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第五章:第二次ノンケ狩り戦争
第七八話:さあ、楽しいゲームの始まりです
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「サラーム、なんて言った?」
「だから、いないわよ! もうアレは違うわ、アンタの婚約者で姉で幼なじみのビッチのサイコ女じゃないわ!」
サラームの声が俺の体の中に反響する。
なにを言ってるんだ?
この羽虫が?
今、目の前にいるじゃねーか。
なあ、シャラート……
俺はシャラートを見つめた。
くそ、この手じゃおっぱいを揉めねーんだよ。
二の腕から先が無くなって、断面が回復の水球で包まれている。
俺は、一歩、二歩と踏みしめるようにシャラートに歩み寄った。
三歩目の足が地面に突く瞬間――
硬い金属音が俺の真正面から聞こえた。
赤黒く血を吸いこんだ釘バットが俺の目の前にあった。
そして、ふわりと緋色の長い髪が俺の視界に映る。
「おい、クソ乳メガネ、てめぇは、前から気に入らねェ、クソ女だったが――」
ライサだった。彼女がシャラートの投げたチャクラムを叩き落したのか。
シャラートが俺の首を狙って投げたチャクラム。
今、それは、カラカラと音をたて、足元に転がっている。
「――クソ以下の、ド畜生の、クソ馬鹿女になりやがって! 殺さなきゃならねぇか! 殺すか! やっぱり、オマエは殺すか!」
さっきまで、ガチホモ四天王のリーダーであるアナギワ・テイソウタイと闘い、それを血の海に沈めたライサ。
しかし、彼女自身も相当なダメージを負っている。
それでも俺の前に出て釘バットを構える。
俺の視界の右下の方を通過して前に出て行く金色の物体。
キラキラしたフォトンを放つような金髪ツインテール。
エロリィだ。
「アンタね、アインに手を出して…… もうね、本当に―― 殺すしかないわね。こんな形で、殺すのは――」
強い光を放つ碧い双眸。そして、いつもと変わらぬエロリィの言葉。
しかし、そのどこかに悲しげなものを含んでいるように感じた。俺の主観か…… 気のせいかもしれない。
「殺します。全てを。順番はどうでもいいです」
シャラートがその言葉を発し終えた瞬間だった。
その、存在がぶれた。動きが速いとか、そういう問題じゃない。
存在そのものが揺らいで消えた気がした。
そして唐突に出現した。
古典的な特撮。フィルムをコマの途中を切り落としたような感じだ。
小柄なエロリィよりも更に低くしゃがみこんだシャラートが彼女の目の前に出現していた。
「エロリィ! にッ――」
「逃げろ」と言おうとした俺の言葉はシャラートの動きに全然追いつけなかった。
その言葉を発した瞬間、エロリィの黒い服が下から斜め上に切り裂かれていた。
一瞬、その白い流麗な芸術品のようなフラットな肢体が露わとなる。
そして、白磁のような肌に朱で描いたようなラインが斜めに走っていた。
唐突に発する、バケツで水をまき散らしたような音――
エロリィの身体を斜めに走ったラインから真っ赤な血が大量に吹きだしていた。
決してエロリィは遅くない。禁呪使いにして、「スカンジナビア拳法」も使う。
身体能力の高さだけ見ても、相当な水準にある。そのエロリィが一歩も動けず切り裂かれた。
「ア…… アイン、もうね、なんでよ?」
霞のかかったような碧い眼でこっちを見つめるエロリィ。
精緻な人形のように整った美しい顔にも赤い飛沫が飛んでいた。
『サラーム! 包み込め! 回復の水だ!』
「殺してやる! ぶち殺し! 死ね! 殺す! 死ねやぁぁ!! ド畜生が!!」
俺の声とライサの叫びが交差する。
エロリィは回復の水球に包まれた。血が止まる。おそらくは命を失うことはない。
ライサの釘バットが空間を切り裂き、唸りを上げる。
衝撃波が、壁も床も切り刻み、弾片のような破片をまき散らす。
それが、彼女自身の肌にも食い込み、血を流させる。
それでも止まらない。
空間そのものを粉々に粉砕するかのように釘バットが吼える。
しかし、もうライサも限界だ。
動くだけで、体のどこからか、血が吹きだす。
「本当に! 本当に、つまらねェ! こんなに殺し合いがつまらねェと思ったのは初めてだ!」
ライサが吼えた。いつも明るく殺戮と虐殺の俺の許嫁。彼女が本当に血を吐きながら言った。
「では、終わりにしましょう」
灼熱の温度を持ったライサとは対象的な絶対零度の言葉。
静かな闇の底から発せられたなんの温度も持たない言葉。
シャラート。
「がはッ――」
シャラートの長い脚が、ライサの横腹に突き刺さっていた。
先ほどの戦いで折れた肋骨の上だ。
前のめりになって、血の塊を吐きだしたライサ。
シャラートの追撃。
チャクラムを握り込みそのまま、顔面に向け叩きこむ。
その一撃は柔らかい音とともに、衝撃も吸収された。
ライサが回復の水、その水球に包まれたからだ。
俺の魔法が一瞬だけ早かった。
もし、一瞬でも遅れていたら、チャクラムで顔面が寸断されていた。
そうなったら、即死だ。
「シャラート! やめろ! くそ! 戻れ! 正気に戻れ」
いつも正気かどうかと問われるとかなり怪しいシャラート。
でも、こんなシャラートは俺のシャラートじゃねーんだよ!
おっぱい大きくて、揉むと気持ちよくて、痴女でビッチでエロくて、いつでもどこでも発情して、俺の遺伝子を欲しがって、そのためには手段を選ばない俺の婚約者。
長い黒髪のメガネのクールビューティな生粋の暗殺者。
くそ、ほとんど原型残ってねーぞ!
「シャラート! 愛している! 好きだ! 俺の赤ちゃんを産むんだろ! 孕みたいんだろ! 孕ませてやる!」
俺の愛の絶叫。
しかし、シャラートは冷たい目でこちらを振り返っただけだった。
その顔はクールを通り越し、何の感情もない暗黒の深淵のままだった。
その目は血の色を通り越し、まるで暗黒の虚ろな穴のように見えた。
『もう、無理だわ。あれは――』
『その先を言ったら、叩きだしてケーブル斬るぞ、引きこもり精霊!』
『アイン!』
俺とシャラートが対峙する。
後ろには、回復の水球に包まれたライサとエロリィ。
そして、俺の叩き斬られた腕を拾って抱えているエルフ。
千葉か……
戦力にはならんが、逃げない。コイツはやっぱり心友だ。いや、今は婚約者でもあるか……
母親のルサーナは、錬金術師に吹っ飛ばされて倒れている。
胸が動いているので生きている。つーか、あの程度で俺の最強のママが死ぬわけがない。
ガチホモ四天王は全員戦力を失っている。
とっちゃん坊やの錬金術師。
かつての英雄だったオウレンツは俺が殺した。
叩き斬って、焼いて溶かして、叩き潰した。
細胞レベルですべて殺した。この世に細胞の一つも残ってない。
俺とシャラート。
2人だ。
今、ここでまともに動けるのは俺とシャラートだけだ。
まあ、俺は両腕が無いので、まともかどうかは、異論のある奴がいるかもしれん。
俺はそんな異論は認めないがな。
いいか、おっぱいは揉めないかもしれないが、吸うことができるんだよ……
くそが、どんなことをしても、シャラートを元に戻す――
そう俺が決意を固め、歩を進めた瞬間だった。
俺から見てこの部屋の一番遠い奥に陰気な空気がグルグルと固まっていっている気がした。
『おい! サラーム! あれなんだ?』
『あれ? あ、あ!? 空間が曲がってる―― 違う? 揺らいでる。震えている……』
サラームの言葉が俺の中で響く内に、その空間のそのものが形を成していく。
無の空間が暗黒を生じさせ、暗黒が何かを作りだしていた。
「ちょっと、タイムラグがありますね…… まだ改良の余地ありですか」
その暗黒が声を発した。
目があった。口があった。徐々に他のパーツも形を成していく。
錬金術師。
オウレンツ――
俺が殺した錬金術師。
そいつが、また目の前に出てきた。
「おや、驚いてますか? アインザム君」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらシャラートの方に歩み寄る錬金術師。
「てめぇ、なんで?」
「不死の探求は錬金術師の本道ですからね。私は殺されても死ななかったことになるんです。殺されたという「因」を解くのです。新たな「果」を世界軸に結び付ける―― 今の私ならそれができるのですよ」
「シャラートを返せ! 元に戻せ! てめぇ、殺せねぇなら、殺し続けるぞ、永遠にだ! 永久に殺し続けてやる」
「永久―― 永遠―― 素敵な言葉です。私はそれを求め、それを手に入れるために生を受けました。本当の意味の永遠―― アナタにはその意味が分かるのですか?」
笑みを浮かべながらも、その瞳に怖い物をかくし、オウレンツは言った。
「全ての物は滅びます。魂も肉体も空間も時間さえ、終わりがあるのです。全ては終焉に向かい突き進む。それがこの世界ですよ。本当の永遠はどこにあるのですか?」
とっさん坊や顔の上に、中身は中二病かよ!
「どうでもいいんだよ! シャラートを返せ! てめぇ」
俺の身体の中で再び、唸りを上げていく7つの魔力回路。
オマエ、俺を舐めるなよ。
クソ野郎が、殺せない? 永遠だ?
それなら、生きながら死ぬより苦しい、殺してくれと懇願する方法を永遠に続けてやる。
そこの俺の婚約者で姉の、シャラートが得意だったんだぜ。
「アナタも、中々、面白いです。本当に、解剖して調べたい―― ああ、遺伝子レベルで調べてみたいものです」
うっとりと自分の言葉に酔ったようにオウレンツは言った。
「でも、残念です。今はそのときではない。私は彼女を連れて行かねばならないのです。ああ、残念です―― アインザム君、アナタを解剖してみたい。はらわたの温もりを確認しながら、色々と調べたいのです」
オウレンツがシャラートを見やった。シャラートがすっとオウレンツに近づく。
「ああ、私は色々、お仕事があるのです。忙しいのです。この世界を滅ぼすという大切なお仕事の最中なのです」
2人はどす黒い瘴気のようなものに包まれていく。
「てめぇ、待ちやがれ! シャラート!」
駆け寄る俺、突っ込む、しかし既に実体が半透明となり、俺はスカっと2人を突き抜け反対側に抜けてしまった。
振り返る俺。
ニィィーー、っとクソな笑みを浮かべているオウレンツ。
「ああ、私について知りたければ、上の階に行けばいいでしょう。ガチホモ王が、私のことを少し知っています。さあ、聞きだして、私を追いかけてください。どうです? 楽しいゲームの始まりという感じじゃないですか」
「てめぇ!! 待て!」
「ああ、そうそう、アナタ達がシャラートと呼ぶ、この少女はもういませんので。【シ】の細胞、肉によって生まれた、美しき【シ】の姫君です。まあ、アナタ達がなんと呼ぼうが自由と言えば、自由なのですがね」
徐々に実体と存在感が希薄となってくる、オウレンツとシャラート。
『サラーム!』
『やってるわ! もう色々やってるわ! もう65536回、別パターンで阻害をかけているわ! でもダメ! アイツの転移は仕組みが違いすぎる』
サラームは俺の言う前に、転移魔法に対する阻害を行っていた。
しかし、それも無駄だった。
そして、嫌な笑みを浮かべたままオウレンツは、闇の瘴気の中に消えて行った。
存在そのものを溶け込ませるように。
俺のシャラートを連れて。
俺の大切な……
とんでもなく大切な物を奪って、消えて行きやがった。
「くそやろうがぁぁぁあああああああああああああ!!」
両腕とシャラート、この借りは絶対に返してもらう。
俺の叫び聞いて震えろ、オウレンツ――
何が永遠だ、何が永久だ。全部俺がぶち壊してやる。
てめぇは、絶対にゆるさねぇ。
「だから、いないわよ! もうアレは違うわ、アンタの婚約者で姉で幼なじみのビッチのサイコ女じゃないわ!」
サラームの声が俺の体の中に反響する。
なにを言ってるんだ?
この羽虫が?
今、目の前にいるじゃねーか。
なあ、シャラート……
俺はシャラートを見つめた。
くそ、この手じゃおっぱいを揉めねーんだよ。
二の腕から先が無くなって、断面が回復の水球で包まれている。
俺は、一歩、二歩と踏みしめるようにシャラートに歩み寄った。
三歩目の足が地面に突く瞬間――
硬い金属音が俺の真正面から聞こえた。
赤黒く血を吸いこんだ釘バットが俺の目の前にあった。
そして、ふわりと緋色の長い髪が俺の視界に映る。
「おい、クソ乳メガネ、てめぇは、前から気に入らねェ、クソ女だったが――」
ライサだった。彼女がシャラートの投げたチャクラムを叩き落したのか。
シャラートが俺の首を狙って投げたチャクラム。
今、それは、カラカラと音をたて、足元に転がっている。
「――クソ以下の、ド畜生の、クソ馬鹿女になりやがって! 殺さなきゃならねぇか! 殺すか! やっぱり、オマエは殺すか!」
さっきまで、ガチホモ四天王のリーダーであるアナギワ・テイソウタイと闘い、それを血の海に沈めたライサ。
しかし、彼女自身も相当なダメージを負っている。
それでも俺の前に出て釘バットを構える。
俺の視界の右下の方を通過して前に出て行く金色の物体。
キラキラしたフォトンを放つような金髪ツインテール。
エロリィだ。
「アンタね、アインに手を出して…… もうね、本当に―― 殺すしかないわね。こんな形で、殺すのは――」
強い光を放つ碧い双眸。そして、いつもと変わらぬエロリィの言葉。
しかし、そのどこかに悲しげなものを含んでいるように感じた。俺の主観か…… 気のせいかもしれない。
「殺します。全てを。順番はどうでもいいです」
シャラートがその言葉を発し終えた瞬間だった。
その、存在がぶれた。動きが速いとか、そういう問題じゃない。
存在そのものが揺らいで消えた気がした。
そして唐突に出現した。
古典的な特撮。フィルムをコマの途中を切り落としたような感じだ。
小柄なエロリィよりも更に低くしゃがみこんだシャラートが彼女の目の前に出現していた。
「エロリィ! にッ――」
「逃げろ」と言おうとした俺の言葉はシャラートの動きに全然追いつけなかった。
その言葉を発した瞬間、エロリィの黒い服が下から斜め上に切り裂かれていた。
一瞬、その白い流麗な芸術品のようなフラットな肢体が露わとなる。
そして、白磁のような肌に朱で描いたようなラインが斜めに走っていた。
唐突に発する、バケツで水をまき散らしたような音――
エロリィの身体を斜めに走ったラインから真っ赤な血が大量に吹きだしていた。
決してエロリィは遅くない。禁呪使いにして、「スカンジナビア拳法」も使う。
身体能力の高さだけ見ても、相当な水準にある。そのエロリィが一歩も動けず切り裂かれた。
「ア…… アイン、もうね、なんでよ?」
霞のかかったような碧い眼でこっちを見つめるエロリィ。
精緻な人形のように整った美しい顔にも赤い飛沫が飛んでいた。
『サラーム! 包み込め! 回復の水だ!』
「殺してやる! ぶち殺し! 死ね! 殺す! 死ねやぁぁ!! ド畜生が!!」
俺の声とライサの叫びが交差する。
エロリィは回復の水球に包まれた。血が止まる。おそらくは命を失うことはない。
ライサの釘バットが空間を切り裂き、唸りを上げる。
衝撃波が、壁も床も切り刻み、弾片のような破片をまき散らす。
それが、彼女自身の肌にも食い込み、血を流させる。
それでも止まらない。
空間そのものを粉々に粉砕するかのように釘バットが吼える。
しかし、もうライサも限界だ。
動くだけで、体のどこからか、血が吹きだす。
「本当に! 本当に、つまらねェ! こんなに殺し合いがつまらねェと思ったのは初めてだ!」
ライサが吼えた。いつも明るく殺戮と虐殺の俺の許嫁。彼女が本当に血を吐きながら言った。
「では、終わりにしましょう」
灼熱の温度を持ったライサとは対象的な絶対零度の言葉。
静かな闇の底から発せられたなんの温度も持たない言葉。
シャラート。
「がはッ――」
シャラートの長い脚が、ライサの横腹に突き刺さっていた。
先ほどの戦いで折れた肋骨の上だ。
前のめりになって、血の塊を吐きだしたライサ。
シャラートの追撃。
チャクラムを握り込みそのまま、顔面に向け叩きこむ。
その一撃は柔らかい音とともに、衝撃も吸収された。
ライサが回復の水、その水球に包まれたからだ。
俺の魔法が一瞬だけ早かった。
もし、一瞬でも遅れていたら、チャクラムで顔面が寸断されていた。
そうなったら、即死だ。
「シャラート! やめろ! くそ! 戻れ! 正気に戻れ」
いつも正気かどうかと問われるとかなり怪しいシャラート。
でも、こんなシャラートは俺のシャラートじゃねーんだよ!
おっぱい大きくて、揉むと気持ちよくて、痴女でビッチでエロくて、いつでもどこでも発情して、俺の遺伝子を欲しがって、そのためには手段を選ばない俺の婚約者。
長い黒髪のメガネのクールビューティな生粋の暗殺者。
くそ、ほとんど原型残ってねーぞ!
「シャラート! 愛している! 好きだ! 俺の赤ちゃんを産むんだろ! 孕みたいんだろ! 孕ませてやる!」
俺の愛の絶叫。
しかし、シャラートは冷たい目でこちらを振り返っただけだった。
その顔はクールを通り越し、何の感情もない暗黒の深淵のままだった。
その目は血の色を通り越し、まるで暗黒の虚ろな穴のように見えた。
『もう、無理だわ。あれは――』
『その先を言ったら、叩きだしてケーブル斬るぞ、引きこもり精霊!』
『アイン!』
俺とシャラートが対峙する。
後ろには、回復の水球に包まれたライサとエロリィ。
そして、俺の叩き斬られた腕を拾って抱えているエルフ。
千葉か……
戦力にはならんが、逃げない。コイツはやっぱり心友だ。いや、今は婚約者でもあるか……
母親のルサーナは、錬金術師に吹っ飛ばされて倒れている。
胸が動いているので生きている。つーか、あの程度で俺の最強のママが死ぬわけがない。
ガチホモ四天王は全員戦力を失っている。
とっちゃん坊やの錬金術師。
かつての英雄だったオウレンツは俺が殺した。
叩き斬って、焼いて溶かして、叩き潰した。
細胞レベルですべて殺した。この世に細胞の一つも残ってない。
俺とシャラート。
2人だ。
今、ここでまともに動けるのは俺とシャラートだけだ。
まあ、俺は両腕が無いので、まともかどうかは、異論のある奴がいるかもしれん。
俺はそんな異論は認めないがな。
いいか、おっぱいは揉めないかもしれないが、吸うことができるんだよ……
くそが、どんなことをしても、シャラートを元に戻す――
そう俺が決意を固め、歩を進めた瞬間だった。
俺から見てこの部屋の一番遠い奥に陰気な空気がグルグルと固まっていっている気がした。
『おい! サラーム! あれなんだ?』
『あれ? あ、あ!? 空間が曲がってる―― 違う? 揺らいでる。震えている……』
サラームの言葉が俺の中で響く内に、その空間のそのものが形を成していく。
無の空間が暗黒を生じさせ、暗黒が何かを作りだしていた。
「ちょっと、タイムラグがありますね…… まだ改良の余地ありですか」
その暗黒が声を発した。
目があった。口があった。徐々に他のパーツも形を成していく。
錬金術師。
オウレンツ――
俺が殺した錬金術師。
そいつが、また目の前に出てきた。
「おや、驚いてますか? アインザム君」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらシャラートの方に歩み寄る錬金術師。
「てめぇ、なんで?」
「不死の探求は錬金術師の本道ですからね。私は殺されても死ななかったことになるんです。殺されたという「因」を解くのです。新たな「果」を世界軸に結び付ける―― 今の私ならそれができるのですよ」
「シャラートを返せ! 元に戻せ! てめぇ、殺せねぇなら、殺し続けるぞ、永遠にだ! 永久に殺し続けてやる」
「永久―― 永遠―― 素敵な言葉です。私はそれを求め、それを手に入れるために生を受けました。本当の意味の永遠―― アナタにはその意味が分かるのですか?」
笑みを浮かべながらも、その瞳に怖い物をかくし、オウレンツは言った。
「全ての物は滅びます。魂も肉体も空間も時間さえ、終わりがあるのです。全ては終焉に向かい突き進む。それがこの世界ですよ。本当の永遠はどこにあるのですか?」
とっさん坊や顔の上に、中身は中二病かよ!
「どうでもいいんだよ! シャラートを返せ! てめぇ」
俺の身体の中で再び、唸りを上げていく7つの魔力回路。
オマエ、俺を舐めるなよ。
クソ野郎が、殺せない? 永遠だ?
それなら、生きながら死ぬより苦しい、殺してくれと懇願する方法を永遠に続けてやる。
そこの俺の婚約者で姉の、シャラートが得意だったんだぜ。
「アナタも、中々、面白いです。本当に、解剖して調べたい―― ああ、遺伝子レベルで調べてみたいものです」
うっとりと自分の言葉に酔ったようにオウレンツは言った。
「でも、残念です。今はそのときではない。私は彼女を連れて行かねばならないのです。ああ、残念です―― アインザム君、アナタを解剖してみたい。はらわたの温もりを確認しながら、色々と調べたいのです」
オウレンツがシャラートを見やった。シャラートがすっとオウレンツに近づく。
「ああ、私は色々、お仕事があるのです。忙しいのです。この世界を滅ぼすという大切なお仕事の最中なのです」
2人はどす黒い瘴気のようなものに包まれていく。
「てめぇ、待ちやがれ! シャラート!」
駆け寄る俺、突っ込む、しかし既に実体が半透明となり、俺はスカっと2人を突き抜け反対側に抜けてしまった。
振り返る俺。
ニィィーー、っとクソな笑みを浮かべているオウレンツ。
「ああ、私について知りたければ、上の階に行けばいいでしょう。ガチホモ王が、私のことを少し知っています。さあ、聞きだして、私を追いかけてください。どうです? 楽しいゲームの始まりという感じじゃないですか」
「てめぇ!! 待て!」
「ああ、そうそう、アナタ達がシャラートと呼ぶ、この少女はもういませんので。【シ】の細胞、肉によって生まれた、美しき【シ】の姫君です。まあ、アナタ達がなんと呼ぼうが自由と言えば、自由なのですがね」
徐々に実体と存在感が希薄となってくる、オウレンツとシャラート。
『サラーム!』
『やってるわ! もう色々やってるわ! もう65536回、別パターンで阻害をかけているわ! でもダメ! アイツの転移は仕組みが違いすぎる』
サラームは俺の言う前に、転移魔法に対する阻害を行っていた。
しかし、それも無駄だった。
そして、嫌な笑みを浮かべたままオウレンツは、闇の瘴気の中に消えて行った。
存在そのものを溶け込ませるように。
俺のシャラートを連れて。
俺の大切な……
とんでもなく大切な物を奪って、消えて行きやがった。
「くそやろうがぁぁぁあああああああああああああ!!」
両腕とシャラート、この借りは絶対に返してもらう。
俺の叫び聞いて震えろ、オウレンツ――
何が永遠だ、何が永久だ。全部俺がぶち壊してやる。
てめぇは、絶対にゆるさねぇ。
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だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
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