イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

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15話:黙示録の獣

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「あ~あ、マグダラのマリアちゃーん。いるのぉ、出てきて」

 館の中は窓があるのに薄暗い迷宮のような感じだ。
 構造上、どう考えてもあの塔の天辺にマグダラのマリアはいるのだろう。
 塔の上から消し炭のようになって、落下してきた魔術師。
 おそらくは、マグダラのマリアに憑いた悪霊にやられたのだろう。

 結構有名な魔術師なのか。俺には分からん。この業界に入ってまだ日が浅いのだ。元底辺大工だし。
 話によると、結構な数の預言者とか魔術師とか呪い師が死にこまされとるのである。
 
「これは、もしかしてヤバいのか?」

 40日の断食修行。
 サタンを撃ち払った俺ではあるが、ちょっと不安。
 なんか、弟子が一緒にいるときには、平気だったのに。

 ひとりでいると少し不安になってきた。
 なんで? 弟子の奴らついてこねーの?
 どうするか……

 ただ、ここで戻って外に出るのは、さすがに沽券に係わるのである。マジな話。
 なんとかせねばならん。
 どうするか……
 
『あ~ あ~ 主、主よ。応答願います!』

 なんとなく、不安になってきたので主との通信を試みる。
 卑小な「人の子」としては神に祈り、助力を願うのは当然かなぁと思った。
 天使の軍勢でも派遣してくれないかなぁって思った。

 最近、通信していないんだけど、どうなんだ?

『んん~ おう、久しぶりぃ! イエスちゃーん』
『おお! 主よ、お久しぶりです!』
『どーしたの?』
『これから悪霊祓い行くんですけどね。なんかヤバそうな相手なんっすよ』
『大丈夫だよ。悪霊祓いなんて、度胸だから。度胸と性根決めて、バシッといけばいいんだよ』
『そうっすか……』
『先手必勝。速攻かければ、平気、平気。吾輩もべヒモスとか秒殺だったし。ユダヤの民を扇動して「聖絶」やったなぁ。でも、ユダヤ、クソ弱えぇんだよなぁ……』

 また主の話が、自慢話になってきた。さすが俺たちの神である。

『つーことで、突撃あるのみ、悪霊なんざ、神の力の前にはすわり小便で逃げるから~』
『そうっすかね……』

 俺もなんか、そんな気がしてきた。
 まあ、神が言うんだからそうなんだろう。

『んじゃ、吾輩も時と空間に遍在していて、多忙だから。全知全能だけど。だから、あんまり呼ぶなよ』
『すんません』
『まあ、自分で絵図書いて、自分でケツ持ちできるようにならんとなぁ。期待しているから、パパも』
『ありがとうございやした!』

 通信が切れた。ありがたい神の御言葉を浴びて、なんとなく不安がなくなる。
 俺は神共にあるのだ。イェイ! ははははは!

 で、おそらく塔のある場所に来た。
 んで、クルクル回る階段を上がって、上がって――
 なんか扉のとこにきた。
 多分、この先にマグダラのマリアがいるのだろうと思う。

「よっしゃ! ここは神の鉄槌で悪霊を祓い、美少女を救いださねばならんな」

 俺は気合いを込めて言った。
 思えば、これは俺が待ち望んだシチュエーションではないのか?
 
「ん? なんだこれ?」

 俺は扉を見た。
 なんか字が書いてあるけど、俺は文字が読めないのだ。
 読めないので、無視する。
 
 俺は扉を開けた。
 ギギギギギと軋む音がして扉が開く。
 そして俺は一歩踏み出した。

「ぬぅッ!」

 濃厚な気配。いた。なんかいた!!
 
「フィィィィィィィーー!!」

 俺は叫びながら突撃。俺の突撃は神の突撃と同じである。それは天使の軍勢を率いた光のパワーなのだ!
 俺は右腕を伸ばす。細い腕だ。
 
 バガァァァァァ!!
 
 俺の腕が相手の首元を直撃した。
 伸ばした腕の肘の反対側が軋む。それでも、俺は振り切る。
 すれ違いざまだ。

 ドガァァァァーーン!!

 悪霊だ。悪霊がひっくりかえった音だ。
 間違いない。

「ゲホゲホッ! いてぇぇぇ!! なにすんですか! いきなり!」

 黒い服を着た奴が喉を押さえて文句を言った。
 後頭部もさすっている。倒れたときに頭を強打したのかもしれん。

「あれ? サタンじゃね?」

「なんだ…… イエスさんか」

 以前、俺に撃退されたサタンだった。
 そうか…… そういうことか……

「マグダラのマリアに憑りついていたのはオマエかよ! あははは! バーカ、俺が来たからには、もうオマエは負けだ!」

「イエスさん、なんですかッ! 入ってくるなり、いきなりラリアット喰らわせて、頭おかしいんですか? 本当にオヤジ(神)そっくりですね!」

「つーか、出てけよ。マグダラのマリアちゃんを解放しろよ」

 俺はサタンにローキックをいれる。

「ああッ! イエスさん、サタンを足蹴にしないでッ! イテ! イテェな! マジ蹴りじゃねーか!」

 ビシビシと俺のローキックが決まる。
 俺は神の剣。この身は、神罰の代行者である。
 剣を大地にもたらすために、存在しているのだ。 

「だからぁ~ マリアちゃん出せよ。オメェはもういいからさぁ」

「イエスさん、外の張り紙、読んでないんですかぁ?」

「はぁ? 俺、字なんてよめねーから。底辺大工(テクトーン)舐めんなよ」

「マリアは上の階ですよ! 私も困ってんですよ。マリアに憑りついた獣を回収しないとまずいんですって」

「なにそれ?」

 俺は蹴るの止めた。ちょっとサタンが涙目になっていた。

「あのね、神(オヤジ)には内緒ですよ…… 最後の審判で使用するはずの『黙示録の獣』が逃げちゃいまして。ここの女の子に憑りついてしまったんです」
「マジ?」
「マジですよ」
「で、それってどんなの?」
「7つの首に10本の角のある獣。ブックでは…‥ あ、まあ神の計画で必要な物なんですよ。ただ、今は未完成で……」

 サタンが必死に俺に説明する。しかし、サタン言葉を信じるのは、いかんのではないかとも思う。俺的には。
 そして、ブックってなに? 神の計画?

「とにかく、その獣がマグダラのマリアに懐いちゃいましてね」
「そうか……」
「ねぇ、イエスさん」
「なんだ? サタン」
「捕まえてくれませんかね? 黙示録の獣」

 サタンがすがるような目で俺を見つめる。
 本気で困っているような感じはするが。どうなのこれ?
 
 俺が黙っていると、サタンが口を開く。

「だって、イエスさんの目的は、マグダラのマリアの悪霊を祓うことでしょ?」
「そうだな――」

 俺はうなづいた。

「その、悪霊が『黙示録の獣』になっただけなんですけどね」
「うーん…… そうなのか」

 サタンの言うことを真に受けるのはどうか?
 俺は死んだオヤジ(人間の方)に訊かされた話を思い出す。

 旧約聖書のヨブ記だ。
 義人のヨブに対し、神は「どれだけ、吾輩を信仰しているかな?」って試す。
 それをそそのかしたのはこのサタンだ。
 サタンが「ヨブが神を信じているのは、金持ちで家族にも恵まれているからですよ」と言ったのだ。
 そしたら、神は「んじゃ、破産させて、家族皆殺しな」って感じで試す。
 
 でもヨブは神を信じる。
 で、サタンは「まだ、健康だから神を信じてるんです」って言う。
 そしたら神は「んじゃ、酷い皮膚病にしてみっかぁ~」って感じでヨブをズタボロにする。

 破産して無一文。家族虐殺。おまけに自分は酷い皮膚病。
 それでも、ヨブは神を信じましたというありがたい話だ。

 神の義人テストである。

 ただ、ここでの問題は、サタンの言うこと訊いてもいいんじゃね? ということだ。
 だって、神だって意見を取り入れているのである。仲良く話しているのである。

「つーか、『黙示録の獣』を祓ったら、マグダラのマリアは元にもどるのか?」
「戻りますよ。そりゃ、戻るから。とにかく、私は『黙示録の獣』を回収しないとまずいんですよ。あれを使うのはまだずっと先なんで……」

 サタンはアタフタとした態度で言った。
 まあ、どの道、マグダラのマリアを助けなきゃならんわけだ。
 
 まあ、旧約聖書でもサタンは神の協力者だったことこともある。
 ここで、言うことも聞いてもどうということはないだろう。
 と、俺は思う。

「んじゃ、行くか――」

 ということで、俺とサタンのタッグが行くのだ。
 マグダラのマリアの憑りついた「黙示録の獣」を捕えるために。
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