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旧約聖書 短編集

吾輩は神である

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 吾輩は神である。名をみだりに唱えてはいけない。
 吾輩が、どこでどう生まれたのかは吾輩もよく知らぬ。よー分からん。
 つーか、「時間」も「空間」も吾輩が作った。マジで。
 てなわけであり「アナタはいつ、どこで生まれましたか」という問いは意味がない。
「時間」よりも「空間」よりも吾輩が先だから。神だし。
 つーか、現在、過去、未来にまたがり、あまねく空間に遍在しているのが吾輩なのである。
 
 所詮、人間の限定された「知」では神を計測できない。よって、崇めるだけ。信じて祈れ。気分次第で救うかもしれない。多分。
 
 でな、お前たちに人間を創ったのも吾輩。これもマジ。進化論とか嘘。陰謀な。多分CIAの。
 ある日、吾輩は思った。思考した。そして決断した。

「天地創造して、人間創ろうかなぁ~」

 口に出してみた。よー考えてみると、何もない中で、なにが最初だったのかってーと。言葉だな。
 だって「光あれ」いうじゃん。吾輩は。で、光りができる。ってことは「光」には「光」という名前があったということになるんじゃね?
 創造する前に名前があったことになるのである。

 で、1日目に光を創った。これはつまり空間も出現すること。さらに言えば、空間で光が直進できるようになったということであろうかと思う。
 神的にもそう結論するしかない。
「宇宙の晴上り」つーてな。
 あれだ「宇宙マイクロ波背景放射」で人間が観測してるよね。あれ。吾輩がやったのだ。確かそう。
 神の所業。

 吾輩はその後、空創った。陸と海創った。植物創った。太陽と月創った。動物創った。家畜創った。
 ここまで五日間。デスマーチ。つーか、結構面白かった。暇だったし。ミミズとか超簡単だった。

 そんでな、ここからだ。

「自分に似た生き物、創ろうかなぁ! やっぱ人間だよね!」

 吾輩言ってみた。なんか、すごく生き物たちが嫌な顔した。
 頭きたので、滅ぼした。何回か。三葉虫とかアノマノカリスとか。
 一度、吾輩の創った生き物の八〇パーセントくらいが死んだ。結構ビビった。吾輩強すぎ。いわゆるチートで無双。

 とまあ、こんな感じで、生み出した生き物のスクラップアンドビルドで五日目が過ぎた。
 吾輩に反抗的な被創造物は滅ぼした。面白かった。ちょっと調子にのりすぎていたかもしれない。

「本当に創っちゃうよぉ! 吾輩そっくりな生き物をぉ! いいかな?」

 で、特に反対は無かったので決意したのだ。吾輩。創るのであった。

 とりあえず、適当に泥をこねてみた。
 出来たのだった。仕事が早い。吾輩は。

「おい、アダム、オマエはアダムだ」

 吾輩に似ている人間に吾輩は言った。アダムとは最初の人間なのだ。 

「アダム?」
「そう」
「オレはアダムですか?」

 ぽーかんとするアダム。おちんちんが楽園の風の中で揺れていた。今でも思いだす。アダムとの出会い。
 アダムは、ゆっくりと周囲を見た。

「なんか、人間はオレ、ひとりですかぁ?」
「家畜がいる。ヤギとかヒツジとか、そんな感じで仲良くね」

 吾輩は「産めよ増やせよ、地に満ちよ」と言った。ビシッと言った。
 アダム、ポカーンと見ている。ちょっと、アホウに創りすぎたかもしれなぁとこのとき思った。

「どうやって、産むんですか?」
「アダムは産まない、孕ませて産ませるのだ」

 吾輩はヤギとヒツジを指さした。
 吾輩は、そのために家畜を創ったのだ。アダムのおちんちんを突っ込む穴も創った。

「どうやってです?」

 生まれたばかりのアダムは頭が悪すぎた。
 仕方ないので、吾輩は、ヤギを呼んだ。でもって、教えた。実地で。ヤギとやった。吾輩。
 よく分からんという顔をするアダム。続けて、吾輩、ヒツジともやった。

「こうやって、おちんちんを穴に挿入し、ドピュドピュ精子をだすのだ。卵子が受精して孕むのだ!」

 吾輩は精子はでない。神だから。でも、実演で教えた。慈愛といっていい。
 遠い未来には、中学校三年生の理科の教科書「生殖」のとこに記載されているレベルの内容。時空を超越した吾輩は熟知。
 
「同じ、人間がいいです。オレは……」

 とかアダム言う。アホウかアダム。吾輩の創ったヒツジとヤギを…… なんのための家畜なのか!
 そのために創ったのに! 

「ヒツジとヤギにおちんちん入れたくないの? そうなの?」

「うーん…… もっとこう、ちがう気がするんですけど……」

 ヒツジとヤギがダメなら、ニワトリはどうかといったが、気に入らない様子だった。

「ナマコは? イソギンチャクは?」

 吾輩は、使い方を教えながら言った。これも気持ちいいはずだった。

「主よ、私はおちんちんのない人間が欲しいです」

「なんだとぉぉ! おちんちんのない人間だと!」

 全知全能、無敵、無敗、無双で最強の神である吾輩びっくり。
 その発想はなかった。

「おちんちんの代わりに、おちんちんを入れる穴を作ってください」
 
 アダムは自分のオチンチンを指さしながら言った。
 おちんちんの入る穴……
 できないことはない。神だから。全知全能だから。
 
「いいけどさぁ。どうすんの? ヒツジとかヤギとか、せっかく創ったのに」

 アダムはどうでもいいと言うので、じゃあ、おっぱい搾絞られたり、皮や毛をむしられたり、ぶち殺ころされて肉を食べる役目にした。
 ヒツジとヤギが悲しそうに「めぇぇぇ~」と哭いた。どうでもいい。基本神は無慈悲なので。
 
 吾輩はアダムの願いを聞いて、おちんちんのない人間を作ることにした。
 それを人間といっていいのだろうか? おちんちんがないのに……

「分かった創ろう」
「すげぇ! 主よ、すげぇよ! 神だよ。神!」
 
 みだりに神の名を唱えてはいけない。
 ムッとした。

「でも、痛いよ。創るとき。痛い。すごく痛い」
「なんでですか?」
「だって、材料必要だから、オマエの体から色々はぎ取って、組み立てる」
「泥から創らないんですか?」
「もう、面倒。手が汚れる」
「どこを、はぎ取るんですか」
「右手と、両脚と右目と右耳かなぁ…‥」

 吾輩言った。そしたら、アダム青くなった。アホウか。神の言葉にいちいち青くなるな。
 元は泥のくせに。

「ええ! せめて、骨一本とかにしてくれませんか!」
「骨一本だと?」
「それで、黒の長髪で、かわいい感じで、二重で大きな瞳。普段は清楚でもエッチなると、止まらない感じ。スレンダーに見えて実はおっぱい大きな女の子がいいです。で、オレにカチ惚れは当然で、おちんちん入れる穴を『くぱぁ』って開くのが欲しいです」

 なにそれ? アダム。舐めてるの?
 創造したばかりだというのにその過大な要求仕様。吾輩は一瞬神罰食らわそうかと思った。
 オマエのアバラから、そんな高スペックの女の子つくるの? アホウか。
 しかしである。ここで、出来ないと言ってしまうのは業腹だ。なんせ吾輩神だから。

「まあ、善処してみよう」

 というわけで、吾輩は、アダムの脇腹に貫手ぶち込んだ。で、アバラを一本とりだした。血まみれ。
 
「痛い! 痛い! 主よ痛いです。なんでこんなに痛いのですか」
「そりゃ、アバラ骨を抜き取ったら痛いのだ」

 傷口を押さえて、じたばたするアダム。血がドバドバ出ている。
 アダムの脇腹に穴が空いていたから。
 抜き取ったアバラのとこからだらだら血が噴水のように出ているのだった。
 仕方ないので泥をこねて塞いだ。

 吾輩は、アダムのアバラ骨から女を創った。
 萌えに媚びるのはいやだった。ただ、おっぱいは大きくした。
 なるべくかわいくもしてみた。

 で、女ができた。
 長い黒髪を揺らす、大きなおっぱいの女。

「あはぁん、ここはどこかしら? うふん。もしかして、楽園かしら、うふふ」

 吾輩の渾身の作。だけど、アバラ一本からだし、六日連続で仕事して疲れていたので、バグがあるかもしれぬ。
 まあ、それは暫時、修正パッチを当てて直せばいいのである。

「これ女? すげぇ! おっぱいおおきい!」
「あはぁん、どうしたの? 私が欲しいのかしら、うふん。こんなここを固くしちゃって…… うふ、私に入れたいのかしら?」
「入れたい。入れたいです!」

 女はアダムを見て、人差し指を己の妖艶な唇に咥えて、ねっとりと舐めた。
 唾液がテラテラと光る。

 なんか、ビッチというかパンスケみただなと吾輩は思った。でも、アダムは満足していたようだった。
 女のおっぱいが大きければ、概ね男は満足するのだ。神である吾輩の示した真理。

「うふふ、どうしたのかしら、なにをどこに入れたいの? この私をどうしたいのかしら?」

 ガバッとアダムが女に抱き着いた。おっぱいを揉んで吸い付く。
 神の計画通り。『人類産めよ増やせよ地に満ちよ計画』の発動だった。
 吾輩は両手の指を顔の前で組んで口を隠す。隠れた口を笑みの形にした。
 
 本当は家畜で増やしたら面白いなと思っていたのだ。
 まあ、おちんちんのある人間とおちんちんの代わりに穴の開いている人間で増やすのもいいかもしれない。

「産めよ増やせよ地に満ちよ!! この楽園はオマエたちのものである!!」

 吾輩の言葉が響く。御神託である。
 すでに、その行為をおっぱじめているアダムと女。
 産めよ増やせよとばかりに、アダムは腰をカクカクと動かす。
 パコパコと湿った音が、楽園であるエデンに響く。楽園らしい音であるなと吾輩は思った。
 
 アダムは女を孕ますために、おちんちんを使っていた。
 おしっこをする以外にも使える優れた機能をもっているおちんちん。
 神である吾輩の造りだした奇蹟。

 神の計画通りの神聖な行為であった。これは増える。人類増えると確信した。このとき。
 とにかく、産んで増やして地に満ちると思う。

 でまあ、吾輩はパコパコやりまくっているアダムと女を見ながら、一応説明した。
 この場所がエデンという場所で、楽園。すごい楽園。働かなくてもいい。永遠のニートの住まう場所。
 パコパコやって、飯食って、パコパコやって、寝て、飯食って、寝て、パコパコやる。
 そんで、孕んで、増える。地に満ちる。完ぺきだった。

 人類産めよ増やせよ地に満ちよ計画――
 それは、順調な滑り出しだったのだ。

 しかしであった。
 問題はあるのだった。なぜか、このエデンには「知恵の実」と「命の実」というものがある。
 たぶん、吾輩が作ったのだと思うが、理由はよく覚えてない。
 吾輩考えた。コイツらが知恵つけるとロクなことないような気がした。なんとなく。
「知恵の実」食って知恵つけるのは、あかんだろうな、と思ったわけだ。神としては。

 だもんで、言った。ビシッと断言。

「ここエデンにある木の実は全て食べていいが、知恵と命の木の実は絶対に食べるなよ。いいか、絶対だぞ、絶対に食べるなよ。絶対だぞ。本当に食べるなよ」
 
 念を押した。相変わらずやってる、アダムと女。
 そういえば、女の方に名前付けてなかった。

「女の名前なんだけど、イブでいい?」

 吾輩言った。

「いいわぁ、ああん、主よ。その名前、ああああん。ステキ、私の名前。ああん、アダム、呼んで、私の名前を呼んで。呼びながらギュッとしてぇぇ」
「イブ、いいよ。イブ、すごいよ! イブ、イブ、イブ、イブぅぅ」
「あああん、チュウして、チュウして欲しいのぉぉ」

 アダムとイブはベロチュウしながら抱き合っている。
 産めよ増やせよ地に満ちるための行為であった。いってみれば、神である吾輩に捧げる神聖な行為だ。
 
「精子と卵子による受精と生殖活動は、中学三年生の理科で教わるし、保健体育もでやるのである! だから15歳なら周知のことなのである!」

 なんか、吾輩は気が付くとそう言っていた。
 理科の世界 大日本書籍(中学教科書)の三年生の「コラム」84ページにだってその方法が書いてあるのである。
 ハムスターとか鳩の行為中の写真も掲載されているのである。
 15歳の読む教科書である。

「医学的な描写が問題ないなら、神による行いも問題ないといえるのではないか。医者より神の方が偉いし! しかも、これはキャラクターやプロット的に絶対に必要ななことだし、性的な刺激を目的としてないしぃぃ!」

 続けて言ってみた。誰に対しての言葉なのかは神でも分からない。
 神話的な必然性。そのような描写を見ながら、神である吾輩は次の日はお休みにしようと思った。
 いわゆる安息日だった。

 ちょっとドキドキしている。

        ◇◇◇◇◇◇

「誰よ? 誰? 正直に言ってみ」
 
 吾輩は少し怒っている。いや少しじゃない。かなり怒ったのだった。

「ああん、だって、このヘビさんが『とっても美味しいから食べてごらん』って言うから。私は嫌っていったの。でも、抵抗しても、無理やり、口に押し込んで――」
 
 イヴが言った。

「嘘です。コイツ、ホイホイ喰いました。おまけに、俺まで食おうとしました。恐ろしいです……」

 ヘビだった。

「オマエ、イブに『食べてみろ』って言ったんだろ?」
「いいましたけどね。ほら、それは神に対する信仰の深さを試すための試練という位置づけと解釈すべき問題だと思うんですよ――」

 知恵の実を食ったヘビは饒舌だった。
 頭きたので、頭を踏みつぶした。

 ぐへッ――

 でもって、手足をむしった。
 
「もう、オマエは、地べた這いずって、土埃くってろ、アホウか! オマエは!」

 ヘビに対し神罰執行。これでヘビはずっと地べたを這いずるのである。

「で、アダムも食べたよね?」
「それは、食べましたけど、私はそれを『知恵の実』とは知りませんでした。よって善意の第三者と解釈すべきではないかと思うのですが。善意による『不知の過失』は民法上も責任を追わないケースが多いと思うのです」

 アダムも知恵をつけてた。中途半端に知恵つけてた。善意の第三者で不知による過失とか神に関係ないから。

「ああん、だって。食べるなってい言われると食べたくなるのよ。それが、女なの―― 分かるかしら、神様、うふふ。女のことを分かって欲しいの――」

 女がアホウなのが分かった。こいつは知恵の実食ってもアホウだった。
 低能のカス。でも、おっぱい大きい。プルプルふるわせている。

「もうさぁ、追放しかないかなぁ」

 神である吾輩は言った。神との約束を破ったので追放。

「主よ、エデンは神の物としても、我々にも不動産賃借人的な『占有権』が生じており、その確定がなされるなで、エデンに棲むことができるのではないでしょうか? エデンを実効支配し居住していたのは我々であり、その権利は保障されるべきではないでしょうか」

「アホウか」

「契約時に、『知恵の実』を食べたら追放するという罰則の規定がありません。これは、罰則を過去に遡及する行為であり――」

「神は時間も場所も超越しているのだ」

 アダムは手におえない。
 なんか、無駄に学歴は高く、知識だけ詰め込んで社会性のないニートのような存在になっていた。

「とにかく追放!」
「追放されてしまうと、働かなきゃいけないじゃないですか! 働くの嫌です」
「働け! もうオマエは働かないと食えないのだ」
「えええぇぇ~」

 すごい不服そうな顔。

「ああん、アダムったら大変ね―― 私も食べさせなきゃいけないのよ、うふ」

 イブはアダムに喰わせてもらう気満々。
 
「イブ、オマエは、出産のときに、くるしむ様にした。超痛い。おちんちんを入れる穴で赤ん坊を生んで、それで穴が裂けて、超痛いことになる!」

「ああん、赤ちゃんみたいな太いのが私の穴からでるのかしら、うふふ」

 アホウなので、よく分かってない。やはりアバラ1本から創ったので、色々問題があったようだ。

 でもって、吾輩は、アダムとイブを追放した。これが原罪な。もう、すごい罪。
 神の言いつけを守らないというのはいかんことだと思うわけですよ。

 で、おちんちんぶらぶらじゃ、まずかなと思ったので、イチジク葉っぱを股間に付けてあげた。
 吾輩の慈悲だった。
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