素手ゴロエルフ! 最強喧嘩師が異世界に転生したら最強の超絶美少女エルフになった

中七七三

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33話:異世界の学園! その名はゲドゥ学園

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 荒れ地を抜け、耕作地帯が続いていた。おそらくは陸稲か、小麦か――
 そして、その中心部に城壁囲まれた街があった。
 ゲドゥポリスであった。
 
「ほう…… これは、巨人の攻撃に備えたような人類の砦のような城壁――」
「ふん、そうかい」

 弟・シコルノガスキー(現世名:増田部瞬)の言葉を軽く受け流すミーナコロシチャル。
 彼女も生前はヲタであった。
 ヲタであり、ヤクザ。
 素手ゴロ最強であり、人間極道兵器と呼ばれた喧嘩師だった男だ。
 今では、エルフの美少女として、この世に新たな生を受けている。

「ここが、ゲドゥポリスなんだ。奴隷になった仲間もここに……」

 イヌ獣人のポチルオが言った。
 小柄な体でチョコンとミーナコロシチャルの膝の上に乗っている。
 愛くるしい瞳。モフモフした髪の毛に、イヌ耳がピンと立っている。
 愛玩犬の可愛らしさをそのまま、擬人化したような存在だった。

「ミーナ様、お金払って入りますか? ぶち破りますか? どーします」

「金はあるだろ。今はまだ騒動を起こす気はねぇ。まだな――」

 ミルフィーナの言葉に意外に常識的な返答をする。
 確かに、金はあった。
 奴隷繁殖牧場でぶち殺した奴らから拝借した金だ。
 金貨は無かったが、銀貨が数枚。あとは銅貨だった。

「まあ、お金は十分ありますからね。それがいいです」

 平坦な声でミルフィーナが言った。
 金銭に関することや、この世界の常識について最も詳しいのは彼女であった。
 本人が常識的かどうかは、一考の余地があったかもしれないが。

 竜車を街の入り口に回す。
 そして、街の門番に金を渡した。
 街に逗留する理由。
 どこに泊まるか。
 そのあたりは、平坦な声でミルフィーナが何とか対応した。
 
 中世ヨーロッパでは気軽に街中に入れるわけではない。
 この世界も、余計なところで、中世ヨーロッパ的な考証に忠実だった。

「おお! やはり中世ヨーロッパ風の世界! 異世界はこうでなくては駄目だ! ひひひひひひッ! ボクの異世界生活! 異世界の冒険がここから始まるのだ!」
 
 フルチンのまま、竜車の上で叫ぶシコルノガスキー。街を行く人間の視線が集まる。
 そして、その視線をエネルギーとするのか股間のアサガオの蕾はエレクチオン。
 エネルギー充填率は80%突破しつつある。

「で、どこへ行くんだい?」

「お姉様、ここは冒険者ギルドじゃないでしょうかぁぁ!!」

 拳をぎゅっと握りしめ力説するシコルノガスキー。
 引きこもりのいじめられ子の例にもれず、このような世界における約束事には妙に詳しかった。

「そうかよ」
「そうです。お姉さま」
「じゃあ、ボクが聞いてきます。どこに冒険者ギルドがあるか」

 トンと竜車から飛び降りたミルフィーナ。
 真紅の髪が揺れる。
 通行人を捕まえて聞いている。
 そして、何事か話して戻ってきた。

「無いです。この街にそんなのないです」

 戻ってくるなり、ミルフィーナは言った。
 シコルノガスキーの脳裏に描いた世界観を一気に突き崩す平坦な声。
 この街に冒険者ギルドは無かったのだ。 

「無いですとぉぉ!」
「無いです」
「では、各種イベント! いいえ、街の内外で起きる様々な問題はどうやって解決するのですか!」
「暴力と制裁と流血で解決です」

 ミールフィーナが当然だという顔で言った。

「分かりやすい話しじゃねェか」

 ミルフィーナにとって、冒険者ギルドで情報集めなどどいうことより分かりやすい話しだった。

 この街は、代紋ランカー4位であるライジング・ドラゴンが支配する街である。
 彼がこの街の王なのだ。
 なんの罪もない獣人を狩り、奴隷とするような奴らを率いる王だ。
 そんな奴がまともな、統治を行っているわけがない。
 
 街の中に人の往来はある。
 店らしきものもあるし、繁盛しているように見える。
 しかし、そこに漂う暗黒の気配。抑圧された血の匂いは隠しようがなかった。
 要するに、住民はなにかに怯えながら暮らしているのだと分かる。

(ぶちのめして聞いてみるかよ……)

 街中にちらほら、どー見ても堅気ではない人間がいる。
 モヒカンに肩パットでガチムチの男たちが歩いている。
 そいつらを手当たり次第、捕まえ血祭りに上げる方法もあった。
 中々、面白そうな考えだとミーナコロシチャルは思う。

「殺すか――」

 肉の奥底で生じた最終結論が思わず口から漏れていた。

「でも、殺しても分からなかったら面倒です。それに堅気の衆にも迷惑です」
「そうかい……」

 まるで、心中を読んだかのようにミルフィーナが言った。
 確かに店の前に血と肉塊と臓物をぶちまけられたら商売の邪魔だ。 
 それは、前世で最強喧嘩師であった彼女でも分かる話だ。

「じゃあ…… どうするんだい?」
「んん…… ドラグブレスで堅気の衆も一緒に焼いちゃいましょうか。面倒だから」

 美少女の外見からは想像のつかない狂気に満ちた結論を放った。そのピンクのくちびるから。
 迷惑がかかるので、かかった相手を殺す。
 そうすれば、迷惑も存在しなくなる。
 どす黒く邪悪で狂気を帯びた病んだ言葉だった。

「ん~、冒険者ギルドがないんじゃ、それでも仕方ないですね」

 もはや、やる気を失ったシコルノガスキーが投げやりに言った。ただし、エレクチオンは維持している。

「ねえ、ミーナ様……」

 ミーナコロシチャルの膝の上にチョコンと座っているポチルオが背後を見あげるようにして言った。
 その首のひねり方もあざといくらいに愛らしいのだった。

「おう、なんだい? ポチルオ」
「お腹すいちゃった…… ご飯食べたいです……」
「むぅッ」

 その言葉、仕草は完ぺきだった。
 保護欲――
 もし、そのような物が欠片でも存在する者が相手であれば、それにブーストをかけること間違いなしであった。
 そして、ミーナコロシチャルにはそれがあった。

 彼女の碧い瞳がイヌ耳の少年をジッと見つめた。
 抱きかかえるその手に微妙に力をいれる。ギュッとしたのだ。

「いいぜ―― なにが喰いたいんだ?」
「確かに、野宿で鍋ばかりだったので、普通の料理が食べたいです」
「ボ、ボクは、直飲みでお姉さまの母にゅ――」

 シコルノガスキーはその言葉の途中でミーナコロシチャルに顔面をふっとばされる。
 首から上が素粒子となって、空間に消えた。
 ただし、エレクチオンしているので不死身。すぐに肉が盛り上がり新たな首が生成されていく。

「ああ、お姉様ぁぁぁぁ、ああああああ、すごいですゥゥゥ!!」

 回復し、海老ぞって、姉を称えるシコルノガスキーだった。
 姉の暴力はこの弟にとってご褒美なのだ。

「行くか、飯に――」

 そんなシコルノガスキーをスルーしてミーナコロシチャルは言ったのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

「わーい!! お肉! お肉! お肉! お肉だぁぁぁ!!」

 パタパタと尻尾を振って、椅子の上に立ち上がるポチルオ。
 はぁはぁ言いながら、口から涎を垂らす。

「待て、ポチルオ」
「はい! ミーナ様!」

 ピタッと止まるポチルオ。
 ただし、そのつぶらな瞳はテーブルに並ぶ肉料理をロックオンしたままだ。

「よし! 食べていいぜ」
「わーい! ミーナ様! わーい!」

 皿に飛びつくポチルオ。肉を腕で抑え込んで「ウーウー」言いながら食べている。
 おそらく、今まで満足な食事などしたことは無かったのだろう。

「エルフの離乳食ほどではないですが、かなりおいしいでゴザル! 豆スープにパン。これぞ異世界という感じがいいですな!」

 シコルノガスキーも満足そうに食べている。全裸で。
 この街にも服を売っている店はあったが、シコルノガスキーにとって裸がユニフォームだった。
 彼は信念を持って全裸を続けていた。その精神性はある種の修行僧のレベルのあったのかもしれない。

 ミルフィーナも、プルプル震える手で食べている。
 魔導義手は戦闘用であり、日常の細かいことがあまりうまくできないのだ。

 ミーナコロシチャルは、麦で作られたと思われるビールに似た酒を口に運ぶ。
 温いが、味はさほど悪くはない。トンと素焼きのカップを置く。
 アルコールの混ざった呼気を吐き、周囲を見やった。
 そこは、いかにも異世界の飯屋という定型的な光景をそのまま描いたような場所であった。

 彼女がパンを口に持っていこうとしたときだった。

「よう、お姉さん、エルフだろ? 珍しいな。ここじゃ――」

 いや、ミーナに声をかけること自体が、珍しいことであった。
 エルフとして転生した喧嘩ヤクザ。
 その肉体は最強であるとともに、至高のレベルで美しかったのだ。
 美麗という言葉の言霊が具現化したかのような存在だ。
 ミスリル銀のような光を放つ長い髪。
 碧い神秘の色を称えた瞳に長いまつ毛。
 真っ白い透き通るような肌。
 完ぺきすぎる美貌は、他人が話しかけるのを躊躇させるに十分だった。

「ふふん、なんだい? なんの様だい?」

 珍しいことであったので、ミーナコロシチャルも答える。
 問答無用のパンチが飛んでこなかったのは、話しかけた物にとってラッキーだった。

「いやぁ、お姉さんたちも、入学試験を受けにきたのかい? 今回の受験者はなんでもここ数年で一番多いらしいぜ」
「入学試験?」

 流麗な眉を曲げ、ミーナコロシチャルは訊いた。

「いや、違うのかい? ゲドゥ学園の入学試験を受けに来たのかと…… ただ者の雰囲気じゃなかったんで」
「ゲドゥ学園だと?」

 入学試験。
 ゲドゥ学園。
 いきなり、未知の単語であった。
 いや、入学試験は分かる。しかし、ここは――

「学園が! 学園があるのですか! 異世界の学園!!」

 シコルノガスキーが叫ぶ。なにやら、学園というのが嬉しいのだろうか。 

「ああ、あるぜ。ライジング・ドラゴン様の組織の幹部養成学校。ゲドゥ学園が――」

「ライジング・ドラゴンだと」

 ミーナコロシチャルはその名を口にしていた。
 この街を支配する恐怖の存在。
 ポチルオたち、イヌ獣人族を奴隷にしようとしていた奴ら……
 彼女が潰そうと思っていた存在。

 バラバラだったパズルのパーツが一気にハマりだしたような気がした。

(いいねぇ―― 学園かよ……)

 ミーナコロシチャルはエルフの美しいくちびるに、獰猛な笑みを浮かべていた。 
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