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旧約聖書 短編集

失敗作の人間どもを大洪水で死にこます。全知全能の神ですが、なにか?

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 ワシ神やんけど。ダメだ。増えすぎ。女はいいよキレイなの増えた。神の子に分けたげた。
 そしたら、また増えた。どんどん増えるなぁ。人間。

「ワシの人類産めよ増やせよ地に満ちよ計画」もシナリオ通りかなぁって思った。ちょっと思った。
 でも、アカンかった。あかん。人類アカン。
 どれくらいアカンかと言うと、あれやね。イメージ的には核の炎で、こうバイオレンス的な世界になったちゅーかね。
 困るよこれ。ワシ困る。
 どーすっかなぁ。

「滅ぼすかなぁ! あかんなぁ。 人類滅ぼしちゃおうかなぁ。だって失敗っぽいんやもんなぁ。もう面倒くさいしぃ」
 
 ワシゆうたよ。ビシッとゆうた。
 だいたい「悪」だから。地上に悪が満ちとる。
 
 最大の悪はワシを崇めないということやね。もう、これ絶対や。アカン。もうアカン。考えてたら、腹立ってきた。
 ワシ全知全能やど、舐めとるやろ? 人間ども。おま、増えてもな。ワシを崇めんなんだったら、全然意味ないねん。

「あああ! 崇めてほしいなぁ。だって、神だからぁ! 全知全能だしぃぃ!」

 ワシはワシのことが大好きな人類だけが好きなんや。
 ワシがどんなにいちびっても、ついてくる人類だけが好きなんや。
 ワシを崇めない=絶対悪だから。だから滅ぼすんや。全力で。

「死にこましたる。人間どもが!」

 なんか、怒りのテンションあがってきたわ。マジで。
 どこやったっけ? 大洪水セット? あれ? どこだ。

「おや、なんや? ワシに祈りをささげてるのおるんか? いるんかい? お、何人かおるなぁ……」

 ワシは、人類「義人」をリストアップした。
 義人数値の高い奴は生きのこってもええかなぁって思た。
 モニターみた。神のモニターやね。

「日刊義人ランキング1位か…… ノア? だれやね」
 
 全知全能のワシは調べた。家系をなんかメンドイんで途中で止めた。
 累計とか月間とか四半期とかあるなぁ。週間もあるんか。
 どーしよ?

「日刊でええか。まあ、それでえやろ」

 ワイは日間義人ランキング1位のノアに話しかけたわけやね。

「ノアちゃん、人類皆殺しにする。大洪水で。半端ないよ。でも、オマエとオマエの一族は助けることにしたわ。嫁さんの身辺よく洗とけや。マジで」

 親切なワシ。助言までする。一族ゆーんは、ノアの血を引いてるか、嫁だけや。
 嫁さんがオイタしてないか、調べとけって話。

 ワシ?
 メンドクサイ。
 神はそんな個別事案には、面白くないと関わりません。残念。

「主よ、どうすればいいですか?」

 ノアのやつ慌ててる。笑う。あははは。
 真っ青やん。顔。

「箱舟作ってな。そんで、中に地上全部の動物のつがいいれておけばいいよ」
「えーー!! そんなにですか!」
「おま、殺すよ。ええよ。いやなら、オマエも大洪水に沈めたる。オマエの嫁も子供もいっしょや! きゃはははは!!」

 とにかく、老若男女、生まれたばかりの赤ん坊も、病人も、老人も、美しい女も全部平等。
 前部、沈めます。大洪水で。動物も殺します。ノアが積んだ奴以外は。あははは! バカだね。

「死なす。ぶち殺す。皆殺し。虐殺。滅び。呪い――」

 美しい言葉や。マジで。
 ワシを崇めんのが悪いんやからね。もう、人類は生まれて即、罪人だから。ワシ決めた。
 
「おー!! 頑張ってるね。ノアちゃん。出来た? 箱舟」

「まあ、なんとか出来ました」

「んじゃ、とっと入ってさ、七日後に雨降らすわ」

「入ってすぐじゃダメんですか? なんで箱舟の中で七も待つんですか?」

「あ? いいの? そんなこと聞くんだぁぁ。ノーアちゃぁーーん?」

「いえ、神は絶対です。崇めます。この六〇〇生涯を神に捧げます」

 ノア土下座。よし許したたろ。ワシ、寛大やからね。

「とりあえず、まってて、神には神の事情があって、人間には不可知なんやからね。神を試しちゃあかんよ」

「はい!」

 というわけで、洪水にしたwwwww
 マジで死んだぁwwww
 すげぇ、死にまくるぅwww
 草生える。

「なんで、人間はあんな洪水で死んでしまうん?」

 マジで人がゴミのようやのぉぉ。
 水を流して一気に清掃やで。ホンマ、ワイも色々大変やで。努力してるで、ほんまに。

「ノアたちどーしてる? あ、浮いとるね。箱舟。ちゃちやねー、しかし」

 ワシ、地上の水抜き開始、その結果――

 はい、ちゃんと大地が元通りになりましたぁぁ!

 まあ、ノアは義人日間ランキング一位やったし、これで、ええやろうなぁ。

「人類産めよ増やせよ地に満ちよ計画修正案も再起動やで! やったるでー!」

 ワシ上機嫌。やる気バンバンやで。もう、これからも、アカンタレな人類を殺していこうと決意じゃ。
 
 で、時間を早回ししてっと……
 ワイ全知全能やからね。もう時空を超えて遍在やから。
 で、ノアを見た。
 
 ブドウ畑の百姓やっとるね。
 まあ、あれや。知恵の実食った罪は許されへんからね。
 働かなきゃアカンよ。マジで。

「ん、なんか揉めてるな……」

 ノア、おま…… 
 なに、しこたまブドウ酒飲んどるんや!
 義人やろ? おま、義人やろ?

 アホウか、コイツ酔っぱらってフルチンで寝くさりよったわ!
 チンチン丸出しや。風に揺れてる六〇〇歳越えのおちんちんや。
 ちゃんと、ズルムケの割礼済なのは、よろしいな。

 あ、息子来た。
 だれやっけ?
 三兄弟で…‥ セム、ハム、ヤペテ? なんじゃそれ? 「せむはむやぺて」って?
 復活の呪文か? おまえら? ネーミングセンス死んどるで。マジで。
 
 セムか?
 ああ、セムやね。
 
「おーい。ハム兄さん、ヤペテ兄さん。ノアのオヤジがフルチンで寝てるぞ。なんかもってきてよ。かける物を」
「セム、オマエ、オヤジのおちんちんを見たのか? 俺みたくねーー!」
「オレもみたくねーよ! やだよ」

「文句言わないで、頼むよ兄さんたち」
「わーったよ。ったくしょうがねーナオヤジは。歳なんだよもう。酔っぱらってフルチンで寝るとか……」
「ハム、まあこうやって後ろ向きにいけば、汚いオヤジのおちんちんを見ないで済むぜ」
「そうだな。ヤペテ」

 ハムとヤペテきたわ。
 なんだ? お前らwwww
 コントかよ。
 後ろ向きに歩いて、毛布持って来て。ノアにかけて、ダッシュで逃げるんかい。
 まあ、ええけどね。アホウかと思うけど。お前らもその汚い、チンチンが出したタネから生じたんやで?

 あ、ノア起きた。なんか怒ってる。毛布持って、自分が素っ裸なのに気付いたぁぁ。 

「なんじゃぁぁ! なんでワイが、裸で寝とるんじゃぁぁ、だれじゃあ! ワイの生まれたままの姿を見た者はぁぁ!」

「ワイ見てません」
 
 ハム言った。

「ワイ見てません」

 ヤペテ言った。

「ワイ見た。ワイが第一発見者!」
 
 バーンと胸はって、ハムがゆうた。アホウか? えばることか?
 
「無茶苦茶怒るで! マジでぇぇぇ! ノア、六〇〇歳! 素肌を見られて超激怒じゃぁぁ!!」

 ホンマに、義人なんか? こいつ? いや、まあええか。 
 ワイを崇めてればええんよ。他のことはどーでもええよ。
 その点では、コイツは確かに、ワイのこと大好きやからね。

「カナンはのろわれよ。彼はしもべのしもべとなって、その兄弟たちに仕える」

 ノアゆうたね。
 え?
 だれ?
 カナン?
 
 えーっと……
 カナンね。
 あ、分かった。
 ワシは全知全能やからね。マジで。

 ハムの息子やん?
 まてよ、ノア、なんでハムじゃのうて、息子なの?
 ワシもムチャブリするよ。でも、ここまではないわ―― ないよね。

 あーー でも、ここで、呪いかけんと「神は、カナンがだれか分からなかった」って疑惑生じるかね? どうやろうか?
 まあ、人を救うより、呪いは得意。マジで。
 呪うなら、呪うかなぁ。
 カナンを呪うのね。はいはい。分かりましたよ。神やるよ。やる気になっているから。

「セムの神、主はほむべきかな、カナンはそのしもべとなれ。神はヤペテを大いならしめ、セムの天幕に彼を住まわせられるように。カナンはそのしもべとなれ」

 ノアがゆうた。
 なに?
 つまり…… 
 呪って、おじさんの下僕? 奴隷?
 あ、奴隷にする呪いね。
 うん、得意。ぶち殺す呪いの次に得意。

 よーし! 頑張るぞぉぉぉ!

 ワイは呪いかけた。
 したら、カナン人がイスラエルに滅ぼされた。ザマアと思った。
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