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36話:俺の計画

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「あまり時間をかけることはできません。先生ラビはああ見えてかなり勘がいいですから」

「そうかい――」

「あの方を救世主としてローマに対抗させるのは、難しいですね。純粋すぎるのですよ。よくも悪くも――」

「で、あるならどうするんだい?」

 夜、人気のない場所であった。
 ユダとバラバが話をしていた。

「さて、私はどうもしません。なるようになる―― それを見ているだけですから」

「相変わらず、小ずるいな―― ユダよ」

「結局のところ、神殿での騒動にローマは介入しませんでした。ローマの弾圧によるユダヤ民の結集という目論見は崩れましたね。いささか、過激にすぎたのでしょうか」

「そうだな、分断を生み出しただけだったかもしれぬ。そこがローマの手管なのであろうがよ……」

「で、バラバ様はどうされるのですか?」

「変わらぬさ―― ローマに対し戦う。それだけだ」

「そうですか――」

 冷たい夜光がふたりを浮き上がらせている。
 そして、どちらかともなく、ふたりは離れていき、闇の中へと消えていった。

        ◇◇◇◇◇◇

「晩飯の準備はまだかぁ―― 腹へったんだけどぉ」

 神殿で暴れまくったせいで、俺はけっこう腹が減っていたというのに、夕食の準備がまだできないである。ちょっと呪いたくなる。

先生ラビ

「ん、ユダかよ。なんか飯の準備遅くね? お前からも言ってこいよ」

「すいませんが、私は……」

「俺を売るかい? いいぜ、オマエの好きにすればいいんじゃねーの。別にやりたいように、やればいいんだよ」

 ユダがポカーンとした顔で俺を見つめる。
 以前からこいつは、どうにも怪しいなぁとは思っていたんだ。
 で、弟子に後を付けさせていた。
 
「よーするに、俺を犠牲にしてユダヤの統合をして、ローマ支配に楔を打ち込む―― もしくは、ローマ帝国そのものを飲み込んじまうって計画なのかい?」

「ふ、ふふ、あはははは―― 先生ラビ、アナタという人は、今までの態度は全て韜晦とうかいですか…… 思った以上の方だ」

 ユダは心底可笑しそうに笑った。
 目に涙まで浮かべていた。

        ◇◇◇◇◇◇

 まあ、人類救済計画も神の指示がなくなって、俺の勝手に勧めてきたわけだけど、どうにも方向というか、指針がよく分からなくなっているわけですよ。マジで。

 神殿で相当に暴れたのも、オヤジ側からなんかの神託とかそんなもんがあるかな――と、思ったんだけど、それもないし。

 ここで、人類の救済=ローマ帝国の打倒、及び、富めるブルジョア階級の破壊というか、階級闘争に持ち込むというのが、人類救済の方向としていいかな――とは、思っていたわけですよ。

 つーか、これだけ弟子を抱えて、しかもマリアちゃんのような綺麗で可愛い伴侶を手に入れた俺自身が「持てるもの」になってんじゃね?
 って疑問もあった。

 んだから、ユダが裏切ろうとどう動こうと、この際どうでもよかった。
 どうせ、俺は神の子だし、人の裁きなんか、どーでもいいことだから。

 てなことを考えていたら、神官どもに俺は捕まった。
 罪状は救世主、神の子を語ったことらしい。

 ま、神官の親玉である大司祭カヤパと対面できるってことになったわけだ。
 あははは。
 ま、結果がどうなろうが、俺の計画はもっと別のとこにあるのだけどね。
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