素手ゴロエルフ! 最強喧嘩師が異世界に転生したら最強の超絶美少女エルフになった

中七七三

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14話:話の途中のプロローグ

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「あああ~ エルフのお姉ちゃんとエッチな事してぇ」

 洋室4.5帖の部屋でつぶやく男。
 思春期まっさかり17歳。高校2年生の増田部瞬(ますたべしゅん)だ。

 PCのモニターにかじりつきエロ動画の監視を行っていた。
 右手で思春期のジョイスティックを握りしめ、左でマウスだった。
 深夜ゆえに、ヘッドホン装着であった。

「おっぱいはいい。大きくとも、小さくともそれは崇高だ―― ああ、揉みてぇぇぇぇ!」

 深夜の透明な空気の中、思春期の魂の声がゆるゆると溶け込んでいく。

 勉強は出来ない。
 スポーツもダメ。
 絵も描けなければ、空気を読める会話もできない。
 ダメ高校生というイメージを結晶化し鋳型に入れ生成した存在。
 それが、増田部瞬(ますたべしゅん)だ。

「お、ふぅぅ~」

 彼は肺の中に溜めた空気を吐き出した。そして、静寂の時間が訪れる。
 
「ああ―― なぜ、人はこの宇宙に存在しているのだろうか……」

 哲学的な言葉を紡ぎ出しながら、ヘッドホンを外した。
 PCモニターの中では、北欧系の金髪のお姉さんが腰を振っていた―――
 その女性はコスプレをしていた。長い耳をしたエルフのコスプレだ。

 ふっと彼は諧謔的な笑みを浮かべる。そして、視線をそこから外した。

 そして立ち上がった。
 ちなみに、彼は素っ裸だった。
 
「ああ―― 異世界に転生したい。いや、転移でも構わない――」

 彼は素っ裸で窓のそばまで行き、つぶやいた。
 ここはマンションの6階で誰にも見られる心配はなかった。

 彼には「窓から部屋が見える幼なじみ」という伝説上にしか存在しないUMAなどいない。

「嗚呼! もしもだ。もしも神という物があるなら、この俺を異世界に転生させよ! 俺は望む! この腐った世界を捨て、異世界でチーレムとなることを望む!
 トラックでもいい! 魔法陣でもいい! 我が眼前に展開し、我をその世界に送り届けよぉぉ~!
 この果てしなき腐った日常の軛(くびき)より我を解放せよ! 苦渋と忍耐一色に染まった、閉塞した日常を打破せん!!」

 星の見えない空を見つめる。東京から近いベッドタウンのこの街の空はほとんど星が見えない。
 彼は、フッとため息をついた。

 あり得ないことが分かっていたからだ。
 そもそも、彼はここ数か月間、自分の部屋を出ていない。
 よって、トラックに跳ねられることもないのだ。
 
 高校で彼はいじめにあっていた。底辺に近い高校で浮いていたからだった。
 チンピラゴロツキの集まりのような学校でいたぶられ続けていた。
 そして高校2年の1学期途中で部屋に閉じこもるようになった。

「ん? なんだあれ」

 黒い空を見ていた彼はそこに輝く物を発見した。
 
「流れ星か?」

 それは輝きを増しながらこっちにどんどん近づいているように見えた。

「UFO――」

 彼はスマホを探す。そして撮影しようとする。

「空から、美少女が降ってくる――」

 そのパターンもありであった。
 彼はスマホを探すのを止め、空を見つめる。
 グングンとその輝きは接近してくる。

 ドガァァァアアアアアアアアアアーーン!!

 それは、彼の家であるマンションの前の道路に着弾。
 轟音とともに、県道を破壊していく。
 その破壊に巻き込まれたトラックが吹っ飛んだ。

 クルクルと回転し、弧を描きながら、こっちすっ飛んできた。

「ああああああああああああああ!!」

 部屋に引きこもる彼の望みがかなった。
 増田部瞬(ますたべしゅん)。
 享年17歳。
 隕石に吹き飛ばされたトラックが部屋に突っ込み、彼の日本での生涯は終了した。

 ただ、不思議なことに、その部屋から、彼の死体が発見されなかった。

 行方不明――

 法的には彼はそのように処理されたのであった。

        ◇◇◇◇◇◇

「よう、ミルフィー」

「なんですか? ミーナ様」

「エルフの妊娠期間ってやつはこんなに長いのかい?」

「さあ、どうなんでしょう。ボクもよく知りません」

 最強喧嘩師であり素手ゴロ最強の人間極道兵器。
 その彼が異世界に転生して5年が経過していた。
 相変わらず、ミルフィーナは、護衛として屋敷にいた。

 5年間で何回か、代紋(エンブレム)ランカーと思われる者の襲撃(カチコミ)を受けた。
 しかし、それは全員、ミルフィーナの口から発射される50万度の高熱線で焼き払われた。

「エルフは成長が遅いのか――」

 ミーナコロシチャルは自分の身体のことを考えた。
 1歳で立ち上がり完全に歩き回れるようになった。
 そして、異世界の言葉も普通に話せる。
 
 ただ、5年目を迎えてもその身体は小さいままだった。
 現在、身長はまだ1メートルもなかった。

 しかし、美しいエルフの幼女であることは間違いなかった。
 母親のママデース譲りの長い銀髪は、周囲の光を映しこみ七色に輝いていた。
 神秘的な色をたたえる碧い瞳。
 その瞳に影を落としこむ長いまつ毛。
 そして、エルフであることを証明する長い耳。

 そこには完ぺきな美が存在していた。

「エルフはボク達人間より、寿命がずっと長いですからね」

 口から50万度の熱線を吐く美少女が言った。
 真紅の髪の毛が揺れ、ルビーのような瞳が遠くを見つめているようであった。

「お袋の腹がでかくなって5年だ―― 本当に孕んでるのかい?」

「姐さんが太るとかあり得ないです」

「そうかい」

「そうです」

 ミーナコロシチャルの母親であるママデースは妊娠していた。
 そのことは5年前にメイド長であるハイテイロンから聞かされていた。

 彼女は「ミーナ様もお姉さんになる日がきました」と確かに言ったのだ。
 それから、5年だ。一向に生まれて来やしない――

 当然、ハイテイロンには訊いている。
 彼女は「あ、そう言うこともあるかもしれません……」と言うだけだった。
 ただ、そのことを訊かれると顔色が変わった。

「俺の弟―― いや妹かもしれんか……」

 独り語ちるようにミーナコロシチャルは、つぶやいた。
 
『きゃゃぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!』

 悲鳴だった。
 それも一人、二人ではない。
 何人ものエルフが悲鳴を上げていた。

 ミーナコロシチャルとミルフィーナは、その瞬間に部屋を飛び出していた。
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