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3.ふたり
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神瀬晶は高校生になった。
県内で一番の進学校に進学。成績は抜群に優秀だった。
晶と鋭一の関係はいつも通り。初めて会ったときから変らず仲がよかった。
が、晶の母は懸念を深めていた。
親の欲目を差し引いても、晶は異性にもてるタイプだ。
やや背が低いかもしれないが、癖のない亜麻色の髪の毛に、涼やかな瞳。中性的であることはこの世代の女子にとっては魅力的に写るだろう。
しかし、女友達などの話は一切無かった。
未だに、一番の「友人」は年下の鋭一だった。
そのことで母親と気まずくなるこももある。
――年下の鋭一君と遊んでばかりで、いいの?
――どういう意味?
――それは……
息子に対するある種の疑念は晴れない。それを夫に相談することもできなかった。
◇◇◇◇◇◇
鋭一は中学生になった。
小学校の後半でぐっと背が伸び、中学校入学時には一七〇センチを超えた。身長だけなら晶よりも少し高くなっていた。
いつのまには見上げていた目線が同じような高さになった。
涼しげな瞳。その瞳に影のできるような長いまつげを真正面から見つめることが多くなった。
ふざけあって手首を握ったときなど、その細さと柔らかさにドキリとしたこともあった。
(晶は男なんだけども、おれは晶が好きなんだ)
鋭一は思う。それを異常だとも思わない。晶が好きだ。本当に自然に心の底から思っていた。
けれども、晶はどう思っているのか?
近所に住む年下の弟のような存在――
そんな感じだろうか?
自分に晶を好きだという気持ちがあっても、晶がなにも思っていないのであれば、それは道化のようなものだ。
(今のままの方がいいのかもしれない)
この気持ちは自分の中にしまっておく方がいいのかもしれない。
鋭一には恋とか愛とか良く分らなかった。でもこの気持ちがそうであろうとは思っている。
そして、恋や愛を失うことは、とても傷つくことであるということ。
それだけは、十分に分っていた。
中学生の鋭一は臆病であったがそれを責めることは誰にもできなかっただろう。
◇◇◇◇◇◇
晶は大学受験をすることなった。
必然的に鋭一と会う機会はかなり減った。それでもLINEで連絡をとったりしていたので、つながりが切れたわけではなかった。
「鋭一……」
いつの間にか自分より目線の高くなった年下の男の子のことを晶は思った。
晶は鋭一が好きだった。それを自覚したのは、出会って早々のことだった。最初は自分の気持ちがなんであるのか、よく分らなかった。
今では分る。
そして、母親が自分の心配をしていることも、晶には分っていた。
同性愛に対する理解が進んでいるといっても、それは自分の日常の外側での話だ。
自分の息子がそうであれば……
母親は絶望に近い気持ちになってもおかしくない。それを晶は責めることはできない。
かといって、鋭一への気持ちを抑えつける事も難しかった。
「くそ!」
晶はベッドから跳ね起きて、机に向かう。問題集を解くことにした。
受験勉強をしているとき、少なくともそのときは、面倒くさいことを考えないで済む。
受験の問題はどんな難問でも答えがある。解くのは苦痛どころか、気晴らしにさえなった。
◇◇◇◇◇◇
「晶君、東大受かったって、すごいわねぇ」
「優秀だなぁ」
夕食時だった。鋭一の両親が、晶の大学合格について話題にした。
彼らの認識する晶は近所に住む「優秀なお兄さん」というものだった。
鋭一は晶からのLINEで合格のことは知っていた。素直に嬉しかった。
ただ――
続いて出てくるはずの言葉に、鋭一は身構える。思わず箸は止まっていた。
「鋭一も少しは、見習ったらどうだ?」
予想通りの父の言葉。
「う、うん……」
「東大とまではいかなくとも、地元の国立大に行ってくれればいいんだけどなぁ」
鋭一も来年は受験生だった。
とはいっても、高校受験だ。大学は先の話のように思える。
が、ある程度の高校に入っておかなければ、大学進学も難しいのはなんとなく分る。
でも、大学がどうであれ晶は晶であるし、自分は自分であるという思いがある。
晶と同じ大学に行ってみたいという思いがないではない。
けれども、目から血が出るほどに勉強したとして、東大に入れるかというと、どうにも無理そうな気がしてならない。それは、本当のところ、どうでもいいと鋭一は思う。深く考えるのは面倒だった。
でも、晶が東大に合格したことは素直に嬉しかった。
県内で一番の進学校に進学。成績は抜群に優秀だった。
晶と鋭一の関係はいつも通り。初めて会ったときから変らず仲がよかった。
が、晶の母は懸念を深めていた。
親の欲目を差し引いても、晶は異性にもてるタイプだ。
やや背が低いかもしれないが、癖のない亜麻色の髪の毛に、涼やかな瞳。中性的であることはこの世代の女子にとっては魅力的に写るだろう。
しかし、女友達などの話は一切無かった。
未だに、一番の「友人」は年下の鋭一だった。
そのことで母親と気まずくなるこももある。
――年下の鋭一君と遊んでばかりで、いいの?
――どういう意味?
――それは……
息子に対するある種の疑念は晴れない。それを夫に相談することもできなかった。
◇◇◇◇◇◇
鋭一は中学生になった。
小学校の後半でぐっと背が伸び、中学校入学時には一七〇センチを超えた。身長だけなら晶よりも少し高くなっていた。
いつのまには見上げていた目線が同じような高さになった。
涼しげな瞳。その瞳に影のできるような長いまつげを真正面から見つめることが多くなった。
ふざけあって手首を握ったときなど、その細さと柔らかさにドキリとしたこともあった。
(晶は男なんだけども、おれは晶が好きなんだ)
鋭一は思う。それを異常だとも思わない。晶が好きだ。本当に自然に心の底から思っていた。
けれども、晶はどう思っているのか?
近所に住む年下の弟のような存在――
そんな感じだろうか?
自分に晶を好きだという気持ちがあっても、晶がなにも思っていないのであれば、それは道化のようなものだ。
(今のままの方がいいのかもしれない)
この気持ちは自分の中にしまっておく方がいいのかもしれない。
鋭一には恋とか愛とか良く分らなかった。でもこの気持ちがそうであろうとは思っている。
そして、恋や愛を失うことは、とても傷つくことであるということ。
それだけは、十分に分っていた。
中学生の鋭一は臆病であったがそれを責めることは誰にもできなかっただろう。
◇◇◇◇◇◇
晶は大学受験をすることなった。
必然的に鋭一と会う機会はかなり減った。それでもLINEで連絡をとったりしていたので、つながりが切れたわけではなかった。
「鋭一……」
いつの間にか自分より目線の高くなった年下の男の子のことを晶は思った。
晶は鋭一が好きだった。それを自覚したのは、出会って早々のことだった。最初は自分の気持ちがなんであるのか、よく分らなかった。
今では分る。
そして、母親が自分の心配をしていることも、晶には分っていた。
同性愛に対する理解が進んでいるといっても、それは自分の日常の外側での話だ。
自分の息子がそうであれば……
母親は絶望に近い気持ちになってもおかしくない。それを晶は責めることはできない。
かといって、鋭一への気持ちを抑えつける事も難しかった。
「くそ!」
晶はベッドから跳ね起きて、机に向かう。問題集を解くことにした。
受験勉強をしているとき、少なくともそのときは、面倒くさいことを考えないで済む。
受験の問題はどんな難問でも答えがある。解くのは苦痛どころか、気晴らしにさえなった。
◇◇◇◇◇◇
「晶君、東大受かったって、すごいわねぇ」
「優秀だなぁ」
夕食時だった。鋭一の両親が、晶の大学合格について話題にした。
彼らの認識する晶は近所に住む「優秀なお兄さん」というものだった。
鋭一は晶からのLINEで合格のことは知っていた。素直に嬉しかった。
ただ――
続いて出てくるはずの言葉に、鋭一は身構える。思わず箸は止まっていた。
「鋭一も少しは、見習ったらどうだ?」
予想通りの父の言葉。
「う、うん……」
「東大とまではいかなくとも、地元の国立大に行ってくれればいいんだけどなぁ」
鋭一も来年は受験生だった。
とはいっても、高校受験だ。大学は先の話のように思える。
が、ある程度の高校に入っておかなければ、大学進学も難しいのはなんとなく分る。
でも、大学がどうであれ晶は晶であるし、自分は自分であるという思いがある。
晶と同じ大学に行ってみたいという思いがないではない。
けれども、目から血が出るほどに勉強したとして、東大に入れるかというと、どうにも無理そうな気がしてならない。それは、本当のところ、どうでもいいと鋭一は思う。深く考えるのは面倒だった。
でも、晶が東大に合格したことは素直に嬉しかった。
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