1 / 9
1.生贄となりし少女とドラゴンの王太子
しおりを挟む
そのダンジョンにはドラゴンがいる。
ドラゴン――
この異世界でも最も強大で、神にも近いとされる存在だと聞いている。
わたしは今日生贄になる。
村のためだった。
わたしを乗せた御輿はゆっくりと地に置かれる。
「可哀想にな……シャノーラ」
御輿を担いできた男の人がポツリと言った。
「シャノーラ」という名前を呼ばれるのは久しぶりだった。
ああ、わたしは可哀想なんだと、そのとき初めて思った。
でも、可哀想というのが何か分からなかった。
ここで、わたしは十四年の人生を終えるんだなと、思う。
死ぬんだと思う。
でも、それは決してわたしにとって可哀想ではないと思う。
わたしには親はいなかった。
だから可哀想なのか?
違うと思うけど、なにが違うのか分からなかった。
村の養い子として、生きてきた。
口をきけるような友達は――
わたしは村のひとたちの顔を思い浮かべる。
(多分、いない)
と、そう思う。
わたしはあの村ではお荷物だったし、ここ数年、天候が悪くなって食べ物が作れなくなったら、もっとお荷物になった。
だから、ドラゴンの生贄に選ばれたのだと思う。
いなくてもいい人はわたしくらいだ。
(ああ、一度でいいからお腹いっぱい食べたかったかなぁ)
わたしの心残りといえばこれくらいだった。
なにか、わたしの胸の中にはぽっかり穴があいて、他の人みたいな「心」というものが良く分からなかった。
だから、わたしは決して可哀想ではなかった。
可哀想が分からない。
今日か明日、ドラゴンに食べられ死んでしまうとしても……
◇◇◇◇◇◇
「な、なんだあの女は? あ、あ、あ、あ――」
シャープな顔つき。
精悍さみせる若い男が慄くように言った。
その視線の先には、ダンジョンの入り口にある「祭壇」を映し出す魔道具があった。
ダンジョンの奥で男はそれを見ていた。
「国王様が旅に出た後、生贄なんてよこした人間などおりませんでしたなぁ――」
男の後ろに立つ「見るからに執事」「執事の国から執事になるために執事の要素を結晶化」したような老紳士が立っていた。
「……」
「なに黙っているんですか? リューク王太子殿下」
「いや、これが人間の女の子? なんかくそ可愛いじゃないか! え? どうするの? 親父いないし。これ、オレの生贄ってことでいいんだよね? で、なに? オレに捧げられたわけ?」
「ま――、そういうことになりますなぁ」
「そ、そうなのか……」
若い男は言った。
男は人間ではなかった。
その証拠に、二本の黒い角が金色の髪を掻き分け突き立っていた。
精悍で美麗といっていいほどに整った顔。
彼は、人の姿に変じていたドラゴン王の息子――
いわゆる、ドラゴンの王太子だった。
「さて、どのような調理法を―― 王陛下は、刺身がたいそうお好きでしたが」
「食べるの?」
「はい」
そううなづく老紳士の頭にも二本の角。
ただし、若い男ほど見事さはない。
彼もまたドラゴンであった
「セバスチャン…… オマエ阿呆か?」
「阿呆と申されますと?」
淡々とセバスチャンは答えた。
「食うか! 食わないよ。あんな可愛い娘! 連れてくるんだ! 早く!」
ドラゴン・リューク王太子は眷属に命じた。
わらわらと、眷属たちが、ダンジョンの出口へと向かう――
生贄となりし少女――
シャノーラを迎えるためであった。
ドラゴン――
この異世界でも最も強大で、神にも近いとされる存在だと聞いている。
わたしは今日生贄になる。
村のためだった。
わたしを乗せた御輿はゆっくりと地に置かれる。
「可哀想にな……シャノーラ」
御輿を担いできた男の人がポツリと言った。
「シャノーラ」という名前を呼ばれるのは久しぶりだった。
ああ、わたしは可哀想なんだと、そのとき初めて思った。
でも、可哀想というのが何か分からなかった。
ここで、わたしは十四年の人生を終えるんだなと、思う。
死ぬんだと思う。
でも、それは決してわたしにとって可哀想ではないと思う。
わたしには親はいなかった。
だから可哀想なのか?
違うと思うけど、なにが違うのか分からなかった。
村の養い子として、生きてきた。
口をきけるような友達は――
わたしは村のひとたちの顔を思い浮かべる。
(多分、いない)
と、そう思う。
わたしはあの村ではお荷物だったし、ここ数年、天候が悪くなって食べ物が作れなくなったら、もっとお荷物になった。
だから、ドラゴンの生贄に選ばれたのだと思う。
いなくてもいい人はわたしくらいだ。
(ああ、一度でいいからお腹いっぱい食べたかったかなぁ)
わたしの心残りといえばこれくらいだった。
なにか、わたしの胸の中にはぽっかり穴があいて、他の人みたいな「心」というものが良く分からなかった。
だから、わたしは決して可哀想ではなかった。
可哀想が分からない。
今日か明日、ドラゴンに食べられ死んでしまうとしても……
◇◇◇◇◇◇
「な、なんだあの女は? あ、あ、あ、あ――」
シャープな顔つき。
精悍さみせる若い男が慄くように言った。
その視線の先には、ダンジョンの入り口にある「祭壇」を映し出す魔道具があった。
ダンジョンの奥で男はそれを見ていた。
「国王様が旅に出た後、生贄なんてよこした人間などおりませんでしたなぁ――」
男の後ろに立つ「見るからに執事」「執事の国から執事になるために執事の要素を結晶化」したような老紳士が立っていた。
「……」
「なに黙っているんですか? リューク王太子殿下」
「いや、これが人間の女の子? なんかくそ可愛いじゃないか! え? どうするの? 親父いないし。これ、オレの生贄ってことでいいんだよね? で、なに? オレに捧げられたわけ?」
「ま――、そういうことになりますなぁ」
「そ、そうなのか……」
若い男は言った。
男は人間ではなかった。
その証拠に、二本の黒い角が金色の髪を掻き分け突き立っていた。
精悍で美麗といっていいほどに整った顔。
彼は、人の姿に変じていたドラゴン王の息子――
いわゆる、ドラゴンの王太子だった。
「さて、どのような調理法を―― 王陛下は、刺身がたいそうお好きでしたが」
「食べるの?」
「はい」
そううなづく老紳士の頭にも二本の角。
ただし、若い男ほど見事さはない。
彼もまたドラゴンであった
「セバスチャン…… オマエ阿呆か?」
「阿呆と申されますと?」
淡々とセバスチャンは答えた。
「食うか! 食わないよ。あんな可愛い娘! 連れてくるんだ! 早く!」
ドラゴン・リューク王太子は眷属に命じた。
わらわらと、眷属たちが、ダンジョンの出口へと向かう――
生贄となりし少女――
シャノーラを迎えるためであった。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる