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第七章:ぶち抜け!アストラル体!シャラートを救え!
第一一七話:錬金術師はかく語りし
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「なにを…… てめぇ!」
『アイン、そいつは伝言板みたいなものだわ。こっちからなに言っても返事なんてしないわ』
サラームの言葉で俺は踏みとどまった。あやうく突撃しそうになった。
「虚ろとなった胎児の肉を憑代とする。【シ】を封印したふたりの勇者の子が、【シ】の憑代を生む。それが正しい因果の流れだったのですけどね―― 私の知らぬとこで何かがあったのでしょうか。それともこれも因果の流れの内のことなのでしょうか――」
それは、自分に問いかけるような言葉だった。
もしオウレンツの言うことが本当なら、その子どもが俺じゃなく【シ】の「憑代」ってものになっていたのか?
「アインダム・ダートリンク、アナタの正体はなんでしょうか? 本来、その魂は、この世界にあるべきではないはずなのです。アナタは――」
問いかけるような言葉で、一方的に話をたれ流し続けるオウレンツの幻影。
もしかして、俺の正体を薄々知っているのか? 俺の前世がデブのニートだったことを……
俺はコンビニで強盗にあって、腹を撃ち抜かれた。
でもって死んだ。
そして、この異世界に転生した。勇者であるシュバインとルサーナの子どもとしてだ。
一回、元の世界に戻ったが、俺はもうすでに「アインザム・ダートリンク」という存在だ。
それ以外の何者でもない。もう、俺は俺なんだよ。
「【シ】を滅ぼし、人を守る。それが正しい―― そう思い、私は戦いました」
そうだ。そもそもこいついだって【シ】を倒した勇者の一人じゃないのか?
「多くの大切なモノを失いながらでもです―― 人を信じ、この世界の『正義』を信じました。しかし、それは間違いだったのです――」
クソ錬金術師の独演会が続く。
「間違いは正さねばなりません。歪んだ因果の力―― それを暴走させ、この「世界」を真の終焉に向かわせるのは、人でありその魔法だった……」
なんだそりゃ……
間違い?
世界を終焉させるのが人? 魔法?
じゃあ【シ】ってなんだよ?
いったい、こいつ何をやる気なんだ?
以前からずっと思い続けていた疑問。
この、異世界になにがあるっていうんだ?
頭の奥底にしまいこんでいた疑問。
そいつが、一気に思考の表層に浮上してきやがる。
「【シ】の誕生と覚醒―― それが世界を救うのです。そのために、勇者と【シ】の因果の力―― その血、肉が必要なのです。【シ】の憑代を生むのです」
オウレンツの幻影は嫌な笑みの残像を残し、溶けるように消えていく。
俺は乱れた思考を強制的に抑え込む。それどころじゃない。
コイツが何を考えていようが、やることは同じだ。
シャラート助けることだけだ。俺はそれをやるためにここにいる。
黒い核――
俺はそいつを見た。心臓のように脈動する黒い球。
これが、シャラートのアストラル体を汚染している根源。
こいつをぶち壊し、取り除く。それだけだ。
俺は周囲を確認する。
ライサとエロリィは戦っている。相手はシャラートのイメージした、ライサとエロリィ。
「あはッ! 死ね! はッ! 殺す! あはッ! ド畜生! あはッ! 死なす! あはッ! あはッ! 殺すコロス殺す殺す!」
「てめぇぇぇ!! なんだそりゃ! ぶち殺すぞ! このクソがぁぁ! 死にくされやぁぁぁ!! クソ乳メガネぇぇぇ! てめぇ、どんな目で私を見てやがったぁ!」
墨汁のような色をした素材で作り上げたライサのコピーが、彼女の口調を真似ながら攻撃してい る。シャラートのイメージするライサはそれほどズレているとは、俺には思えなかったが、本人には気に入らないようだった。
緋色の長い髪と、シルエットが3D化したようなふたりのライサが交錯する。
二本の釘バットが、硬質の唸りをあげ、速度と質量をエネルギーにして空間にぶちまける。
メリケンサック付の拳が空間に焦がすような速度で吹っ飛んでいく。
人外の打撃戦が繰り広げられている。互角―― そう見える。
「キャハハハハハハハハ!! もうね! もうね! もうね! もうね! キャハハハハ!! ギャーーース! もうね!」
「もうね、気に入らないよ! コイツを殺したら、あの乳メガネも絶対にぶち殺してやるのよぉぉ! なんで、私のコピーがこんなアホウに見えるのよ!」
どす黒い色をしたエロリィと同じフォルムをした物体が絶叫している。
シャラートの認識する「エロリィ」がコレなのだろう。
中身は、狂気に浸食された笑い袋にしか見えない。ほぼ正確かと俺はちらっと思った。
青い魔力光で輝く刃を腕に生じさせ、お互いに剣風の中に身を晒しているような状態だ。
「他の女のことなど、見なくてもいいのです」
絶対に聞き違えることのない声が響く。
俺は声の方を振り返る。
地に着きそうなほどの長い黒髪を揺らし、ゆっくりとこっちに歩を進めている。
クールビューティという言葉が擬人化したような美麗な存在。
「シャラート…… いや…… 違う……」
俺の記憶の中にある涼やかな黒い瞳――
その瞳は真紅の血の色に囲まれていた。そして妖艶で心臓を鷲づかみにするような視線を投げかける。
黒い核が生み出したシャラートだ。本物じゃない――
それが分かる。分かるがしかし……
「ぬがぁぁ!!」
全力だ。一気にアクセルを踏み込む感覚。同時に七つの魔力回路が一気に回転数を跳ねあげた。
俺の身体の奥底で、重低音の唸りを上げ、魔力パワーユニットが連結する。
この世界で、最強で最大の魔力が俺の身体の中に流れ込んでいく。
『サラーム! 魔力でぶち抜け! 核だ! あの黒い核をぶち抜く!』
『分かったわ! その方向に手を伸ばして!』
『よっしゃ!』
俺は近づくシャラートを無視する。核だ。この【シ】が埋め込んだ核さえぶち壊せば――
『魔力回路より魔力生成中! 高濃度魔力充填! 内圧上昇! 100、110、魔力充填率120%!! 最終セーフティロック解除、各員、対ショック対閃光防御』
『早くしろ! サラーム。各員って誰だよ! そんなシーケンスいらねーよ!』
ヲタ精霊が、某アニメに影響されたシーケンスをつぶやく。本当はそんな物は必要ない。なに? 対ショック対閃光防御って?
でもって、これあれだろ? またあれだよな――
ポ、ポ、ポ、ポと音をたて、突きだした右手に光の粒子が集まってくる。
『ラマーズ砲発射!』
『その名前定着させる気かぁ!』
俺の脳内の叫びと関係なく、凄まじいエネルギーの奔流が一直線に目標に伸びる。
黒い核――
キーン!
甲高い金属音を響かせ、ラマーズ砲の魔力エネルギーが四散する。
ハチの巣みたいな模様のバリアのような物が展開されている。
『えーー! なんで? ヤ〇ト第一話のガミ〇ス艦の装甲に弾かれたような再現性だわ』
「遠隔攻撃の魔法じゃダメか! クソッ」
サラームのヲタ感想を無視して俺は言った。
あのバリアの展開出来ない距離まで詰めてそこで、魔法を叩きこむか、物理攻撃をぶち込むしかない。
「アイン。無駄なことはやめるのです。さあ、私と――」
「うぉぉぉ!!」
俺は地を蹴っていた。シャラートの姿をした存在の脇を通りぬけ、振り切り、一気に黒い核との距離をつめる。
そして、拳を叩きむ。ブチ壊れるまでだ。
「えッ?」
ふわりと俺の身体が浮いた感じがした。そして天地がひっくり返る感覚。
トンっと軽く背中を打った。そして、自分か、一回転して転んだことを自覚する。
いや―― 違う。
投げられたんだ。俺の右手をシャラートが握っている。いつの間にかだ。
「アイン、アナタはここで、私とひとつになるのです。激しく愛し合い、溶け合い一体となるのです。ああ―― それはアイン、私がアインを愛しているからです」
倒れた俺に、かぶさってくるシャラート。いや、シャラートの偽物だ。
それは分かる。分かるが…… ああがっががああああああああ!!
黒髪がハラハラと俺の頬に触れる。その香りが俺の脳を痺れさせていく。そのまんま、俺のシャラートそのままの匂い。
「アイン、私の身体はアナタだけの物なのです。アナタのためにあるのです。だから、激しくしてもいいのですよ」
握った俺の右手を自分の胸の中に突っ込んでいく。あがーーー!! 手が蕩けてしまうような感触。
柔らかく、そして信じられない弾力を合わせもった奇蹟のおっぱい。それも超巨乳。
左右のおっぱいが俺の右手を挟み込んだ。そしてシャラートはそれをこする。右手が気持ちいいぃぃぃ~。
「あ、あ、あ、あ…… あ……」
「ふふ、アインの反応はいつも可愛いのです」
残った俺の左手を自分の太ももの方に誘導する。そして……
「ああ、蕩けてしまいそうです。私も…… アイン」
口をふさがれた。水蜜桃のような香りと味が一気に口内に流れ込む。
ぬるりとした感触の物が、俺の舌を絡め取っていた。
脳が沸騰しそうになる。やばい―― 意識が遠のく……
指が何かに触れる。ぬるりとした何か――
ズブズブとヌルヌルした何かに、包まれていく感覚。
服が―― 無い……
アストラル体の中で実体化した存在だ。俺の意識がどこかで、服の存在を邪魔だと思ったのか?
全裸? あれ? シャラートも……
裸で抱き合っているのぉぉ。ああああああ……
「アイン、アインの遺伝子が欲しいのです。いっぱい注ぎこんでドロドロにしてほしいのです。アインもドロドロになるのです」
ドロドロだった。ヌルヌルだ。
なんか、体中を舐められているような感覚。いったい――
気が…… 気が変になりそうだぁ……
『アイン! アイン! なにやってんの! 核に吸いこまれるわ! 魔力回路を回して!』
なんか、幻聴のような物が遠くから聞こえた。羽虫の音のような声だ。なんだこれ?
いいかぁ…… 気もちいい…‥
ああ、意識を、意識を保て俺。
三人がかりで、意識を失って「シュレディンガーの童貞」状態。ここで、しっかり確認しておけば、波動関数も収束して、俺の童貞状態も――
俺は寝転がった状態だ。となれば、脱童貞の瞬間は観測可能か?
しかし‥… 意識が…… くぅ…… 気もちいいいいいいいいぃぃぃ~
なんだ? 全身をシャラートのおっぱいに包まれたような夢のような感触。あり得るのかこれは? しかし、これが、そうなのか?
「脱ッ! シュレディンガーの童貞ぇじゃぁぁっぁああああああああぁぁぁ!!」
俺は歯を食いしばり、頭を持ち上げ下を見た。
筋肉が軋み音を上げる。薄れ行く意識を強制的にその場に固定する。
あれ?
俺はそのまま、視線を上の方に動かす。
あれ?
そして、ゆっくりと左右も確認する。
あれ?
俺は叫んだ。
「なんじゃこれはぁぁぁぁぁぁ!」と叫んだつもりが「ぼこここぉぉぉぉぉぉぉ」という音が響くだけだった。
俺は全裸でいつの間にか、スライムのようなゼリー状の球体の中に閉じ込められていた。
シャラートは? いねーよ。きれいさっぱりいねーよ。
ヌルヌルした感覚は、これかよ。このスラムかよ。スライム相手に脱童貞とか勘弁だ!
「溶けるとか、蕩けるとか、マジに物理的にかよ!」
アストラル界のことなので、厳密に物理的かどうかは別にして、俺は溶かされる。
このままでは、多分、俺はドロドロに溶けて、【シ】の黒い核に吸収されてしまう。
これが、狙いか? 俺とシャラートを憑代にして【シ】を生み出す気か――
『サラーム! ぶち抜くぞ!』
『アイン! 戻ったのね!』
頭が冷めた。状況を認識した俺は、七つの魔力回路をフル回転させる。
筋肉に魔力を流し込み、腕力で強引に、ゼリーをグチャグチャにしながら外に出た。
ゼリー状のスライムのような物が、再び人型を作ろうとする。またシャラートになるか?
「もう騙されるか! クソが!」
俺はそいつを無視する。どうせ、今は動けない。
それよりも――
俺は、黒い核をぶち壊す。シャラートをとりもどすために!
右腕に膨大な魔力が流れ込む。筋肉が破裂しそうな感じだ。
歯を喰しばった。口の中に、鉄の味が広がる。血か? かまわねぇ。
射程に入った。でかい球体。漆黒の球が、ビグンビクンと脈動を続けている。
それが、怯えの叫び声のような気がした。
「てめぇぇ!! 俺の! 俺のシャラートを返しやがれ!」
右腕を振りぬいた。この距離ではバリアのような結界を張ることもできない。
完全な肉弾戦の距離。
ずぶりと俺の腕が肘まで潜り込む。
『サラーム!! 流し込め! 残らず! 全部!!』
『アイン!』
ブンと視界がぶれるような感覚。
俺の魔力回路から生じた膨大な魔力が、高圧のエネルギーの塊になって、右腕の中を貫き一気に外に噴き出した。
黒い球が苦悶するかのような痙攣をする。
ブスブスと焦げるような臭い。表面が沸騰したかのように粟立っていく。
「おらぁぁ! 俺の嫁になるシャラートからいなくなりやがれ!」
体の中の全ての魔力が一気に射出されたような感覚。
それは、脳天を貫くような快感を伴ったもの。俺の命の全てをここで、ブチまけぶつけてもいいと思った。
回れ! 魔力回路! もっとだ! もっと!
この俺こそが最強であり、この最強の俺の嫁になるシャラートに憑りつきやがって、この野郎!!
魔力回路が回転を増していく、俺のテンションあがりまくりだった。
もはや宇宙を支配できる気分になっていた。最高だぁぁ!!
「「アイン! アイン! アイン!」」
声が聞こえた。
振り向く。
金色のツインテールを揺らした超可憐な美少女。
緋色の長い非対称の髪をした超絶級の美少女。
ふたりが俺を見つめていた。
エロリィとライサ――
俺は我に返った。
急に凄まじい疲労感が全身を襲ってきた。
肩で息をする。荒い呼吸。言葉を出すのも苦しかった。
この場で、へたり込んでしまいたかった。
「あ…… あれ…… お、終わったのか……」
俺の言葉に、俺の許嫁のふたりは静かにうなずく。
そして、崩れ落ちそうになる俺に抱きついてきた。
『アイン、そいつは伝言板みたいなものだわ。こっちからなに言っても返事なんてしないわ』
サラームの言葉で俺は踏みとどまった。あやうく突撃しそうになった。
「虚ろとなった胎児の肉を憑代とする。【シ】を封印したふたりの勇者の子が、【シ】の憑代を生む。それが正しい因果の流れだったのですけどね―― 私の知らぬとこで何かがあったのでしょうか。それともこれも因果の流れの内のことなのでしょうか――」
それは、自分に問いかけるような言葉だった。
もしオウレンツの言うことが本当なら、その子どもが俺じゃなく【シ】の「憑代」ってものになっていたのか?
「アインダム・ダートリンク、アナタの正体はなんでしょうか? 本来、その魂は、この世界にあるべきではないはずなのです。アナタは――」
問いかけるような言葉で、一方的に話をたれ流し続けるオウレンツの幻影。
もしかして、俺の正体を薄々知っているのか? 俺の前世がデブのニートだったことを……
俺はコンビニで強盗にあって、腹を撃ち抜かれた。
でもって死んだ。
そして、この異世界に転生した。勇者であるシュバインとルサーナの子どもとしてだ。
一回、元の世界に戻ったが、俺はもうすでに「アインザム・ダートリンク」という存在だ。
それ以外の何者でもない。もう、俺は俺なんだよ。
「【シ】を滅ぼし、人を守る。それが正しい―― そう思い、私は戦いました」
そうだ。そもそもこいついだって【シ】を倒した勇者の一人じゃないのか?
「多くの大切なモノを失いながらでもです―― 人を信じ、この世界の『正義』を信じました。しかし、それは間違いだったのです――」
クソ錬金術師の独演会が続く。
「間違いは正さねばなりません。歪んだ因果の力―― それを暴走させ、この「世界」を真の終焉に向かわせるのは、人でありその魔法だった……」
なんだそりゃ……
間違い?
世界を終焉させるのが人? 魔法?
じゃあ【シ】ってなんだよ?
いったい、こいつ何をやる気なんだ?
以前からずっと思い続けていた疑問。
この、異世界になにがあるっていうんだ?
頭の奥底にしまいこんでいた疑問。
そいつが、一気に思考の表層に浮上してきやがる。
「【シ】の誕生と覚醒―― それが世界を救うのです。そのために、勇者と【シ】の因果の力―― その血、肉が必要なのです。【シ】の憑代を生むのです」
オウレンツの幻影は嫌な笑みの残像を残し、溶けるように消えていく。
俺は乱れた思考を強制的に抑え込む。それどころじゃない。
コイツが何を考えていようが、やることは同じだ。
シャラート助けることだけだ。俺はそれをやるためにここにいる。
黒い核――
俺はそいつを見た。心臓のように脈動する黒い球。
これが、シャラートのアストラル体を汚染している根源。
こいつをぶち壊し、取り除く。それだけだ。
俺は周囲を確認する。
ライサとエロリィは戦っている。相手はシャラートのイメージした、ライサとエロリィ。
「あはッ! 死ね! はッ! 殺す! あはッ! ド畜生! あはッ! 死なす! あはッ! あはッ! 殺すコロス殺す殺す!」
「てめぇぇぇ!! なんだそりゃ! ぶち殺すぞ! このクソがぁぁ! 死にくされやぁぁぁ!! クソ乳メガネぇぇぇ! てめぇ、どんな目で私を見てやがったぁ!」
墨汁のような色をした素材で作り上げたライサのコピーが、彼女の口調を真似ながら攻撃してい る。シャラートのイメージするライサはそれほどズレているとは、俺には思えなかったが、本人には気に入らないようだった。
緋色の長い髪と、シルエットが3D化したようなふたりのライサが交錯する。
二本の釘バットが、硬質の唸りをあげ、速度と質量をエネルギーにして空間にぶちまける。
メリケンサック付の拳が空間に焦がすような速度で吹っ飛んでいく。
人外の打撃戦が繰り広げられている。互角―― そう見える。
「キャハハハハハハハハ!! もうね! もうね! もうね! もうね! キャハハハハ!! ギャーーース! もうね!」
「もうね、気に入らないよ! コイツを殺したら、あの乳メガネも絶対にぶち殺してやるのよぉぉ! なんで、私のコピーがこんなアホウに見えるのよ!」
どす黒い色をしたエロリィと同じフォルムをした物体が絶叫している。
シャラートの認識する「エロリィ」がコレなのだろう。
中身は、狂気に浸食された笑い袋にしか見えない。ほぼ正確かと俺はちらっと思った。
青い魔力光で輝く刃を腕に生じさせ、お互いに剣風の中に身を晒しているような状態だ。
「他の女のことなど、見なくてもいいのです」
絶対に聞き違えることのない声が響く。
俺は声の方を振り返る。
地に着きそうなほどの長い黒髪を揺らし、ゆっくりとこっちに歩を進めている。
クールビューティという言葉が擬人化したような美麗な存在。
「シャラート…… いや…… 違う……」
俺の記憶の中にある涼やかな黒い瞳――
その瞳は真紅の血の色に囲まれていた。そして妖艶で心臓を鷲づかみにするような視線を投げかける。
黒い核が生み出したシャラートだ。本物じゃない――
それが分かる。分かるがしかし……
「ぬがぁぁ!!」
全力だ。一気にアクセルを踏み込む感覚。同時に七つの魔力回路が一気に回転数を跳ねあげた。
俺の身体の奥底で、重低音の唸りを上げ、魔力パワーユニットが連結する。
この世界で、最強で最大の魔力が俺の身体の中に流れ込んでいく。
『サラーム! 魔力でぶち抜け! 核だ! あの黒い核をぶち抜く!』
『分かったわ! その方向に手を伸ばして!』
『よっしゃ!』
俺は近づくシャラートを無視する。核だ。この【シ】が埋め込んだ核さえぶち壊せば――
『魔力回路より魔力生成中! 高濃度魔力充填! 内圧上昇! 100、110、魔力充填率120%!! 最終セーフティロック解除、各員、対ショック対閃光防御』
『早くしろ! サラーム。各員って誰だよ! そんなシーケンスいらねーよ!』
ヲタ精霊が、某アニメに影響されたシーケンスをつぶやく。本当はそんな物は必要ない。なに? 対ショック対閃光防御って?
でもって、これあれだろ? またあれだよな――
ポ、ポ、ポ、ポと音をたて、突きだした右手に光の粒子が集まってくる。
『ラマーズ砲発射!』
『その名前定着させる気かぁ!』
俺の脳内の叫びと関係なく、凄まじいエネルギーの奔流が一直線に目標に伸びる。
黒い核――
キーン!
甲高い金属音を響かせ、ラマーズ砲の魔力エネルギーが四散する。
ハチの巣みたいな模様のバリアのような物が展開されている。
『えーー! なんで? ヤ〇ト第一話のガミ〇ス艦の装甲に弾かれたような再現性だわ』
「遠隔攻撃の魔法じゃダメか! クソッ」
サラームのヲタ感想を無視して俺は言った。
あのバリアの展開出来ない距離まで詰めてそこで、魔法を叩きこむか、物理攻撃をぶち込むしかない。
「アイン。無駄なことはやめるのです。さあ、私と――」
「うぉぉぉ!!」
俺は地を蹴っていた。シャラートの姿をした存在の脇を通りぬけ、振り切り、一気に黒い核との距離をつめる。
そして、拳を叩きむ。ブチ壊れるまでだ。
「えッ?」
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いや―― 違う。
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「あ、あ、あ、あ…… あ……」
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服が―― 無い……
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裸で抱き合っているのぉぉ。ああああああ……
「アイン、アインの遺伝子が欲しいのです。いっぱい注ぎこんでドロドロにしてほしいのです。アインもドロドロになるのです」
ドロドロだった。ヌルヌルだ。
なんか、体中を舐められているような感覚。いったい――
気が…… 気が変になりそうだぁ……
『アイン! アイン! なにやってんの! 核に吸いこまれるわ! 魔力回路を回して!』
なんか、幻聴のような物が遠くから聞こえた。羽虫の音のような声だ。なんだこれ?
いいかぁ…… 気もちいい…‥
ああ、意識を、意識を保て俺。
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しかし‥… 意識が…… くぅ…… 気もちいいいいいいいいぃぃぃ~
なんだ? 全身をシャラートのおっぱいに包まれたような夢のような感触。あり得るのかこれは? しかし、これが、そうなのか?
「脱ッ! シュレディンガーの童貞ぇじゃぁぁっぁああああああああぁぁぁ!!」
俺は歯を食いしばり、頭を持ち上げ下を見た。
筋肉が軋み音を上げる。薄れ行く意識を強制的にその場に固定する。
あれ?
俺はそのまま、視線を上の方に動かす。
あれ?
そして、ゆっくりと左右も確認する。
あれ?
俺は叫んだ。
「なんじゃこれはぁぁぁぁぁぁ!」と叫んだつもりが「ぼこここぉぉぉぉぉぉぉ」という音が響くだけだった。
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シャラートは? いねーよ。きれいさっぱりいねーよ。
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「溶けるとか、蕩けるとか、マジに物理的にかよ!」
アストラル界のことなので、厳密に物理的かどうかは別にして、俺は溶かされる。
このままでは、多分、俺はドロドロに溶けて、【シ】の黒い核に吸収されてしまう。
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頭が冷めた。状況を認識した俺は、七つの魔力回路をフル回転させる。
筋肉に魔力を流し込み、腕力で強引に、ゼリーをグチャグチャにしながら外に出た。
ゼリー状のスライムのような物が、再び人型を作ろうとする。またシャラートになるか?
「もう騙されるか! クソが!」
俺はそいつを無視する。どうせ、今は動けない。
それよりも――
俺は、黒い核をぶち壊す。シャラートをとりもどすために!
右腕に膨大な魔力が流れ込む。筋肉が破裂しそうな感じだ。
歯を喰しばった。口の中に、鉄の味が広がる。血か? かまわねぇ。
射程に入った。でかい球体。漆黒の球が、ビグンビクンと脈動を続けている。
それが、怯えの叫び声のような気がした。
「てめぇぇ!! 俺の! 俺のシャラートを返しやがれ!」
右腕を振りぬいた。この距離ではバリアのような結界を張ることもできない。
完全な肉弾戦の距離。
ずぶりと俺の腕が肘まで潜り込む。
『サラーム!! 流し込め! 残らず! 全部!!』
『アイン!』
ブンと視界がぶれるような感覚。
俺の魔力回路から生じた膨大な魔力が、高圧のエネルギーの塊になって、右腕の中を貫き一気に外に噴き出した。
黒い球が苦悶するかのような痙攣をする。
ブスブスと焦げるような臭い。表面が沸騰したかのように粟立っていく。
「おらぁぁ! 俺の嫁になるシャラートからいなくなりやがれ!」
体の中の全ての魔力が一気に射出されたような感覚。
それは、脳天を貫くような快感を伴ったもの。俺の命の全てをここで、ブチまけぶつけてもいいと思った。
回れ! 魔力回路! もっとだ! もっと!
この俺こそが最強であり、この最強の俺の嫁になるシャラートに憑りつきやがって、この野郎!!
魔力回路が回転を増していく、俺のテンションあがりまくりだった。
もはや宇宙を支配できる気分になっていた。最高だぁぁ!!
「「アイン! アイン! アイン!」」
声が聞こえた。
振り向く。
金色のツインテールを揺らした超可憐な美少女。
緋色の長い非対称の髪をした超絶級の美少女。
ふたりが俺を見つめていた。
エロリィとライサ――
俺は我に返った。
急に凄まじい疲労感が全身を襲ってきた。
肩で息をする。荒い呼吸。言葉を出すのも苦しかった。
この場で、へたり込んでしまいたかった。
「あ…… あれ…… お、終わったのか……」
俺の言葉に、俺の許嫁のふたりは静かにうなずく。
そして、崩れ落ちそうになる俺に抱きついてきた。
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俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
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不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
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そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
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転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
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ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
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(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
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魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
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