素手ゴロエルフ! 最強喧嘩師が異世界に転生したら最強の超絶美少女エルフになった

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8話:嗚呼、王道テンプレ! 剣と魔法の異世界

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「なあ、おい」

「はい、なんでしょうか」

「歩けるってのはいいもんだな――」

 ミーナコシチャルは口元に笑みを浮かべ言った。
 彼が異世界に転生し、約1年が過ぎようとしていた。

 足腰は気合いを入れなくとも歩行できるまでに成長。
 彼を簀巻きにしていた「聖衣の布」からも解放されていた。
 
 言葉もはっきりとしゃべるようになっていた。
 当然首も座っている。

「普通は1年足らずで、そこまで歩いて、流暢(りゅうちょう)に話しません。ミーナ様は特殊です」

 美しいが、平坦な言葉を紡ぎだす少女。
 真っ赤な髪をした少女だった。
 その丸く大きな瞳もある種の宝石のような赤い色をしていた。
 ミーナコロシチャルの護衛メイドであるミルフィーナであった。 

「ふふん、そうかい――」

 1歳にも満たぬ年齢とは思えぬエルフ。
 それがミーナコロシチャルだった。
 伸びた長い髪は周囲の風景を映しこむような銀色だった。
 その髪をかき分け生えている長い耳。
 それが、彼女という存在が「エルフ」と呼ばれる種族であることを証明していた。

 その容姿は「赤ちゃん」という時代を過ぎ、完全に幼女という雰囲気を備えていた。
 それも飛びきり美しい幼女であった。

「腹が減ったな――」

 その言葉がミーナの口からこぼれ出した。
 ガラーンとした彼女の部屋にその言葉が溶ける様に流れ出した。
 部屋には、ベビーベッドとテーブル、椅子があるだけだった。

「さっき、離乳食を食べました」

「俺は母乳が欲しいって言ってるんだぜ」

「母乳ですか? 食事のときに一緒に出てました」

 ミルフィーナの言っていることは正しかった。
 離乳食と合わせて、カップに注がれたミルクを飲んでいる。
 味で分かる。それは、搾乳されたエルフの母乳であった。

「直飲みだ―― それは譲れん」
 
 先ほどの「腹が減ったな――」という言葉の言外の意味。
 それを口にした。

(俺にそこまで、言わせるかよ――)

 ミーナコロシチャルは口元に獰猛な笑みを浮かべ言った。
 美しい顔なのに、笑みを浮かべるとそれだけで、内面の獰猛さが溢れだすようだった。

「言葉を話せるようになったら、メイドからの直飲みは禁止らしいです」

「筋が通らねェ……」

「筋もなにも、エルフの戒律ですよ?」

「ふふん、戒律かよ――」

 ミーナコロシチャルは言葉のやりとりをする中で、異世界に来たという事実を実感していた。

「なんなら、ボクのおっぱい吸います?」

 そう言うと、ミルフィーナは服を脱ごうとした。

「いらねぇ。オメェさんのおっぱいは、不味すぎる。生命の危機を感じるレベルでだ――」

「それは、失礼な話です」

「事実だ」

「エルフの乙女専用の『母乳噴出魔法』の魔法構造式(コード)を改造しました」

「いらねぇ」

「バーションアップしたのですが」

 ちょっとムッとしたような顔で彼を見つめるミルフィーナだった。
 吸い込まれそうな真紅の瞳。
 彼女の相貌は2次元の萌えアニメを3D化したような奇跡の造形だった。

 その姿、外見は好みであった――
 しかし、母乳が最悪に不味いのは確かだった。

 この世界は「剣と魔法」ファンタジー世界だ。
 まさしく、王道のど真ん中――
「テンプレ」といっていいものであった。

 魔法とは、魔術構造式により創られていた。
 魔力のある者であれば、創ることができた。
 そして、創った魔法は、この世界の「共有仮想空間(クラウド)」に格納(アップロード)される。
 魔力を持つ者はそこにアクセスし、他者の開発した魔法を実装(ダウンロード)できた。
 中には、実装(ダウンロード)のさいに課金されるものもある。
 強力な魔法は、かなり高価なものだ。

 「魔法ガチャ」といわれるクジのようなもので、安価に高価な魔法を入手するシステムもあった。
 しかし、効果的な魔法が出現する確率は低く魔法開発者の銭儲けの手段になっていた。

 幸いなことに「母乳噴出魔法」は無料(フリー)魔法だ。
 しかも、魔法構造式(コード)が公開されており、改造もできた。

 そのような異世界の世界設定を踏まえた上での「バーションアップ」という言葉であった。

 彼は魔法少女に憧れていたヤクザであった。
 史上最強の喧嘩師、素手ゴロ最強、人間極道兵器と呼ばれた存在は同時にヲタクでもあった。
 その彼が魔法に興味を示し、それを理解し、受け入れるのは当然であった。

 しかし、それと実際にミルフィーナが魔法で母乳を噴出させるのは別問題だ。

「離乳食のお代わりでもいい――」

 思わずその言葉が口に出ていた。
 
 エルフの離乳食――
 それは「授乳専用メイド」の中でも選ばれた者が、作る離乳食であった。

 それは「おかゆ」のような物だった。
 ミーナの目の前で作られ、口に運ばれるものだ。

 48人の「授乳専用メイド」が創るのだ。
 まず、自分の母乳を搾乳し、自分で口の中に入れる。
 銀シャリも口の中に放り込み「くちゃくちゃ」とよく噛み砕く。

 母乳と銀シャリとエルフの唾液が程よく混じりあう――
 それを順番に口移しでもらうのであった。
 
 母乳の甘み――
 エルフの唾液に含まれるでんぷん分解成分が、銀シャリに柔らかな甘みをつけるのだった。
 
 旨い――
 口移しで美しいエルフから、もらう離乳食。
 それは、それで悪くはなかった。
 リレー方式で次々に、離乳食が彼の口に流し込まれていく。

 母乳は樽に入っている物が用意されていた。
 事前に搾乳されたものだった。
 そこからカップに注ぎ込む。
 フリードリンク状態で飲むのである。
 
 彼が、一度おっぱいを直飲みしようとして、エルフの乳首に顔を寄せたときだった――

 黒髪真ん中分けの気真面目そうなメイドが「ミーナコロシチャル様、メイドからの母乳の直飲みは禁止です」と言った。
 融通の利かなそうな、メイドだ。メイドの中で一番威張っている奴だった。

「離乳食は準備が大変じゃないですか――」

 ミーナの思考をミルフィーナの言葉が遮った。
 彼(彼女)は美しい護衛メイドを見やった。

「そうかよ――」

「そうです」

「まあ、母乳はダメだがよ――」

 一瞬の間を空け、ミーナは言葉を続けた。

「オメェさんの離乳食なら食ってやってもいいかもしれねぇぜ、ミルフィー」

 1歳児とは思えない美しいエルフの言葉が紡ぎ出されていた。
 その大きな目を丸くし「ポッ」と赤くなるミルフィーナだった。

        ◇◇◇◇◇◇

 体を拘束されていた、赤子の時代は終わりを告げていた。

 美しいエルフの赤ちゃんの身体を簀巻きにしていた布。
「聖衣の布(カエアン)」と呼ばれる布だ。
 ありとあらゆる生物の排出物を吸収しエネルギーに変換する。
 一種の魔道具―― いや、「生きている布」ともいうべき存在だった。
 
 その布は今では、ミーナコロシチャルの股と手首から肘、そして太ももをカバーしていた。
 包帯の様に巻かれている茶褐色の布だ。

 彼(彼女)はベッドの中で、「聖衣の布(カエアン)」の巻かれた自分の腕を見やった。
 この布は、1日一回だけ、蠢き、全身を覆う。そして体の老廃物を喰らうのだ。
 肌は艶々だった。風呂に入る必要も、トイレに行く必要すらなかった。

 異世界だった――
 まさしく、異世界でしかあり得ない「アイテム」であった。

「ミルフィーナ・リップ……」
 
 彼(彼女)は転がすように、護衛メイドの名をつぶやいた。

「呼びました?」

「ああ―― なんでもねぇ、呼んでみたくなっただけだ」

「そうですか」

 退屈が支配していたこの生活も、話せるようになったこと。
 そして、護衛メイドである彼女の出現で大きく変わった。
 
 この異世界について、多くのことを知ることができたのだ。

 剣と魔法の支配する世界。
 彼の転生した「テンプレージャ島」そこはエルフだけが住む世界のようだった。
 ただ、その他にもこの世界には大きな大陸があるらしい。
 詳しいことはまだ分からない。
 そして「代紋(エンブレム)ランカー」という存在。

 どうやら、最強素手ゴロヤクザだった彼は、そのような存在として転生したようであった。

 膨大な魔力を持ち、神に挑むかのように強さを追及する存在。
 それが「代紋(エンブレム)ランカー」だった。

 そして、彼女――
 ミルフィーナも、かつては代紋(エンブレム)ランカーであった。

「体の調子はどうなんだい」

「優しいですね」

「バカ――」

 ほろりと出た彼女の言葉に、彼は短く答えた。

 彼女の両腕は「義手」だった。腕だけではなかった。右目も「義眼」だった。
 その他、内臓などを含め、体のいくつかの器官を失っていた。

 正確には「奪われていた」だった。

 代紋(エンブレム)ランカー同士の戦いでだ。
 今でもその戦闘力は高いらしい。
 下位のランカーであれば、一蹴出来るだけの力はあるという。
 新生児時代にミーナコロシチャルを襲撃した者も下位のランカーだった。

 代紋ランキング50位――
 その壁で彼女は、体の多くの部位を奪われた。

 代紋ランカーを引退したのは一時的なものだと彼女は説明した。

「この身体に慣れたら、ボクは失った自分の身体を取り戻さなくてはなりません」

 ある日、彼女はきっぱりと言った。
 それは、いつか自分の元を離れ、戦いの場に戻るという宣言であった。

 異世界で出会った、クソまずい母乳を出す美しい少女――
 それは、そのような存在であった。
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