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6.ケツに刺さった傘が開くとき、俺は無敵無双となる

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 それは、親父たちの毎度のことながらの戦争して勝って、勝って勝ちまくって帰ってきてからのことだ。
 
 凱旋パーティというか、酒宴のような席のときだった。

 このときの主役は、戦争に行った親父や家臣団ではなかった。

 主役は、俺だった。
 望むと望まざるとに関わらずというか、ぜんぜん望んでいない。

 俺は主賓席みたいな感じなとこに座らされているのだ。

「さすが、わが息子! シムル・ヴァンガード!! ぐははははあぁぁぁぁぁ!!」
 
 俺の名を呼んでる親父。
 上機嫌を通り越してる。超越している。
 もう相当、酒を飲んでいる。
 もしかしたら、それ以外の向精神薬系のやばい薬物を決めていますか?お父上。
 
 前世のサラリーマン、おっさん時代にはこんな感じで精神が変になったやつもいたなーとか思った。
 
 それくらいに、常軌を逸したハイテンションになっていとしか思えんわけですよ。マジで。

「ぐあははは! これで、ヴァンガード家も安泰というものだ!! がはははっはははは!!」

 親父は相変わらず、笑い続ける。

「さすが、英明の名も高き、シルム様!」
「恐るべき英知と、並ぶものなき武勇とは…… これは、天佑ですな!」
「たったおひとりで、城攻めの兵5万人を皆殺しとは、恐るべき『固有スキル』ですなっ!」

 親父と一緒に戦争から帰って、血のにおいをプンプンさせている家臣団も大盛り上がり。

 戦争して血まみれになって、敵の首いっぱい、ぶら下げて帰ってくるのは毎度のこと。
 しかし、どんなに大勝しても、これほどまでに、酒宴が盛り上がったことはない。

 というか、酒宴に出席したのは始めてだから。
 俺、中身はおっさんだけど、この世界じゃ10歳だからな。

「今回は勝利の味が二倍になった!! がはははは!!」

 毎度のことながら、戦争してきて、毎度のことながら凱旋してきた親父はそう言った。

 阿呆か、下手すりゃ、攻め込んでいる間に落城したかもしれんのだ。
 その点、武人として個人能力が滅茶苦茶突出しているだけに、よく分かってないのかもしれない。

 親父は戦場で不可視の剣を振り回す無敵の存在だ。

 つーか、一族みんな、家臣団? そんな集団まで、大喜び。
 なんか、俺に注目集まっているし…… 仕方ないけど。

「今後は、少しは城に軍勢を残していきましょうよ。父上」
「ん? もう、そんな必要さえないだろう! がはははは!」
「いえ…… そうは言ってもですね。鉄砲やらの準備も、夜襲対策も……」

 ヴァンガード家の城――
 つまり、俺のいた城だが。
 その城に攻め込んできた5万の軍勢は全滅した。

 敵は戦術的なミスはなにもしていなかった。

 完全な夜間奇襲攻撃。
 火砲の回避と接近。
 
 実際に、俺の部屋の壁は爆破されているのだ。
 一歩間違えれば直撃で死んでいた。

 その「一歩の間違い」が運命を分けた。

 俺がそれで死ななかったので、敵が全滅した。
 そういうことだ。

 唯一の計算外は、この城に俺がいたこと。
 正確に言えば、ケツに傘の刺さった俺がいたことだ。

 俺の「ケツに刺さった傘」が開く。
 すると、俺は無敵無双となり、5万の軍勢を全滅させたわけだ。
 俺ひとりで、5万の軍隊を殲滅したのだ。
 
 俺の「固有スキル」だ。

 それは――

 1.ケツに刺さった傘が外に飛び出す。
 2.ケツから飛び出た傘が開く。

 これで準備完了。

 すると、俺は「無双無敵」の存在となる。
 ケツに開いた傘の刺さった俺は「無双無敵」なのだ。

 ほとんど人外の怪物だ。
 銃砲の直撃ですら止まらない。大砲の直撃? 多分、平気。
 不死身で無敵で無双で、圧倒的に敵を蹂躙島来る最強存在だ。
 
 俺が持ち込んだ現代知識で兵器の技術水準は一気に上がった。
 この世界には黒色火薬の50倍の威力を持つ「高性能火薬」や「銃」だけでなく、各種「火砲」まで広まっている。

 しかし、それが俺には全く通用しないのだ。

 これが、俺の「固有スキル」だったのだ。

「城に空っぽにしないで、もっと残置兵をおいて守りも重視するといいますかね……」 

 俺は「無駄だろなぁ~」と思いつつも、酔っ払った親父に言った。

 俺にはケツに刺さった傘を開いて戦う気はない。
 いや、そもそも戦う気がない。
 じゃあ「なんで、火薬の知識なんて広めたの?」と聞かれると「調子に乗ってました」としか言いようがない。

 お金儲けにもなったし……

「むぅ、確かに城の守りよりも野戦―― それが、シムルの希望か?」

 俺の言葉を、メジャーリーガーのスライダより捻じ曲げ手理解する親父。
 俺は「戦いたくない」と言っているのだ。

「いえ、そうじゃなくてですねー」
「こんどは、野戦で10万の軍勢を殲滅してもらうかー!!」

 テンション上がりまくりの親父とは会話困難だった。
 親父は「俺と息子で大陸制覇して、皇帝とかなれるんじゃね?」とか物騒なことを言い出した。
 
 まあ、それは可能かもしれんけど、俺は真っ平だ。
 やりたくない。
 ぬるくゆるい、「スローライフ」で「ノンストレス」な異世界生活が俺の夢だ。
 
 圧倒的な力を持った政治勢力の出現は上手くやらねば「非対象戦の熾烈化」やら「過度の治安の悪化」を生み出すに決まっているのだ。

 
 胸を張って言う。
 俺には、それを防ぐ自身はない。
 調子にのって「現代知識」でこの大陸の戦争を苛烈化させた張本人なのだから。 


 異世界転生を甘く見てた――
 なんか、現代知識を振りまいても「俺ハッピー」な展開になると思ってた。
 戦乱の異世界がさらに過激な戦乱世界の「修羅国」つーか「修羅の大陸」となった。
 もう、メガデスの宴になるとは思わなかった。

 つーか……
 
 そもそも「ケツに開いた傘の刺さった」状態で「無敵無双」が俺の固有スキルってどうなの?
 俺はそう思うわけだよ。
 絵的に最悪だよ。聞いたことねーよ。
 メディアミクスク不能だ。
 
 つーか、俺の精神状態も問題だ。
 ケツに刺さった傘が完全に開いてしまうと記憶が飛ぶ。
 おそらく、ハイテンションになって、俺も殺戮を楽しんでしまうようだが……
 
 その後も親父と話したが会話にならんのでやめた。

 つまり、俺は「ケツに刺さった傘が開くと無双無敵」という固有スキルを持った、一族最有力の存在として浮上したのだった。

 それは俺にとって決して楽園の出現を意味していなかった。
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