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26.狂気を持つ同類
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大人がふたりいて、運転免許を誰も持っていない状況の中、ボクらは千葉海浜球場についた。
大人ふたりというのは、晶姉と江須田論師匠。
「ここ、プロ野球やってる球場だろ?」
「そうだよ」と、ボクは師匠に答える。
「ふむ、こんな建造物の下に地下闘技場とは―― なにか作為めいた影響を感じ、全く持って度し難い」
「まあ。あるんだからしょうがないよね」
入り口には、案内約の人がいた。
地下闘技場《カタコンペ》のプロモータ・秩父賀美礼さんは、地下の特別室で待っているとのこと。
ボクらはそこに向かった。
◇◇◇◇◇◇
「へぇ、アナタが報子(報国丸)ちゃんの師匠なんですねぇ」
美礼さんは観察するかのように師匠を見る。
相変わらずの、メガネの似合う大きなおぱいのお姉さんだった。
「いや、そうなんですけどねぇ―― しかし、美しい。白露のような肌だ――」
と、手を取りに言った瞬間、晶姉の蹴りが椅子の下で跳んだ。
「あうッ! なにすんだ」
「武道家ならかわせ、度し難い」
ボクはこのふたりがどういう関係なのかと、ちょっと思った。
が、ボクには関係ない。ふたりとも大人だし。
「無骨なところが全くないですね。武道家には見えませんよ」と、なんか褒めているんだか貶しているのか分らないことを秩父賀さんは言った。
「あははは、よく言われますね。気さくなんで。ボクって――」
いきなり一人称が「ボク」になった。
まあ、現実では場の空気で自分の呼び方を変えるのはよくあることだ。
小説じゃあるまいし。
「こちらとて、無制限に時間がある暇なブルジョアではないのだ。本題に入ってくれ。全くもって度し難い――」
「いえいえい、お時間とらせません」
ということで、ふたりのスマホに、闘技場閲覧用のアプリがインストされる。
「ここの闘技場の過去の仕合も見れるんですか?」
「はい、見れますよ」
「ふーん」
そう言って師匠は、過去の仕合動画を見始めた。
ボクの仕合ではなかった。
「この女性がチャンピオンですか?」
「そうです。ここでは『女帝』という異名を持っています」
「なるほどねぇ~」
画面から顔を動かさず、師匠は言った。
「同類だなぁ~」と師匠は言葉を続けた。
「え、同類ってなに?」
「オマエと同類だよ。強いわけだ。全然躊躇がない。狂気を持ち合わせ、日常からスッとそこに入っていける人間だな」
師匠はボクに答え、視線を上げボクを見つめた。
「普通の人ってのは、ゲームであっても『人を殺す』ってことんは心理的抵抗が生じるんだよ」
「うむ、アメリカの心理学研究論文にあったな。確か――アメリカの軍事心理学関連だったか……」と、晶姉。
「ま、難しい心理学とか、脳の働きまでは分らんがな」
そう言って、師匠は椅子の背もたれに身を預け、天井を見た。
「人間には『ここまでやることはねぇ』とか『やり返されたら怖い』って気持が生じるんだ。人を攻撃するとき、どんなに頭にきててもだ――」
ボクは黙って訊いていた。
「それをスッと簡単に乗り越えちまう人間がいる。その意味で狂っている人間だ。確かに武道家にはそういう狂った部分も必要だが……」
「つまり、ボクと先生は狂っているってこかな?」
「ま、何を正気で何を狂気と定義するかによるがね。少なくともふたりとも、なんの躊躇いもなく目玉に指を突っ込める種類の人間ってことだよ。あーあ……」
師匠は口の中で「おっかない女だね」と言った。
先生がおっかなくたって構わない。
凶暴な戦いをするのは承知のことだし。
だから、ボクもやる。
そうしなきゃ、先生を倒せないから。
先生を徹底的に蹂躙すれば、絶対にボクに恋するはずなんだ。そんな確信がボクにはある。
大人ふたりというのは、晶姉と江須田論師匠。
「ここ、プロ野球やってる球場だろ?」
「そうだよ」と、ボクは師匠に答える。
「ふむ、こんな建造物の下に地下闘技場とは―― なにか作為めいた影響を感じ、全く持って度し難い」
「まあ。あるんだからしょうがないよね」
入り口には、案内約の人がいた。
地下闘技場《カタコンペ》のプロモータ・秩父賀美礼さんは、地下の特別室で待っているとのこと。
ボクらはそこに向かった。
◇◇◇◇◇◇
「へぇ、アナタが報子(報国丸)ちゃんの師匠なんですねぇ」
美礼さんは観察するかのように師匠を見る。
相変わらずの、メガネの似合う大きなおぱいのお姉さんだった。
「いや、そうなんですけどねぇ―― しかし、美しい。白露のような肌だ――」
と、手を取りに言った瞬間、晶姉の蹴りが椅子の下で跳んだ。
「あうッ! なにすんだ」
「武道家ならかわせ、度し難い」
ボクはこのふたりがどういう関係なのかと、ちょっと思った。
が、ボクには関係ない。ふたりとも大人だし。
「無骨なところが全くないですね。武道家には見えませんよ」と、なんか褒めているんだか貶しているのか分らないことを秩父賀さんは言った。
「あははは、よく言われますね。気さくなんで。ボクって――」
いきなり一人称が「ボク」になった。
まあ、現実では場の空気で自分の呼び方を変えるのはよくあることだ。
小説じゃあるまいし。
「こちらとて、無制限に時間がある暇なブルジョアではないのだ。本題に入ってくれ。全くもって度し難い――」
「いえいえい、お時間とらせません」
ということで、ふたりのスマホに、闘技場閲覧用のアプリがインストされる。
「ここの闘技場の過去の仕合も見れるんですか?」
「はい、見れますよ」
「ふーん」
そう言って師匠は、過去の仕合動画を見始めた。
ボクの仕合ではなかった。
「この女性がチャンピオンですか?」
「そうです。ここでは『女帝』という異名を持っています」
「なるほどねぇ~」
画面から顔を動かさず、師匠は言った。
「同類だなぁ~」と師匠は言葉を続けた。
「え、同類ってなに?」
「オマエと同類だよ。強いわけだ。全然躊躇がない。狂気を持ち合わせ、日常からスッとそこに入っていける人間だな」
師匠はボクに答え、視線を上げボクを見つめた。
「普通の人ってのは、ゲームであっても『人を殺す』ってことんは心理的抵抗が生じるんだよ」
「うむ、アメリカの心理学研究論文にあったな。確か――アメリカの軍事心理学関連だったか……」と、晶姉。
「ま、難しい心理学とか、脳の働きまでは分らんがな」
そう言って、師匠は椅子の背もたれに身を預け、天井を見た。
「人間には『ここまでやることはねぇ』とか『やり返されたら怖い』って気持が生じるんだ。人を攻撃するとき、どんなに頭にきててもだ――」
ボクは黙って訊いていた。
「それをスッと簡単に乗り越えちまう人間がいる。その意味で狂っている人間だ。確かに武道家にはそういう狂った部分も必要だが……」
「つまり、ボクと先生は狂っているってこかな?」
「ま、何を正気で何を狂気と定義するかによるがね。少なくともふたりとも、なんの躊躇いもなく目玉に指を突っ込める種類の人間ってことだよ。あーあ……」
師匠は口の中で「おっかない女だね」と言った。
先生がおっかなくたって構わない。
凶暴な戦いをするのは承知のことだし。
だから、ボクもやる。
そうしなきゃ、先生を倒せないから。
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