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31話:イヌ獣人のインブリード
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それはまさに牧場であった。
「奴隷繁殖牧場」を支配していたムツ・ガロウをぶち殺し、最上階に登ったミーナコロシチャルたちが目撃した光景。
それはまさにそのような物だったのだ。
「むぅ…… これは……」
転生前はスデゴロ最強のヤクザ。
人間極道兵器とまで言われたミーナコロシチャルだ。
修羅場には慣れていた。いや、むしろ修羅場こそが日常であった。
砕けた骨と肉塊。血飛沫と死が支配する世界こそが彼の住処であったのだ。
「神聖な儀式」としての深夜アニメ鑑賞のみが修羅を忘れる一瞬であった。
そのような生を送ってきた存在であった。
そのミーナコロシチャルが息を飲んでいた。
純銀で作られた極細のファイバーを思わせる髪がハラリと揺れた。
その輝きの中に周囲の景色を映し込むかのような銀髪であった。
深く神秘の色を湛えたブルーの瞳が周囲を見やる。
「あああ…… ひどい…… なんてことを……」
「あ、あ、あ、あ…… くそぉぉ……」
「殺してやる…… 俺の妻や娘たちをこんな目に…‥」
「あああ…… 俺たちが、もっと強ければ…… こんな……」
ミーナコロシチャルに追いてきたイヌ獣人の男たちのつぶやきがその空間に流れ出す。
悲哀――
悲嘆――
慟哭――
憤怒――
後悔――
そのような感情のこもった。いや言葉に定義できない感情すらこもった呟きであった。
そこには虚ろな目をしたイヌ獣人の女たちが繋がれていた。
手すりの前に一列に並んだイヌ獣人の女たち。
全裸であった。全員が四つん這いになり、手すりを掴み尻を高々と上げていた。
年齢は様々だ。
おそらく、このイヌ獣人の男たちの妻であり、娘――
そのような存在であろうと想像された。
「あはぁぁ、もっとぉぉ~ もっと注いでほしいのぉ~」
淫靡と言っていいメスの声が流れ出した。
自分の夫やあるいは父親。
それがこの場にいることすら気づいていないように、ただ淫靡な言葉を垂れ流す。
パタパタと尻尾を振り、腰をくねらせ、おねだりする存在。
牝イヌ――
まさに、それは牝イヌの群れであったのだ。
そして、それだけではなかった。
全員の腹がパンパンだったのだ。
食事ではない。それで膨らんだ腹ではない。
ハラボデである。
完全に孕んでいた。
そして、おっぱいには搾乳器が取り付けられている。
この「奴隷繁殖牧場」の主であるムツ・ガロウが死んだ今でも、その搾乳器が無慈悲に、母乳をしぼりとっていたのだった。
おそらくは24時間――
搾乳器でしぼられたおっぱいは、乳首も乳輪も肥大化し、パンパンになっていた。
その乳首の先からは大量の母乳が溢れるように噴き出していたのだ。
そのような状態ですら、彼女たちはおねだりの言葉をたれ流しているのだった。
発情しているのだ。
腹ボテになりながらも、発情しっぱなしの牝イヌだった。
「あはぁぁぁああああああああああ~」
繋がれていたイヌ獣人の女の一人が感極まったような声を出した。
じょぉぉぉぉぉ~
そして、放尿した。
強制失禁ではない。
自分の意志で、夫か父親たちの見守る前での放尿であった。
放尿の響きが徐々に勢いを無くしていく。
やがて、流れは小さくなる。
獣人特有の毛深い局部をつたわり、滴が床にたれていく。
ぴちゃぴちゃと、滴がたれる音が響く。
時を刻むような音が牝イヌの嬌声の中に流れていく。
そして、それも終わる。
その空間に濃い牝の獣臭と発情の喘ぎ声が戻ってきた。
「これは、酷いです。強制受胎させて、母乳をしぼっています。ムツ・ガロウが受胎させたに違いないです。まさに家畜の牧場です。牝イヌ(ビッチ)牧場です」
空気を読まないというか、感情をどこかに置き忘れたかのような声。
真紅の髪をしたミルフィーナが言ったのであった。
「いや、そうとも限らねェ…… あれを見な」
ミーナコロシチャルは視線を床にやりながら言った。
その視線の先には、極太の注射器のようなものがころがっていたのであった。
そこには、白濁した何らかの液体の残滓がこびりついていたのだった。
極太の注射器――
白濁した液体――
ボテバラの牝イヌ――
これだけの材料が揃えば、答えは出てくる。
少なくとも、義務教育で「保健体育」「理科」の授業を真面目に受けた者であれば、想像がつく。
いや、異世界の人間であってもそれは分かるであろう。
白濁した液体。
それは体液だ。
減数分裂した生殖細胞を内部にもった生殖液。
牝の体内に注ぎ込まれ、卵子に付着。受精し、次世代へと生命をつなぐ、命を継承する白濁液。
それは、そう言ったモノだった。
つまり「精液」である。中学生3年生の2学期あたりで習うことであった。
ミーナコロシチャルは、優雅な所作で極太の注射器を拾い上げた。
繊細な芸術品のような白い指に白濁した体液が付着する。
その美麗な顔を注射器に近づけ、匂いを嗅いだ。
独特の栗の花に似た香りが鼻腔に満ちていく。
まちがいなかった。それは精液であった。
見た目も、匂いも間違いない。精液なのである。
「こいつに、子種汁をいれて、受精させたってことだぜ」
ミーナコロシチャルは言った。
それは、同時にムツ・ガロウが直接、この女たちを犯し、孕ませた可能性を否定するものであった。
もし、自分で孕ませたいなら、注射器に精液を溜めて、注ぎ込むということなどする必要がないからである。
それは、ある種の家畜――
馬や牛の種付けと似た物であった。
牧〇物語というゲームではビジュアル化までされている行為。
元の世界ではよく知られていることだ。
ミーナコロシチャルの言葉の意味をイヌ獣人の男たちは理解した。
しかしだ――
「ミーナ様の言うことは分かります。ムツ・ガロウやここの男たちが犯したわけではないということは…‥」
「ああ、そうだろうよ」
「では、いったい誰が? その精液はだれが」
「オメェさんたちのじゃねぇのかい?」
「いいえ、私たちは射精を禁止されていました」
「なんだとぉぉ!」
射精管理――
そのような技術がある。
男は次世代に生命をつなぐため、大量の精子を体内で生成する。
放出と生成。
そのサイクルの最適な頻度は中3日といわれる。
質のいい精液を作るための技術「射精管理」は中3日で強制射精をさせ、その間は一滴も漏らさないというものだ。
永遠の射精管理。
射精の禁止。
それがどのような事態を招くか。ミーナコロシチャルは知っていた。
ある一定の日数をすぎると性欲が減退するのである。
放出されず、廃棄される精子が多くなると、肉体は精液の生成を減少させる。
それは、激しい性欲の減退をもたらすのであった。
このオスのイヌ獣人たちは、奴隷繁殖牧場で「射精禁止」されていたのである。
(だから、この光景をみても発情しねぇのか……)
ミーナコロシチャルの中で思考のパーツがはまる。
美しいといっていい獣人の牝たちが全裸で、放尿までしている。
それでも、誰一人として発情していないのだ。
ささくれのように残っていた疑問が氷解した。
しかし、ではこの精液は誰の物なのか――
(舐めても分かるわけがねェ)
一瞬、舌を伸ばし、注射器をしゃぶろうとしたミーナコロシチャル。
だが、精液の味を知っているわけではなかった。
美しく汚れのない7歳のエルフなのである。
前世は喧嘩ヤクザであるが。
「ミーナ様」
「ん、ミルフィ、なにかあるのかい?」
「その精液は、子どもたちのじゃないですか?」
「子どもたちのだと?」
「だって、1階で射精訓練してましたよ」
そうであった。
ミーナコロシチャルはその光景を目撃していた。
イヌ獣人の少年たちがノルマを課され、強制射精させられていたのだ。
その少年たちは今は、ミーナコロシチャルの弟であるシコルノガスキーによってすでに脱出していた。
「子どもたちの精液……」
イヌ獣人の男の一人が言った。
なぜか、その言葉には安堵の色があったのだ。
「ああ、子どもたちの精液なら、いいか? なあ、みんな」
「うーん、確かにな、親子、姉、妹を孕ますってのは、よくやっちまうしなぁ」
「俺の嫁さん、妹だしなぁ」
「俺は母親だよ」
「だって、他に獣人の村は無いし、当たり前のことだよなぁ」
ウンウンと頷きながら、イヌ獣人の男たちは言ったのだ。
イヌの近親交配(インブリード)。それは血統を維持するためや、品種改良のため、地球の歴史でも行われてきたことだ。
また、イヌは成長すると、親兄弟という認識よりも、オス・メスという個体特性が優位にたつ。
閉鎖された環境であれば、容易に近親交配が起こるのであった。
要するにそれは、イヌ獣人の文化であって、彼らにとっては問題ないことだったのだ。
息子が母親を孕ませる――
息子が姉を孕ませる――
息子が妹を孕ませる――
人の世界の常識や習慣で、イヌ獣人の社会性を否定することはできなかった。
それは、正しいのであった。
「じゃあ、女たちを助けて、ここを出ましょう!」
元気よく、イヌ獣人の男がいった。
先ほどまでの悲嘆にくれた空気はそこにはなかった。
明るいイヌ獣人の声が響く。
「いいのかい?」
ミーナコロシチャルは、今一つ納得できない思いで訊いた。
ハラボテはいい。その子種が息子たちの物であれば、生まれてくる子も、村に受け入れられるだろう。
それは、イヌ獣人の社会の問題だ。
しかし、この牝イヌたちの発情はどうなのか?
その発情し、狂気といっていい状態にとなった牝イヌ。
それに対する思いが「いいのかい?」という言葉になっていた。
「ああ、発情期と妊娠期が重なっただけですよ。我々にはよくあることです」
「そうかい」
「イヌは妊娠すると、発情しないですが、人は年がら年中発情しますよね。我々のメスは、妊娠しても発情しますから。あはははは!」
「ほう……」
納得するしかなかった。
人は常に発情する。イヌは違う。イヌ獣人は人に近い。
しかも、発情期がある。妊娠しても発情期を迎える。
そういうことなのか。
この状態が発情期なのか……
これがこの種族の普通の発情期なのか……
「フッ」
その美しい唇が笑みの形を作り、バラの香りがしそうな吐息が漏れる。
「これが、異世界―― これが獣人ってやつかよ……」
胸の内にあった思いが言葉となって流れ出していた。
【後書き】
■参考文献
犬のブリーディングテクニック―よりよい子犬を産み育てるためのガイドブック
最新版 愛犬の繁殖と育児百科: 繁殖の手続きから交配、妊娠中の管理、出産、育児、登録まで
理科の世界 大日本書籍(中学教科書)
「奴隷繁殖牧場」を支配していたムツ・ガロウをぶち殺し、最上階に登ったミーナコロシチャルたちが目撃した光景。
それはまさにそのような物だったのだ。
「むぅ…… これは……」
転生前はスデゴロ最強のヤクザ。
人間極道兵器とまで言われたミーナコロシチャルだ。
修羅場には慣れていた。いや、むしろ修羅場こそが日常であった。
砕けた骨と肉塊。血飛沫と死が支配する世界こそが彼の住処であったのだ。
「神聖な儀式」としての深夜アニメ鑑賞のみが修羅を忘れる一瞬であった。
そのような生を送ってきた存在であった。
そのミーナコロシチャルが息を飲んでいた。
純銀で作られた極細のファイバーを思わせる髪がハラリと揺れた。
その輝きの中に周囲の景色を映し込むかのような銀髪であった。
深く神秘の色を湛えたブルーの瞳が周囲を見やる。
「あああ…… ひどい…… なんてことを……」
「あ、あ、あ、あ…… くそぉぉ……」
「殺してやる…… 俺の妻や娘たちをこんな目に…‥」
「あああ…… 俺たちが、もっと強ければ…… こんな……」
ミーナコロシチャルに追いてきたイヌ獣人の男たちのつぶやきがその空間に流れ出す。
悲哀――
悲嘆――
慟哭――
憤怒――
後悔――
そのような感情のこもった。いや言葉に定義できない感情すらこもった呟きであった。
そこには虚ろな目をしたイヌ獣人の女たちが繋がれていた。
手すりの前に一列に並んだイヌ獣人の女たち。
全裸であった。全員が四つん這いになり、手すりを掴み尻を高々と上げていた。
年齢は様々だ。
おそらく、このイヌ獣人の男たちの妻であり、娘――
そのような存在であろうと想像された。
「あはぁぁ、もっとぉぉ~ もっと注いでほしいのぉ~」
淫靡と言っていいメスの声が流れ出した。
自分の夫やあるいは父親。
それがこの場にいることすら気づいていないように、ただ淫靡な言葉を垂れ流す。
パタパタと尻尾を振り、腰をくねらせ、おねだりする存在。
牝イヌ――
まさに、それは牝イヌの群れであったのだ。
そして、それだけではなかった。
全員の腹がパンパンだったのだ。
食事ではない。それで膨らんだ腹ではない。
ハラボデである。
完全に孕んでいた。
そして、おっぱいには搾乳器が取り付けられている。
この「奴隷繁殖牧場」の主であるムツ・ガロウが死んだ今でも、その搾乳器が無慈悲に、母乳をしぼりとっていたのだった。
おそらくは24時間――
搾乳器でしぼられたおっぱいは、乳首も乳輪も肥大化し、パンパンになっていた。
その乳首の先からは大量の母乳が溢れるように噴き出していたのだ。
そのような状態ですら、彼女たちはおねだりの言葉をたれ流しているのだった。
発情しているのだ。
腹ボテになりながらも、発情しっぱなしの牝イヌだった。
「あはぁぁぁああああああああああ~」
繋がれていたイヌ獣人の女の一人が感極まったような声を出した。
じょぉぉぉぉぉ~
そして、放尿した。
強制失禁ではない。
自分の意志で、夫か父親たちの見守る前での放尿であった。
放尿の響きが徐々に勢いを無くしていく。
やがて、流れは小さくなる。
獣人特有の毛深い局部をつたわり、滴が床にたれていく。
ぴちゃぴちゃと、滴がたれる音が響く。
時を刻むような音が牝イヌの嬌声の中に流れていく。
そして、それも終わる。
その空間に濃い牝の獣臭と発情の喘ぎ声が戻ってきた。
「これは、酷いです。強制受胎させて、母乳をしぼっています。ムツ・ガロウが受胎させたに違いないです。まさに家畜の牧場です。牝イヌ(ビッチ)牧場です」
空気を読まないというか、感情をどこかに置き忘れたかのような声。
真紅の髪をしたミルフィーナが言ったのであった。
「いや、そうとも限らねェ…… あれを見な」
ミーナコロシチャルは視線を床にやりながら言った。
その視線の先には、極太の注射器のようなものがころがっていたのであった。
そこには、白濁した何らかの液体の残滓がこびりついていたのだった。
極太の注射器――
白濁した液体――
ボテバラの牝イヌ――
これだけの材料が揃えば、答えは出てくる。
少なくとも、義務教育で「保健体育」「理科」の授業を真面目に受けた者であれば、想像がつく。
いや、異世界の人間であってもそれは分かるであろう。
白濁した液体。
それは体液だ。
減数分裂した生殖細胞を内部にもった生殖液。
牝の体内に注ぎ込まれ、卵子に付着。受精し、次世代へと生命をつなぐ、命を継承する白濁液。
それは、そう言ったモノだった。
つまり「精液」である。中学生3年生の2学期あたりで習うことであった。
ミーナコロシチャルは、優雅な所作で極太の注射器を拾い上げた。
繊細な芸術品のような白い指に白濁した体液が付着する。
その美麗な顔を注射器に近づけ、匂いを嗅いだ。
独特の栗の花に似た香りが鼻腔に満ちていく。
まちがいなかった。それは精液であった。
見た目も、匂いも間違いない。精液なのである。
「こいつに、子種汁をいれて、受精させたってことだぜ」
ミーナコロシチャルは言った。
それは、同時にムツ・ガロウが直接、この女たちを犯し、孕ませた可能性を否定するものであった。
もし、自分で孕ませたいなら、注射器に精液を溜めて、注ぎ込むということなどする必要がないからである。
それは、ある種の家畜――
馬や牛の種付けと似た物であった。
牧〇物語というゲームではビジュアル化までされている行為。
元の世界ではよく知られていることだ。
ミーナコロシチャルの言葉の意味をイヌ獣人の男たちは理解した。
しかしだ――
「ミーナ様の言うことは分かります。ムツ・ガロウやここの男たちが犯したわけではないということは…‥」
「ああ、そうだろうよ」
「では、いったい誰が? その精液はだれが」
「オメェさんたちのじゃねぇのかい?」
「いいえ、私たちは射精を禁止されていました」
「なんだとぉぉ!」
射精管理――
そのような技術がある。
男は次世代に生命をつなぐため、大量の精子を体内で生成する。
放出と生成。
そのサイクルの最適な頻度は中3日といわれる。
質のいい精液を作るための技術「射精管理」は中3日で強制射精をさせ、その間は一滴も漏らさないというものだ。
永遠の射精管理。
射精の禁止。
それがどのような事態を招くか。ミーナコロシチャルは知っていた。
ある一定の日数をすぎると性欲が減退するのである。
放出されず、廃棄される精子が多くなると、肉体は精液の生成を減少させる。
それは、激しい性欲の減退をもたらすのであった。
このオスのイヌ獣人たちは、奴隷繁殖牧場で「射精禁止」されていたのである。
(だから、この光景をみても発情しねぇのか……)
ミーナコロシチャルの中で思考のパーツがはまる。
美しいといっていい獣人の牝たちが全裸で、放尿までしている。
それでも、誰一人として発情していないのだ。
ささくれのように残っていた疑問が氷解した。
しかし、ではこの精液は誰の物なのか――
(舐めても分かるわけがねェ)
一瞬、舌を伸ばし、注射器をしゃぶろうとしたミーナコロシチャル。
だが、精液の味を知っているわけではなかった。
美しく汚れのない7歳のエルフなのである。
前世は喧嘩ヤクザであるが。
「ミーナ様」
「ん、ミルフィ、なにかあるのかい?」
「その精液は、子どもたちのじゃないですか?」
「子どもたちのだと?」
「だって、1階で射精訓練してましたよ」
そうであった。
ミーナコロシチャルはその光景を目撃していた。
イヌ獣人の少年たちがノルマを課され、強制射精させられていたのだ。
その少年たちは今は、ミーナコロシチャルの弟であるシコルノガスキーによってすでに脱出していた。
「子どもたちの精液……」
イヌ獣人の男の一人が言った。
なぜか、その言葉には安堵の色があったのだ。
「ああ、子どもたちの精液なら、いいか? なあ、みんな」
「うーん、確かにな、親子、姉、妹を孕ますってのは、よくやっちまうしなぁ」
「俺の嫁さん、妹だしなぁ」
「俺は母親だよ」
「だって、他に獣人の村は無いし、当たり前のことだよなぁ」
ウンウンと頷きながら、イヌ獣人の男たちは言ったのだ。
イヌの近親交配(インブリード)。それは血統を維持するためや、品種改良のため、地球の歴史でも行われてきたことだ。
また、イヌは成長すると、親兄弟という認識よりも、オス・メスという個体特性が優位にたつ。
閉鎖された環境であれば、容易に近親交配が起こるのであった。
要するにそれは、イヌ獣人の文化であって、彼らにとっては問題ないことだったのだ。
息子が母親を孕ませる――
息子が姉を孕ませる――
息子が妹を孕ませる――
人の世界の常識や習慣で、イヌ獣人の社会性を否定することはできなかった。
それは、正しいのであった。
「じゃあ、女たちを助けて、ここを出ましょう!」
元気よく、イヌ獣人の男がいった。
先ほどまでの悲嘆にくれた空気はそこにはなかった。
明るいイヌ獣人の声が響く。
「いいのかい?」
ミーナコロシチャルは、今一つ納得できない思いで訊いた。
ハラボテはいい。その子種が息子たちの物であれば、生まれてくる子も、村に受け入れられるだろう。
それは、イヌ獣人の社会の問題だ。
しかし、この牝イヌたちの発情はどうなのか?
その発情し、狂気といっていい状態にとなった牝イヌ。
それに対する思いが「いいのかい?」という言葉になっていた。
「ああ、発情期と妊娠期が重なっただけですよ。我々にはよくあることです」
「そうかい」
「イヌは妊娠すると、発情しないですが、人は年がら年中発情しますよね。我々のメスは、妊娠しても発情しますから。あはははは!」
「ほう……」
納得するしかなかった。
人は常に発情する。イヌは違う。イヌ獣人は人に近い。
しかも、発情期がある。妊娠しても発情期を迎える。
そういうことなのか。
この状態が発情期なのか……
これがこの種族の普通の発情期なのか……
「フッ」
その美しい唇が笑みの形を作り、バラの香りがしそうな吐息が漏れる。
「これが、異世界―― これが獣人ってやつかよ……」
胸の内にあった思いが言葉となって流れ出していた。
【後書き】
■参考文献
犬のブリーディングテクニック―よりよい子犬を産み育てるためのガイドブック
最新版 愛犬の繁殖と育児百科: 繁殖の手続きから交配、妊娠中の管理、出産、育児、登録まで
理科の世界 大日本書籍(中学教科書)
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