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第五章:第二次ノンケ狩り戦争

第七六話:【シ】の錬金術師と【シ】の姫君

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「ライサ……」

「もうね! このクソゴリラ! アンタも私が殺すリストに入っているのよぉぉ! ここで殺さるんじゃないわよぉぉ!」

 エロリィが叫ぶ。

 くそぉぉ! なんだいったい。

「アイン、まずい。あのガチホモ強いぞ……」
 
 エルフの千葉だった。エメラルドグリーンの瞳がジッとその戦況を見つめていた。
 俺もその視線の方向を見つめる。

「なんじゃあれはぁぁ!!」

 そこには掃除機の吸い込み口を股間に差し込んでいる変態がいた。
 もはや、ガチホモで変態。
 異形の存在だ。
 
 右手にデンマを持ち、左手はダラーンと垂らしていた。
 鎖骨が飛び出し血が流れている。
 
 しかしだ――

「がはははははは!!! ジャクリーンと合体した俺はもはや無敵よ! ああああぁぁ!! この吸引力がっぁぁあ!!」

 貞操帯の股間には、掃除機の吸引ホースを差し込む部分があった。
 そこに、掃除機のホースを差し込み、本体を振り回しているのだった。

「ああああ、気持ちぃぃぉぉぉ、ジャクリーン!!」

 ブンブンと振り回される掃除機本体。ライサはその直撃を受けふっとばされていた。

 頭から流血しながらも、立ち上がるライサ。
 ギッと歯を食いしばった。

 スッと指を伸ばして、メリケンサックを深くはめ込んでいく。凶悪な金属の光を放つライサのメリケンサック。

 ブンと振り回される掃除機。それをかわし、間合いに入るライサ。
 メリケンサック付の拳が吹っ飛んでくる。
 
「甘い――」

 足元に長いホースが絡むのだ。それで、体勢を崩す。

「ちぃぃ!」

 体勢を崩しながらも右拳を撃ちこむライサ。敵の左手は上がらない死角だ。

「むん!」
 
 右手に握ったデンマの方が早かった。ブルブルと振動しながら、ライサのこめかみをデンマが撃ちぬく。

「がはぁぁ!!」
 
 血の塊を吐きながら、ライサが吹っ飛んだ。
 ヤバい。
 どうするんだ……
 俺は、母親、最強の存在であるルサーナを見た。

 彼女は、ただその戦いを厳しい目で見つめているだけだった。
 我が母親ながら、今一つ何を考えているのか分からない部分がある。
 
 考えが分からんといえば、先生だ。

「先生は! 千葉!」

「え? 先生? 池内先生…… あれ?」

 俺たちはきょろきょろ探した。
 池内先生がいなくなっていた。
 なぜだ…… いつの間に……

「ぐはぁッ!!」

 ライサがまたデンマで吹っ飛ばされた。
 股間で振り回される掃除機。それをかいくぐって攻撃に移ると、デンマの迎撃が待っている。

「殺してやるぅッ!」

 その場で跳弾のように跳ねあがるライサ、壁を蹴って天井に掛け上がった。
 再び直上からの攻撃だった。

「甘いわ!!」

 ブーンと股間の掃除機が振りまわされた。「ぐちゃッ」という音を立て、掃除機本体がライサの脇腹に命中した。
 撃墜されるライサ。

「もうね! 見てられないのよ! このバカ赤ゴリラ!」
 
 エロリィが叫ぶ。

「うるせぇ! テメェから殺すぞ! このクソロリ姫がぁぁ!!」

「ライサ!」
 
 俺もたまらず叫ぶ。

 ゆっくり立ち上がり、転がっていた釘バットを拾い上げた。
 そして両手でそれを握りこんだ。

「アインは、そこで待っててな。そのクソ乳メガネを抱っこしていた倍の時間、私を抱っこしてもらうから……」

 血まみれの笑みを俺に向けた。俺は何も言えなかった。

「もう、肉片ものこさねぇ……」

 ルビーの瞳がゾッとするような地獄の炎をたぎらせる。

「ふん、その身体でなにが出来るか…… アバラも折れたろう。内臓に刺さるぞ」

「2~3本折れても、関係ねぇーよ」

 ペッと血の混じった唾を吐いて、敵を見やる。
 見敵必殺、敵を殺さずにはいられない殺戮兵器少女が、ボロボロになりながらも殺意をあふれさせる。

「がぁぁぁぁぁ!!」
 
 釘バットを握りしめ突っ込むライサ。
 そして、背中を向けるくらい体をひねりこんだ。
 顔は俺たちの方を向いた。

 なんだ? そのとき、俺はライサの作戦に気付いた。

「死ね!」
 
 ブンとジャクリーンと言う名の掃除機が唸りを上げる。

 ブワンと音がした。ライサの長い緋色の髪が、掃除機に絡みついていた。
 排気口に髪の毛が入ってしまう。それが絡みつく。
 掃除機が動きを止める。
 股間に突っ込まれた、ホースには太い何かが差し込まれてた。そのため、排気口からは空気が排出されず、ただ空回りをしているだけだった。
 それがライサの髪を巻き込んだのだ。

「ごろ゛ずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」

 壮絶で血まみれの笑み浮かべ、両を同時に付き出した。
 そこは釘バットが無かった。
 両手がデンマを持った手首を抑え込んでいた。

 釘バットは――
 口だった。釘バットを口に咥え。両手でデンマを持つ腕を抑え込んでいた。
 ライサは体をひねり後ろを向いて口に釘バットを咥えていたのだ。

「むうっ! このクソ力の雌豚が!!」

 ガチホモ四天王筆頭とはいえ、超絶パワーを誇るライサが両手で腕を押さえたら動かせるものではない。

 ライサが首を大きく回した。緋色の長い髪が尾を引くようにたなびく。

「じねぇぇ!!」
 
 口でくわえこんだ釘バットが、ガチホモの側頭部を撃ちぬいていた。
 吹っ飛ぶガチホモ。
 壁に激突。
 壁に血の跡を作りながら、ズルズルと崩れ落ちて言った。

「この雌豚がぁぁ……」

 それでも、まだ立ち上がろうとする。
 ガチホモ四天王のアナギワ・テイソウタイ。

「あはッ! 上等だ。もっと殺し合いをしよう。楽しいなぁ、なあ、ガチホモぉぉ」
 
 血まみれの美しい顔で笑みを浮かべる。 

「まあ、そこまでですかね」

 その場に場違いなような、やけに明るい男の声が響いた。

 スッと陰から男が現れた。
 小柄な男だった。
 しかし、この俺は……

 俺は、この男を見た記憶があった。
 どこだ? どこであったんだ。
 
「ああ、ルサーナ久しぶりです」

 本当に、久しぶりの友人に会って喜んでいるかのような声。
 しかし、それは、この戦いの場に全く不似合いな声だった。

「オウレンツ―― あなた、なぜここに?」

 俺の母親、「銀髪の竜槍姫」の顔色が変わった。
 異世界最強の、俺の母親、かつて世界を救った英雄の一人。
 あれ、そういえば、オヤジは? もう一人の英雄。勇者だ。
 
「なあ、そういえば、オヤジもいないよな、千葉」

「ああ、オヤジさんは、城の外で義母様にぶちのめされて、地面に頭をめり込ませたままだな。ここには来てない」
 
 クイッとありもしないメガネを持ち上げる動作を見せ、エルフの千葉が言った。
 先生はさっきまでいたけど。俺の親父は城に入った時からいなかったのか……
 オヤジの陰の薄さに、悲しい物を感じた。
 
 だが――
 俺はそれで思い出した。コイツだ。

 俺の夢の中、滅びの【シ】と闘っていた英雄たち。

 俺の親父「雷鳴の勇者」シュバイン・ダートリンク。
 俺の母親「銀髪の竜槍姫」ルサーナ・ダートリンク。
 そしてもう一人いたんだ。

 オヤジが「クソ錬金術師」と呼んでいた存在。
 そいつだ。俺は夢でそいつをみている。

 まるで子供のような雰囲気を身にまとっているが、れっきとした大人だ。
 年齢の推定は難しい。俺の親父よりは若い感じがする。

「アインザム君――」
 
 そいつは俺を見た。本当に邪気のない笑みだ。

「いやぁ、シュバインとルサーナの遺伝子が混じるとこうなるんですか…… 人間って面白い。なんか、君を解剖して研究してみたくなります――」

 まるで無邪気な子どもが見せるような笑み。
 そして、ゾッとするようなことを言った。
 得体の知れない不気味さがあった。

「オマエはいったい?」

 シャラートを強く抱きしめ俺は言った。

 オウレンツはスッと視線をシャラートに合わせ、にっと笑った。

「私は、彼女をもらいに来ました―― いえ、こっちに来るように言いに来たのです。本来いるべきところにです」

 オウレンツと呼ばれた男は、静かに言った。俺はその言葉の意味が分からず困惑する。更に、シャラートを抱きしめる力を強くする。
 渡さない。シャラートは渡さない。

『ヤバいわよ。アイン―― アイツも…… アイツも体の中に飼ってるわ』

 サラームの声が頭の中に響く。

「おやおや、抱きしめても無駄なんですけどね。そろそろ、起きなさい。シャラート。いえ、【シ】の姫君――」
 
 その言葉と同時だった。
 俺の腕の中でぐったりしていたシャラートがビクンと痙攣した。

「なにをした!」

「なにも――」

 笑みを張りつけ、オウレンツ入った。

 シャ――ッ!

 衝撃波が後から追いかけてくるような動きで、俺の母、ルサーナが動いていた。
 伝説の槍「竜槍・ドラゴラン・ファング」が唸る。
 
 しかし、それは空中で静止していた。

「なッ! これは! 空間制御――」
 
「ゲシュタルト結界を張っています。しばらくは持ちます」

「キサマ! オウレンツ! どういう気なのですか! 【シ】の手先に――」

 俺の母親はその言葉を最後まで言えなかった。壁に叩きつけられていた。

「お帰りなさい。見事な蹴りですね――」

 一瞬で俺の手をすり抜けた。
 そして、一瞬で、攻撃を仕掛けていた。

 その存在はそこに立って、俺を見つめていた。
 メガネをしていない。
 切れ長の目。その白目の部分が真っ赤に染まっていた。
 黒曜石のような黒い瞳が血の中に浮いているようだった。
 その目は、俺をそこらの石ころのように見ているだけだった。

 黒く長い髪が揺れた。

「シャラート……」

 俺はその前に立つ存在に向けつぶやいていた。

「殺します―― 生きとし生ける者―― 全てを殺します。この地上に絶対の死を――」

 その唇から血の通わぬ呪詛の言葉が紡ぎだされていた。
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