黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

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第七章:ぶち抜け!アストラル体!シャラートを救え!

第一一六話:迫るシャラート

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 黒い核から生み出されたシャラートがふわりと音もなく歩んでくる。俺に向かってだ。
 まさしく、彼女の歩法―― 暗殺者として鍛えられた人間の足の運びだった。

 ゆれる超ロングの黒髪。
 整いすぎて怜悧な印象すら感じるその顔。
 それは、間違いなくシャラートだ。

「違う…… 違うんだ……」

 くそ、なにやってる俺。こいつは、【シ】の核が生み出したニセのシャラートだ。
 いや、ニセというより、【シ】に汚染されたアストラル界が創った何かだ。
 俺は思う。思うけど、体が動かない。
 どんな攻撃もできそうにない。

 メガネをしていないその切れ長の双眸。ジッと俺を見つめている。
 本来白い部分が鮮血のような色をしていてもだった。

 緩やかな風の中で花びらが舞うような動き。
 また一歩シャラートが間合いを詰める。
 
『なにやってるの。攻撃だわ! 一撃で殺せるわよ』
『分かってる! 分かっている! サラーム』

 脳内では迎撃体制の完了している精霊様が俺に「攻撃しろ」と言う。
 しかし――
 くそ! 分かってるんだ。だけど……

『アイン、本物助けるなら、コイツを殺さないとだめだわ』
『分かっている。クソッ!』

 脳内に響くサラームの声。珍しく正しいことを言っている気がする。ムカつくが。
 しかし、それで少し身体の呪縛が緩んだ気がした。
 俺は、一歩下がる。間合いを空けた。

 俺の真骨頂は、接近戦じゃない。中間距離、遠距離からの魔法攻撃。
 だから、俺は下がる。逃げたわけじゃない。

「アイン―― どうしたのですか?」

 その存在はシャラートの声で俺に話しかけた。
 その瞬間、俺の中に確かな「決意」ができた。俺は、心の中で、なにかを振り切った。

 俺は後ろに大きく跳ぶ、それと同時に叫んでいた。

「烈風斬!!」

 ネーミングは適当だが、威力は保証付きの風の刃。
 俺の膨大な魔力が体を走り抜け、サラームがそれを攻撃の刃に変換する。

 気圧の変化を肌で感じ、兇悪な刃が吹っ飛んでいく。
 
 バガァァァ―ン。

 それは、後方のアストラル界の壁に激突。そこに深い刃の痕を作った。
 かわされた――
 そう思った瞬間、俺の眼前に、その顔があった。

「すごい攻撃です。さすが私のアイン。天才で、最強、私の良人となる――」

 その攻撃をかわしておいて褒める。シャラートの声音でだ。
 密着するような距離。いつの間にか、シャラートはそこにいた。

 むにゅん――
 
 俺の胸に、おっぱいが当った。この柔らかさ、弾力――
 俺専用で俺だけがモミモミ、チュウチュウし放題のおっぱい。
 間違いない。これは、シャラートのおっぱい……

「どうしたのですか? いいのですよ。いつでも、さあ。いつものように、アインだけが揉んでいいのです。吸ってもいいのです。アインに揉まれるのは私にとってとても、とても気持ちのいいことなのです」

 更にその凶悪な大きな胸を押しつけてくる。

『なんて、身のこなしなの…… 信じられないって! アイン! ちょっとなにやってんの!』

 おおッ!! 危ない。
 俺は無意識に、おっぱいに手を伸ばしていた――
 このまま、モミモミするところだった…… モミモミすれば、それは必然としてチュウチュウに移行する。このシャラートのおっぱいに溺れてしまうところだった。

「ちぃッ!」

 歯を食いしばり、本能をダイレクトに誘惑してくる攻撃を振りきる。
 俺は、後方に跳んだ。

「逃げられません。アイン」
「なっ! なんでぇ!」

 俺の動きに全く遅れることなく、密着した距離を保ってシャラートが追ってくる。
 おっぱいが離れない。ぴったりくっついている。
 一瞬、殺られたと思う。

 チャクラム――
 そいつが、俺の首を襲う……
 そう思った。

 しかし、来ない。どんな攻撃もこない。

「ああ…… アインの体温が私の胸に沁み込んでくるのです。さあ、いくらでも蹂躙していいのです。私のおっぱいを――」

 熱い吐息とともに、サイコのお姉さまそのもののセリフ。

「私には、アナタが必要なのです。アイン―― おっぱいから、そして―― それ以上を……」

 透明でありながら、どこか狂気の熱を秘めた言葉。
 俺の腹違いの姉、護衛メイド、許嫁、痴女でサイコ。俺にガチ惚れのシャラートの声だ。

 すっと俺の耳元に唇を寄せる。動けない。いや、動いたとしても無駄か……
 このシャラートを振り切れる気がしない。

「欲しいのです。遺伝子が、アインの遺伝子―― 私の中をドロドロにするほどの、遺伝子が欲しいのです。アインに孕ませて欲しいのです」

 やけに熱を持った吐息が耳にあたる。シャラート本人としか思えない言葉。
 隙あらば、俺にエロいことを仕掛け、俺の子どもというか、遺伝子を注ぎ込ま江れるのを願っていた彼女そのものだ。

 しかし――
 違う。コイツは……

「うぉぉぉぉ!!!」

 筋肉にありったけの魔力を流し込んだ。指の先まで魔力が流れ込む。
 拳を握りこむ。膨大なパワーを握りこんだのと同じだ。
 俺はパンチをかます。思い切り。遠慮なしの一撃。

 くそ―― シャラート……

 至近距離から、一気に顔面をぶち抜くコース。
 拳が伸びきった。その瞬間、俺は空振りしたことが分かる。
 シャラートは涼しい顔をして、まだそこにいた。
 長い黒髪だけが風圧の中、高く舞い上がっていただけだ。
 
 どうやってかわされたのかもわからない動き。

「拳ではなく、別のものが、欲しいのです。私の身体の奥深くまで届き、痺れるような一撃の―― ああ…‥ 愛していますアイン」

 完全に抱きかかえられた。密着するシャラートの巨乳。その柔らかさと弾力が俺の胸に溶けこんでくる。
 
「あああ!! どこを! なにをぉぉ!」
 
 このシャラートが、俺の大事なところを細い指で弄ぶように撫でだした。恐ろしい攻撃だ。理性が…… 理性がぁぁぁ!!
 歯を食いしばる俺。あがらうことができるの? 俺。 やばい。やばいんだけどぉぉぉ。 

 俺の目と鼻からヌルヌルと生暖かい物が流れてきた。
 それが、口に達する。舐めた、鉄の味。血だ―― 目血と鼻血だ……

『アイン、魔力が! 魔力が下の方に流れ込んでるわ!』
『下ぁぁ?』
『アインがよく、ひとりでいじったり、アンタのビッチな女たちがよくいじっている場所――』

 分かった。それ以上言うな。
 血流が流れ込むのが普通の人間だ。
 俺は体内に七つの巨大な魔力回路を持っている。魔力のパワーニユットだ。
 生み出される膨大な魔力が、一か所に流れ込もうとしている。ヤバい。パンパンになる。
 魔力でパンパンになって、破裂してしまうかもしれない――

「おぉぉぉがぁぁ!!」

 叫ぶと同時に、シャラートの肩を掴み、振り払う。
 ふわりと、シャラートは飛んで着地した。まるで、そこだけ重力の数値が違うんじゃないかと言う感じだった。

「無駄な抵抗は止めた方がいいと思いますけどね」

 シャラートの声ではない。別の者。
 ここにいる、誰の声でもない。
 しかし、俺はその声の主を知っている。

「オウレンツ! てめぇ!! クソ錬金術師が!!」

 声の方を見た。いた。とっさん坊や顔の錬金術師。
 かつては、俺の両親と一緒に、終焉の【シ】と戦った仲間だった男。
 
 認識と攻撃が同時だった。雷だ。

「轟雷!!」

 俺の体内の魔力の流れが変わる。サラームによって魔力が物理力に変換され、叩きこまれる。
 アストラル界でも俺の力は使用できた。

 凄まじい爆音とともに、眩い光。
 数百の稲妻を束ねたような閃光が、ぶちかまされる。
 アストラル界に、オゾン化した大気の匂いが満ちていく。

「予想通り―― 来てくれました。本当に予想通りで、嬉しいとしかいえません」
「なんだ―― てめぇ……」

 ノーダメージ。以前は復活したとはいえ、俺の魔法で潰され、ボロボロになったはずなのに。

『アイン、これ実体化されてないわ。ただのメッセンジャーだわ』
『え?』
『本体はここにはいないわ。ただ、話しているだけ。多分、会話もできない』

「私の話を聞いているとすれば、もうすでに決着はついているか、最終局面。詰み寸前というところでしょうか」
「詰んでねーわ! これからだ! シャラートは絶対に助ける!」

「勇者と【シ】―― その因果。やはり【シ】の復活には、【シ】を封じた勇者の運命力。因果の紐をほどかねばならなかったのですから、大変です」

 俺の声に関係なく、ベラベラと話を続けるオウレンツ。
 やはり、ただ一方的に情報を流すだけの「Bot」みたいな存在か。

「イオォールでは、アナタはシャラートを助けだし、無事シャラートと結ばれる―― そんなシナリオだったんですけどね。こっちの用意した主演女優が、アナタの婚約者を完全に抑え込めなかったようです。結果、こんな遠回りになってしまいましたが……」

「なに言ってやがる? オマエ…… なにを?」

「勇者の血を引くふたりが、交わり、そして子をなす。その子を【シ】の憑代として、この世に【シ】生み出す予定だったのですけどね。遠回りですよ」

 あのイォォールでシャラートが意識を失い、こん睡状態になった。
 つまり、こいつのシナリオ通りなら、シャラートは表面上無事なはずだったってことか?
 それは【シ】の創りだしたシャラートで…… それを表に出さないようにシャラートの中では、俺の知らない戦いがあったのか? それで、シャラートは仮死状態に――

 もし、シャラートが無事に助けられたと俺が思いこんでいたら――
 そうなれば、俺は多分…… いや絶対にシャラートと子作り的なことをいっぱいやっただろう。間違いない。
 エロリィ、ライサ相手にもやるよ。絶対に。今は、シャラートのことがあってふたりに対しても遠慮があるけど、それもない。
 多分、ガンガンやってしまう。途中で意識を失わないように、頑張るだろう。
 いや、意識を失っていてもやること、やってればできる物はできるし……
 波動関数の収束とか以前の問題として。

 で、なに?
 俺とシャラートの子どもが【シ】の憑代? つまり、【シ】を復活させるためのなにかになるのか?

「ああ、遠回りと言えば―― そもそも、アナタは何者なんですか? ってことになるんですが。アイン」

「え? なんだ?」

「最初は、シュバインとルサーナの子に呪詛をかけ、魂を虚ろとしたはずが…… なんで、アナタがいるんでしょう。アナタは誰なんですか? アインザム・ダートリンクと名乗る者――」

 オウレンツの言葉。
 それは、転生した俺の異世界の人生。
 そのカオスに絡みまくった糸を断ち切るかのような鋭さを持っていた。
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