒し、強引に脚を広げた。
 女性であることを示す器官が薄明かりの中で露わとなる。
 灯明皿の造りだす炎の中、淡い色をした肉とかげり――
 
「いいかぁ、楽しませてくれよぉぉ」

 男はヌルヌルとなった股間の物をアバロウニの肉ひだの間に突きたてた。
 十分に濡れた男の器官は、アバロウニの中にズブズブと沈み込んでいく。

「どうだぁぁ? 俺のオチンコはぁ? あああ? 気持ちよくねぇか?」

 男は乱暴に腰を使う。ガンガンとアバロウ二の中を掻き回す。
 彼は心と肉を切離していていた。
 
「あ、あ、あ、あ、あ―― すごいぃぃ。ああ、あはぁ……」

 アバロウニは声を上げる。しかし、その瞳には何の感情の色も浮かんでいなかった。
 薄明りの炎が、ただ乱れた真紅の髪を照らしていく。

「あああ、あそんなにいいのかぁぁ、イクぅぅ、いっちまう。ああああ!」

 男は他愛無く、アバロウニの中に射精した。
 ドロリとした精液の感触。それが肉の奥で熱をもって感じられた。

「どうだ? よかったか? はぁ、はぁ」
「うん。気持ちよかった。すごかった――」

 アバロウニは死人のような瞳でその言葉を口にする。
 自分ではない、誰かが遠くで言っているような気がした。

 金額は前金で受け取っていた。
 後からでは、ごねる客がいることを輜重隊の人間に聞いていたからだ。
 トラブルが起きたとしても、ここでは娼婦の自己責任だ。

 輜重隊とすれば、ノルマの金を稼いで、納めてもらえればいいからだった。

 アバロウニは、客の体液で汚れた部分を濡れた布でぬぐっていく。
 口は泥水でもいいから、うがいをしたかった。

「よう、気にいった―― またくるからよぉぉ」

 男はそして去っていく。
 フェラチオの分は1シルバル。それは全て自分の取り分だ。
 アバロウニは、枕元の巾着袋を手に取る。中に入っている銀貨を確認した。
 何枚かの銀貨がそこに入っている。
 
(これで2シルバル……)

 彼の傭兵団での娼婦稼業は始まった。
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