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その33:再会
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アバロウニは、出迎えの馬車に乗った。
そして、街の中を移動する。
(ずいぶんと栄えた街なんだ…… ツナルガは)
雑踏の音、風の音、全ての音がその街が活気に満ちていることを証明しているかのようだった。
目に映る光景もいままにないものだった。
明るい陽光の下で見る街は、多くの人が生活しているようだった。
(どれくらいの人が住んでいるのだろうか?)
自分の住んでいた小さな村とは比較にならない。
その後の生活は、ほとんど「駕籠の鳥」だった。当然、年という枠の中で生活した経験などない。
「川?」
馬車がガタガタと橋の上を通る。
「運河ですよ」
馬車の中には、アバロウニと使いの者が一人。若い男だ。その男が言った。
この男の人もいわゆる「軍」の人なのだろうかと、アバロウニは思う。
「あの…… ラグワムは」
と、言いかけアバロウニの口が止まる。
その先を聞くのが怖いという思いが、言葉を止めてしまった。
また、自分の知っているラグワムと同じ人物であるのかどうか、それを説明する言葉も出てこない。
「なんでしょうか?」
「いえ…… いいんです」
「そうですか」
沈黙が馬車の中を支配する。
ただ、ゴトゴトと揺れる馬車は街の中央に向け、進んで行った。
◇◇◇◇◇◇
巨大な門を通り、馬車はしばらく進んだ。
(こんな大きな屋敷……)
アバロウニは貴族の屋敷で奴隷として過ごしていたことがある。
その屋敷と比べても、大きさが遜色ないように見えた。
陽光の下で輝くような白い屋敷だった。
「こちらでお降りください」
アバロウニは、使いの者の後をついて、敷石の敷き詰めた道を歩き、玄関の前まで出た。
街の中の雑踏から隔絶され、ただ風にゆれる草木の音だけがその場に流れていた。
(貴族? こんな大きな屋敷に……)
幼馴染のラグワムとこの大きな屋敷のイメージが釣り合わない。
アバロウニは、真っ赤な絨毯を敷き詰めた通路を、使いの者の後に付いて歩く。
調度品は少なく、飾り気はない屋敷だけども、手抜きのないしっかりした作りの内装だった。
階段を登り、部屋に案内される。応接間のような場所。
「こちらで、お待ちください」
そう言って、使いの者はすっとお辞儀をすると部屋を出て行った。
アバロウニは部屋をぐるりと見た。
ここも飾り気はない部屋だが、一つ一つの調度品はおそらく高価なものだろうと思った。
部屋の置くにはもうひとつの扉があった。
自然とそこに目が行く。
自分の知るラグワムとは別人ではないか――
どうしても、その思いが強くなる。
そぐわないのだ。
自分がこの場にそぐわないのと同じように、自分の中にあるラグワムのイメージともそぐわない。
貴族的で悪趣味な装飾は無かったが、隠そうとしても隠しきれない豪華さが、この屋敷全体にあった。
(大隊長って、偉いのかな……)
そういったことに、詳しくないアバロウニにはよく分からない。
漠然と傭兵団の隊長くらいに考えていたが、そのような存在ではないのかもしれないと思った。
扉がきぃっと音を立て、開いた。奥の扉であった。
すっと背の高い男が現れた。
アバロウニの鼓動は自然と激しくなっていく。とくとくと――耳の後ろに心臓ができたようだった。
耳にかかる漆黒の髪が印象的だった。真っ直ぐでサラサラと音のしそうな髪が歩にあわせ揺れていた。
男は広い肩幅をゆらし、二三歩前にでる。
「アバロウニ…… なのか?」
「ラグワム?」
「ああ」
見た目は大きく変っていた。アバロウニの出身の村――
その一族は成熟する前は、雌雄両性体なのだ。
そして、成長とともに、性別が確定する。
幼馴染のラグワムは完全な雄体に成長していたのであった。
そして、街の中を移動する。
(ずいぶんと栄えた街なんだ…… ツナルガは)
雑踏の音、風の音、全ての音がその街が活気に満ちていることを証明しているかのようだった。
目に映る光景もいままにないものだった。
明るい陽光の下で見る街は、多くの人が生活しているようだった。
(どれくらいの人が住んでいるのだろうか?)
自分の住んでいた小さな村とは比較にならない。
その後の生活は、ほとんど「駕籠の鳥」だった。当然、年という枠の中で生活した経験などない。
「川?」
馬車がガタガタと橋の上を通る。
「運河ですよ」
馬車の中には、アバロウニと使いの者が一人。若い男だ。その男が言った。
この男の人もいわゆる「軍」の人なのだろうかと、アバロウニは思う。
「あの…… ラグワムは」
と、言いかけアバロウニの口が止まる。
その先を聞くのが怖いという思いが、言葉を止めてしまった。
また、自分の知っているラグワムと同じ人物であるのかどうか、それを説明する言葉も出てこない。
「なんでしょうか?」
「いえ…… いいんです」
「そうですか」
沈黙が馬車の中を支配する。
ただ、ゴトゴトと揺れる馬車は街の中央に向け、進んで行った。
◇◇◇◇◇◇
巨大な門を通り、馬車はしばらく進んだ。
(こんな大きな屋敷……)
アバロウニは貴族の屋敷で奴隷として過ごしていたことがある。
その屋敷と比べても、大きさが遜色ないように見えた。
陽光の下で輝くような白い屋敷だった。
「こちらでお降りください」
アバロウニは、使いの者の後をついて、敷石の敷き詰めた道を歩き、玄関の前まで出た。
街の中の雑踏から隔絶され、ただ風にゆれる草木の音だけがその場に流れていた。
(貴族? こんな大きな屋敷に……)
幼馴染のラグワムとこの大きな屋敷のイメージが釣り合わない。
アバロウニは、真っ赤な絨毯を敷き詰めた通路を、使いの者の後に付いて歩く。
調度品は少なく、飾り気はない屋敷だけども、手抜きのないしっかりした作りの内装だった。
階段を登り、部屋に案内される。応接間のような場所。
「こちらで、お待ちください」
そう言って、使いの者はすっとお辞儀をすると部屋を出て行った。
アバロウニは部屋をぐるりと見た。
ここも飾り気はない部屋だが、一つ一つの調度品はおそらく高価なものだろうと思った。
部屋の置くにはもうひとつの扉があった。
自然とそこに目が行く。
自分の知るラグワムとは別人ではないか――
どうしても、その思いが強くなる。
そぐわないのだ。
自分がこの場にそぐわないのと同じように、自分の中にあるラグワムのイメージともそぐわない。
貴族的で悪趣味な装飾は無かったが、隠そうとしても隠しきれない豪華さが、この屋敷全体にあった。
(大隊長って、偉いのかな……)
そういったことに、詳しくないアバロウニにはよく分からない。
漠然と傭兵団の隊長くらいに考えていたが、そのような存在ではないのかもしれないと思った。
扉がきぃっと音を立て、開いた。奥の扉であった。
すっと背の高い男が現れた。
アバロウニの鼓動は自然と激しくなっていく。とくとくと――耳の後ろに心臓ができたようだった。
耳にかかる漆黒の髪が印象的だった。真っ直ぐでサラサラと音のしそうな髪が歩にあわせ揺れていた。
男は広い肩幅をゆらし、二三歩前にでる。
「アバロウニ…… なのか?」
「ラグワム?」
「ああ」
見た目は大きく変っていた。アバロウニの出身の村――
その一族は成熟する前は、雌雄両性体なのだ。
そして、成長とともに、性別が確定する。
幼馴染のラグワムは完全な雄体に成長していたのであった。
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