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第六章:禁忌の島とパンゲア王国復興計画
第一〇一話:父と娘、水入らず。お湯はある
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「なあ、ライサ」
俺はメシをかっ込んでいるライサに声をかけた。
たぶん、七杯目くらいのお代わりを食べている最中。
「ん?」
混沌竜(カオス・ドラゴン)のスープで口の周りが汚れている。
ルビーの真紅の瞳でライサは俺を見た。
「誰これ?」
「知らない」
チラリと視線を動かし、そのまま食べ続けるライサ。
「そうかぁ」
「あはッ、アイン、お代わりは?」
「いや、もう俺は腹いっぱいだし」
食器を置いて、ごちそう様の挨拶をする俺。
それを見て、鷹揚にうなずくナグール王。
「じゃあ、私が食べ終わったら、お風呂入ろう!」
ライサがまたお代わりした。洗面器サイズのドンブリ8杯目だ。
「あはッ! 当然一緒にだから」
「おう」
「もうね、私も一緒にアインとお風呂に入るのよ!」
エロリィが俺にくっつく。
彼女は既に食べ終えていた。体にしては彼女もかなり食う。
エロリィは、金髪ツインテールの先を掴んで俺の首元をスリスリする。
細い金糸のような髪が肌に触れるのが気持ちいい。
可憐で可愛らしい容姿から想像できないほどのエロい行為を平然とやる。
それが、禁呪のプリンセス、エロリィだ。
ライサもエロリィも俺の許嫁だ。大事な存在だ。
そして、更にだ――
俺には、暗殺者で痴女でサイコで俺専用の大きなおっぱいを持った大事な許嫁がいる。
シャラート。
クソ錬金術師にとらわれた俺の許嫁。
ここを発ったらすぐに行く。助けに行く。
もう、その準備はできた。
「あはははは! こりゃ、孫が見れる日も近いかよ」
ナグール王が豪快に笑いながら言った。
「いやぁ、お義父さん、どうでしょうかねぇ~」
銀と黒で分かれた髪の毛をかきながら答える俺。
視界の隅で、プルプルと震える男。
「お前らなんで、俺を無視するんだよぉぉ!! 特に、ライサぁぁ!! なんで俺をぉぉ!」
よーしらん男が絶叫。
面倒クサいのでスルーしてやろうと思ったのに、なんで絡んでくるのか。
『これは、あれね。アンタの女(バシタ)の前の男だわ。そういうのが出てきてライバル宣言。そこからライバル間で愛が芽生えて――』
『オマエの腐った妄想はいいから』
サラームが腐った妄想をぶちまけるのを俺が止める。
『立ち会えって言ってたわ。殺せばいいの? 殺そうか。すぐに。スパーンって』
『やめろよ。マジで』
本当にな。やめろって。
まあ、そもそも俺に「立ち会え」なんて言うのを止めてほしいんだが。
俺に対し、立ち会いを要求とか、自殺行為だからな。
俺の中には、サラームちゅう「精霊」が棲んでる。
コイツは命なんて屁とも思ってないぞ。
生きとし生けるものの生命を奪うことに躊躇がない。いや、むしろ娯楽だからな。
完全に空気として無視されている雰囲気になった。
普通であれば、涙目になって立ち去るレベルだ。
それでも、その男はプルプル震えながら立っていた。
ギュッと拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。
ちょっと涙目だった。
が、メンタルはまあまあ強いのかと思う。
一瞬上を向いて顔を袖でぬぐった。
そして、ビシッと俺を指さしやがった。
「ライサ! 婚約者は俺のはずだろ! なぜ、こんなツートーンカラー髪の変なおと――」
ドガァァァ――
男は顔面から血の尾を引きながら、吹っ飛んでいく。
たぶん、口の形は「こ」のままなんだろうなぁと思いながら、飛でく物体を見る。
クルクルと縦回転しながら、壁に激突。そのまま突き抜けて飛んで行った。
「あはッ! なんで? オメェが婚約者? ブチ殺すぞ。マキレ――」
メリケンサック付の右拳を振りぬいたポーズのまま、ライサは言った。
つーか、下手したら、もう死んでるかもしれんな。直撃だもんな。
「あの男、マルキ…… つーの?」
俺は人間が貫通した壁の穴を見ながら言った。
土壁かな。厚さ50センチくらいあるよな。
「マルキじゃなくて、マキレ、マキレシスだよ」
俺の正面に座っていたライサのオヤジさんが言った。
◇◇◇◇◇◇
ナグール王国のお風呂は熱かった。
慣れるまでちょっと時間がかかったが、慣れれば気持ちいい。
でもって、露天風呂。まあ、風景は密林しかないわけだが。
石を隙間なく敷き詰めた大きな風呂だ。
山城のような城だが、やはり風呂は立派。これは正しいことだと思うのだ。
「昔は温泉だったんだけどね。今は、沸かしているみたい」
「まあ、地面ごと滑って密林に来たわけだしな」
俺の広げた足の間にライサが座っている。
背中を俺の体に密着。あれだけの戦闘を繰り返しているのにスベスベの肌だ。
当然、俺は湯船の中で、そのおっぱいを洗ってあげるのである。
手で優しく洗う。ときどき揉んであげるのは許嫁としての義務だ。
「あはッ、アインは、先っちょばかり洗うよね」
ライサから甘い吐息のような声が漏れるので、俺も楽しい。
「もうね、アインの背中も結構広くて好きなのよ」
エロリィは俺の後ろから抱きついている。
細い腕が俺の首に巻きつき、背中に胸が密着。クリクリとそれが動いているのである。
俺の背中を洗っているのだろう。気持ちいい。
硬い芯の残ったイジェクトボタンが俺の背中を這いまわるのは至高の感触だった。
「ところで、あの男って何なの?」
「あはッ! アイン、妬いてる?」
「いや、そうじゃなくてさ」
確かに、まあ結構顔は良かったかもしれない。
隻眼で隻碗。
まあ、ライサに一撃吹っ飛ばされたので、妬くもなにもないんだけどね。
「きゃははははッ! アンタは前の男のところに行っていいのよ。ここ残ってあの男の嫁になってもいいのよ!」
「ばーか、殺すぞ? 前の男じゃねーよ!」
俺を間に挟んで、エロリィとライサのガールズトークだった。
「婚約者だったのか?」
「全然! 勝手に思い込んでるだけ」
ライサは俺におっぱいを揉まれながら、説明した。
マキレシスはライサに片思いして求婚。
かなり前らしい。ませガキだ。
でもって、振られる。それだけではなく、何度もライサにぶちのめされたらしい。
「それって、マゾか……」
俺の脳裏に親友の姿が浮かぶ。性癖的にはアレに近いのか?
エルフの千葉……
今は何をしているのだろう。
「あはッ、違うと思うけどね~ 本当にあの時、殺しておけばよかった」
ライサは話を続けた。
ライサに振られ続けた奴は「武者修行に出る! 最強の男になってオマエを嫁にする」と宣言し、ナグール王国を出たらしい。
でもって、戻ってきたのが数年前。
武者修行に意味がなかったのは、すでに分かっていることだ。
「アイツ、弱いまま戻ってきたからね」
「そうかぁ」
もしかしたら強くなったのかもしれない。
しかし、相手が超絶美少女兵器といえるライサではどうにもならんだろう。
「その上、呪われてきやがった――」
「呪い?」
不穏当な言葉に訊き返す俺。
「湯加減はどうかね! 娘と一緒は久しぶりだな~」
唐突な太い声。
いきなり、肉厚で熱気を帯びた気配が風呂場に出現。
「オヤジ!! てめぇ!!」
叫んでライサが立ち上がった。ザバッとお湯が飛び散る。
キュッとしまった腰から、芸術といっていいラインのお尻が俺の視界を塞いだ。
「婿殿の背中を流してやるのだよ―― 裸の触れあい。良きことだ――」
俺の顔をグンニャリさせるようなことを、悠然と言い放った。
筋肉巨体のオヤジが全裸で風呂乱入だったのだ。
悠々と歩を進める。一糸まとわぬマッパ。
巨体ゆえにミシミシと風呂場に敷かれた石が軋むようだった。
「もうね! 私の肌はアイン以外の男には見せないのよッ!」
エロリィが俺の背中に隠れて、しがみ付く。
意外な反応に驚く俺。問答無用で禁呪ぶち込みかと思ったわ。
いや、まあ…… 女の子としては、これが正解に近いが。
「あはッ、娘の入浴中に、風呂に入ってくるとはいい度胸だな…… オヤジ…… 死ぬか? 殺されたいのか?」
バチバチと放電するような殺気を身にまとい、ライサが湯船から出た。
濡れた長い髪が闘気で乾いていくようだった。
非対称の長髪が炎のような色を持ってゆらゆらと空間に舞い始める。
「ほう…… 最近まで一緒に入っていたはずだが……」
「オヤジの言う最近は、いつだ? あぁ~」
「さぁて……」
「とぼける気か?」
「王の俺が最近といえば、最近だよ」
「あはッ、そうかよ」
「では、腕づくかね?」
「上等だ――」
「殺す気で来なさい」
「当然だろ。殺してやる。殺す」
父と娘の間に鋼のような緊張が生まれいた。
大気が硬質化し軋みをあげるような感じだった。
ただ、二人とも全裸――
ライサの右拳が唸りを上げると同時に、父娘喧嘩が始まった。
「出るか……」
「もうね、親子水入らずを邪魔しないのよ」
俺とエロリィは湯船を上がった。
闘いの雄叫びと破壊音が、露天風呂に響いていた。
◇◇◇◇◇◇
「きゃはははは! 行くのよ。もうね、早くあの、糞メガネ乳を助けてやって、自分の立場を分からせてやるのよぉ」
エロリィの哄笑が響き渡る。
密林の中の名も知れぬ鳥が、驚き飛び立っていく。
俺たちは、ライサの実家で一晩過ごした。そして旅立つ。
そうだ。シャラートを助けるためだ。
「しかし、昨日は傑作だったのよ。もうね、ボロボロになっていたのよ、いい気味なのよ」
「うるせぇ、殺すぞ、糞ビッチロリ姫!」
ライサがギチギチと歯を鳴らしながら言った。
昨晩、俺とエロリィは風呂を上がって、部屋に戻った。
エロいことしようかと思ったけど、ライサが戻って来てからと思い待っていた。
エロリィもなぜか、大人しくライサを待っていた。
俺は、コイツらは複数プレイの方が好きなのではないかという疑念を持っている。
確か、シャラートは「他の女がいた方が燃えるのです――」と言っていた気がする。
エロリィ、ライサも同じかもしれない。
ライサは戻ってきたが、顔にあざを作って、鼻血を噴いていた跡があった。
更に、右手肘の関節が折れてたし。全身ボロボロに近かった。
この国の親子喧嘩ならこれくらいは想定内だ。さすが、傭兵が主産業の戦闘民族の王国だ。
まあ、回復魔法で治せるので、心配はない。
ライサは「くそぉぉ、オヤジの奴…… 相変わらず、つぇぇ……」と言いながらも、なんか嬉しそうな感じだった。
父親が強いというのは、嬉しいのだろう。なんか俺は分かる気がした。
でもって、ライサの傷を治して、エッチなことして朝起きた。
当然、記憶が途中でぶっ飛んでいる。
戦闘の興奮を引きずって、ライサが凄まじく激しかった。で、エロリィもそれに煽られるし……
あまりの気持ちよさに意識が3分もたなかったと思う。
結果、俺はシュレディンガーのDT状態のままだ。
「んじゃ、行くか? 大丈夫か? エロリィ」
「誰に向かって言ってるのよ? 私は禁呪の天才のプリセスなのよ!」
すぅぅっとエロリィが空気を吸い込んでいく。
足元に複層魔法陣が出来あがる。
青い魔力光が立ち上がる。
細く幼い肢体を包み込んだ聖装衣・エローエがパタパタと揺れる。
燐光のような光を纏うエロ漫画の描かれた貫頭衣。バスタオルに穴開けて紐つけただけの作りだ。
「まてぇぇ!! 俺と立ち会え!!」
「はぁ?」
「もうね、なによ!」
「チッ! てめぇ…… 殺すかぁ」
叫び声に、エロリィが禁呪を止める。
俺たちは声の方向を見やった。
「誰あれ?」
俺はその視界に入ってきた人を見ていった。
知らん人。つーか、女の子。
なんか、隻碗で隻眼の女の子だった。
「ライサを置いていけ! 俺と立ち会え」
十分、ヒロインレベルと言っていい可愛い声が響く。
「いや、誰だよ?」
「マキレシス」
ライサが投げ捨てる様に言った。
「はい?」
「だから、呪い。コイツは、武者修行でなんかの魔族を倒したときに、片目、片腕を無くして、おまけに呪いまで受けた」
ライサは、ビシッとその女の子を指さす。
背丈は、女の子としては標準くらいだ。
長身のライサより低いが、エロリィよりは高い。
でもって、黒髪を三つ編みお下げにしている。
『なんか、この髪型で男になったり女になったり、お湯ね、お湯をかければ、男に戻るわ! アイン』
『いや、さすがにそれは……』
言いかけて否定ができない。
この異世界は何があるか分かった物ではないからだ。
「呪いって?」
「コイツ、一日おきに、男になったり女になったりするから!」
ライサが言った。
性転換にお湯は必要ない。なんだ? このホッとする感じは。
「アインザム! この俺と立ち会え!」
あの吹っ飛ばされた男が結構可愛い女の子になってやって来たのだ。
そして、俺の立ち合いを要求している。
なんだ、この状況は……
俺は先を急いでいるんだけど。
そのときだった。
青く輝く、複層魔法陣が展開された。
「エロリィ?」
「私じゃないのよぉ!」
地面から空間にかけ、複雑でフラタクルに見える紋様が回転していた。
青い魔力光が立ち上がり、空間を染めて行く。
呪われた性転換男女のせいかと思ったが、驚きの顔をしている。違う。
「ああん~ いいのよ。どこにいても分かるの、天成君の居る場所――
ううん、決していやらしくないわ。教師として、教え子の居場所を知っているのは必要なことですもの
(あはぁん、天成君、だめよ。先生を置いていってしまっては、逃げると燃えるのが女という生き物なの。分かるかしら、うふん。でも、私が追いかけちゃ迷惑? 28歳の女教師が、教え子に思いを寄せたらいけないかしら、あああん~)」
先生だった。
この状況で、カオスの結晶体ともいえる女教師・池内真央先生の出現だった。
ダダ漏れエロスの女教師、28歳。
魔族と混ざり合った存在だ。
「天成ぃ!! ここにいたのか!」
「千葉! オマエも、なんで?」
エルフの千葉も魔法陣の光の中にいた。
なんだか、よく分からんが、状況がグダグダのカオスになりそうな予感だけはあった。
確実に。
俺はメシをかっ込んでいるライサに声をかけた。
たぶん、七杯目くらいのお代わりを食べている最中。
「ん?」
混沌竜(カオス・ドラゴン)のスープで口の周りが汚れている。
ルビーの真紅の瞳でライサは俺を見た。
「誰これ?」
「知らない」
チラリと視線を動かし、そのまま食べ続けるライサ。
「そうかぁ」
「あはッ、アイン、お代わりは?」
「いや、もう俺は腹いっぱいだし」
食器を置いて、ごちそう様の挨拶をする俺。
それを見て、鷹揚にうなずくナグール王。
「じゃあ、私が食べ終わったら、お風呂入ろう!」
ライサがまたお代わりした。洗面器サイズのドンブリ8杯目だ。
「あはッ! 当然一緒にだから」
「おう」
「もうね、私も一緒にアインとお風呂に入るのよ!」
エロリィが俺にくっつく。
彼女は既に食べ終えていた。体にしては彼女もかなり食う。
エロリィは、金髪ツインテールの先を掴んで俺の首元をスリスリする。
細い金糸のような髪が肌に触れるのが気持ちいい。
可憐で可愛らしい容姿から想像できないほどのエロい行為を平然とやる。
それが、禁呪のプリンセス、エロリィだ。
ライサもエロリィも俺の許嫁だ。大事な存在だ。
そして、更にだ――
俺には、暗殺者で痴女でサイコで俺専用の大きなおっぱいを持った大事な許嫁がいる。
シャラート。
クソ錬金術師にとらわれた俺の許嫁。
ここを発ったらすぐに行く。助けに行く。
もう、その準備はできた。
「あはははは! こりゃ、孫が見れる日も近いかよ」
ナグール王が豪快に笑いながら言った。
「いやぁ、お義父さん、どうでしょうかねぇ~」
銀と黒で分かれた髪の毛をかきながら答える俺。
視界の隅で、プルプルと震える男。
「お前らなんで、俺を無視するんだよぉぉ!! 特に、ライサぁぁ!! なんで俺をぉぉ!」
よーしらん男が絶叫。
面倒クサいのでスルーしてやろうと思ったのに、なんで絡んでくるのか。
『これは、あれね。アンタの女(バシタ)の前の男だわ。そういうのが出てきてライバル宣言。そこからライバル間で愛が芽生えて――』
『オマエの腐った妄想はいいから』
サラームが腐った妄想をぶちまけるのを俺が止める。
『立ち会えって言ってたわ。殺せばいいの? 殺そうか。すぐに。スパーンって』
『やめろよ。マジで』
本当にな。やめろって。
まあ、そもそも俺に「立ち会え」なんて言うのを止めてほしいんだが。
俺に対し、立ち会いを要求とか、自殺行為だからな。
俺の中には、サラームちゅう「精霊」が棲んでる。
コイツは命なんて屁とも思ってないぞ。
生きとし生けるものの生命を奪うことに躊躇がない。いや、むしろ娯楽だからな。
完全に空気として無視されている雰囲気になった。
普通であれば、涙目になって立ち去るレベルだ。
それでも、その男はプルプル震えながら立っていた。
ギュッと拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。
ちょっと涙目だった。
が、メンタルはまあまあ強いのかと思う。
一瞬上を向いて顔を袖でぬぐった。
そして、ビシッと俺を指さしやがった。
「ライサ! 婚約者は俺のはずだろ! なぜ、こんなツートーンカラー髪の変なおと――」
ドガァァァ――
男は顔面から血の尾を引きながら、吹っ飛んでいく。
たぶん、口の形は「こ」のままなんだろうなぁと思いながら、飛でく物体を見る。
クルクルと縦回転しながら、壁に激突。そのまま突き抜けて飛んで行った。
「あはッ! なんで? オメェが婚約者? ブチ殺すぞ。マキレ――」
メリケンサック付の右拳を振りぬいたポーズのまま、ライサは言った。
つーか、下手したら、もう死んでるかもしれんな。直撃だもんな。
「あの男、マルキ…… つーの?」
俺は人間が貫通した壁の穴を見ながら言った。
土壁かな。厚さ50センチくらいあるよな。
「マルキじゃなくて、マキレ、マキレシスだよ」
俺の正面に座っていたライサのオヤジさんが言った。
◇◇◇◇◇◇
ナグール王国のお風呂は熱かった。
慣れるまでちょっと時間がかかったが、慣れれば気持ちいい。
でもって、露天風呂。まあ、風景は密林しかないわけだが。
石を隙間なく敷き詰めた大きな風呂だ。
山城のような城だが、やはり風呂は立派。これは正しいことだと思うのだ。
「昔は温泉だったんだけどね。今は、沸かしているみたい」
「まあ、地面ごと滑って密林に来たわけだしな」
俺の広げた足の間にライサが座っている。
背中を俺の体に密着。あれだけの戦闘を繰り返しているのにスベスベの肌だ。
当然、俺は湯船の中で、そのおっぱいを洗ってあげるのである。
手で優しく洗う。ときどき揉んであげるのは許嫁としての義務だ。
「あはッ、アインは、先っちょばかり洗うよね」
ライサから甘い吐息のような声が漏れるので、俺も楽しい。
「もうね、アインの背中も結構広くて好きなのよ」
エロリィは俺の後ろから抱きついている。
細い腕が俺の首に巻きつき、背中に胸が密着。クリクリとそれが動いているのである。
俺の背中を洗っているのだろう。気持ちいい。
硬い芯の残ったイジェクトボタンが俺の背中を這いまわるのは至高の感触だった。
「ところで、あの男って何なの?」
「あはッ! アイン、妬いてる?」
「いや、そうじゃなくてさ」
確かに、まあ結構顔は良かったかもしれない。
隻眼で隻碗。
まあ、ライサに一撃吹っ飛ばされたので、妬くもなにもないんだけどね。
「きゃははははッ! アンタは前の男のところに行っていいのよ。ここ残ってあの男の嫁になってもいいのよ!」
「ばーか、殺すぞ? 前の男じゃねーよ!」
俺を間に挟んで、エロリィとライサのガールズトークだった。
「婚約者だったのか?」
「全然! 勝手に思い込んでるだけ」
ライサは俺におっぱいを揉まれながら、説明した。
マキレシスはライサに片思いして求婚。
かなり前らしい。ませガキだ。
でもって、振られる。それだけではなく、何度もライサにぶちのめされたらしい。
「それって、マゾか……」
俺の脳裏に親友の姿が浮かぶ。性癖的にはアレに近いのか?
エルフの千葉……
今は何をしているのだろう。
「あはッ、違うと思うけどね~ 本当にあの時、殺しておけばよかった」
ライサは話を続けた。
ライサに振られ続けた奴は「武者修行に出る! 最強の男になってオマエを嫁にする」と宣言し、ナグール王国を出たらしい。
でもって、戻ってきたのが数年前。
武者修行に意味がなかったのは、すでに分かっていることだ。
「アイツ、弱いまま戻ってきたからね」
「そうかぁ」
もしかしたら強くなったのかもしれない。
しかし、相手が超絶美少女兵器といえるライサではどうにもならんだろう。
「その上、呪われてきやがった――」
「呪い?」
不穏当な言葉に訊き返す俺。
「湯加減はどうかね! 娘と一緒は久しぶりだな~」
唐突な太い声。
いきなり、肉厚で熱気を帯びた気配が風呂場に出現。
「オヤジ!! てめぇ!!」
叫んでライサが立ち上がった。ザバッとお湯が飛び散る。
キュッとしまった腰から、芸術といっていいラインのお尻が俺の視界を塞いだ。
「婿殿の背中を流してやるのだよ―― 裸の触れあい。良きことだ――」
俺の顔をグンニャリさせるようなことを、悠然と言い放った。
筋肉巨体のオヤジが全裸で風呂乱入だったのだ。
悠々と歩を進める。一糸まとわぬマッパ。
巨体ゆえにミシミシと風呂場に敷かれた石が軋むようだった。
「もうね! 私の肌はアイン以外の男には見せないのよッ!」
エロリィが俺の背中に隠れて、しがみ付く。
意外な反応に驚く俺。問答無用で禁呪ぶち込みかと思ったわ。
いや、まあ…… 女の子としては、これが正解に近いが。
「あはッ、娘の入浴中に、風呂に入ってくるとはいい度胸だな…… オヤジ…… 死ぬか? 殺されたいのか?」
バチバチと放電するような殺気を身にまとい、ライサが湯船から出た。
濡れた長い髪が闘気で乾いていくようだった。
非対称の長髪が炎のような色を持ってゆらゆらと空間に舞い始める。
「ほう…… 最近まで一緒に入っていたはずだが……」
「オヤジの言う最近は、いつだ? あぁ~」
「さぁて……」
「とぼける気か?」
「王の俺が最近といえば、最近だよ」
「あはッ、そうかよ」
「では、腕づくかね?」
「上等だ――」
「殺す気で来なさい」
「当然だろ。殺してやる。殺す」
父と娘の間に鋼のような緊張が生まれいた。
大気が硬質化し軋みをあげるような感じだった。
ただ、二人とも全裸――
ライサの右拳が唸りを上げると同時に、父娘喧嘩が始まった。
「出るか……」
「もうね、親子水入らずを邪魔しないのよ」
俺とエロリィは湯船を上がった。
闘いの雄叫びと破壊音が、露天風呂に響いていた。
◇◇◇◇◇◇
「きゃはははは! 行くのよ。もうね、早くあの、糞メガネ乳を助けてやって、自分の立場を分からせてやるのよぉ」
エロリィの哄笑が響き渡る。
密林の中の名も知れぬ鳥が、驚き飛び立っていく。
俺たちは、ライサの実家で一晩過ごした。そして旅立つ。
そうだ。シャラートを助けるためだ。
「しかし、昨日は傑作だったのよ。もうね、ボロボロになっていたのよ、いい気味なのよ」
「うるせぇ、殺すぞ、糞ビッチロリ姫!」
ライサがギチギチと歯を鳴らしながら言った。
昨晩、俺とエロリィは風呂を上がって、部屋に戻った。
エロいことしようかと思ったけど、ライサが戻って来てからと思い待っていた。
エロリィもなぜか、大人しくライサを待っていた。
俺は、コイツらは複数プレイの方が好きなのではないかという疑念を持っている。
確か、シャラートは「他の女がいた方が燃えるのです――」と言っていた気がする。
エロリィ、ライサも同じかもしれない。
ライサは戻ってきたが、顔にあざを作って、鼻血を噴いていた跡があった。
更に、右手肘の関節が折れてたし。全身ボロボロに近かった。
この国の親子喧嘩ならこれくらいは想定内だ。さすが、傭兵が主産業の戦闘民族の王国だ。
まあ、回復魔法で治せるので、心配はない。
ライサは「くそぉぉ、オヤジの奴…… 相変わらず、つぇぇ……」と言いながらも、なんか嬉しそうな感じだった。
父親が強いというのは、嬉しいのだろう。なんか俺は分かる気がした。
でもって、ライサの傷を治して、エッチなことして朝起きた。
当然、記憶が途中でぶっ飛んでいる。
戦闘の興奮を引きずって、ライサが凄まじく激しかった。で、エロリィもそれに煽られるし……
あまりの気持ちよさに意識が3分もたなかったと思う。
結果、俺はシュレディンガーのDT状態のままだ。
「んじゃ、行くか? 大丈夫か? エロリィ」
「誰に向かって言ってるのよ? 私は禁呪の天才のプリセスなのよ!」
すぅぅっとエロリィが空気を吸い込んでいく。
足元に複層魔法陣が出来あがる。
青い魔力光が立ち上がる。
細く幼い肢体を包み込んだ聖装衣・エローエがパタパタと揺れる。
燐光のような光を纏うエロ漫画の描かれた貫頭衣。バスタオルに穴開けて紐つけただけの作りだ。
「まてぇぇ!! 俺と立ち会え!!」
「はぁ?」
「もうね、なによ!」
「チッ! てめぇ…… 殺すかぁ」
叫び声に、エロリィが禁呪を止める。
俺たちは声の方向を見やった。
「誰あれ?」
俺はその視界に入ってきた人を見ていった。
知らん人。つーか、女の子。
なんか、隻碗で隻眼の女の子だった。
「ライサを置いていけ! 俺と立ち会え」
十分、ヒロインレベルと言っていい可愛い声が響く。
「いや、誰だよ?」
「マキレシス」
ライサが投げ捨てる様に言った。
「はい?」
「だから、呪い。コイツは、武者修行でなんかの魔族を倒したときに、片目、片腕を無くして、おまけに呪いまで受けた」
ライサは、ビシッとその女の子を指さす。
背丈は、女の子としては標準くらいだ。
長身のライサより低いが、エロリィよりは高い。
でもって、黒髪を三つ編みお下げにしている。
『なんか、この髪型で男になったり女になったり、お湯ね、お湯をかければ、男に戻るわ! アイン』
『いや、さすがにそれは……』
言いかけて否定ができない。
この異世界は何があるか分かった物ではないからだ。
「呪いって?」
「コイツ、一日おきに、男になったり女になったりするから!」
ライサが言った。
性転換にお湯は必要ない。なんだ? このホッとする感じは。
「アインザム! この俺と立ち会え!」
あの吹っ飛ばされた男が結構可愛い女の子になってやって来たのだ。
そして、俺の立ち合いを要求している。
なんだ、この状況は……
俺は先を急いでいるんだけど。
そのときだった。
青く輝く、複層魔法陣が展開された。
「エロリィ?」
「私じゃないのよぉ!」
地面から空間にかけ、複雑でフラタクルに見える紋様が回転していた。
青い魔力光が立ち上がり、空間を染めて行く。
呪われた性転換男女のせいかと思ったが、驚きの顔をしている。違う。
「ああん~ いいのよ。どこにいても分かるの、天成君の居る場所――
ううん、決していやらしくないわ。教師として、教え子の居場所を知っているのは必要なことですもの
(あはぁん、天成君、だめよ。先生を置いていってしまっては、逃げると燃えるのが女という生き物なの。分かるかしら、うふん。でも、私が追いかけちゃ迷惑? 28歳の女教師が、教え子に思いを寄せたらいけないかしら、あああん~)」
先生だった。
この状況で、カオスの結晶体ともいえる女教師・池内真央先生の出現だった。
ダダ漏れエロスの女教師、28歳。
魔族と混ざり合った存在だ。
「天成ぃ!! ここにいたのか!」
「千葉! オマエも、なんで?」
エルフの千葉も魔法陣の光の中にいた。
なんだか、よく分からんが、状況がグダグダのカオスになりそうな予感だけはあった。
確実に。
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「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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だけど、その母と娘二人は、
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
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