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16.未亡人女講師・愛美
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鳥飼愛美が待ち合わせ場所の喫茶店にやってきた。
裕介が時計を見ると午後一〇時をかなり過ぎていた。十一時に近い。
「遅くなってごめんなさい」
「いえ、ぼくの勝手なお願いでしたから」
「そうね。こんなおばさんと夜遅くに会って、何をする気だったのかしら」
「えッ、そんあ……」
「ふふ、冗談よ」
愛美は美貌の上に笑みを浮かべる。
柔らかな引き込まれそうになる笑みだった。
「でも、どうするの、本当に?」
ポニーテールを揺らし、向かいの席に座る。
ちょっと俯いたときに、シャツの隙間から美乳が見えそうになる。
(わッ、肌白ッ、でかッ)
愛美は一六〇センチあるかないかの身長で由里に比べたらかなり背が低い。が、胸は負けないかそれ以上に大きかった。
(由里さんとはタイプが違うけど、美人だよなぁ)
裕介は愛美を視野にいれながら、視線の圧力を落として観察する。
由里の美しさを硬質な宝石に例えるなら、愛美は風にそよぐ花のような美しさだ。
ちょっと気圧される感じの由里より柔らか味のある美女だった。
「どうしたの? 彼田君」
「あ……、すいません、ちょっと考ごとを」
「私みたいなおばさんと待ち合わせして後悔してるの」
「そんなこと無いです!」
裕介は声に体重をかけ、断固として否定する。
「先生と久しぶりに会えて本当に嬉しかったんで」
「そうね。私も懐かしいわ」
愛美は優しげな顔をほころばせた。その笑顔が魅力的だった。
「先生は、おばさんなんかじゃないですし。凄く綺麗だし」
ぽろりと言葉が零れ落ちた。以前の裕介であれば、考えられなかった。おそらく固まっていただろう。
童貞を喪失し、女というものを少し知ったことで余裕ができているのかもしれなかった。
「もう、四〇近いのよ。十分におばさんよ」
「そんな……二〇代にしか見えないです」
「お世辞でも嬉しいわ。でも三十六。掛け値なしよ。今年の誕生日がくれば三十七よ」
ふっ、とため息交じりに年齢に関する言葉を口にしていた。女性であればあまり正確に口にはしないはずだ。
それを口にしてしまったのは、愛美が裕介に心を開いているのかもしれなかった。
「全然、若いです」
「そうかしら。でも最近、齢を感じてしまうわ。すぐ肩が痛くなるし」
愛美は「うーん」と伸びをする。腕の動きに合わせ、たわわな乳房が持ち上がる。シャツの上からでもエロティックだった。
(すごい、おっぱいだ。昔より大きくなったんじゃないのか。どうだったろう)
中学時代は美しく優しげだったけど、どこか凛としたものが感じられた。惹かれながらも、迂闊には近づきがたい感じがあったような気もする。
当時は、二〇代後半。齢を重ねることで包み込むような色香が増してきているのかもしれない。
年上の女社長・由里と寝たことで、女性を見る解像度が上がったのかもしれない。四〇近くになった女性の熟れた魅力、包容力に気づくようになったのだろうか。
「あら、どうしたのかしら、そんなジッと見て。胸が気になるの」
教え子だった相手が、牡の視線で自分を見ていることに愛美は気づいた。
裕介は赤面し顔を伏した。
気づくと股間も硬くなっている。
「いえ……そんな」
(本当にぼくも節操ないな。由里さんが帰ってこないっていうのに、愛美先生に見とれて……いや、欲情してるんだ)
「そうね。私の気のせいかしら」
愛美は裕介の心など全く読んでいないという風に微笑む。
優しく柔らかく、包み込まれるような雰囲気があった。
「先生、実は――」
「なにかしら」
黒目がちの瞳に翳りを落すかのように睫が沈み込む。
「相談があるんです。いいでしょうか」
裕介は愛美の美貌を見つめながら言った。
「そう、それならきちんと話のできることろがいいわね」
愛美はスッと目を細め小さく頷いた。
◇◇◇◇◇◇
(え~、え、え、え? 何で……)
裕介は戸惑っていた。「きちんと話せるところ」というのが愛美の家だったのである。
深夜に差し掛かろうとする時間帯に、女性の家に招かれたのだ。
女性の部屋に入るのは初めてではない。由里のマンションにも招かれ、セックスした。おまけに今はマンションの鍵も持っている。
「寛いでいいわよ。彼田君」
(寛いでと言っても)
裕介はある種の期待で胸がドキドキしてきた。
「ちょっと、狭いかもしれないけど」
「あ、はい。いいえ、狭くはないです」
「ま、アラフォー女のひとり暮らしなら、これで十分かもしれないわね」
愛美の家は小さなアパートだった。築年は浅そうで奇麗な物件だ。
狭いというが間取りは2DK。脚の低いテーブルが置いてある部屋で愛美と向かい合っていた。
隣の部屋へ続く襖は閉じられていた。
「おひとりなんですか?」
「旦那がいたら、連れてこれないわ」
(先生、独身なんだ……そういえば指輪もしていないし)
裕介は細くたおやかな愛美の指をちらっと見やる。反省があるのでじろじろは見ない。
愛美が独身であると聞き、裕介の鼓動が一層早くなる。
「三年前に旦那が病気で死んだから」
「そ、そうなんですか」
いきなり想定外の重い言葉を投げかけられ、言葉につまる。
間抜けな返答しかできなかった。
「そのときに学校も辞めたの」
中学校の先生を辞めたのは夫を亡くしたときだった。
愛美は心身の調子を崩し、それが原因で中学校を辞めたことを裕介に訥々と語った。
「先生……」
かけていい言葉が裕介の頭の中に浮かんでこない。
「ふふ、思わず自分語りしちゃったわ。彼田君の身の上相談に乗ってあげるはずだったのに。何でも言って私に出来ることなら力になるから」
妖艶といっていい唇に仄かな笑みを浮かべる。
テーブルに肘をつき、拝むように手を合わせ口の前にもってきた。
スーツの上を脱ぎ白いシャツだけの上半身。乳房がテーブルにもたれかかりそうだった。
「実は――」
裕介は視線を誤魔化し、愛美に由里のことを相談したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「そうなの。恋人が行方不明に…… 分るわ、心配よね」
温かみを感じさせる美しい相貌を裕介に向ける。
だた、黒く潤んだ瞳は真剣そのものだった。
(恋人というしかないよな、由里さんのことは……)
裕介の相談内容は、行方知れずになった由里のことだった。
由里との馴れ初めとかその辺は、適当にぼやかした。
恋人であることだけ、説明した。
三日も家を空け、帰ってきていないことを伝えた。
大事にしたくないので警察も自分からは伝えていないと言った。
「ぼくのことが嫌いになって、逃げたとかあるんですかね?」
裕介は前に身体を倒し、愛美を正面から見つめた。相談の最中なので、遠慮することなく美しい元教師を見つめることができた。
愛美は透き通るような白い手を合わせ、口元にもっていった。
ゆっくりと睫を動かし目をつぶりまた開く。黒水晶の輝きを持つ瞳が真正面から裕介を見据えた。
「それは、どうかしら……嫌いになったことは無いと思うわ」
「なんでですか?」
「だって、彼田君はとっても魅力的な男性になっているんですもの。私もびっくりするくらい」
愛美は微かに頬を紅色に染める。裕介がその色に気づいたかどうかは分らない。
「逃げられたんじゃないということでは安心しました。でも……」
「そうね。心配ね。でも行き先に心当たりはないの、恋人なんでしょう」
「付き合いだしてまだ日が浅いんです」
「そうなのね。恋人だからといって、相手のことを全部知っているとは限らないものね」
「すいません」
全部を正確に話していないことで、裕介の胸にちょとだけ痛む。
マッチングアプリで裕介がペットかヒモ志願で出会ったこと。
由里とは濃厚であったにせよ一晩セックスしただけの関係であることは言えなかった。
(一晩だけだけど、マンションの鍵も貰っているし、恋人と言っても間違いじゃあ……嘘じゃないよな)
人生を飼い殺しにされる気満々で、由里のペットかヒモになるつもりだったことも言えない。
なんにせよ、第三者の目から見て、見捨てられた可能性が低いというのは安心材料にはなった。
由里の行方については相変わらず心配であったが。
「でも……」
「でも?」
「彼田君にそこまで想われているなんて、ちょっと羨ましいわ」
「え?」
女教師(予備校講師か?)の唐突な言葉だった。
裕介の心臓がバクンと大きな鼓動を打った。
「あ……ごめんなさい。彼田君は恋人のことが心配なのに、何を言ってるのかしら。忘れて、今の言葉は忘れて」
未亡人女講師は明白に頬を染めた。取り繕いの言葉もどこか、誘惑しているかのようだった。
(あう、由里さんの事は心配だけど……)
目の前に大胆な言葉を口にした未亡人女教師がいるのだ。
「先生」
「えッ……彼田君」
思わず手が伸びていた。
テーブルに肘をついていた愛美の白い手をとっていた。
裕介はぐっと顔を近づけ、美麗の未亡人女講師の瞳を覗き込む。
黒く艶やかな瞳の奥には驚きの色はあったが、拒絶の色はなかった。
「えっと……ちょっと、彼田君、手を離して、そんあ……」
「先生、もしぼくが、ここで先生を口説いたら、OKしてくれますか?」
(何を言っているんだぼくはッ!)
口にした瞬間、赤面するしかないような言葉を吐いていた。自分でもどうかと思う。
それでも、言わないことはできなかった。
「本気で言っているのかしら? 彼田君」
「先生が、先生が悪いんです。ぼくを誘惑して」
「そんなつもりはないの。ただ心配で」
「でも、ぼくは先生のことを、ずっと好きでした。中学生のときから」
「……それは」
とんでもない言葉がポロポロと出てきた。
童貞のときの裕介だったら、こんなことは絶対に言わなかっただろう。
美人女社長との一夜の経験が、裕介を大胆にさせていた。
「先生、好きです。ずっと愛美先生に憧れていました。それで、自宅に招いてくれて、ぼくが魅力的な男になったとか……」
「あう、そんないきなりよ。私はただ彼田君のことが心配で」
「先生、それだけですか? 本当に。本当にそれだけなら、ぼくも諦めます」
裕介はぎゅっと握っていた手をゆっくりと離した。
「彼田君……」
愛美の言葉に嘘は無かったが、一〇〇パーセント本当のことだけを言っているわけではなかった。
三年前に夫を失い、熟れた女の肉体を持て余していたのは確かなのだ。
心の奥底では、男を求めていたのかもしれなかった。
「でも、あり得ないわ。私は四〇に近いし、彼田君はとっても素敵なんですもの。恋人の女性も素敵なんでしょう」
胸の中に生じた漣を鎮める言葉だった。ただ、裕介のことを完全に拒絶しているわけではなかった。
「先生は凄く魅力的です。齢なんて関係ないです。ぼくはずっと憧れていたんですから。久しぶりに会ったら、本当に綺麗で……記憶の中にある愛美先生よりずっと」
裕介は立ち上がり、愛美の隣に移動した。
偠かで透き通るような色を見せる愛美の手をとり、指を重ねる。
「先生、ボクのこれが、こんなに熱くなっているんです。嘘じゃないです」
裕介は、愛美の手を自分の股間に重ねた。
ビクンとペニスが脈動した。
「ああ……彼田君。こんな立派な」
愛美は柔らかな肢体を震わせ、熱を孕んだ吐息を吐いた。
裕介が時計を見ると午後一〇時をかなり過ぎていた。十一時に近い。
「遅くなってごめんなさい」
「いえ、ぼくの勝手なお願いでしたから」
「そうね。こんなおばさんと夜遅くに会って、何をする気だったのかしら」
「えッ、そんあ……」
「ふふ、冗談よ」
愛美は美貌の上に笑みを浮かべる。
柔らかな引き込まれそうになる笑みだった。
「でも、どうするの、本当に?」
ポニーテールを揺らし、向かいの席に座る。
ちょっと俯いたときに、シャツの隙間から美乳が見えそうになる。
(わッ、肌白ッ、でかッ)
愛美は一六〇センチあるかないかの身長で由里に比べたらかなり背が低い。が、胸は負けないかそれ以上に大きかった。
(由里さんとはタイプが違うけど、美人だよなぁ)
裕介は愛美を視野にいれながら、視線の圧力を落として観察する。
由里の美しさを硬質な宝石に例えるなら、愛美は風にそよぐ花のような美しさだ。
ちょっと気圧される感じの由里より柔らか味のある美女だった。
「どうしたの? 彼田君」
「あ……、すいません、ちょっと考ごとを」
「私みたいなおばさんと待ち合わせして後悔してるの」
「そんなこと無いです!」
裕介は声に体重をかけ、断固として否定する。
「先生と久しぶりに会えて本当に嬉しかったんで」
「そうね。私も懐かしいわ」
愛美は優しげな顔をほころばせた。その笑顔が魅力的だった。
「先生は、おばさんなんかじゃないですし。凄く綺麗だし」
ぽろりと言葉が零れ落ちた。以前の裕介であれば、考えられなかった。おそらく固まっていただろう。
童貞を喪失し、女というものを少し知ったことで余裕ができているのかもしれなかった。
「もう、四〇近いのよ。十分におばさんよ」
「そんな……二〇代にしか見えないです」
「お世辞でも嬉しいわ。でも三十六。掛け値なしよ。今年の誕生日がくれば三十七よ」
ふっ、とため息交じりに年齢に関する言葉を口にしていた。女性であればあまり正確に口にはしないはずだ。
それを口にしてしまったのは、愛美が裕介に心を開いているのかもしれなかった。
「全然、若いです」
「そうかしら。でも最近、齢を感じてしまうわ。すぐ肩が痛くなるし」
愛美は「うーん」と伸びをする。腕の動きに合わせ、たわわな乳房が持ち上がる。シャツの上からでもエロティックだった。
(すごい、おっぱいだ。昔より大きくなったんじゃないのか。どうだったろう)
中学時代は美しく優しげだったけど、どこか凛としたものが感じられた。惹かれながらも、迂闊には近づきがたい感じがあったような気もする。
当時は、二〇代後半。齢を重ねることで包み込むような色香が増してきているのかもしれない。
年上の女社長・由里と寝たことで、女性を見る解像度が上がったのかもしれない。四〇近くになった女性の熟れた魅力、包容力に気づくようになったのだろうか。
「あら、どうしたのかしら、そんなジッと見て。胸が気になるの」
教え子だった相手が、牡の視線で自分を見ていることに愛美は気づいた。
裕介は赤面し顔を伏した。
気づくと股間も硬くなっている。
「いえ……そんな」
(本当にぼくも節操ないな。由里さんが帰ってこないっていうのに、愛美先生に見とれて……いや、欲情してるんだ)
「そうね。私の気のせいかしら」
愛美は裕介の心など全く読んでいないという風に微笑む。
優しく柔らかく、包み込まれるような雰囲気があった。
「先生、実は――」
「なにかしら」
黒目がちの瞳に翳りを落すかのように睫が沈み込む。
「相談があるんです。いいでしょうか」
裕介は愛美の美貌を見つめながら言った。
「そう、それならきちんと話のできることろがいいわね」
愛美はスッと目を細め小さく頷いた。
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裕介は戸惑っていた。「きちんと話せるところ」というのが愛美の家だったのである。
深夜に差し掛かろうとする時間帯に、女性の家に招かれたのだ。
女性の部屋に入るのは初めてではない。由里のマンションにも招かれ、セックスした。おまけに今はマンションの鍵も持っている。
「寛いでいいわよ。彼田君」
(寛いでと言っても)
裕介はある種の期待で胸がドキドキしてきた。
「ちょっと、狭いかもしれないけど」
「あ、はい。いいえ、狭くはないです」
「ま、アラフォー女のひとり暮らしなら、これで十分かもしれないわね」
愛美の家は小さなアパートだった。築年は浅そうで奇麗な物件だ。
狭いというが間取りは2DK。脚の低いテーブルが置いてある部屋で愛美と向かい合っていた。
隣の部屋へ続く襖は閉じられていた。
「おひとりなんですか?」
「旦那がいたら、連れてこれないわ」
(先生、独身なんだ……そういえば指輪もしていないし)
裕介は細くたおやかな愛美の指をちらっと見やる。反省があるのでじろじろは見ない。
愛美が独身であると聞き、裕介の鼓動が一層早くなる。
「三年前に旦那が病気で死んだから」
「そ、そうなんですか」
いきなり想定外の重い言葉を投げかけられ、言葉につまる。
間抜けな返答しかできなかった。
「そのときに学校も辞めたの」
中学校の先生を辞めたのは夫を亡くしたときだった。
愛美は心身の調子を崩し、それが原因で中学校を辞めたことを裕介に訥々と語った。
「先生……」
かけていい言葉が裕介の頭の中に浮かんでこない。
「ふふ、思わず自分語りしちゃったわ。彼田君の身の上相談に乗ってあげるはずだったのに。何でも言って私に出来ることなら力になるから」
妖艶といっていい唇に仄かな笑みを浮かべる。
テーブルに肘をつき、拝むように手を合わせ口の前にもってきた。
スーツの上を脱ぎ白いシャツだけの上半身。乳房がテーブルにもたれかかりそうだった。
「実は――」
裕介は視線を誤魔化し、愛美に由里のことを相談したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「そうなの。恋人が行方不明に…… 分るわ、心配よね」
温かみを感じさせる美しい相貌を裕介に向ける。
だた、黒く潤んだ瞳は真剣そのものだった。
(恋人というしかないよな、由里さんのことは……)
裕介の相談内容は、行方知れずになった由里のことだった。
由里との馴れ初めとかその辺は、適当にぼやかした。
恋人であることだけ、説明した。
三日も家を空け、帰ってきていないことを伝えた。
大事にしたくないので警察も自分からは伝えていないと言った。
「ぼくのことが嫌いになって、逃げたとかあるんですかね?」
裕介は前に身体を倒し、愛美を正面から見つめた。相談の最中なので、遠慮することなく美しい元教師を見つめることができた。
愛美は透き通るような白い手を合わせ、口元にもっていった。
ゆっくりと睫を動かし目をつぶりまた開く。黒水晶の輝きを持つ瞳が真正面から裕介を見据えた。
「それは、どうかしら……嫌いになったことは無いと思うわ」
「なんでですか?」
「だって、彼田君はとっても魅力的な男性になっているんですもの。私もびっくりするくらい」
愛美は微かに頬を紅色に染める。裕介がその色に気づいたかどうかは分らない。
「逃げられたんじゃないということでは安心しました。でも……」
「そうね。心配ね。でも行き先に心当たりはないの、恋人なんでしょう」
「付き合いだしてまだ日が浅いんです」
「そうなのね。恋人だからといって、相手のことを全部知っているとは限らないものね」
「すいません」
全部を正確に話していないことで、裕介の胸にちょとだけ痛む。
マッチングアプリで裕介がペットかヒモ志願で出会ったこと。
由里とは濃厚であったにせよ一晩セックスしただけの関係であることは言えなかった。
(一晩だけだけど、マンションの鍵も貰っているし、恋人と言っても間違いじゃあ……嘘じゃないよな)
人生を飼い殺しにされる気満々で、由里のペットかヒモになるつもりだったことも言えない。
なんにせよ、第三者の目から見て、見捨てられた可能性が低いというのは安心材料にはなった。
由里の行方については相変わらず心配であったが。
「でも……」
「でも?」
「彼田君にそこまで想われているなんて、ちょっと羨ましいわ」
「え?」
女教師(予備校講師か?)の唐突な言葉だった。
裕介の心臓がバクンと大きな鼓動を打った。
「あ……ごめんなさい。彼田君は恋人のことが心配なのに、何を言ってるのかしら。忘れて、今の言葉は忘れて」
未亡人女講師は明白に頬を染めた。取り繕いの言葉もどこか、誘惑しているかのようだった。
(あう、由里さんの事は心配だけど……)
目の前に大胆な言葉を口にした未亡人女教師がいるのだ。
「先生」
「えッ……彼田君」
思わず手が伸びていた。
テーブルに肘をついていた愛美の白い手をとっていた。
裕介はぐっと顔を近づけ、美麗の未亡人女講師の瞳を覗き込む。
黒く艶やかな瞳の奥には驚きの色はあったが、拒絶の色はなかった。
「えっと……ちょっと、彼田君、手を離して、そんあ……」
「先生、もしぼくが、ここで先生を口説いたら、OKしてくれますか?」
(何を言っているんだぼくはッ!)
口にした瞬間、赤面するしかないような言葉を吐いていた。自分でもどうかと思う。
それでも、言わないことはできなかった。
「本気で言っているのかしら? 彼田君」
「先生が、先生が悪いんです。ぼくを誘惑して」
「そんなつもりはないの。ただ心配で」
「でも、ぼくは先生のことを、ずっと好きでした。中学生のときから」
「……それは」
とんでもない言葉がポロポロと出てきた。
童貞のときの裕介だったら、こんなことは絶対に言わなかっただろう。
美人女社長との一夜の経験が、裕介を大胆にさせていた。
「先生、好きです。ずっと愛美先生に憧れていました。それで、自宅に招いてくれて、ぼくが魅力的な男になったとか……」
「あう、そんないきなりよ。私はただ彼田君のことが心配で」
「先生、それだけですか? 本当に。本当にそれだけなら、ぼくも諦めます」
裕介はぎゅっと握っていた手をゆっくりと離した。
「彼田君……」
愛美の言葉に嘘は無かったが、一〇〇パーセント本当のことだけを言っているわけではなかった。
三年前に夫を失い、熟れた女の肉体を持て余していたのは確かなのだ。
心の奥底では、男を求めていたのかもしれなかった。
「でも、あり得ないわ。私は四〇に近いし、彼田君はとっても素敵なんですもの。恋人の女性も素敵なんでしょう」
胸の中に生じた漣を鎮める言葉だった。ただ、裕介のことを完全に拒絶しているわけではなかった。
「先生は凄く魅力的です。齢なんて関係ないです。ぼくはずっと憧れていたんですから。久しぶりに会ったら、本当に綺麗で……記憶の中にある愛美先生よりずっと」
裕介は立ち上がり、愛美の隣に移動した。
偠かで透き通るような色を見せる愛美の手をとり、指を重ねる。
「先生、ボクのこれが、こんなに熱くなっているんです。嘘じゃないです」
裕介は、愛美の手を自分の股間に重ねた。
ビクンとペニスが脈動した。
「ああ……彼田君。こんな立派な」
愛美は柔らかな肢体を震わせ、熱を孕んだ吐息を吐いた。
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