素手ゴロエルフ! 最強喧嘩師が異世界に転生したら最強の超絶美少女エルフになった

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39話:【問題】武君はマッハ2.3、お母さんは光速の99.99999%です――

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「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 二次試験開始の合図と同時に問題用紙が走りだす。
 ガチムチ・全裸の男たち。全身に問題の書かれた人間であった。
 それが、灼熱の校庭を駆けまわる。

「くそ! 捕まえろ! ぐはッ!」

 しかし、問題用紙は簡単には捕まらない。
 受験生が、問題用紙のパンチを食らい吹っ飛んでいく。
 一撃を喰らった顔面が陥没していた。

「ふふん、一筋縄じゃいかねぇってことかい」

 問題用紙を殺すことは禁止されている。殺せば即不合格になってしまう。
 しかし、ガチムチの問題用紙は全力で抵抗してくるのだ。
 素手ではあったが、その攻撃力はかなりの水準であった。

「殺さずに捕まえるのは面倒くさいです」

 ミルフィーナが平坦な声で言った。
 彼女の50万度の熱線「ドラグ・ブレス」では「殺さない」というのは無理だ。
 
 今ですら、校庭の半分が溶解しマグマのようになっている。地面にドラグ・ブレス放った結果だ。
 これ以上彼女が「ドラグ・ブレス」を吐けば、校庭の全てが火山の火口のようになってしまうだろう。
 これ以上、使用はできない。

「ぐぬぬぬ、お姉さまの突きや蹴りでは、相手は瞬殺どころが、粉々になってしまう。これは、ピンチですなぁぁ~」

 フルチン全裸のシコルノガスキーが拳を握りしめながら言った。
 ちょんと天を突くようなエレクチオンは継続中だ。
 シコルノガスキーにしたところで、エレクチオンしている間は「不死身」であること。
 そして、精液をビームのように発射する武器しかない。

「よう、シコル」
「はい! なんでしょうお姉さま!」
「オメェのそいつから出す、体液で足だけ狙うとかできねぇのかい?」

 シコルノガスキーは姉から話しかけられたことで鼻息を「ふー、ふー」と荒くする。
 当然、右手ピストン開始であった。
 そして、走りまわる問題用紙たちを見やった。

「う~ん、100パーセントの自信はないですなぁ……」
 
 確かに高速で動きまわる問題用紙、しかもその脚だ。
 簡単には命中されられないという話は分かる。

「そうかい」
「しかし――」
「ん?」

「お姉さまの子宮をこじ開け、卵子に命中させ、受精させるなら、自信があるのでありまーーす!!」

 シコルノガスキーは叫びをあげ、姉であるミーナコロシチャルに襲い掛かっていた。
 発情すれば、劣情に身を任せ姉を襲う。
 姉を孕ませたい―― その思いが全てに優先する。
 それがシコルノガスキーのシコルノガスキー性ともいうべき「存在の核」であった。

「ふんッ」

 ミーナコロシチャルの手刀が、空間ごと、弟の肉体を両断。
 左右に断面図のように分断された、シコルノガスキーが血まみれで倒れる。
 しかし、アサガオのツボミ器官が、エレクチオンしている間は不死身なのだ。

 二つに分かれた肉体は肉の触手を伸ばしながら合体していく。
 外見は人間であり、一応「エルフから生まれた存在」であるが、その能力は人外というか怪物レベルだった。

「ああああ…… お姉さまに体を貫かれて、両断されたような気分ですなぁ~」
 
 数秒で復活したシコルノガスキーが言った。

「まあ、いいぜ。襲いたきゃいつでも襲ってこい――」

 妙に優しげな声でミーナコロシチャルは言った。
 何度殺されても、己に向かってくるこの弟を憎からず思う部分があったのだろう。

「しょうがねェ…… 捕まえるかよ」

 ミーナコロシチャルは、そういうとすっとその身を動かす。
 ただ歩くという動作。それが、そこに美を生みだし、衆目を集める。
 空間の絶対的な中心点が、ミーナコロシチャルになる瞬間であった。

 近くにいる問題用紙に向かい、スッと進行方向を遮るように進む。
 目があった。
 エルフのブルーの瞳。その視線が、問題用紙と絡み合う。

「おい、止まれ」

 ミーナコロシチャルは、口の中で転がすかのように言葉をつぶやく。
 それで十分だった。
 本気のミーナコロシチャルに、見つめられ「命令」される。
 それに逆らおうとすれば、並みの人間は死を覚悟する。
 それは、命令に従うか、生命活動を停止するかの選択になる。

 問題用紙の脳内、ニューロン回路は、即座に「命令に従う」と結論を叩きだす。
 そこに、もはや自我などは存在しない。無意識レベルで、逆らうことが出来ない言葉なのだった。

「よう、問題用紙――」
「はい!」
「俺は、字が読めねぇんだがな」

 言っている意味が分かるだろう?
 その言葉の言外の意味。それは命令であった。
 要するに「自分の身体に書いてある問題を読め」ということだ。

 ガクガクと震えながら、問題用紙は口を開いた。

「読まさせていただきます!」
「いいぜ、読みな」
「武君は8時ちょうどに、自宅を出て学校に向かいます。マッハ2.3の速度です。いつも学校には8時15分に到着します。しかし、お母さんが、武君がお弁当を忘れたことに気づきました」
「ほう……」

 数学――
 異世界であっても数学は絶対的な存在だった。
 ミーナコロシチャルは、学歴はなかったが、バカではない。
 計算の問題ならば、解くことは可能であると思った。

 ニィィー
 笑みが浮かぶ。
 その思いが、顔に美しく獰猛な笑みを作っていた。

「ひぃッ……」

 問題用紙がビビッて固まる。

「続けろ。お母さんはどうしたんだい?」

「は、はい! お母さんは、お弁当を持って8時10分に家を出て光速の99.99999%の速度で、走って追いかけました。お母さんが武君に追いついた、主観時間と、武君の主観時間について答えなさい」

「なんだ? 主観時間だと…… しかも武君とお母さんの? 何をいってやがる」

 一見小学生の問題のように見え、それは高度な数学の問題であった。
 光速の99.99999%母親。つまり、これはローレンツ収縮を計算にいれるということだった。
 光速近い速度で移動する母親の時間と息子の武の時間は共有できない。
 それが、時間と空間の仕組みだ。ミンコフスキー時空の理解まで必要な問題だった。

 さすがに、ミーナコロシチャルは、そこまで考えが及ばない。

 そもそもだ。
 息子がマッハ2.3で移動し、母親は光速の99.99999%移動する。
 そのような、現実があり得るのか? この異世界には――
 一瞬、この世界の奥の深さに愕(おどろ)きを感じた。
 
 しかし、即問題に頭を切り替える。

「ぬぅぅ…… どういうことだい? 時間が2つあるのかい?」
「はい。ふたつあります。解答欄もふたつです」

 そう言って問題用紙となった全裸の男は己の尻を見せた。
 右の尻タブ、左の尻タブ、その両方に解答欄があったのだ。

「右に武君。左にお母さんの主観時間ってことかい――」
「マッハは、秒速340メートル。光速は秒速30万キロで計算です」
「そうかい……」

 固まるミーナコロシチャル。

(他の奴らはどうしている?)

 視線を巡らせ、シコルノガスキー、ミーナコロシチャルをさがす。
 彼女はふたりをすぐに発見した。

 どうやったのかは、知らないがふたりとも問題用紙を捕獲したようであった。
 
「ミーナ様、どうしたんですか?」

 足もとから声がした。ポチルオだ。
 イヌ耳の少年が、心配そうにミーナコロシチャルを見あげていた。

「心配ねェ……。 大丈夫だ」

 ミーナコロシチャルは、ふわふわとした髪に包まれたポチルオを頭を撫でる。

「おい」

 ミーナコロシチャルは、問題用紙を見つめた。
 真正面からだった。
 ブルーの瞳から研ぎ澄まされたの視線が放たれている。

「いいんだぜ。オマエさんが、答えを書いていい」
「え?」
「知ってるんだろう? 答えを」
「あ…… いえ‥…」
「知っているな? もう訊かねぇぜ」
「は、はい! 知っています!」

 ビシッとキヲツケをして、問題用紙は言った。
 筋肉でパンパンになった巨体。
 全身の皮膚には問題が刻まれている。
 7歳のエルフであるミーナコロシチャルの数倍の巨体だ。

「書け。てめぇのケツに答えを書け」

「イエス! イエスサー!!」

 そう言うと、問題用紙は、自分の右手人差し指を口の中に突っ込んだ。
 噛み切った。指の先を噛み切ったのだった。
 ドクドクと血が流れ出す。

「ほう…… 己の血で答えを書くかい? やるじゃねぇか」

「ひぎぎぎぎぎ~ 書きます! 書きます!」

 彼は自分の尻に指を這わせ、答えを書きはじめた。
 空間ベクトルを解析し、両者の相対時間差を求める数式。
 そして、ミンコフスキー空間における、時間差を導きだしていた。

「書きました! 出来ましたぁぁ!」
 
 問題用紙の尻には血染めの解答が書かれていた。

「正解だろうな……」

 答えを書いても正解でなければ意味がない。
 念を押す、ミーナコロシチャルだった。

「はい! 絶対です! 絶対!」
「そうかい。まあ、信じてやるしかねぇな」

『えー! 終了まであと20分です。解答できた者は、先に提出してもいいです。本部まで、解答用紙を持って来てください』

 試験官の声が響く。

「行くかよ」
 
 答えができたなら、ギリギリまで待つ必要はない。
 ミーナコロシチャルは、解答用紙を提出すべく、歩を進めた。
 
(ふふん、異世界―― 堪能させてくれるぜ)

 その思いを抱き、ミーナコロシチャルは二次試験を終えた。
 当然、合格であった。
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