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38.圧倒的パワー
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「下から崩せって、普通ならアドバイスするけどなぁ。ありゃ、無理そうだ……」
江須田論師匠は、投げやりなアドバイスにもならないことを言った。
「では、どうするのだ? 回転数を生かすため、懐に入るのか? 度し難い――」
「簡単には入れてくれんでしょ~」
師匠はヘラヘラと断言する。弟子が苦戦するかもしれないとか、負けるとかそんなことに一切興味が無いようだった。
いや、実際に無いんだろう。この人には。
「あのさぁ――」
「はい」
師匠が耳を穿りながら、話を続ける。
「あの相手じゃ、動き回って隙を見つけるとかも駄目だし、キミの『眼』も役に立つかどうかわからん」
「そうですね」
巨女は、身体が大きいが愚鈍なイメージが一切無い。
おまけに動きを見ても、それを自分でトレースするにはサイズが違いすぎる。
せいぜい、攻撃をよけることができるかどうかだ。
それにしても、サイズの大きさが、目測を誤らせる可能性がある。
――やっかいだな。
と、思うしかない。
フェミニスト組織の生み出した、巨女はなんの感情もこもっていないガラス球みたいな眼でこちらを見た。
なにを考えているかも分らない。
そして、仕合が始まった――
◇◇◇◇◇◇
巨像のように、相手は立っていた。
あるいは山のように。
ちょっとやそっとではビクともしないことが見た目にも分る。
もしボクが男のままの運動能力やパワーをもっていても、話にならないだろうと分る。
ガッ!!
小細工なし。
ボクは膝に真っ直ぐ蹴りをいれた。
関節蹴り。
スポーツ格闘技の多くでは禁止されている技だ。
――岩?
なにこれ?
蹴った瞬間の感触が異常。
足がゴムをまいた鉄柱に弾き返されたような感じだった。
こっちの足の方が痺れている。
巨女は一切の感覚が遮断されているかのような感じで微動だにしない。
表情もぴくりとも動かない。
唐突だった。
いきなり動いた。
予備動作もくそもなく、巨女の脚が吹っ飛んできた。
颶風が熱をもって顔に叩きつけられるのを感じる。
――脱力してブロック――
こんな蹴りに対抗できるわけがない。
ボクは顔を腕でガードして、身体の力を抜く。
衝撃を受ける時間を長引かせ、力積を分散させようとした――
が――
その瞬間。
脚がもげた…… ような感触があった。
巨大な鉄槌で脛を叩かれたような衝撃。
蹴りが空中で軌道を変え、脛を叩き割りにきた。
重すぎる蹴りがボクを吹っ飛ばして、身体を空中で側転させた。
この運動エネルギーの分だけ、脚のダメージは減ったが、それでも一発で骨が折れた。
脛の骨――
細い方の「腓骨」が完全に折れた。身体の中で「ぺキッ」って音が響いた。
凶器だ。
どんな攻撃も凶器だった。
サイズの違い。
パワーの違い。
桁違いの破壊力。
どこで、どう受けようが、身体にダメージを受ける。
『眼』でトレースしようにも、単純なパワーが違いすぎる。
決して技術が低いわけではない。
この身体で軌道が変わる蹴りを放つなんて、とんでもないボディバランスだ。
でも、そういった高い技術そのものよりも、一撃、一撃のパワーが問題だった。
問題がありすぎた。
どんな攻撃も、トラックが高速で突っ込んでくるようなものだ。
受けてしまっては人間では防ぎようが無い――
ぶぉぉん――
空気が焦げ臭くなるような速度で蹴りが吹っ飛んできた。
四つんばいになっていたボクの頭を狙った蹴り。
辛うじてそれをかわす。
髪の毛が巻き込まれ、宙を舞った。
ガンという音というより衝撃が脳天に突き抜けた。
拳を顔面に喰らった。顔が焼けるように熱かった。それだけ認識できた。
ボクは意識を喪失していた。
江須田論師匠は、投げやりなアドバイスにもならないことを言った。
「では、どうするのだ? 回転数を生かすため、懐に入るのか? 度し難い――」
「簡単には入れてくれんでしょ~」
師匠はヘラヘラと断言する。弟子が苦戦するかもしれないとか、負けるとかそんなことに一切興味が無いようだった。
いや、実際に無いんだろう。この人には。
「あのさぁ――」
「はい」
師匠が耳を穿りながら、話を続ける。
「あの相手じゃ、動き回って隙を見つけるとかも駄目だし、キミの『眼』も役に立つかどうかわからん」
「そうですね」
巨女は、身体が大きいが愚鈍なイメージが一切無い。
おまけに動きを見ても、それを自分でトレースするにはサイズが違いすぎる。
せいぜい、攻撃をよけることができるかどうかだ。
それにしても、サイズの大きさが、目測を誤らせる可能性がある。
――やっかいだな。
と、思うしかない。
フェミニスト組織の生み出した、巨女はなんの感情もこもっていないガラス球みたいな眼でこちらを見た。
なにを考えているかも分らない。
そして、仕合が始まった――
◇◇◇◇◇◇
巨像のように、相手は立っていた。
あるいは山のように。
ちょっとやそっとではビクともしないことが見た目にも分る。
もしボクが男のままの運動能力やパワーをもっていても、話にならないだろうと分る。
ガッ!!
小細工なし。
ボクは膝に真っ直ぐ蹴りをいれた。
関節蹴り。
スポーツ格闘技の多くでは禁止されている技だ。
――岩?
なにこれ?
蹴った瞬間の感触が異常。
足がゴムをまいた鉄柱に弾き返されたような感じだった。
こっちの足の方が痺れている。
巨女は一切の感覚が遮断されているかのような感じで微動だにしない。
表情もぴくりとも動かない。
唐突だった。
いきなり動いた。
予備動作もくそもなく、巨女の脚が吹っ飛んできた。
颶風が熱をもって顔に叩きつけられるのを感じる。
――脱力してブロック――
こんな蹴りに対抗できるわけがない。
ボクは顔を腕でガードして、身体の力を抜く。
衝撃を受ける時間を長引かせ、力積を分散させようとした――
が――
その瞬間。
脚がもげた…… ような感触があった。
巨大な鉄槌で脛を叩かれたような衝撃。
蹴りが空中で軌道を変え、脛を叩き割りにきた。
重すぎる蹴りがボクを吹っ飛ばして、身体を空中で側転させた。
この運動エネルギーの分だけ、脚のダメージは減ったが、それでも一発で骨が折れた。
脛の骨――
細い方の「腓骨」が完全に折れた。身体の中で「ぺキッ」って音が響いた。
凶器だ。
どんな攻撃も凶器だった。
サイズの違い。
パワーの違い。
桁違いの破壊力。
どこで、どう受けようが、身体にダメージを受ける。
『眼』でトレースしようにも、単純なパワーが違いすぎる。
決して技術が低いわけではない。
この身体で軌道が変わる蹴りを放つなんて、とんでもないボディバランスだ。
でも、そういった高い技術そのものよりも、一撃、一撃のパワーが問題だった。
問題がありすぎた。
どんな攻撃も、トラックが高速で突っ込んでくるようなものだ。
受けてしまっては人間では防ぎようが無い――
ぶぉぉん――
空気が焦げ臭くなるような速度で蹴りが吹っ飛んできた。
四つんばいになっていたボクの頭を狙った蹴り。
辛うじてそれをかわす。
髪の毛が巻き込まれ、宙を舞った。
ガンという音というより衝撃が脳天に突き抜けた。
拳を顔面に喰らった。顔が焼けるように熱かった。それだけ認識できた。
ボクは意識を喪失していた。
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