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11.遺伝子工学によるTS
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凄惨で鮮烈な美しさをもった百鬼先生は、別人のように教壇に立っていた。
捕食獣のような笑みを浮かべてきた唇からは「正弦定理は、三角形の向かい合う辺と角の関係が――」と、格闘技からも日常からも隔絶しまくった言葉を紡いでいた。
高校の数学教師にして地下格闘場、最強の女戦士。
女帝とまで称される者の姿と、今の姿を結びつけるのは難しい。
ボクは先生の戦いに戦慄に近い感動を覚えた。
その気持を明確に言葉にすることは難しいのだけれども、ただ分っていることがある。
――ボクは先生と思い切り戦ってみたい。
と、そう思うのだ。
先生に認められるのはそれしかないんじゃないかと、ボクは思っている。
数学で抜群の成績をとって、いい大学に入る――
これでも、先生は喜んでくれる。それは絶対にそう思う。
でも、多分…… それは先生と生徒の関係の中にある感情だ。
ボクは、先生と生徒の関係を超えなければいけない。
対等な存在として先生の前に立って、それで初めて先生を好きになれる資格が得られるんじゃないか?
そんなことを夢想する。
でも、ボクは男だ。
先生は、男と戦うことに意味を感じていない。
そこは「理系的」な合理性が先生の中にあるのだろう。
生物として、男と女では機能が違いすぎる。
戦っての勝ち負けは「生き物」としての桎梏の中にある。
ボクもそれは分るし、先生はそれに拘っている。
(要するに純度が低いんだ――)
ボクは、指名された生徒が、大学入試の問題を黒板で解いているのを見ながらそんなことを思う。
先生とは混じりけなしの純度の高い戦いをしなければいけない。
そこには、何かのいい訳が入ってはだめなんだ。
じゃあ、そんなことがあり得るのか?
先生と戦う。
純度の高い戦いを――
言い訳のできない戦いを――
それで、先生と同じ場所に立てる。
――結局のところ……
(ボクが女になるってことか?)
煮詰まった至高がなんとも馬鹿馬鹿しい結論を浮かび上がらせる。
そんなことが可能であるとは思えない。
男が女にTSするなんて、フィクションの世界の話……
(いやまて……)
本当にフィクションなのか?
性別の決定は、遺伝子的に決定され、その形質はもう変化不能だったか?
偶然、ボクにはその種の専門家が親戚にいた。
もう暫く会ってない従姉だった。会っていない理由の原因は主に相手の「人格」の問題だった。
変人と言ってしまうには、変人の定義を再考せざるを得ないレベルの人物。
そんな従姉のことを不意に思い出していた。
こんなことが無ければ、ずっと記憶の片隅に封印されていただろう人物ではあった。
ボクは、従姉が地元の大学で、教鞭をとっていることを思い出した。
彼女の専門は遺伝工学――
それも、研究者としてならかなり優秀であるという話も聞いていた。
人格と研究者の能力に何の相関もないことを証明するこれ以上ない事例だ。
(一度会いに行ってもいいかもしれない……)
ボクは何かをしたかった。
でも、それが何か分らない。
とにかく、ボクの願いをくれるなら、その相手は悪魔であってもよかったのだ。
ボクは従姉に会うことを決めた。
ただ、それをいつにするかは、まだ考えていた。
捕食獣のような笑みを浮かべてきた唇からは「正弦定理は、三角形の向かい合う辺と角の関係が――」と、格闘技からも日常からも隔絶しまくった言葉を紡いでいた。
高校の数学教師にして地下格闘場、最強の女戦士。
女帝とまで称される者の姿と、今の姿を結びつけるのは難しい。
ボクは先生の戦いに戦慄に近い感動を覚えた。
その気持を明確に言葉にすることは難しいのだけれども、ただ分っていることがある。
――ボクは先生と思い切り戦ってみたい。
と、そう思うのだ。
先生に認められるのはそれしかないんじゃないかと、ボクは思っている。
数学で抜群の成績をとって、いい大学に入る――
これでも、先生は喜んでくれる。それは絶対にそう思う。
でも、多分…… それは先生と生徒の関係の中にある感情だ。
ボクは、先生と生徒の関係を超えなければいけない。
対等な存在として先生の前に立って、それで初めて先生を好きになれる資格が得られるんじゃないか?
そんなことを夢想する。
でも、ボクは男だ。
先生は、男と戦うことに意味を感じていない。
そこは「理系的」な合理性が先生の中にあるのだろう。
生物として、男と女では機能が違いすぎる。
戦っての勝ち負けは「生き物」としての桎梏の中にある。
ボクもそれは分るし、先生はそれに拘っている。
(要するに純度が低いんだ――)
ボクは、指名された生徒が、大学入試の問題を黒板で解いているのを見ながらそんなことを思う。
先生とは混じりけなしの純度の高い戦いをしなければいけない。
そこには、何かのいい訳が入ってはだめなんだ。
じゃあ、そんなことがあり得るのか?
先生と戦う。
純度の高い戦いを――
言い訳のできない戦いを――
それで、先生と同じ場所に立てる。
――結局のところ……
(ボクが女になるってことか?)
煮詰まった至高がなんとも馬鹿馬鹿しい結論を浮かび上がらせる。
そんなことが可能であるとは思えない。
男が女にTSするなんて、フィクションの世界の話……
(いやまて……)
本当にフィクションなのか?
性別の決定は、遺伝子的に決定され、その形質はもう変化不能だったか?
偶然、ボクにはその種の専門家が親戚にいた。
もう暫く会ってない従姉だった。会っていない理由の原因は主に相手の「人格」の問題だった。
変人と言ってしまうには、変人の定義を再考せざるを得ないレベルの人物。
そんな従姉のことを不意に思い出していた。
こんなことが無ければ、ずっと記憶の片隅に封印されていただろう人物ではあった。
ボクは、従姉が地元の大学で、教鞭をとっていることを思い出した。
彼女の専門は遺伝工学――
それも、研究者としてならかなり優秀であるという話も聞いていた。
人格と研究者の能力に何の相関もないことを証明するこれ以上ない事例だ。
(一度会いに行ってもいいかもしれない……)
ボクは何かをしたかった。
でも、それが何か分らない。
とにかく、ボクの願いをくれるなら、その相手は悪魔であってもよかったのだ。
ボクは従姉に会うことを決めた。
ただ、それをいつにするかは、まだ考えていた。
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