素手ゴロエルフ! 最強喧嘩師が異世界に転生したら最強の超絶美少女エルフになった

中七七三

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11話:運命の出会い…… かもしれない

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「分かるかい?」
 
 ミーナコロシチャルが問うた。
 1歳児でありながらエルフ特有の美貌に恵まれた存在だった。

「分かりますよ。1人―― でしょうが……」

 ミルフィーナが応えた。
 獰猛な気配だった。
 それはまるで、刃を突きつけられたような鋭い気だった。
 なにかが、この屋敷に侵入していた。

 深夜であった。屋敷の中の暗い廊下を2人で進む。
 急ぐ必要はなかった。
 おそらく目的は、自分であるとミーナは考えたのである。
 薄闇をかき分け、2人は進んでいく。
 徐々にその気配が濃くなっていく。

 ミーナの顔に自然と笑みが浮かんできた。

(いいぜ…… 上等じゃねェか)

 犬歯を剥き出した笑みだ。当然、その犬歯は乳歯だ。1歳児だから。

「ミーナ様」

「なんだい?」

「戻って欲しいと言ったら、部屋に戻ってくれますか」

 ミルフィーナの紅色の瞳がミーナを見つめていた。
 闇の中に赤く浮き上がる瞳だった。

「フッ、どうだろうな――」

「無理ですよね」

「まあ、無理だろうな」

「そうですよね」

 ミルフィーナは護衛メイドとして、ミーナコロシチャルを守る必要があった。
 部屋に残って、自分だけ動くという選択肢もあった。
 しかし、侵入してきた者が一人とは限らない。
 あからさまな殺気により、護衛を引きはがし、2人を分離させる策かもしれなかった。
 短い会話の中で、ミルフィーナは、護衛対象と一緒に行動することが合理的だと判断した。
 そもそも、その護衛対象は単体でも恐るべき力を持っているのだ。
 自分の護衛が必要なのかどうか疑問に思うほどに。

「あ、アカン! ら、ら、らめぇぇぇぇぇ~ あひぃぃぃぃ~ あうぅぅぅ~ あああああああ~ん。あぁぁぁ、アカンのやぁぁぁ~」

 喘ぐような叫びが聞こえた。
 まるで肺の中の空気を残らず絞り出すような叫びだった。
 
「姐さん?」
「お袋の――」

 その声は、2人の記憶にあるものだった。その記憶が一致する。
 ママデース。
 ミーナコロシチャルの母親の声だった。
 優雅ともいえる「キングス・エルフ」の発音をする美女であった。

 2人は床を蹴った。吹っ飛ぶように加速する。
 つい最近まで、つかまり立ちをしていたミーナコロシチャルも走っていた。

「聖衣の布(カエアン)」をぶち破ろうと日々手足に全力を込めたことにより鍛えられた筋力だった。
 そして、その筋肉に流れ込む、魔力が規格外だった。

「カラーン」と何かが落ちて転がる音がした。
 義手だった。ミルフィーナの両腕の魔導義肢だ。

「軽くしないと追いつけないです」

 腕の入ってない長い袖をパタパタとはためかせ、1歳児を追いかけるミルフィーナ。
 闇の中、人が立っているのが見えた。いや正確には人ではなくエルフだ。

 長い黒い髪を真ん中で分けたエルフ。メイド長のハイテイロンだった。

「ミーナ様どこへ! そっちは、ママデース様の寝室です。今は――」

 その言葉を置いてきぼりにして、2人は突っ走る。
 振り返ったハイテイロンの視界の中、2人は既に闇の中に溶けていた。

        ◇◇◇◇◇◇

「いやがるぜ――」

 闇の中。その闇よりも深い闇。
 暗黒を凝縮したような気配があった。
 暗黒の刃のような気だった。

 ミーナは立ち止まり、周囲の気を探る。

「危ないです!」
 
 ミルフィーナが叫ぶと同時に前に出た。
 轟っという唸りが発し、凄まじい衝撃音が響いた。
 音だけで、純粋な暴力となりうるような衝撃を発した。

 ミルフィーナが吹っ飛んでいた。
 前衛芸術のような体勢で、壁にめり込んでいた。
 それでも、平然とした顔で、メチメチと壁を砕いて抜け出した。

「痛いですよ」

 両腕の無い少女が闇の中に静かに言葉を漏らした。

「ほう―― 頑丈(タフ)だな」

 感心の色が滲んだ声が聞こえた。
 歪んだ闇を背景にして、一人の男が現れた。
 上半身は裸だった。そして、無数の傷がその身体にはあった。
 闇に眼の慣れたミーナコロシチャルにはその姿が見えた。

「エルフ―― 男のエルフかよ」

 それはミーナが異世界で初めて見る男のエルフだった。
 一般的なファンタージの世界では、男も女のエルフは華奢な体をしているという理解があった。
 しかし、この目の前の男は違っていた。
 一見細身であるが、鍛えこんだ肉体をしていることが分かった。
 蓬髪ともいえるような、長く櫛を入れた形跡のない髪。
 その髪をかき分けるように長い耳が突き出ている。
 エルフ特有の長い耳。その片方が中ほどで千切れていた。

「ガキか―― エルフのガキ? まさか……」

 エルフの男に毛先ほどのためらいが生まれた。
 その瞬間をミルフィーナが見逃さなかった。

 ガッ――

 ピンク色の唇が開いた。そして、そこから弾かれたように何かが飛び出した。
 槍だった。
 口の中から、槍が飛び出していた。
 鋭い切っ先がエルフの男目掛けてすっ飛んで行った。
 真正面。どこにもよけることに出来ないタイミングであり速度。

「トロくせぇ攻撃だな」

 片耳のエルフの男は素手で槍の切っ先をつまんで止めた。
 
「あくびがでるぜ」

「がはぁぁ!!」

 槍を口から離し、ミルフィーナが跳んだ。
 一瞬、視界から消えるような動き。
 側面の壁を蹴り、天井まで達する。そこで身を翻し着地。
 そのまま天井を蹴った。
 跳弾のような動きだった。

 ごぼぉッという音が響く。
 頭から突撃したミルフィーナの身体を下から拳が捕えていた。
 コロンっと何かが落ちて転がった。
 ミルフィーナの義眼だ。
 ボディに喰らった拳の衝撃で、義眼が落ちて転がっていった。

 拳が少女の細い身体にめり込んでいた。
 いや、違う。
 背中から、拳が突き出ている。
 体を拳が貫通していた。
 ヌルヌルとした血が突き上げた男の腕に流れていく。

「攻撃が温いんだよ――」

 エルフの男の鋼のような言葉が闇に響く。

「義眼が汚れてしまいます」

 体を貫かれても平坦な言葉を発するミルフィーナ。
 
「ミーナ様、逃げてください」

「なんだと……」

 ミーナコロシチャルは逃げなかった。
 その言葉に応えながら、エルフの男を見つめていた。

「なんとか、足止めしますから」

「てめぇ、俺に『逃げろと――』そう言ったのかい?」

「はい。危ないです。この男。ボクは平気ですから」
 
 拳で体を貫かれても平然とした言葉だった。

「なにが、平気なんだい? 小娘が――」

「ボクは小娘じゃないのですが」

 そう言うと、ミルフィーナは口を大きく開けた。

「テメェ!! 竜の代紋(エンブレム)か!」

 ベロだった。その赤いベロには竜の代紋が刻まれていた。
 口腔内に積層魔法陣が展開される。
 闇の中、プランク空間の揺らぎエネルギーが生みだした粒子が集束してくる。

 魔力――
 魔法――

 魔法言語により、プランク空間に干渉し、巨大なエネルギーを生み出す技術体系だった。
 常に空間のエネルギーは無と有の間を揺らいでいる。
 そのプランク空間の振動から、エネルギーを抽出する。
 
 光りの奔流が走った。閃光だった。
 ミルフィーナの口からビームが発射されたのだ。
 魔法により産みだされた白熱化したエネルギーの奔流だ。
 
 口からビームを発射する美少女。
 それもまた、魔法であった。

 それがエルフの男の顔面を直撃していた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――

 ビームはそのまま床を削り、地殻に向け大きな穴を穿っていく。
 グツグツと直撃した床が融解し沸騰する。
 構造材の石が溶け、マグマのようになっていく。
 その熱と光が、ミーナの頬に当たる。
 
「よいしょっと――」

 男は彼女を腕で貫いたまま倒れていた。
 ミルフィーナは体をねじって、自分を貫いた拳を体から引き抜く。
 そして、地に立った。

 両腕の無い袖が熱気を孕んだ上昇気流の中を舞っていた。

「どうですか? 『ドラグ・ブレス』です」

 彼女は、何の感情もこもらない抑揚のない声で言った。
 顔面にビームを喰らったエルフの男の顔は真っ黒焦げになっていた。
 その男に、ミルフィーナの声が届いているとは思えなかった。

「焦点温度は50万度を超えます。この世界のあらゆる物を燃やし、融かします」

「おい、体は平気なのかい」

「ミーナ様は、優しいです」

「バカ―― そうじゃねぇ」

「ボクの身体はかなりの部分、作りものですか――」

 ミルフィーナの口が「ら」を発音する前。その身体が吹っ飛ばされていた。
 壁をぶち抜き、ぶち抜き、ぶち抜き、ぶち抜き――
 屋敷の中を一直線に吹っ飛ぶ。
 壁には、少女の形の穴が空きそれがどこまでも続いていた。
 広い屋敷のどこまで吹っ飛んだのか分からなかった。

「ちと、熱かったな」

 そう言うと、片耳のエルフの男が立ち上がった。
 焦点温度50万度の魔法のビーム攻撃を喰らっても、顔が煤だらけになっただけだった。

「たまらねぇな……」

 ミーナコロシチャルが喜悦といっていい笑みを浮かべながら言った。

「ほう…… いい顔で嗤うじゃねぇか」

 男は言った。ミルフィーナのビーム攻撃で灼熱化した床が赤い光を放っていた。
 ゆらゆらと揺れる赤い光の中、2頭の狂獣が対峙していた。
 
 運命の出会い――
 そのようなものであったかもしれない。
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