素手ゴロエルフ! 最強喧嘩師が異世界に転生したら最強の超絶美少女エルフになった

中七七三

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15話:弟誕生! 転移と転生まぜるな危険!

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「どこだ? ここは?」

 増田部瞬(ますたべしゅん)は独り語ちた。
 ただ、その声が「ゴボゴボ」と水の中で反響した。
 周囲を見た。薄暗いが光が無いわけではない。
 肉色の壁に包まれているようだった。

 手を動かした。
 ニュルンとした感触があった。

『ああ、動いたでぇ、ワテの赤ちゃんが動いたで――』

 声が聞こえた。キレイな声だが、意味は分からない。

「外国語か?」

 増田部瞬には、それが日本語以外の言葉であるとしか分からなかった。

 思い切り手を伸ばしてみた。足もだ。
 肉の壁のような物は柔軟でそのまま伸びていった。

『あああ、ママデース様、う、動きすぎです…… ああああ……』

 怯えたような声が聞こえた。

『腹ン中にいるうちから、このパワー。ミーナコロシチャルの時でもなかったことや……』

 再び、キレイな声だ。

 増田部瞬は伸ばした手足を縮めて丸くなった。
 まるで、母の胎内に回帰したかのような温もりがあった。

「なぜか、安心できるな――」

 増田部瞬はまるで羊水の中に浮かんでいるような気分だった。
 フワフワと気持ちよく浮いていると声が聞こえてくる。
 いったい何を話しているのか?

『ママデース様』

『なんや?』

『いきなり、お腹が大きくなるとか、これ不味いのでは……』

『心配ないわ。2度目はお腹が大きくなりやすいんや』

『しかし、昨日までそんなに大きくなかったですが』

『気にし過ぎや、ハイテイロン』

 その声を聞きながら増田部瞬は考えるのを止めた。
 気持ちいいのでこのままでいいと思った。

        ◇◇◇◇◇◇

『もう、予定日はとっくに過ぎているんですが……』

『これは、大物になるってことやな。ミーナコロシチャルもウカウカできんでぇ』

『いえ…… ちょっと不味いと思います。お腹も大きすぎます。赤ちゃんではなく、大人が入れます――』

『そんだけ、大物ちゅーことや。心配しすぎや、ハイテイロン』

『しかし…… ママデース様』

 増田部瞬は手足を縮めて声を聞く。
 相変わらず言っていることはよく分からない。
 ただ、ここにいるのは気持ちよかった。
 天国だった。
 ずっといたい。
 まるで、母の子宮に抱かれているかのような安心感だった。

        ◇◇◇◇◇◇

『もう、5年目なんですが…… ママデース様』

『熟成やな――』

『そういう問題ではないと思うのですが』

『うーん、確かにそろそろ生んでもええかもしれんなぁ~』

『いや、もう「そろそろ」と言う時期はとっくに過ぎています』

『ハイテイロン、ワテが「そろそろ」と言えば、それが絶対や――』

『申し訳ございません!!』

『ま、ええわ。じゃあ、準備せいや。ちょっと気ばるでぇぇ』

        ◇◇◇◇◇◇

「なんだ!! ぐぉぉ!! い、息が……」

 増田部瞬はジタバタと暴れた。
 いきなり、酸素供給を断たれたかのような苦しさに襲われたのだ。

「に、肉の壁がぁぁぁ!! 迫ってくるぅぅ!!」
 
 彼を優しく包み込んでいた肉の壁がギュンギュンと迫ってきていた。
 まるで、引きこもっていた彼を追い出すかのように激しく動いていた。

「出たくない! 出たくないがぁぁ…… く、苦しいぃぃ」

 ジタバタと暴れた。
 
『凄い動きです! ママデース様!』

『むぅぅぅ!! もう少しやでぇ、ワテの赤ちゃん』

『呼吸です。ママデース様!』

『わかっとるわ!! ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー』

 呼吸音が響いた。そのリズムに合わせ、肉の壁が収縮していく。
 増田部瞬は抵抗できなかった。
 そもそも、苦しいのだ。
 
「もう、出るしかない――」

 彼は見上げた。仄かな明かりがそこにあった。

『ママデース様、子宮口が開きました』

『ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー』

「ぬぉぉぉぉ!!!!」

 増田部瞬は、その明りに向け、手を伸ばした。光を掴むかのように手を伸ばしたのであった。

        ◇◇◇◇◇◇

「きゃゃぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!」

 ママデース様の出産のために居並んでいたメイドエルフが悲鳴を上げた。
 
 腕だ――
 赤ん坊の腕ではない。
 完全に大人の腕が、ママデース様の産道から生えていた。
 白く美しい二本の脚の間から、1本の腕がニョッキリと生えている。

 羊水に濡れた腕だった。
 なにかを掴むかのように、その腕はウネウネと動いている。

 エルフのメイドたちはパニックになっている。
 逃げ出す者はいなかったが、その場で失神する者が続出。
 そうでなかった者も、へたり込み「ブツブツ」と意味のない言葉を吐くだけだった。

 エルフの出産の現場に地獄が出現していた。

「ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー、なんや? なにが起きたんや? ハイテイロン! 誰や? ワテの内股を叩くアカンタレは?」

 幕で自分の下半身が見えなくなっているママデースが叫んだ。
 股間から生えている腕がペチペチとママデースの太ももを叩いている。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ…… マ、ママデース様…… あああああああああ……」

「ハイテイロン! なんや? なんなのや? ワテの赤ちゃんが!」

 冷静なメイド長であるハイテイロンも完全にゲシュタルト崩壊を起こしていた。
 崩れゆく現実認識の中で、意味のない言葉を吐くだけだった。

 ごボッツッ!!
 鈍い破裂音とともに大量の羊水が噴き出した。そして流れ出す。

「あばぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 湿った音とともに、ママデースが悲鳴を上げた。
 ママデースが失神した。

 ズル――
 ズル――
 ぬちゃ――
 ぬちゃ――

 それが出現している。
 ママーデスの股間からだった。
 濡れた黒い物体が出現していた。

 それは髪の毛だった。
 それは頭だった。
 
 羊水で濡れた頭と腕が股間を突き破り生えていた。

「ぬがぁぁぁ!! ゲホ! ゲホッ! はぁはぁ、息が、やっと息ができたぁぁ~ ぬがぁぁ!!」

 ママデース様の股間から顔を出した者は、そう言うとズリズリと這い出してきた。
 羊水に濡れた体を強引に引き出した。

 肩が出た――
 腹が出た――
 ヌルヌルと足が出てきた。

 そして、その者は完全に外に出てきた。
 それは赤ん坊ではなかった。
 完全に成人の大きさを持っていた。
 しかし――

「人間―― エルフではない…… 人間が……」

 ハイテイロンがかろうじてその言葉を口の中でつぶやく。
 意識が消えそうであった。

        ◇◇◇◇◇◇

 濡れた体が冷やりした空気に触れたのが分かった。
 増田部瞬は伸ばした手を振りまわした。
 
 絶叫のような物が聞こえた。
 だが、気にしている場合ではなかった。息が続かない。
 強引に頭を光の方向に突き入れた。
 柔らかい肉の感触。それを押し割って、頭を突き出す。

 出た――
 頭が出た。
 思い切り空気を吸った。

「ぬがぁぁぁ!! ゲホ! ゲホッ! はぁはぁ、息が、やっと息ができたぁぁ~ ぬがぁぁ!!」

 そして体を出す。とにかく今のままでは身動きが出来ない。
 彼は必死に動き外に出た。
 両腕が出て、胴も出た。最後に足を引き抜いた。

 息が切れる。疲れた。体が重かった。

(あれ?)

 その時初めて、騒然としている外の様子に気づいた。
 彼は周囲を見やった。

 長い黒髪をした耳の長い女の人がへたり込んでいた。
 キレイな女の人だ。
 切れ長の目を見開きこちらを見つめていた。

 知っていた。
 増田部瞬(ますたべしゅん)は、このような耳の長いキレイな女性がなんであるか知っていた。

「エルフ!!! エルフゥゥゥゥ!!!! エリュフゥゥゥ!!!! 転生か!! 転生したのか!!」

 増田部瞬は叫んでいた。
 そして、自分をの手を見た。

「俺は赤ちゃんではない――」

 彼は部屋にいたときと同じ全裸であった。
 しかし、赤ちゃんではなかった。

「これは、転生ではないのか?」

 ガクガクと震える黒髪のエルフを見つめながら彼は考えた。

 赤ちゃんではないということは、転生ではない。
 そう、それは転生ではなかった。
 増田部瞬は「転移」していたのだった。

 積層次元を跳躍し、エルフの子宮の中に転移。
 そして、異世界にやってきたのだった。
 
「転移か…… 転生か…… かまわん。どちらでもいい。俺は―― 俺は異世界に来たんだ!!」

 エルフの子宮から這いずり出た高校生。
 彼は、羊水にまみれた全裸の姿で絶叫していた。
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