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6.魔法で作った大きな玉
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サシスはやさしすぎるのです。戦争にはまったく向いていない本当にやさしい性格をした若者でした。
敵の兵隊であっても、殺したりはしたくなかったのです。
「ロガシー、さっきの魔法みたいに強力なものじゃなくていいんだ。なるべく傷つけないで足止めだけできればいいんだけど……」
本当は、ここで敵の軍勢を魔法で攻撃しまくるのが正しいのかもしれません。
故郷の母親や、王国を守るにはそれが一番かもしれません。
でも、やさしすぎるサシスには、敵を全滅させるような、大きな損害をあたえて、いっぱい兵隊を殺すようなことはしたくなかったのです。
そして、魔法少女ロガシーにその力があったとしても、それをやらせたくはなかったのです。
サシスは自分のこういった気持ちがなんでこうなのか、自分でもよく分かりませんでした。
でも、それが「正しい」のではないかと思いました。
やさしいサシスにとってはそれが正しいことなのです。
「ボクの使える魔法で、足止めだね。できるよ。さっきの魔法より簡単さ!」
「そうなのかい。ロガシー」
「魔法少女ロガシーに不可能はないんだ! まかせてよ、サシス!」
かわいく花のような笑顔をみせ、ロガシーはいったのでした。
◇◇◇◇◇◇
太陽は西に沈み、そして夜となり、東からゆっくりと上ってきました。
周囲がじょじょにあかるくなるなか、サシスとロガシーは岩陰にずっとかくれていました。
「いいのかい? なにも食べなくても」
サシスは持っていた食料を、ロガシーにわたそうとしたのです。
しかし、ロガシーは「ボクは、いらないよ」といって受け取りませんでした。
なんでも、魔法少女の食べるものは普通の食料ではないらしいのです。
「ボクは平気だよ。ごめんね。魔法少女は普通の人が食べるものは食べられないんだ。でも、サシスの食べたしようかしたモノなら…… いや、いいや」
ロガシーはなにか不思議なことを言いました。
サシスはロガシーが「食べるモノ」と「食べたモノ」、「しょうかしたモノ」といったことを少しかんがえました。
しかし、なんともよく分かりません。意味不明です。
それよりも、サシスには大きな心配があったのです。
一晩、待ちぶせをしていたのに、軍勢がやってこないのです。
もしかしたら、カキクケ皇国の軍勢は、すでにここを通り過ぎているのかもしれません?
そんなことをかんがえてしまうのです。サシスの胸の中はその心配でいっぱいで、今にも体がはりさけそうです。
ロガシーの意味不明な言葉を深く考える余裕はなかったのです。
「大丈夫、王国に向かっている軍隊はまだきてないよ。あッ! まって、きたかも」
ロガシーの後ろでまとめてある長い髪がなぜかピクピクと―― まるで意志をもっているかのように動いているようにみえたのです。
「きたのかい? 本当に?」
サシスは岩陰から、街道を見下ろします。
ここは、街道を見下ろせる場所なのです。
サシスはうねりまがっている街道の先の方まで見ました。
じっと見つめました。
「あ! 来た! 本当だ。きた!」
しばらくサシスが街道を見はっているとやってきたのです。
カキクケ皇国の軍勢――
その大軍がやってきました。
どんどんと街道を、アイウエ王国の方に向かって進んでいきます。
どうやらサシスはかなり、先回りしていたようなのです。
うねうねと曲がった街道を進むカキクケ皇国よりも、がけのある岩場をまっすぐ突き進んだサシスの方がだいぶ先に進んでいたのです。
「じゃあ、足止めすればいいんだね! ボクの魔法ならそんなことくらい簡単さ。簡単すぎて楽勝だよ!」
魔法少女ロガシーはトンと立ち上がりました。
そして、まだ遠くにいるカキクケ皇国の軍勢をみやったのです。
掌を目の上にかざして、身をのばし、ロガシーはまるで距離をはかるように見ていました。
「うん、十分だね。ボクの魔法で街道を進めなくする。それでいいかな? サシス」
「街道を進めなくする? そんなことができるのかい」
「できるよ。ボクを信じて、ボクの魔法を信じてよ」
黒く大きな瞳でロガシーはサシスを見つめました。
そのつやつやと光る黒い瞳の色――
なぜか、サシスはどこかで、そのような色を見たような気がしました。
魔法少女ロガシーは、トトトトトっと岩陰から出て走っていきます。
「ロガシー、あんまり行くと危ない!」
サシスは言いました。
「大丈夫さ。まだ、むこうから見つかるような距離じゃないよ」
ロガシーは立ち止まって振り返るとニッコリ笑います。
サシスはロガシーの笑顔を見るたびに、胸がドキドキするのです。その理由は本人にもよく分かりませんでした。
「じゃあ、ボクのすっごい魔法をみせてあげる。あの大軍を一歩も先にすすめないようにする!」
ロガシーはそういうと、両手を天に向けつき上げました。
「にゅる にゅる にゅる ぷりぷる ぬるぬる ぷぷぷ ぬゅるりん ぬゅるりん ぷりぷり にゅるりん――」
魔法少女ロガシーが呪文をとなえはじめました。
不思議な旋律をもった、澄んだ声音で、ロガシーは呪文を紡ぎ出していくのです。
「あッーー」
サシスは息を飲みました。
なぜなら、つき上げたロガシーの両手の上に巨大な土色、茶色、黄土色のまざったような丸い玉ができてきたからです。
最初は目に見えないくらい小さな玉だったのでしょう。それが、みるみる大きくなって本当に大きな玉ができているのです。
「みてよ、ボクの魔法で作った玉。どうかなサシス!」
「すごく…… 大きいです……」
あまりのすごさとおどろきに、サシスはおもわず「です」などと丁寧な言葉を使ってしまいました。
したっぱの兵隊生活がながいせいだったかもしれません。
とにかく、すごく大きいです。この岩場にあるどんな岩よりも大きく見えました。
でも、そんなものを撃ちこんだらどうなってしまうのでしょう。
てのひらにのるようのな小さなヘビのとぐろをまいたようなモノでも、大きな岩を木っ端みじんにするのです。
こんな大きな魔法で作った「玉」を撃ちこんだら……
「ロガシーそれを――」
「はは、なんだい? ボクがこれを兵隊にぶつけるとおもったのかな。そんなことはしないよ」
ロガシーはサシスの心配を知っていたかのようにいいました。
「え? じゃあどうするの」
「こうするのさ! ぬゅるりん ぬゅるんぱッぁぁ!」
そういうと、魔法少女ロガシーは両手を前に向かって「ブンッ」とふり下ろしました。
まるで、巨大な土色、茶色、黄土色の混ざったような丸い玉を投げつけるかのようにです。
巨大な玉は宙を飛び、カキクケ皇国の進む街道に落ちたのです。
それは、ちょうど軍勢の先頭の少し前のあたりでした。
敵の兵隊であっても、殺したりはしたくなかったのです。
「ロガシー、さっきの魔法みたいに強力なものじゃなくていいんだ。なるべく傷つけないで足止めだけできればいいんだけど……」
本当は、ここで敵の軍勢を魔法で攻撃しまくるのが正しいのかもしれません。
故郷の母親や、王国を守るにはそれが一番かもしれません。
でも、やさしすぎるサシスには、敵を全滅させるような、大きな損害をあたえて、いっぱい兵隊を殺すようなことはしたくなかったのです。
そして、魔法少女ロガシーにその力があったとしても、それをやらせたくはなかったのです。
サシスは自分のこういった気持ちがなんでこうなのか、自分でもよく分かりませんでした。
でも、それが「正しい」のではないかと思いました。
やさしいサシスにとってはそれが正しいことなのです。
「ボクの使える魔法で、足止めだね。できるよ。さっきの魔法より簡単さ!」
「そうなのかい。ロガシー」
「魔法少女ロガシーに不可能はないんだ! まかせてよ、サシス!」
かわいく花のような笑顔をみせ、ロガシーはいったのでした。
◇◇◇◇◇◇
太陽は西に沈み、そして夜となり、東からゆっくりと上ってきました。
周囲がじょじょにあかるくなるなか、サシスとロガシーは岩陰にずっとかくれていました。
「いいのかい? なにも食べなくても」
サシスは持っていた食料を、ロガシーにわたそうとしたのです。
しかし、ロガシーは「ボクは、いらないよ」といって受け取りませんでした。
なんでも、魔法少女の食べるものは普通の食料ではないらしいのです。
「ボクは平気だよ。ごめんね。魔法少女は普通の人が食べるものは食べられないんだ。でも、サシスの食べたしようかしたモノなら…… いや、いいや」
ロガシーはなにか不思議なことを言いました。
サシスはロガシーが「食べるモノ」と「食べたモノ」、「しょうかしたモノ」といったことを少しかんがえました。
しかし、なんともよく分かりません。意味不明です。
それよりも、サシスには大きな心配があったのです。
一晩、待ちぶせをしていたのに、軍勢がやってこないのです。
もしかしたら、カキクケ皇国の軍勢は、すでにここを通り過ぎているのかもしれません?
そんなことをかんがえてしまうのです。サシスの胸の中はその心配でいっぱいで、今にも体がはりさけそうです。
ロガシーの意味不明な言葉を深く考える余裕はなかったのです。
「大丈夫、王国に向かっている軍隊はまだきてないよ。あッ! まって、きたかも」
ロガシーの後ろでまとめてある長い髪がなぜかピクピクと―― まるで意志をもっているかのように動いているようにみえたのです。
「きたのかい? 本当に?」
サシスは岩陰から、街道を見下ろします。
ここは、街道を見下ろせる場所なのです。
サシスはうねりまがっている街道の先の方まで見ました。
じっと見つめました。
「あ! 来た! 本当だ。きた!」
しばらくサシスが街道を見はっているとやってきたのです。
カキクケ皇国の軍勢――
その大軍がやってきました。
どんどんと街道を、アイウエ王国の方に向かって進んでいきます。
どうやらサシスはかなり、先回りしていたようなのです。
うねうねと曲がった街道を進むカキクケ皇国よりも、がけのある岩場をまっすぐ突き進んだサシスの方がだいぶ先に進んでいたのです。
「じゃあ、足止めすればいいんだね! ボクの魔法ならそんなことくらい簡単さ。簡単すぎて楽勝だよ!」
魔法少女ロガシーはトンと立ち上がりました。
そして、まだ遠くにいるカキクケ皇国の軍勢をみやったのです。
掌を目の上にかざして、身をのばし、ロガシーはまるで距離をはかるように見ていました。
「うん、十分だね。ボクの魔法で街道を進めなくする。それでいいかな? サシス」
「街道を進めなくする? そんなことができるのかい」
「できるよ。ボクを信じて、ボクの魔法を信じてよ」
黒く大きな瞳でロガシーはサシスを見つめました。
そのつやつやと光る黒い瞳の色――
なぜか、サシスはどこかで、そのような色を見たような気がしました。
魔法少女ロガシーは、トトトトトっと岩陰から出て走っていきます。
「ロガシー、あんまり行くと危ない!」
サシスは言いました。
「大丈夫さ。まだ、むこうから見つかるような距離じゃないよ」
ロガシーは立ち止まって振り返るとニッコリ笑います。
サシスはロガシーの笑顔を見るたびに、胸がドキドキするのです。その理由は本人にもよく分かりませんでした。
「じゃあ、ボクのすっごい魔法をみせてあげる。あの大軍を一歩も先にすすめないようにする!」
ロガシーはそういうと、両手を天に向けつき上げました。
「にゅる にゅる にゅる ぷりぷる ぬるぬる ぷぷぷ ぬゅるりん ぬゅるりん ぷりぷり にゅるりん――」
魔法少女ロガシーが呪文をとなえはじめました。
不思議な旋律をもった、澄んだ声音で、ロガシーは呪文を紡ぎ出していくのです。
「あッーー」
サシスは息を飲みました。
なぜなら、つき上げたロガシーの両手の上に巨大な土色、茶色、黄土色のまざったような丸い玉ができてきたからです。
最初は目に見えないくらい小さな玉だったのでしょう。それが、みるみる大きくなって本当に大きな玉ができているのです。
「みてよ、ボクの魔法で作った玉。どうかなサシス!」
「すごく…… 大きいです……」
あまりのすごさとおどろきに、サシスはおもわず「です」などと丁寧な言葉を使ってしまいました。
したっぱの兵隊生活がながいせいだったかもしれません。
とにかく、すごく大きいです。この岩場にあるどんな岩よりも大きく見えました。
でも、そんなものを撃ちこんだらどうなってしまうのでしょう。
てのひらにのるようのな小さなヘビのとぐろをまいたようなモノでも、大きな岩を木っ端みじんにするのです。
こんな大きな魔法で作った「玉」を撃ちこんだら……
「ロガシーそれを――」
「はは、なんだい? ボクがこれを兵隊にぶつけるとおもったのかな。そんなことはしないよ」
ロガシーはサシスの心配を知っていたかのようにいいました。
「え? じゃあどうするの」
「こうするのさ! ぬゅるりん ぬゅるんぱッぁぁ!」
そういうと、魔法少女ロガシーは両手を前に向かって「ブンッ」とふり下ろしました。
まるで、巨大な土色、茶色、黄土色の混ざったような丸い玉を投げつけるかのようにです。
巨大な玉は宙を飛び、カキクケ皇国の進む街道に落ちたのです。
それは、ちょうど軍勢の先頭の少し前のあたりでした。
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