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30話:ムツ延命流1500万年不敗の歴史
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空間をぶち破り、多層次元を突き抜ける。
ズガぁぁぁぁぁーー!!
チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。
チャトランは、ミーナコロシチャルの一撃で101回死んだ。101回死んだ魔獣であった。
そこには頭部を拳の形に撃ち抜かれている魔獣がころがっている。その断面になぜか漆黒の深淵の空間が広がっていた。
その断面は、ユークリッド的な空間を捻じ曲げ宇宙空間みていたのである。
星や星雲が光を放っていた。
「ああああ! チャトラン! チャトラーン!」
マジ泣きで、屍骸にすがりつくムツ・ガロウだった。
「ふッ、所詮は獣かよ――」
硝煙とオゾンが混ざったような香りがミーナコロシチャルの拳からゆるゆると流れてくる。
それは、まさに次元を貫く、最強の拳であった。
「このチャトランは、魔獣・シュレンディンガーですね」
壁にめり込んでいたミルフィーナはいつの間にか復活していた。
義手もはめていた。
「ふん、そうかい」
興味なさげに、応えるミーナコロシチャル。
「ムツ・ガロウも殺しちゃいましょう。ミーナ様」
「ああ、殺すか……」
神秘的なブルーの瞳に、愉悦と殺意が満ちてくる。
抑えきれない殺傷本能が、ミーナコロシチャルの体内で膨れ上がっていった。
足らないのであった。殺したらない。その思いがあった。
殺す。ぶん殴って殺す。殺しまくる。
それは、彼女に至上の愉悦をもたらす行為であった。
ミーナコロシチャルは歩を進めた。
(なんだこれは――)
彼女は戸惑った。自分の身体にだ。
それは、今までにない感覚であり、感触であった。
いや、正確にはあった――
獣人の少年ポチルオとの一夜で、感じた感覚。それと同じものであった。
ヌルヌルとした感触だった。
股間だ。股間がヌルヌルと濡れていたのである――
「ぬぅぅ――」
戸惑い。羞恥。困惑。躊躇。歓喜。そして、そこには怒りすらあったかもしれない。
名前をつけることが出来ない思いがミーナコロシチャルの胸の内にみちてくる。
(感じているのか? この身体―― ぶち殺すことで、感じていやがるのか――)
彼女は、身の内に生じた甘美な感覚を力づくでねじ伏せた。
「ミーナ様、息が荒いです。汗もすごいです」
全く感情のこもらない棒読みのセリフでミルフィーナが言った。
「なんでもねぇよ」
そう言った、瞬間だった。ツーッと水滴が白い肌の上を流れていく。脚の内側であった。
「ミーナ様…… それは……」
目ざとくそれを見つけるミルフィーナ。
しゃがみ込んで確認しようとする。
「汗だ―― 汗だぜ。ミルフィ―― それ以上見ると、殺すぜ――」
「まあ、いいです。ボクではなく、このジジイを殺しましょう――」
ミルフィーナはムツ・ガロウに向き直った。
「あああああ、可哀そうなチャトラン! チャトラーーーン!! 魔獣愛護ぉぉぉ!!」
泣き叫んでいるムツ・ガロウだった。
「じゃあ、殺すかよ」
ミーナコロシチャルが拳を振りかぶる。
神をも畏れぬ理不尽破壊エネルギーを秘めた、悪夢の鉄槌である。
白く可憐なエルフの拳は、究極破壊兵器なのである。
「待って下さい! ミーナ様」
「ぬぅッ」
その声に、拳の動きを止めるミーナコロシチャルだった。
振り返った。そこには、イヌ獣人の男たちがいたのである。
「こいつは私たちが、殺したいです。この、奴隷繁殖牧場のトップ。ムツ・ガロウは、私たちが殺したいのです」
それは、熱い魂の告白だった。
イヌ獣人たちを狩り、奴隷として繁殖させる牧場。
すでに、多くの仲間たちが死んだり、奴隷となり売りとばされているのであろう。
イヌ獣人たちの、瞳の奥には何人たりとも、消すことのできない憎悪の火焔が舞っていた。
その火焔は言っている「殺す。喰らう。滅ぼす」と――
「ふふん、いいねぇ。いい眸(め)をしてやがる――」
すっとミーナコロシチャルが下がった。
そして、美しい双眸を薄汚い魔獣使いに向けた。
頼みの魔獣をうしない、いまや無力の老人に見える男だ。
「よう、ムツ・ガロウ」
その男の名をミーナコロシチャルは発した。
泣き声が止んだ。
チャトランの屍骸にしがみ付き、うずくまっていた老人がゆるゆると立ち上がってきた。
「ほう…… やる気かい?」
先ほどまで、泣き崩れていた老人とは思えぬ、禍々しい気を身にまとっていた。
まるで、どす黒く塗られた刃のような気であった。
「く、く、く―― 兇悪エルフ女ならまだしも、奴隷調教中のイヌコロなど、敵ではないですねぇ~」
ビシっとイヌ獣人の男たちを指さす。
その瞳には異様な光があった。
ミーナコロシチャルは、その種類の光を放つ瞳をよく知っていた。
狂気――
そう言って差し支えのない物に支配された者の眼差しだ。
「しかしですねぇ―― ひひひひ~ フェアではないですねぇ~」
「フェアだと! このクソ野郎が! 殺してやる!」
「そうだ! コイツだけは俺たちが殺す!」
「よくも、俺たちを奴隷調教してくれたな!」
殺気だっていた。イヌ獣人たちが牙をむき、殺気を溢れさせている。
全員が前傾姿勢となり、尻尾を立て、ブンブンと振っていた。
イヌが尻尾を振るのは、嬉しいときだけではない。
攻撃衝動がその尻尾をスイングさせることもあるのだった。
「約束してほしいですねぇ~ もし、私がこのイヌコロに勝ったら、私を無事に解放して欲しいですねぇ~」
それは厚かましい願いであった。
その言葉に、イヌ獣人たちの怒りが臨界を超えた。
まさに、飛びかかろうとしたその瞬間であった。
「まちな――」
可憐な声音。しかし、有無を言わせぬ重さのある声が響く。
ミーナコロシチャルがイヌ獣人の動きを制していた。
「ミーナコロシチャル様! なぜ――」
「殺せるかい?」
「はい!」
イヌ獣人たちは、声をそろえて答えた。
もう、彼らの攻撃衝動は限界だった。抑えきれぬ衝動のため、ダラダラとヨダレを垂らし始めている。
「いいぜ―― 解放してやる。勝てたならな」
ミーナコロシチャルは言った。それは、ムツ・ガロウに対し約束したということであった。
「本当ですかぁ~」
「俺は、嘘はつかねぇ」
「まあ、いいでしょう」
両腕を前に垂らし、ゆらりとムツ・ガロウが歩を進めた。
「私をただの魔獣使いのジジイと思わないことです――」
明らかに口調が変わった。その声音も変化していた。
「イヌコロ程度、この私のムツ延命流で切り抜けます―― 1500万年無敗の格闘技――」
「ムツ延命流ですか。聞いたことがあります」
ミルフィーナが言った。相変わらず、そこにはなんの感情も読み取れない。
「ほう――」
「この世界で1500万年前に誕生した格闘技。それは無敗だということです」
「まあ、いいさ。格闘技でも剣でも魔法でもなんでも使えばいい」
ミーナコロシチャルはそう言うと、イヌ獣人たちの方を見やった。
「いいのかい?」
「はい。ミーナコロシチャル様」
イヌ獣人の言葉を受け止めると、すっとミーナコロシチャルが下がった。
「始め!」
エルフの美しい旋律。その声が開始の合図となった。
一斉に飛びかかるイヌ獣人。
ムツ・ガロウの手足にかみつく。そして振り回す。
そして、引きずり倒した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! ムツ延命流!! 2000万年の無敗の歴史がぁぁ!! ぎゃぁぁ!! 痛い! 痛いぃぃぃ!」
倒されたムツ・ガロウにイヌ獣人がおそいかかる。
鮮血が飛び散り、肉片が宙を舞った。
グチャグチャ――
ガリガリ――
ボリボリ――
肉を引きちぎり、内臓を咀嚼し、骨をかみ砕く音が響いている。
ムツ・ガロウはイヌ獣人に食われていた。
カツカツと牙の当たる音が響く。
イヌ獣人たちは「ウーウー」言いながら、ムツ・ガロウを喰らっているのだ。
「…… ムツ延命流―― 2500万年の…… れ…… きしに…… はい…… ぼく、は―― な……」
それがムツ・ガロウの最後の言葉であった。
延命できなかった。死んだ。
ズガぁぁぁぁぁーー!!
チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。チャトランが死んだ。
チャトランは、ミーナコロシチャルの一撃で101回死んだ。101回死んだ魔獣であった。
そこには頭部を拳の形に撃ち抜かれている魔獣がころがっている。その断面になぜか漆黒の深淵の空間が広がっていた。
その断面は、ユークリッド的な空間を捻じ曲げ宇宙空間みていたのである。
星や星雲が光を放っていた。
「ああああ! チャトラン! チャトラーン!」
マジ泣きで、屍骸にすがりつくムツ・ガロウだった。
「ふッ、所詮は獣かよ――」
硝煙とオゾンが混ざったような香りがミーナコロシチャルの拳からゆるゆると流れてくる。
それは、まさに次元を貫く、最強の拳であった。
「このチャトランは、魔獣・シュレンディンガーですね」
壁にめり込んでいたミルフィーナはいつの間にか復活していた。
義手もはめていた。
「ふん、そうかい」
興味なさげに、応えるミーナコロシチャル。
「ムツ・ガロウも殺しちゃいましょう。ミーナ様」
「ああ、殺すか……」
神秘的なブルーの瞳に、愉悦と殺意が満ちてくる。
抑えきれない殺傷本能が、ミーナコロシチャルの体内で膨れ上がっていった。
足らないのであった。殺したらない。その思いがあった。
殺す。ぶん殴って殺す。殺しまくる。
それは、彼女に至上の愉悦をもたらす行為であった。
ミーナコロシチャルは歩を進めた。
(なんだこれは――)
彼女は戸惑った。自分の身体にだ。
それは、今までにない感覚であり、感触であった。
いや、正確にはあった――
獣人の少年ポチルオとの一夜で、感じた感覚。それと同じものであった。
ヌルヌルとした感触だった。
股間だ。股間がヌルヌルと濡れていたのである――
「ぬぅぅ――」
戸惑い。羞恥。困惑。躊躇。歓喜。そして、そこには怒りすらあったかもしれない。
名前をつけることが出来ない思いがミーナコロシチャルの胸の内にみちてくる。
(感じているのか? この身体―― ぶち殺すことで、感じていやがるのか――)
彼女は、身の内に生じた甘美な感覚を力づくでねじ伏せた。
「ミーナ様、息が荒いです。汗もすごいです」
全く感情のこもらない棒読みのセリフでミルフィーナが言った。
「なんでもねぇよ」
そう言った、瞬間だった。ツーッと水滴が白い肌の上を流れていく。脚の内側であった。
「ミーナ様…… それは……」
目ざとくそれを見つけるミルフィーナ。
しゃがみ込んで確認しようとする。
「汗だ―― 汗だぜ。ミルフィ―― それ以上見ると、殺すぜ――」
「まあ、いいです。ボクではなく、このジジイを殺しましょう――」
ミルフィーナはムツ・ガロウに向き直った。
「あああああ、可哀そうなチャトラン! チャトラーーーン!! 魔獣愛護ぉぉぉ!!」
泣き叫んでいるムツ・ガロウだった。
「じゃあ、殺すかよ」
ミーナコロシチャルが拳を振りかぶる。
神をも畏れぬ理不尽破壊エネルギーを秘めた、悪夢の鉄槌である。
白く可憐なエルフの拳は、究極破壊兵器なのである。
「待って下さい! ミーナ様」
「ぬぅッ」
その声に、拳の動きを止めるミーナコロシチャルだった。
振り返った。そこには、イヌ獣人の男たちがいたのである。
「こいつは私たちが、殺したいです。この、奴隷繁殖牧場のトップ。ムツ・ガロウは、私たちが殺したいのです」
それは、熱い魂の告白だった。
イヌ獣人たちを狩り、奴隷として繁殖させる牧場。
すでに、多くの仲間たちが死んだり、奴隷となり売りとばされているのであろう。
イヌ獣人たちの、瞳の奥には何人たりとも、消すことのできない憎悪の火焔が舞っていた。
その火焔は言っている「殺す。喰らう。滅ぼす」と――
「ふふん、いいねぇ。いい眸(め)をしてやがる――」
すっとミーナコロシチャルが下がった。
そして、美しい双眸を薄汚い魔獣使いに向けた。
頼みの魔獣をうしない、いまや無力の老人に見える男だ。
「よう、ムツ・ガロウ」
その男の名をミーナコロシチャルは発した。
泣き声が止んだ。
チャトランの屍骸にしがみ付き、うずくまっていた老人がゆるゆると立ち上がってきた。
「ほう…… やる気かい?」
先ほどまで、泣き崩れていた老人とは思えぬ、禍々しい気を身にまとっていた。
まるで、どす黒く塗られた刃のような気であった。
「く、く、く―― 兇悪エルフ女ならまだしも、奴隷調教中のイヌコロなど、敵ではないですねぇ~」
ビシっとイヌ獣人の男たちを指さす。
その瞳には異様な光があった。
ミーナコロシチャルは、その種類の光を放つ瞳をよく知っていた。
狂気――
そう言って差し支えのない物に支配された者の眼差しだ。
「しかしですねぇ―― ひひひひ~ フェアではないですねぇ~」
「フェアだと! このクソ野郎が! 殺してやる!」
「そうだ! コイツだけは俺たちが殺す!」
「よくも、俺たちを奴隷調教してくれたな!」
殺気だっていた。イヌ獣人たちが牙をむき、殺気を溢れさせている。
全員が前傾姿勢となり、尻尾を立て、ブンブンと振っていた。
イヌが尻尾を振るのは、嬉しいときだけではない。
攻撃衝動がその尻尾をスイングさせることもあるのだった。
「約束してほしいですねぇ~ もし、私がこのイヌコロに勝ったら、私を無事に解放して欲しいですねぇ~」
それは厚かましい願いであった。
その言葉に、イヌ獣人たちの怒りが臨界を超えた。
まさに、飛びかかろうとしたその瞬間であった。
「まちな――」
可憐な声音。しかし、有無を言わせぬ重さのある声が響く。
ミーナコロシチャルがイヌ獣人の動きを制していた。
「ミーナコロシチャル様! なぜ――」
「殺せるかい?」
「はい!」
イヌ獣人たちは、声をそろえて答えた。
もう、彼らの攻撃衝動は限界だった。抑えきれぬ衝動のため、ダラダラとヨダレを垂らし始めている。
「いいぜ―― 解放してやる。勝てたならな」
ミーナコロシチャルは言った。それは、ムツ・ガロウに対し約束したということであった。
「本当ですかぁ~」
「俺は、嘘はつかねぇ」
「まあ、いいでしょう」
両腕を前に垂らし、ゆらりとムツ・ガロウが歩を進めた。
「私をただの魔獣使いのジジイと思わないことです――」
明らかに口調が変わった。その声音も変化していた。
「イヌコロ程度、この私のムツ延命流で切り抜けます―― 1500万年無敗の格闘技――」
「ムツ延命流ですか。聞いたことがあります」
ミルフィーナが言った。相変わらず、そこにはなんの感情も読み取れない。
「ほう――」
「この世界で1500万年前に誕生した格闘技。それは無敗だということです」
「まあ、いいさ。格闘技でも剣でも魔法でもなんでも使えばいい」
ミーナコロシチャルはそう言うと、イヌ獣人たちの方を見やった。
「いいのかい?」
「はい。ミーナコロシチャル様」
イヌ獣人の言葉を受け止めると、すっとミーナコロシチャルが下がった。
「始め!」
エルフの美しい旋律。その声が開始の合図となった。
一斉に飛びかかるイヌ獣人。
ムツ・ガロウの手足にかみつく。そして振り回す。
そして、引きずり倒した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! ムツ延命流!! 2000万年の無敗の歴史がぁぁ!! ぎゃぁぁ!! 痛い! 痛いぃぃぃ!」
倒されたムツ・ガロウにイヌ獣人がおそいかかる。
鮮血が飛び散り、肉片が宙を舞った。
グチャグチャ――
ガリガリ――
ボリボリ――
肉を引きちぎり、内臓を咀嚼し、骨をかみ砕く音が響いている。
ムツ・ガロウはイヌ獣人に食われていた。
カツカツと牙の当たる音が響く。
イヌ獣人たちは「ウーウー」言いながら、ムツ・ガロウを喰らっているのだ。
「…… ムツ延命流―― 2500万年の…… れ…… きしに…… はい…… ぼく、は―― な……」
それがムツ・ガロウの最後の言葉であった。
延命できなかった。死んだ。
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