上 下
40 / 44
旧約聖書 短編集

どこで差がついたのか「カインとアベル」慢心、環境の違いとは

しおりを挟む
 ワシは、アダムたちを追放した後だな。楽園をバリケードで包む作業をした。
 侵入不可能。完ぺきだった。神だから。全知全能の神だから。
 今、そんな事するなら、なんで「エデンの園」に「命の木の実」とか「知恵の木の実」を作ったの? って話になるよね。
 それ、浅はか。もう、本当に分かってない。ワシのことが分かってない。
 
 ワシはね、ワシのことをを崇めて、大好きで、もうガチ惚れの人類だけが好きなのである。
 もう、ワシの言うことは絶対。絶対に服従。
 だから「知恵と命の木の実は絶対食べるな」と言ったら、絶対食べない。
 これは、神に対する忠誠だよね? マジで。 そういった忠誠心がなく、ワシのことをどーでもいいと思っている人類がいらない。
 だから、殺す。今回は、追放で許したけど。マジで殺す。ぶっ殺す。死にこますことに決めている。

 だってそれが神だから。
「ああん、主はステキ、主に全てを捧げちゃうのぉぉ~ らめぇ」というくらい神に盲目じゃないとダメ。許せない。
 それくらい、ワシにガチ惚れになって欲しい。ワシは願う。マジで。人類の救済とはそういうことだから。マジで。
 
 神様を試そうとか、変だなぁ、言っていることが矛盾していなぁとか、考えることが不遜。不敬。万死に値する。
 不信心者に対してはとりあえず呪うことにしている。神だから。

「なんか、神って言うより、邪神じゃね?」とか思った? 思った奴正直に言えよ。殺すから。呪うし。

 と、ワシは天高く今日も自分が神であることを実感していたのだった。素晴らしい。
 ワシは神なので、製造者責任的に、アダムとイブのアホウカップルのことを考えた。少し。
 楽園を追放したけど、まだ完全に見放したわけではないのだ。

 原罪を背負って生きて死ね。そう思う。心から。
 で、地上を見た。いたよ2人が。はははは。

「ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー」

 なんか、イブが産気付いていた。あれだけ、パコパコすれば、まあ孕むだろう。
 なんかアダムは手を握って「がんばれ」とかいっているし。そんなこと言う前に、ワシに祈れ。なにそれ?
 ワシに祈れよ。呪うよ。殺すよ。
 
 ワシが殺そうかなぁと思っていると、イブが子を産んだ。なんか双子だった。
 やりまくったせいで2回受精したのか? 
 ワシはイブの設計仕様書をとりだして確認。よく分からん。全知全能だけど。
 
 まあ、いい。生まれたということは、ワシの「人類産めよ増やせよ、地に満ちよ計画」も一歩前進ということなのだから。
 原罪を背負って、生きて死んで増える。ゴミのように増える。あははは。ばかじゃね。
 でも、ワシのことは愛せ、ワシがどんなに酷い事をしても、人類はワシを崇めて、愛さなければいけないと思います。以上。

 以上じゃないよ。なんだ、男か? 男ふたりか。どーすんだ?
 男と女なら、やらせちゃうのにな。つまらん。

 だいたい、当初の計画通り、ヤギとヒツジが相手ならこんな面倒じゃないんだよ。
 もうさぁ。人類は禁止ね。ヤギとかヒツジとかにおちんちん突っ込んだり、突っ込まれたりするの禁止。
 これ、破った奴は殺そう。そうしよう。決めた。

 それから、ホモセックスも禁止にしよう。なんか嫌だから。ホモは殺す。全部。この地上から。
 まあ、ワシの設計した人類がホモに走るとは思えんけどね。あははは。

 さて、早送り…… もうさ、時間とか空間とか意味ないから。神だから。
 なんかアダムが父親ぶってんのかよ。
 おま、息子たちに「お前たちはお父さんとお母さんの爛れた愛欲で生まれました」と言えよ。あはは。バーカ。
 なんで、知恵の実食ったんだよ…… アダムちゃん……

「ああ、我が息子たち。カインとアベルよ。職業の選択は自由だ」
「お父さん、ではぼくは農業をやります!」
「うん、いいんじゃね。やってみればいいよ。カイン」
「では、ぼくは牧羊をやります!」
「ヒツジかぁ…‥ アベルよ、ヒツジにおちんちんを突っ込んじゃだめだぞ」
「はい、お父さん!」

 ふーん。カインが農業で、アベルが牧羊かね。
 ばかだねぇ。本当に楽園にいれば、働かなくて済んだのに。キミたちの母親と父親の性だからね。
 まあ、頑張って働いてだね。ワシに供物を捧げればいいよ。とにかく、ワシを崇めていい気分にさせること。
 もう、それが人類の役目だから。とにかく、増えろ。増えて増えて、全員がワシを崇めて、大好きという状態になれ。
 そうすると、ワシは気分がいい。だから呪わないかもしれない。

「主よ、私、カインは自分の作った農作物を捧げます」

 百姓の年貢か? ワシはお代官様か? なにそれ? 農作物? いらねーよ。
 カイン、死ねよ。

「主よ、私、アベルは良く肥えた初子のヒツジを捧げます。丸焼きです。ウェルダンです」

 マジ? いいね! ワシはさぁ。肉好きなんだよ。肉。肉はいいよな。焼き肉は神をも幸せにするんだよ。
 いいよ、アベルは分かっているじゃないか。さすが、ワシが育てた人類。うひひひひ!

 ワシはアベルを褒めた。だってヒツジの丸焼きだよ。ウェルダンだよ。褒めるよね。
 例えばだよ、いい。
 お誕生会のお食事で「全部野菜」これブチ切れない? 肉欲しくない?
 小麦とかどーすんだよ。もらって。肉の方がいいだろ。マジで。
 人としての常識の問題。

 農作物を年貢のように捧げるというのは神に対する必死さが足りない。
 全然ダメ。
 だからワシ言った。

「アベル、すげぇよ。マジすげぇえ! ワシ、オマエは気にいた。以上」

 カインについては言及しなかった。ムシ。もう頭きたから。
 殺して、呪おうかなと思ったけど、一応それは許した。ワシ寛大。

 したら、なんかカインずっと下むているのな。なんで? 不服なの?
 ワシのいっていることに納得いかないの。神だけど? いい、ワシは神なのよ。
 納得いかないってことは、不信心だから、殺すよ。いいのかなぁ~ あははは。

 つーかんじで、思っていたけど。面倒なので殺さなかった。
 まあ、反省してだね。次は人間的成長をしてくれればいいなぁとワシは思ったわけだよ。

「てめぇぇ!! アベル! なんでオノレだけ、神にほめられるんじゃぁぁ。殺す。ぶち殺しじゃぁぁ! 兄より優れた弟はいないぃぃ!」

 なんか、カインが絶叫の尾を引いて、アベルに突撃した。
 で、殺した。カインがアベルをぶち殺しちゃった。
 あーあ、やっちゃったねぇ。どーすんだよ。
 
 これは神とし許せないんじゃね? 人殺しは良くないよね。神的にも。
 あははは。焦っている。アホウだ。血まみれの手をみてカクブルしている。あははは。バーカ。
 殺しておいて、オタオタすんなよ。

 あはははあああ!! 穴掘ってる。穴だよ。穴。
 で、埋めるの? 弟を埋めちゃうの。マジで。丸見えなんですけどぉぉ。神だから。
 
 ワシは面白くなったので、カインに話しかけることにした。

「よぉぉ、カイン、気分はどうだい?」

 ワシは人類初の人殺しの栄冠を勝ち取ったカインに言ったのだ。 

「あ、主よ…… 気分はいいです…‥」
「ほぉ、いいのかぁ。すげぇじゃねぇか、なあ、カインさんよ!」
「……」
「なぁ、アベルがいねーんだけど、どこ? 知ってる。カインたーん!」
「い、いえ…… 私は弟の番人じゃないですから」
「マジ?」
「マジです」
「なんかさぁ、土の中から、ワシに呼びかける声が聞こえるんだけどぉぉぉ、アベルの声なんだけどぉぉぉ、なんで?」

 そしたら、カインのアホウがだまりやがんの。殺すかな。どーしようかな。
 でもなぁ、人類が死ぬとこは、アベルで見たしなぁ。

「カイン」
「主よ、なんでしょうか」
「オマエ、呪うことにしたから。追放! ここからも追放でーす! 親子そろって追放なのでーす!! イエイ!」

 ということで、エデンの近くの土地から、東の方にカインを追放した。放浪させることにした。
 でもって、呪いをかけてみた。カインを見た他の人間は、カインを殺さずにはおれない呪い。
 でも、よく考えたら、人間はここにいる、アダムとイブとカインしかいないことに気づいた。
 
 しまったワシ。ケアレスミス。全知全能なのに。
 
 しょうがないので、殺されない呪いというか、カインを殺すと呪われる呪いをかけた。
 呪い得意。前後の整合性については、ミスすることもあるけど、ワシは呪うことは得意だから。
 バンバン呪う。これからは、殺すのもためらわないようにしようと思った。ワシ。

 あれ? なんで人間いるの?
 なに? カイン。オマエの嫁誰だよ。
 その、嫁……
 ワシ…… アダム創ったよな。イブ創ったよな。でもって、カインとアベルが生まれて、アベル死んだよな。

 だれそれ? とか言ってる間に増えてるし! 子ども産んでる。ハムスターみたいだな。お前ら。

 カイン⇒エノク⇒イラデ⇒メホヤエル⇒メトサエル⇒レメクで、レメクの妻のアダ?
 だれだよそれ?
 俺はアダムとイブしか創った記憶ないんだけどぉぉぉ!

 やがて、人類が増えだしたので、ワシは数えるのを止めた。 
しおりを挟む

処理中です...