年下幼馴染の家庭教師をしていたら、堕とされてしまいました

中七七三

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6.口付け

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 それは、偶然だった。
 家庭教師の無い日、鋭一がコンビ二に言った帰りだった。コンビ二の前の大通りにふと目をやった。枝だけになった、こげ茶の桜並木の向こうに歩いている。

 晶――

 見間違えるはずもなかった。
 背丈、横顔、髪型……
 どうみても晶だ。

 ――なんで、女の人と。

 一緒に歩いていたのは、小柄な女の人だった。距離が近い。物理的にも精神的にもふたりの距離が近く見えた。
 晶は、久しく見せていない笑顔をその女に見せていた。
 すぅぅっと息を吸う。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け――
 なんども心の中で唱えた。指先から温度が失われていく感覚。

 ――なんでもない。ただの大学の友達かもしれないじゃないか。

 そう思う。
 が、体は駆け出していた。
 鋭一はその光景を背後に残し駆け出していたのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

「受験が終わったら返事をしてくれるんだよね」

 家庭教師を受けている最中だった。
 真っ直ぐな眼差しを向け、鋭一は言った。

「うん。答える」

「待ちきれそうにない……」

「えッ?」

 晶にとっては不意を突かれた言葉だった。
 受験が終われば、結果がどうなるにせよ、鋭一の思いに応えようと漠然とは思っていた。
 あのアクシデント――そうアクシデントだ――の後、この種の話題はしないことというのが、ふたりの間の暗黙の了解だと晶は思っていた。

「おれもう、我慢ができないんだ。晶が好きなんだ。小さいころからずっと――。取られたくないんだ。他の人には。絶対に。だから、おれ――」

 溢れ出すような言葉だった。普段はさほど饒舌とはいえない鋭一が一気に言い募った。

「取られたくないって……」

「見た。おれ見たんだ」

「何を?」

「女の人と歩いているところ」

「え…… それは」

 晶は記憶を漁る。すぐに思い当たることがあった。
 大学で同じゼミにいる女子だった。たまたま、彼女のバイトがこの付近で、偶然出会っただけだった。

「多分、大学の友人とか、そんなだと思う」

 鋭一が先回りして言った。

「そうだけど。ぼくには彼女なんていないし」

 晶も事実をそのまま言った。

「だけど、耐えられなかったんだ。このままじゃ、晶を他の人に取られるかもしれないって。おれは、まだ子どもだし、晶は大学生だし……。このままじゃおれは……」

 泣きじゃくる子どものような表情で、鋭一は一気に言葉をあふれ出させた。虚飾も打算もない言葉だった。

「鋭一、ぼくは……」

「おれは、嘘はいらない」

 ぽろりと零れ出した言葉は、晶の胸をキュッと締め付ける。

「ぼくも、好きだ。ずっと好きだ。でも、それは……」

 本当のことを言おうとする。でも、口から出た瞬間にそれは風化し、思いの残骸となってしまうような気がした。
 だから、晶は手を伸ばす。柔からな頬に指先が触れた。鋭一の温度が沁みこんでくる。

「晶?」

「本当にぼくでいいのかい」

「いいに決まっている」

「もう、幼馴染は卒業しようか――」

「誰かに取られるのは嫌だ。その前におれの物になってよ」

「なるよ。ずっと傍にいる」

 すっとふたりの顔が近づく。
 唇がゆっくりと重なり合った。
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