23 / 29
22.決戦・大神宮3
しおりを挟む
鎖々木と由良はガトリング砲を乗っけた大八車を引いていく。
キィキィと車軸が軋む音がした。
大神宮の入り口に近づいていく。
見張りの者が鎖々木と由良を訝しげに見やる。
――うまくごまかせるか……
と、鎖々木は思う。
由良は殺意と欲情を押さえ込む。
一応彼女は「忍者」であるから、その程度のことはできた。
ただの淫乱・痴女の殺人鬼ではない。
「御主らなんだ? この荷はいったい?」
「聞いていないのか。これは幕府打倒のための最重要・最終兵器『ガトリング砲』だ」
「ガトリング砲? なんだ蛮夷の武器か?」
西洋の物は汚らわしいと言う感じで言い放つ。
「鉄砲だってそもそも蛮夷の武器ではないか」
鎖々木が言った。見張りの者が持っている銃を指差して。
火縄銃ではない。
最新式ではないが、十分現役で使える小銃だった。
「大和心で使えば、なんら問題なし!」
鎖々木は強く言い張った。
「うむ…… そうか、確かにそうか」
「そうだな。然り」
うんうんと頷く反乱軍の見張りたち。
「では、急ぐからここを通らせてもらうぞ」
「うむ…… そうか」
「早くせねばいかん。これこそが倒幕の切り札なのだ」
鎖々木は芝居がかった口調で言った。
そして、おもむろに筵をめくった。
黒光りのする銃身(バレル)と何やらよくわからない機械のかたまりが置いてあった。
「おお…… これが……」
「そう、これこそが決戦兵器、我らが倒幕のための切り札『ガトリング砲』だ」
分解されているとはいえガトリング砲の異様さ。
凶悪さ圧倒された。
重大なものであろうと見張りは勝手に判断したのであった。
おそらく合言葉、符牒はあっただろう。
が、唐突に現れた新兵器と、倒幕の切り札という言葉が彼らを圧した。
見張りは、鎖々木と由良を大神宮の中に通してしまったのであった。
◇◇◇◇◇◇
一応、中に入ることは出来たが――
と、鎖々木は周囲を見やり思う。
チンピラゴロツキ、食い詰めて凶悪化した浪人という風体の者どもがうろうろしている。
大神宮全体では、ざっと三〇〇から五〇〇人ぐらいであろうか。
一〇〇〇を超えることはあるまいと、鎖々木は見当をつける。
(とにかく、ペリーのカツラを取り戻さねばならぬが……)
のんびりしていれば、幕府の鎮圧軍がやってきて現場は大混乱だろう。
カツラを取り返すことが、難しくなることは明白だった。
(こちらが主導権をもって何かを起こすか――)
と、鎖々木は考える。
「おお! これがガトリング砲かぁ!」
鎖々木の思案を遮るようにして、声が響く。
陣羽織を着込んだ男だった。
兵を引き連れ、その尊大な態度からも反乱の首謀者であることは丸分りだ。
「これよ! これさえあれば、幕府軍など物の数ではないわッ!」
「左様ですな」
「さて、ではこれを早々に設置せねばならぬが……」
ガトリング砲は銃身やその他の機械部品がバラバラになっている。
まず組み立てないことには設置も出来ない。
「では、組み立ては拙者が――」
鎖々木は微塵の迷いも感じさせず、自信たっぷりに言い切ったのであった。
キィキィと車軸が軋む音がした。
大神宮の入り口に近づいていく。
見張りの者が鎖々木と由良を訝しげに見やる。
――うまくごまかせるか……
と、鎖々木は思う。
由良は殺意と欲情を押さえ込む。
一応彼女は「忍者」であるから、その程度のことはできた。
ただの淫乱・痴女の殺人鬼ではない。
「御主らなんだ? この荷はいったい?」
「聞いていないのか。これは幕府打倒のための最重要・最終兵器『ガトリング砲』だ」
「ガトリング砲? なんだ蛮夷の武器か?」
西洋の物は汚らわしいと言う感じで言い放つ。
「鉄砲だってそもそも蛮夷の武器ではないか」
鎖々木が言った。見張りの者が持っている銃を指差して。
火縄銃ではない。
最新式ではないが、十分現役で使える小銃だった。
「大和心で使えば、なんら問題なし!」
鎖々木は強く言い張った。
「うむ…… そうか、確かにそうか」
「そうだな。然り」
うんうんと頷く反乱軍の見張りたち。
「では、急ぐからここを通らせてもらうぞ」
「うむ…… そうか」
「早くせねばいかん。これこそが倒幕の切り札なのだ」
鎖々木は芝居がかった口調で言った。
そして、おもむろに筵をめくった。
黒光りのする銃身(バレル)と何やらよくわからない機械のかたまりが置いてあった。
「おお…… これが……」
「そう、これこそが決戦兵器、我らが倒幕のための切り札『ガトリング砲』だ」
分解されているとはいえガトリング砲の異様さ。
凶悪さ圧倒された。
重大なものであろうと見張りは勝手に判断したのであった。
おそらく合言葉、符牒はあっただろう。
が、唐突に現れた新兵器と、倒幕の切り札という言葉が彼らを圧した。
見張りは、鎖々木と由良を大神宮の中に通してしまったのであった。
◇◇◇◇◇◇
一応、中に入ることは出来たが――
と、鎖々木は周囲を見やり思う。
チンピラゴロツキ、食い詰めて凶悪化した浪人という風体の者どもがうろうろしている。
大神宮全体では、ざっと三〇〇から五〇〇人ぐらいであろうか。
一〇〇〇を超えることはあるまいと、鎖々木は見当をつける。
(とにかく、ペリーのカツラを取り戻さねばならぬが……)
のんびりしていれば、幕府の鎮圧軍がやってきて現場は大混乱だろう。
カツラを取り返すことが、難しくなることは明白だった。
(こちらが主導権をもって何かを起こすか――)
と、鎖々木は考える。
「おお! これがガトリング砲かぁ!」
鎖々木の思案を遮るようにして、声が響く。
陣羽織を着込んだ男だった。
兵を引き連れ、その尊大な態度からも反乱の首謀者であることは丸分りだ。
「これよ! これさえあれば、幕府軍など物の数ではないわッ!」
「左様ですな」
「さて、ではこれを早々に設置せねばならぬが……」
ガトリング砲は銃身やその他の機械部品がバラバラになっている。
まず組み立てないことには設置も出来ない。
「では、組み立ては拙者が――」
鎖々木は微塵の迷いも感じさせず、自信たっぷりに言い切ったのであった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
安政ノ音 ANSEI NOTE
夢酔藤山
歴史・時代
温故知新。 安政の世を知り令和の現世をさとる物差しとして、一筆啓上。 令和とよく似た時代、幕末、安政。 疫病に不景気に世情不穏に政治のトップが暗殺。 そして震災の陰におびえる人々。 この時代から何を学べるか。狂乱する群衆の一人になって、楽しんで欲しい……! オムニバスで描く安政年間の狂喜乱舞な人間模様は、いまの、明日の令和の姿かもしれない。
葉桜よ、もう一度 【完結】
五月雨輝
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞特別賞受賞作】北の小藩の青年藩士、黒須新九郎は、女中のりよに密かに心を惹かれながら、真面目に職務をこなす日々を送っていた。だが、ある日突然、新九郎は藩の産物を横領して抜け売りしたとの無実の嫌疑をかけられ、切腹寸前にまで追い込まれてしまう。新九郎は自らの嫌疑を晴らすべく奔走するが、それは藩を大きく揺るがす巨大な陰謀と哀しい恋の始まりであった。
謀略と裏切り、友情と恋情が交錯し、武士の道と人の想いの狭間で新九郎は疾走する。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる