WEB小説のインセンティブだけで生活しなければいけない部屋に監禁されたんだが

中七七三

文字の大きさ
上 下
1 / 3

1.真っ白な部屋に監禁されたんだが

しおりを挟む
「どこここ? なに一体?」

 ぼくは「知らない天井だ」と言うありがちな台詞を飲み込む。
 周囲を見る。どーみても知らない、記憶にない部屋だった。
 自分の部屋と同じ六畳くらい。

 クルーゾー警部に頭をおかしくされた署長が閉じ込められたかのような真っ白い壁紙の殺風景を具現化した部屋。
 天井も真っ白で、ちょっと心理的に変になりそうな感じだった。

「パソコンがあるのか……」

 真っ白な机の上に、黒いノートパソコンがあった。
 モニターも真っ黒で電源は入っていない。
 パソコンは白ではなく黒なので、この部屋ではやたらに目立つ。
 他にあったのは、むき出しの様式便座だけ。それも真っ白。
 フローリングの床も真っ白に塗られていた。

『あー、あー、あー テステステス』

 電子的な声が響く。
 くるっと、部屋の中を見るのだけど、スピーカーらしきものは見当たらない。

「え? なんだ?」

「WEB小説と電書で稼ぐ部屋にようこそ! さあ、小説を書こう、必死に書こう、さあ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ、執筆するぞ――」

 頭の芯に響く声がリフレインする。

「なんだ、ここ……」

『小説を書いて強制的にお金を儲ける部屋だ!』

「なにそれ?」

 確かにぼくは小説を書いていた。
 書籍化の登竜門である「小説家になりぬ」ではエロ描写とパロディを二次創作と断ぜられ、退会処分となっていた。
 今は「オメガポリス」と「カケヨメ」を主戦場として小説を書いている。
 ただ、小説は趣味で本業はシステム開発会社のサラリーマンである。
 独身。
 三八歳。

 このように、拉致監禁され「小説を書いてお金を儲ける部屋だ」と言われる理由が分からない。

『書けよ。小説。とにかく小説を書いて、収入を得る。その収入で生き残るための食料、日用品を購入するんだ』

 と、電子的な声が言うたので、ボクは自分が素っ裸なのに気づいた。

「なんだそれ? 二〇世紀のバラエティの企画か?」

 二一世紀も二〇年が経過し、年号も変わったというのになんということだ。
 もしや、無法でチンピラゴロツキの「ゆーちゅーばー」とやらの仕業なのかと、ボクは考えた。

 この部屋はドアもない。
 なにもない。
 よく見ると電気のコンセントだけが机の下にあった。

『いますぐ「オメガポリス」と「カケヨメ」にログインして小説を書くのだ!』

 ボクはパソコンのところまでダッシュする。
 ブラウザをダブルクリックする。
 オメガポリスにも、カケヨメも開くつもりはない。
 外部に連絡するのだ。
 ネットに繋がっていれば、外部連絡も可能なのであると、ボクは冴えたやり方を思いついたわけだった。

『あ、ネットで外部に連絡しょうとするとこの部屋は爆破されるから』

「え?」

『ノーパソの後ろ見てみ?』

 ノーパソの後ろにはなんかの装置が配線でノーパソ本体に直結されていた。

「なにこれ?」

『ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンでーす!』

 電子音の声と同時にブラウザが立ち上がり、ウィキペディアが開いた。
 WEB小説家には必須のサイトである。
 ボクは開いたページを見た。

 ――現用の火薬では最高の爆速をもっています――

 とか、書いてあった。

「死ぬわ! 死んでしまうわ! なんでや、なんで、ボク関係ないじゃん!」

『えー、もう観念して、小説を書いてくださーい!」

「こんな、真っ白な落ち着けない、基地外を監禁するような部屋で小説が書けるかッ!」

『才能があるものは、どんな環境でも、目が腐り落ちるまでそれに熱中できるはず』

「いいや、いいから。才能なくていいから。書籍化とか小説で金稼ぐとかいいから、出してくれよぉぉぉ!」

『えー、では説明します』

 ボクの慟哭の叫びも、ガン無視。

「聞けよ! ボクの言う事を少しは聞けよ! 嫌って言ってんだよ」

「オメガポリスとカケヨメでは、書いた小説に小説インセンティブが付きますね。他にもインセンティブ型サイトはありますがぁ、とりあえず今回はこのふたつです! このサイトでインセンティブを稼いでください」

 言っていることは分かっている。
 オメガポリスでボクは月五〇〇〇円くらい稼いでいる。
 まあ、八〇%くらいの人が殆ど稼げないのだから、平均よりはかなり多い。
 でも、生活できるというレベルではない。月五〇〇〇円なんて、最貧国レベルだよ。

『ちなみに、この部屋は家賃と電気代と通信費で五万円です。安いでしょ?』

「それ払うのか!」

『来月からです。お金が足りないと……』

「足りないと……」

『借金二〇万円までは、借りられます』

「そうか―― いや、なんで監禁され借金まで背負わされる! 極悪バラエティどころじゃないよね。それッ!」

『決まりですから』

「うるせーよ」

『で、食費も水も、小説を書いたインセンティブをもって、ネットで購入してください』

「届くのか? ネット通販の物が届くのか?」

 周囲を見ても、ドアなどことにもない。

 うぃぃーんと、音がして、壁の一部が動いた。
 そして、壁の一部がせり出し、箱のような物となる。
 かなり大きい。

『かなり大きな買い物でもこのように届けられます』

「外部とその箱が通じているのか?」

『そうです』

 ボクはダッシュでせり出した箱に飛びつく。
 
「うぎゃぁぁぁ!!」

 腕に強烈な衝撃。
 脳天に着きぬけ、目の前が真っ黒になる。
 手が離れれない。全身が痙攣する。

『箱を使って外にでようとしらた高圧電流が流れます』

 手がすっと離れた。
 頭がくらくらする。
 なんなのだ…… この部屋は。
 ボクは深呼吸を繰り返す。
 心臓がひびの入った鐘のように鳴り響く。
 こめかみが痛い。

「ひでぇ……」

 もうそれしかいえない。

『とにかく、WEB小説を書いて、インセンティブで金を稼ぎ、ネット通販で生きるために必要な物を買うのです。今日を生き延びるために!』

「そーかよ……」

 もう抵抗する気力もなくなり、ボクはぼんやりとパソコンを見た。

『詳しくは、パソコンのデスクトップにあるPDFマニュアルを見てください』

「ああ……」

 ボクは力なく、マウスを握った。
 火薬の説明の開いた物騒なブラウザの画面を閉じ、デスクトップを見た。

「あった。これか」

 PDFマニュアルのアイコンがあったので、開く。

 とにかく、ここから出るためになにをすればいいのか?
 まずは、PDFマニュアルを読むしかなかった。

        ◇◇◇◇◇◇

・オメガポリス、カケヨメで小説を書くこと
・他のサイトでの小説発表も自由
・WEB小説サイトのインセンティブだけで生活すること
・この部屋の家賃は電気、通信料込みで五万円
・借金は二〇万円まで可能(年間金利、複利25.0%)
・インセンティブを金銭で受け取る場合の口座は用意済み(ネット銀行)
・公募の賞金は無効、計算対象外
・書籍化打診は無視すること、とにかくインセンティブだけ

 WEB小説サイトは、金銭でインセンティブを受け取ることもできるし、ネット通販サイトで使用できるポイントに交換することもできる。

 で、重要なのはどうすれば、ここから出れるか?
 ということだった。

・WEB小説のインセンティブだけで一〇〇万円(通販ポイントでも可)で部屋から出れます♥

「一〇〇万円かよ…… しかも生活費を払いながらだろ……」

 オメガポリスのインセンティブは広告費が全額執筆者に還元されるのでかなり割がいい。
 それでも、そもそも、生活するというのが困難だ。
 ボクも小説をいくつか書いている。
 が、一番稼いでいる小説で一日で三〇円くらい。
 生活費を一〇万円と考えると、二〇万円稼げれば、一〇ヶ月で出れる。
 三〇万円なら五ヶ月になる。

 無謀な計算だった。
 
「くそー!! どうすれば、どうすればインセンティブが稼げるんだ!!」

 ツブヤイターで、二〇万円以上稼いでいる人がいるという書き込みはみたことある。 
 しかし、どうすれば、そんなに稼げるのか分からない。
 カケヨメにいたっては、インセンティブサービスが始まったばかりでよく分からない。

 ボクはブラウザのブックマークの中にあった「オメガポリス」を開く。
 そして、自分のIDでログインした。

 インセンティブとポイントは比例する。
 オメガポリスは、投稿数、PV数、お気に入り数から、24Hポイントを計算して、それがインセンティブのポイントに計算されるということになる。

 で、重要なことはだ――

「やはり…… 恋愛とファンタジーが圧倒的だ」

 オメガポリスは、投稿一月以内の作品が「HITランキング」の対象になる。
 この「HITランキング」に入るか入らないかで、作品のポイントの伸びが違ってくるのだ。

「うぉ、一〇万ポイントを超える作品がこんなにあるのかよ!」

 ボクなど、1万ポイントを超えればおお喜びだ。
 その一〇倍かよ。
 え、そうなると、インセンティブはどうなるんだ?
 ボクは計算する。

「ボクの作品が一〇〇〇から二〇〇〇ポイントで三〇円から五〇円くらいだし、となると…… 一〇倍となると、三〇〇円から五〇〇円か! いや違う! 一〇〇倍だ。 え? 一〇〇〇円から五〇〇〇円? マジで? マジでそんな稼げるの? え?」

 今までさほどインセンティブを意識してなかったボクは驚いた。
 要するに一〇万ポイントを稼ぐ作品を書けば、1日五〇〇〇円。1ヶ月で十五万円だ。
 そんな作品が二つもあれば、すぐに一〇〇万円貯まるんじゃね?
 
「やれる! やれそうだ! やってやる。インセンティブを稼ぎまくって、とっととここから出てやる!」

 真っ白な部屋でボクは獅子吼したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...