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2.ボクが一目惚れしたのは先生でした

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 その日ボク――

 御楯報国丸みたてほうこくまるは一目惚れに出会った。
 生まれて初めてだったのかもしれない。
 過去にあったかもしれない同じような思いが吹っ飛んだのかもしれない。
 ただ、ボクが先生を好きになってしまったのは、動かしがたい事実だった。

 四月――
 新任の先生の挨拶でボクは先生に出会った。
 透き通るような白い肌。
 涼しげでありながら強い意志を秘めた瞳。
 長い髪を後ろでまとめ、それは清楚というより凛とした気高さを感じさせた。
 遠くからでも分かるばら色の色彩をした唇が動く。

百鬼薙子なぎりなぎこです」

 ボクは口の中でその名を反芻する。
 全身に甘い痺れが広がっていく。

 薙子先生を恋人にしたい。
 薙子先生と付き合いたい。
 薙子先生と結婚したい。

 思いがボクの脳内で暴走し、ウェディングベルが鳴りはじめる。
 だから、ボクは絶対に先生に告白しなければいけなかった。
 もう、それ以外の選択肢はボクの頭の中になかったし、断られてしまうとか、駄目だとかを考える余裕すらも失っていた。
 
        ◇◇◇◇◇◇

 薙子先生が二年四組――
 つまり、ボクのクラスの担任になったのは、運命であり予定調和であり、ボクと薙子先生の間の絆を勝手に感じていたのは、思春期特有の思い込みだったかもしれない。
 でも、それはボクにとっては大きな問題ではなかった。
 ボクはクラスでも目立たない。別に孤立しているわけでもない。
 ただ、そこそこ成績のいい大人しい生徒として認識されているだろうことは予測している。
 他人がボクをどう思っているかは、正確には分かる訳がないのだから。
 それは、みんながどんな幻想をもってボクと接しているかを普段の行動から予測しているだけだ。
 つまり、幻想の中のボクは目立たない大人しい生徒だ。

 でも、今のボクは違う。
 先生への熱意、愛、渇望、生物的欲望――
 その全てがぐちゃぐちゃになっている。
 とにかく、先生と付き合いたい。
 そのために告白したいという思いで胸が張り裂けそうになっている。

 だからボクは、そっと先生にふたりきりで会いたいという意思を示した。
 
 薙子先生は「あら、ちょうどいいわ。個人面談をしたかったの。それじゃ、御楯君から、今日の放課後いいかしら」と言われることになった。
 ボクは先生とふたりきりになる機会を得た。
 このチャンスを逃すわけにはいかなかった
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