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6話:たとえ寄生虫が湧こうとも
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ワシとギバゴーンなる獣の会遇は、片方が鍋の中の具材という状況であった。
それは地産池消というには、あまりに想定外であり、そこになんの文学的メタファーも見出せないのであるから、ワシはただ鍋を見つめるしかなかった。
ぐつぐつと煮立つ鍋の中、平凡なる野菜にまざり肉が確かに存在を誇示しているのである。それがギバゴーンの肉であろうか?
その赤味はまるで牛肉を思わせるものであった。
「この肉がギバゴーンの肉なのですかい? OK?」
ワシはつとめてフレンドリーに言ってみた。
内心の動揺を気取られたくないという貧弱な自尊心を守るため、なんともうだつのあがらぬ事この上なしな理由であったが、正体不明のUMAともいえるギバゴーンの鍋を前にしては致し方ないとも言えるであろう。
「イエーイ! OKぇぇ」
田舎のおっさんは、立ち上がりサムズアップして言った。
でもって、また奥に歩いていった。
さて、どこに行く気だ?と推知したものだが、よくは分からぬままであった。
仕方ないので、ワシは鍋を見ながら、ギバゴーンについての情報材を整理し、戦略的情報の構築を試みることにしたわけである。
もはや廃線寸前ともいえる路線の駅員はギバゴーンをニホンザルに似ているといっていた。でもって、注意すべきは全身を寄生虫に侵され、あまつさえそれを発射するという、我が国に存在することに疑問を感じざるを得ない怪獣のような獣であったわけだ。
つまり、この僻地極まりないこの土地の土着民にとっても害獣であるのであろうことは推察できる。
しかしだ――
害獣であることと、食材になるということは、矛盾しないのである。二律背反な事例とは言い切れぬのではないかとワシは沈思する。
たとえば、シカ肉などどうであろうか。それがイノシシ肉でも構わない。
シカもイノシシも農家にとっては害獣であり、生態数の増加により生態系を乱す存在であり、イデアであるといえるだろう。
いや、イデアであるのか?
それは一側面を語っただけかもしれぬなと、ワシは考えを上書きしつつ、この鍋のメタファーを考えるのであった――
するとである。
田舎の親父が戻ってきたのだ。なぜか黒いゴミ捨て用のビニール袋(45リットル)を持って。
「ほうら、これが証拠だっちゃぁぁ~」
といって、真っ黒な今時見ない45リットルのビニールゴミ袋の中より何かのオブジェクトを引きずりだしたのである
それがギバゴーンであったのだ。といか、状況からしてそれしかないのであるから、そうであろうとワシは断定する。
確かに薄茶色の毛に覆われた姿はサルに似てなくも無い。ただ、毛があちらこちら剥げていて生白い地肌がむき出しになているのである。
でもって、その白い肌にはブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツと勘定できぬほど、いや勘定したくないほどの黒いブツブツがあるのだった。
黒く汚れた毛穴が無数にあるという感じであり不愉快極まりなく、背中の毛がゾワッと逆立ち、尻の穴が開きそうになる。
おっさんはギバゴーンの首根っこを持ってニヤニヤと笑みを浮かべている。黄ばんだ歯滓のたまった口からは、よだれまで垂れておるのだから尋常でないことこの上なしであろう。しかし、その不愉快さではギバゴーンの方が64倍はすさまじいものであった。
「それは死んでいるのかな?」
「んにゃ、行きとるでぇ。気絶しておるだけにゃぁ~ けへへ」
おっさんはそう言って、毛の毟れた地肌の部分をムニュッと指で摘んだ。
おっさんが「これが無いと鍋が締まらんのじゃぁぁ」と言いながら、指をぎゅっと押し込むと黒い毛穴のような穴が広がり、血の混じった白い物がウネウネとひり出されてきたのであるから、たまらない。ワシも緑の粘液を尻からひり出す存在であり、妻に逃げられたわけであるが、無数の毛穴から血まみれの白い何かをひり出す存在には恐怖を覚えるしかないのである。
「このウマクソバエの幼虫が旨いのだよぉぉ。昆虫食は未来の主食だべ?」
と、ワシの目を覗き込むように聞いてくるのであるが、そんな未来は断固拒否したいと言える光景が眼前で展開されているのだ。
うにゅ~る~と、一切日に当たってない生物特有の不気味な白さを身に纏った蛆虫どもが、穴から無数に排出されるのである。うにゅ、うにゅとだ。
ひとつの穴に数匹のウジが寄生しているようであり、おっさんの指に押し出され、チューブ入り歯磨き粉のように外界に「こんにちは」するのである。
プリプリとしたウジは人間の親指ほどもあり、ウジというにはあまり巨大すぎた。不気味すぎた。体節のラインをにゅるにゅると動かし、ポロリと穴から零れ落ちる。
穴には血がにじみ、鉛筆が入りそうな穴が開いているのだ。肉まで貫通してそうな穴だ。
それで終わりではない――
その穴から細かなダニのような真っ赤な小さな虫が群れを成して這い出したのである。生白い地肌の上をはいずりまわり、毛の中に入り込んでいく。
おやじは、そのような小さな虫に五分の魂など存在せぬ、と言う感じで無視するのだから。恐るべきだった。
「これは生食がうまかっちゃん」
もしゃもししゃと、おっさんはウジを食いだした。黄ばんだ涎を垂れ流し、ウジの味を堪能するおっさん。
それは、まさに地獄の晩餐であった。メタファーもくそもないのである。
たとえ寄生虫が湧こうとも。
それは地産池消というには、あまりに想定外であり、そこになんの文学的メタファーも見出せないのであるから、ワシはただ鍋を見つめるしかなかった。
ぐつぐつと煮立つ鍋の中、平凡なる野菜にまざり肉が確かに存在を誇示しているのである。それがギバゴーンの肉であろうか?
その赤味はまるで牛肉を思わせるものであった。
「この肉がギバゴーンの肉なのですかい? OK?」
ワシはつとめてフレンドリーに言ってみた。
内心の動揺を気取られたくないという貧弱な自尊心を守るため、なんともうだつのあがらぬ事この上なしな理由であったが、正体不明のUMAともいえるギバゴーンの鍋を前にしては致し方ないとも言えるであろう。
「イエーイ! OKぇぇ」
田舎のおっさんは、立ち上がりサムズアップして言った。
でもって、また奥に歩いていった。
さて、どこに行く気だ?と推知したものだが、よくは分からぬままであった。
仕方ないので、ワシは鍋を見ながら、ギバゴーンについての情報材を整理し、戦略的情報の構築を試みることにしたわけである。
もはや廃線寸前ともいえる路線の駅員はギバゴーンをニホンザルに似ているといっていた。でもって、注意すべきは全身を寄生虫に侵され、あまつさえそれを発射するという、我が国に存在することに疑問を感じざるを得ない怪獣のような獣であったわけだ。
つまり、この僻地極まりないこの土地の土着民にとっても害獣であるのであろうことは推察できる。
しかしだ――
害獣であることと、食材になるということは、矛盾しないのである。二律背反な事例とは言い切れぬのではないかとワシは沈思する。
たとえば、シカ肉などどうであろうか。それがイノシシ肉でも構わない。
シカもイノシシも農家にとっては害獣であり、生態数の増加により生態系を乱す存在であり、イデアであるといえるだろう。
いや、イデアであるのか?
それは一側面を語っただけかもしれぬなと、ワシは考えを上書きしつつ、この鍋のメタファーを考えるのであった――
するとである。
田舎の親父が戻ってきたのだ。なぜか黒いゴミ捨て用のビニール袋(45リットル)を持って。
「ほうら、これが証拠だっちゃぁぁ~」
といって、真っ黒な今時見ない45リットルのビニールゴミ袋の中より何かのオブジェクトを引きずりだしたのである
それがギバゴーンであったのだ。といか、状況からしてそれしかないのであるから、そうであろうとワシは断定する。
確かに薄茶色の毛に覆われた姿はサルに似てなくも無い。ただ、毛があちらこちら剥げていて生白い地肌がむき出しになているのである。
でもって、その白い肌にはブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツと勘定できぬほど、いや勘定したくないほどの黒いブツブツがあるのだった。
黒く汚れた毛穴が無数にあるという感じであり不愉快極まりなく、背中の毛がゾワッと逆立ち、尻の穴が開きそうになる。
おっさんはギバゴーンの首根っこを持ってニヤニヤと笑みを浮かべている。黄ばんだ歯滓のたまった口からは、よだれまで垂れておるのだから尋常でないことこの上なしであろう。しかし、その不愉快さではギバゴーンの方が64倍はすさまじいものであった。
「それは死んでいるのかな?」
「んにゃ、行きとるでぇ。気絶しておるだけにゃぁ~ けへへ」
おっさんはそう言って、毛の毟れた地肌の部分をムニュッと指で摘んだ。
おっさんが「これが無いと鍋が締まらんのじゃぁぁ」と言いながら、指をぎゅっと押し込むと黒い毛穴のような穴が広がり、血の混じった白い物がウネウネとひり出されてきたのであるから、たまらない。ワシも緑の粘液を尻からひり出す存在であり、妻に逃げられたわけであるが、無数の毛穴から血まみれの白い何かをひり出す存在には恐怖を覚えるしかないのである。
「このウマクソバエの幼虫が旨いのだよぉぉ。昆虫食は未来の主食だべ?」
と、ワシの目を覗き込むように聞いてくるのであるが、そんな未来は断固拒否したいと言える光景が眼前で展開されているのだ。
うにゅ~る~と、一切日に当たってない生物特有の不気味な白さを身に纏った蛆虫どもが、穴から無数に排出されるのである。うにゅ、うにゅとだ。
ひとつの穴に数匹のウジが寄生しているようであり、おっさんの指に押し出され、チューブ入り歯磨き粉のように外界に「こんにちは」するのである。
プリプリとしたウジは人間の親指ほどもあり、ウジというにはあまり巨大すぎた。不気味すぎた。体節のラインをにゅるにゅると動かし、ポロリと穴から零れ落ちる。
穴には血がにじみ、鉛筆が入りそうな穴が開いているのだ。肉まで貫通してそうな穴だ。
それで終わりではない――
その穴から細かなダニのような真っ赤な小さな虫が群れを成して這い出したのである。生白い地肌の上をはいずりまわり、毛の中に入り込んでいく。
おやじは、そのような小さな虫に五分の魂など存在せぬ、と言う感じで無視するのだから。恐るべきだった。
「これは生食がうまかっちゃん」
もしゃもししゃと、おっさんはウジを食いだした。黄ばんだ涎を垂れ流し、ウジの味を堪能するおっさん。
それは、まさに地獄の晩餐であった。メタファーもくそもないのである。
たとえ寄生虫が湧こうとも。
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