黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

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第七章:ぶち抜け!アストラル体!シャラートを救え!

第一一三話:俺はダンジョンが嫌いだ

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「敵? セントラルドグマ?」

 シャラートの言葉に俺は訊き返す。

「もうね、そこに親玉がいるのよ。汚染源ってことなのよ」

 エロリィの言葉。
 シャラートがコクコクと黙ってうなづいた。

 黒髪の小さなシャラートだ。メガネをかけていない外見6歳から7歳くらいのときのシャラート。
 俺が赤ちゃん時代だった時の姿だ。

 アストラル体の中に存在する無数のシャラートの中のひとり。
 アストラル体の因子である「無意識体」だ。

 アストラル体という精神世界は、無数の無意識体と、それを統合する「意識統合体」という存在で出来ているらしい。
 エロリィが、彼女の父親から聞いたという話だが。

 ということは、あの連れていかれる小さなシャラートたちも「無意識体」だ。
 でもって、まだ汚染されていないように見える。

「無事な者は、セントラルドグマに送り込まれ、汚染されて戻ってくる。そこに、敵がいる」

 ギュッと俺にしがみ付きながら小さなシャラートが言った。
 俺にガチ惚れの部分の結晶体ともいえる無意識体なので、俺に密着したがるのだ。

 クールなメガネのお姉様であるシャラートもいい。
 超ロングのストレートの黒髪。メガネとその奥の涼しげを通り越して怜悧な眼差し。
 鋭さすら感じさせる美貌の持ち主。
 ストライクである。

 しかし、この小さなシャラートもいいのだ。可愛く美しいのである。

「あはッ、なーんだ。簡単じゃん。じゃあ、早くその親玉ぶち殺しに行こうよ! ね、早く! アイン!」

 ライサが釘バットを握りこんだまま、呼吸が荒くなってきている。
 濃厚な殺意が体の中を駆け巡り、パンパンになっている感じだ。
 命ある者を殺戮したくてしょうがなくなっているのだろう。 

 ルビーの瞳が『殺戮兵器のスイッチがONになりました』と主張するかような光を放っている。
 緋色の長い髪をした彼女は目立つ。この上なく目立つ。
 しかし、エロリィが認識をかく乱しているため、俺たちは汚染されたシャラートの無意識体には見つかっていないのだ。

「とにかく、あのシャラート達を追うか」

 その先がセントラルドグマという場所で、そこに敵がいるのだろう。

「そうなのよ、その先で親玉をぶち殺せばいいのよ」

 エロリィがギュッと拳を握りしめ言った。
 なんだかんだ言っても、仲間意識があるのだろう。

 エロリィ、シャラート、ライサは全員俺の嫁になるのである。
 ハーレムだ。
 やっぱ、ハーレムの中が殺伐としているより「キャッハウフフ」的な世界観を共有して欲しい。
 ちょっと、俺も暖かい気持ちになった。

「もうね、ここでホルスタインメガネ乳に恩を売って、いずれ私の下僕にするのよぉぉ~ キャハハハハハハ!!」

 俺の思いは完全破壊される。一瞬で。

 エロリィは、どす黒い本心を口にする。隠そうともしない。
 金色のツインテールに、北欧の妖精のような美麗で愛らしい容姿。
 この世のロリコンの夢を結晶化したような麗しき存在がエロリィちゃん。
 しかし、その中身がどす黒い狂気に満ちているのはそのまんま。

「とにかく、クソ乳メガネには元にもどってもらわねーとさぁ」

 ライサが言った。なんだかんだで、ライサはシャラートを認めているのだ。
 戦いの信奉者だけに、シャラートを好敵手として認め、友情的な何かを感じて――

「あはッ、万全な状態になったら、ぶち殺す。私がぶち殺す。死なす。殺す。血の海に沈んだ、クソ乳メガネのふたつの駄肉を切り刻んで踏みつぶしてやるッ! 蹂躙だぁぁぁ!」

 すいません。
 俺が甘かったです。

 俺のハーレムは血の匂いのする冥府魔道をこれからも突き進むのであろうな。
 まあ、エロいことは出来るけど。

 そんなふたりをガン無視して、俺にしがみ付いてスリスリする小さなシャラート。
 柔らかな胸が俺の腕に当たるのだ。
 俺専用の極上の超巨乳はまだ成長途上の可能性の中にあるようだった。

 ああ、早くシャラートの俺専用の俺だけがモミモミ、チュウチュウし放題のおっぱいをとりもどす。
 本来の姿でだ。
 意識不明中にそれをやっても、イマイチなのだ。
 やはり、おっぱいは、いじられたときの反応とワンセットになって価値ある物になる。
 おっぱいの完成度とは、反応とワンセットだ。
 感度と言い換えてもいいかもしれない――

 ただ、モミモミ、チュウチュウできればいいという物ではない。
 今のシャラートは感度ゼロだ。

 俺は、今回の騒動でそのような真理を覚った。
 決してエロい気持ちで試したのではない。
 ガチ惚れの男におっぱいを揉まれることで、意識を取り戻すかなぁと思っただけなのだ。
 チュウで意識を取り戻すお姫様は物語の定番だ。
 であれば、おっぱい揉まれてもあるかと思った。無かったけど。 

 これほどまでに、俺はシャラートを救うのに必死だった。
 いや、おっぱいのためだけじゃないんだ。
 とにかく、救うのである。

 俺たちは、無意識体のシャラート達が捕えられている檻付の馬車のような物を追跡したのである。

        ◇◇◇◇◇◇ 

 檻付の馬車は、街を出ていく。
 というか、街のような場所。全てはシャラートの心が作りだした風景だ。
 そして、そこに存在する無数の無意識体。
 この無意識体の、色々な思いが、ひとつのベクトルとなって、意識を作るらしいのだ。

『人間ってのは意識を無くしても、精神の中は動いてんだな。サラーム』

 俺は俺の中に寄生している羽虫のような精霊に話しかける。
 一応、コイツがいるので、俺は無敵の精霊マスターでいられるのだ。
 ただ、全然ありがたいと思えないのが不思議だ。

『ちょっと気になるわ』
『ん? なにが』
『無意識体のほとんどが汚染されているのに、アインのサイコ乳デカ許嫁が目覚めない』
『それが?』
『無意識体を統合できないくらい、混乱して意識を失っているわけじゃないってことだわ』
『なにが言いたいんだ?』
『この女が意識を失っている理由がよく分からないわ。なんでなのかしら? 無意識体は統制されているわ。なんで意識不明の状態なのかしら』

 サラームの言っていることを俺なりに咀嚼する。
 つまり、シャラートが意識を失ったのは、無意識体の統制がとれなくなって、自我が維持できないという状況が想定されたわけだ。
 しかし、アストラル体に来てみるとそんなことはない。
 完全に【シ】の支配下になっている。
 ちゅーことはなに?

『で、結局何が言いたいんだ? 意識不明の原因がなにか別のことだとまずいのか?』
『いったいどういう仕組みでこの女の意識統合体の制御を奪ったのかしら? それが分からないからなんともいえないけど』
『なんだよ、答えないのかよ!』
『でも、問題あるわ。もしかしたら【シ】は何かの理由で意識を停止しているだけで、その気になればすぐに復活できるのかもしれない』
『え! なんだって…… それって』
『罠ね。罠の可能性もあるわ』

 やばい。確かにそれは考えてなかった。
 しかし、罠か?
 いや、そんな回りくどいことするなら、城の中に入った時点で活動を開始できたはずだ。
 それに、今すぐ行動できる。
 なんせ、俺たちの身体はマッパで縛り付けられているんだ。
 一応、見張りはいるが、セバスチャンというこの世界でも屈指の訳の分からん奴。信用以前の問題。

『罠だとすると、仕掛けるタイミングはいっぱいあっただろ』
『ん~ そうね。だとすると、なんで意識が無いのかしら』

 罠にしては辻褄が合わないことが多すぎる。
 それに、そんな罠を仕掛けられるなら、シャラートが正常に戻ったと見せかけて、俺を殺すことだってできたはずだ。
 不合理だ。

 心に湧く疑念を理屈でなんとか抑え込む。
 とにかく、今はどうこう言ってられん。行くしかない。

 馬車はゆっくり進む。つーか馬車はたいていの場合、徒歩程度の速度しかでないのだが。
 そして――
 そこに到着した。

「ダンジョンか……」

 俺は顔をぐんにゃりさせて言った。

 俺の大嫌いなダンジョンに入っていくのだ。
 五歳で親父に修行の名の元に放置されたこと。
 日本の高校からいきなり強制転移でダンジョン生活を強いられたこと。

 そんなことがあったので、俺はダンジョン大嫌いなのだ。

「この先がセントラルドグマなのよ」

「あはッ、あのクソメガネ乳に相応しい陰気で真っ黒な穴だな。馬車が入るとかガバガバだし。絶対に膜とかないよな。あははは!」

 ライサが言った。そういえば、釘バットがいつの間には手から無くなっている。
 女だけにあるというアイテムボックスにしまったのだろうか?
 この世界の謎のひとつ。女だけにあるアイテムボックスに……

 馬車は穴つーか、ダンジョンの中にどんどん入っていく。

「アイン、どうしたのよ。行くのよ、早く!」

「ああ。分かっているけどさ」

 俺は足取りも重く、ダンジョンに入っていく。
 シャラートを助けるためなのだ。
 くそ。よく考えてみれば、俺がダンジョン大嫌いになったのは親父のせいじゃね? なんか、腹立ってきた。

「あれ? 馬車は」

 馬車がいない。ダンジョンの中は壁全体が薄っすら発光していて、暗いことはない。
 しかし、結構複雑に道が分岐していた。おそらくどこかを曲がったのだ。

「もうね、グズグズしているからなのよ!」

 パンパンと足を踏み鳴らし怒りをあらわにするエロリィ。
 地に着かんばかりの長いツインテールが揺れまくる。 

「とにかく、真っ直ぐ突っ込めばいいんじゃね? 行くか?」

 全く根拠のない突撃を提案するライサ。
 余計に分けわからなくなってしまう。勘弁してくれ。

「あっちに行きました」

 すっと指さす小さなシャラート。
 黒い瞳が前方を見つめている。

「あはッ、真っ直ぐだ。行こう! なんか殺せそうな奴はでてこないかなぁ♪ もう、なんでもいいから、ぶち殺したいんだけど!」

 ライサはまた、いつの間には釘バットを手にしている。
 しかも、メリケンサックまでハメていた。
 本当に謎だ。女だけのアイテムボックス。 

「真っ直ぐいって、3つめを右―― あ、今左に曲がりました」

 小さなシャラートが呟くようにして言った。

「分かるのか?」

「分かります。アイン、私には分かるのです。だから、チュウしてください」

 そう言って、ピョンと俺に飛び付き身長差を無くす。
 腕を首に回して、チュウしようとしてくる。

「いや、それは後でだ! まずは、馬車を追おう」

 俺は小さなシャラートを抱きかかえて降ろす」

 マジで理性が切り裂かれそうになるわ。
 小さくなっても、俺のドストライクだし、いい匂いするし、綺麗な上に可愛いいし……
 それでも、今は我慢だ。

 シャラートだけにキスはできない。
 ここでキスすれば3人にキスして、ドロドロになってしまうのだ。

「もうね、本当にメガネ乳はすぐ発情するのよ!」

 自分のことなど、心の棚に収納してナチュラル・ボーン・ビッチ様のエロリィが言い放つ。

 とにかく、シャラートの指示に従い俺たちは進むのであった。
 このダンジョンの中をである。

 いくらシャラートの精神が作ったものでも俺はダンジョンが嫌いだ。
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