生贄になりし少女はドラゴンの王太子に溺愛される

中七七三

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4.わたしを食べないでください

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 ぐくぅ~とお腹がなった。お腹がすいている。
 でも、お腹いっぱい食べると、お肉がついて、ドラゴン様に美味しく頂かれてしまう。要するに食べられてしまう。

 わたしは出された料理に少しだけ口をつけて残すことにした。
 だけでも、本当にどの料理も美味しくて、食べないでいるのは、本当に辛いことだ。

 村にいたときは、そもそも満足に食べることができないのが当たり前で、初期地の量も少なく、味なんか考えている場合じゃなかった。
 生きるためにただ食事をするという感じだった。
 
 それが今では生きるため―― 生き残るために、食事をしないということになっている。
 目の前に美味しそうな(実際、美味しい)料理があっても食べちゃだめというのは、食べ物が無いより辛いことだった。

(でも、食べてお肉がついたら食べられてしまう……)

「シャノーラ嬢よ」

 いきなりわたしは呼びかけられた。

「はい」

 と、返事をして声の方をみると、すっごい美形の男の人が立っていた。
 でも、人間じゃないのはすぐに分った。 
 だって、頭に二本の角が生えていたのだから。

 いつもの給仕の竜人じゃない。
 これは、いったい……
 すごく、美形。で、よく見ると威厳というか威圧感もあった。

「あの…… わたしに……」

 もしかしたら、食事をしないことに業を煮やし、もう食べてしまおうということになったのかもしれない。
 わたしは、カクカク震えた。
 絶望感に顔が真っ青になっていたかもしれない。
 
 ああ、これでわたしは食べられて死ぬんだ……
 と、思うと涙が自然に溢れてきた。

        ◇◇◇◇◇◇

(あ、あ、あ、あ、あ、あ―― 泣いてる! 泣かしてしまったぁぁぁ!)

 ドラゴンの王太子・リュークは慌てた。どんでもなく、生涯記録を振り切るくらいに慌てたのだった。

「な、泣くな! 俺は――」

「わーーーーん!! 食べられる、食べられちゃうんだぁ~」

「食べない。食べたりするものか!」

「え?」

 シャノーラは、ヒク、ヒクとえづきながらも、泣くのを止めた。

「最近、出された料理を食べないのが心配だったので見にきたのだ」

「え――!! 食べないというのは「今は食べない」という意味ですか」

「違う! ずっと食べない」

「え? ずっとですか」

「ああ、ずっと食べることはしない」

「本当ですか?」

 シャノーラはそもそも、この人物が誰なのか知らない。
 言っていることが本当なのかも分らない。
 猜疑心の篭った目で、ジッとリュークを見つめた。

「本当だとも! この王太子・リュークが言ったことだ。前言を翻すことはない」

「誓って、本当ですか?」

「本当だ」

「じゃあ、一体? なんで……」

「一緒に食事をするのだ! この俺と。あははははは」

 この言葉がまたしても誤解を生んだ。
 シャノーラは「やはりわたしは食べられるんだ」と、思い込む。

 結局、泣いているシャノーラを宥めるまで、ドラゴンの王太子・リュークは四苦八苦するのであった。
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