黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

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第四章:星の海を行く城

第四九話:5人目の婚約者

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「どうしたんだ? アイン、女の子たちを泣かせて」
 
 腕を組んだまま、俺のオヤジのシュバインが言った。

 ボゴ――
 
 肉が肉を叩く鈍い音が響いた。

 一切の遠慮も躊躇もないボディブローがシュバインの胃のあたりに食いこんでいた。
 俺の母親であるルサーナンの拳が手首までめり込んでいる。

「あががががあぁぁぁ――」
 
 苦悶の声と表情で、崩れ落ちるシュバイン。

 更に、その顎に、蹴りが飛んだ。
 空気に焦げ目が出来るような蹴りを食らって真後ろに吹っ飛ぶ俺のオヤジ。
 そのまま、頭から地面に叩きつけられ動かなくなった。ピクリとも。

「アナタは黙っていなさい―― 私が聞いているのです」

 もう口をきけなくなった自分の夫に対し、言い放つルサーナ。
 
「アイン、一体何があったというのです」

 なんか、いつもの「あああ、ママはアインが大好きなの、スリスリスリスリスリスリ! アインは天才で可愛いの!」と言って、俺を抱きかかえ、おっぱいにスリスリする溺愛ママの姿ではない。
 
 それは、かつてこの世界の救世主であった「銀髪の竜槍姫」だった。
「雷鳴の勇者」の方は泡吹いてひっくり返っていたけど。
 
 一切の甘えを許さない、容赦ない母親の姿に見えた。

「あなた方もなにを泣いているのです―― 弱い嫁は、アインに相応しくありません」

 凛とした言葉に、号泣していたエロリィとライサが「スンスン」と泣くのを我慢しだした。
 2人とも目の周りが赤くなっている。
 時々「殺じてやるのよぉ~ あの淫売」とか「殺す…… 殺す…… ぶち殺す…… スベタがぁ……」とつぶやくようになった。
 
 ああ、2人とも平常運転に近づいてきたな。さすがは、母上様だ――

 ふと見ると、シャラートは焦点の合わない目で、ブツブツと何かを言っている。ただ、皆殺しに出るという行動だけは止まっていた。

 3人を見やった、ルサーナは小さくうなづいた。
 そして、槍の柄でガンと地を叩いた。

「いいですか! 今は王国の存亡をかけた戦いの最中ぅッ―― って、なんです? あれ?」

 ルサーナは、ジッと宇宙に浮かぶ青い星を見つめていた。
 くるっと周囲を見た。無限に広がる大宇宙。「あーあー」ってコーラスが聞こえてくるレベルで宇宙。
 透明感のある銀髪の美女が宇宙空間を見つめ、困惑している。
 
 ゆっくりと首を俺の方に回転させ、停止するルサーナ。

「アイン、敵はどうしたのですか? 15万のガチ※ホモ兵は?」

「あ、それは…… 一応、全部倒しました。多分」

 サラームの光速に近い石砲弾というか、もはやエネルギー弾のようになった攻撃で、地殻ごと15万のガチホモ兵は消えている。
 あの青く見える星の一部が、遊星爆弾が落ちた後のように赤黒くなっているのがその証拠だ。

「アイン……」

 鋭い目で俺を見つめるルサーナ。かつて母親にこんな目で見つめられたことはなかった。
 ずぶずぶに、溺愛一直線の母親であるだけに、その反動は怖い。
 俺はスッと横目で、オヤジを見た。なんかビクビクンとあり得ないほど痙攣していた。
 次は、俺の番なのか……

「なんでしょうか…… お母様……」

 直立不動で俺は答えた。膝が少しカクカク震えた。
 ルサーナは、ポイッと伝説の武器のはずの槍を投げ捨て、両腕を広げ俺に向かって突撃してきた。
 目をつぶる俺。腹筋にできる限り力を込めた。
 
 しかし、衝撃はこなかった。
 ぎゅっと抱きしめられた。

「ああーー!! もう可愛いわ! 可愛いし! 無敵なのね! すごいわ! さすが、私のアインなの! 天才で! 無敵で! ガチ※ホモ兵の15万なんて瞬殺なの! あああああ! たまらないわ! かわいすぎてぇぇ! スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ! ああ、ママよ! ママはアインを愛しているの! ママって呼んでママって!」

「ママ――」

「ああああ! 大好き! もう大好きすぎて! 天才すぎて! かわいすぎて!」

 ギュッと俺を抱きしめ、スリスリであった。
 毎度おなじみというか、結構久しぶりな感じがした。
 柔らかいおっぱいが俺の頬にスリスリされる。しかし、全くエロい気持ちにならないのはいつもの通り。

 300往復くらいスリスリをして、ルサーナは俺を離した。

「私の天才で可愛いアインが、15万人のガチ※ホモ兵を殺して…… で、今この状況はなんです?」

 あらためて、宇宙空間を見つめるルサーナ。スーッと流れ星が流れていった。

「エロリィ姫」

 ルサーナは振り向かず、宇宙空間を見つめたまま、エロリィを呼んだ。

「もうね、殺す…… ぁぁ、はい、義母様ぁ…… え゛え゛え゛え゛ぇ、ぇ、ぇ、ぇ」

 まだすこし、泣くのを堪えながら、なんとかエロリィが返事する。

「ああ、エロリィちゃんの泣き顔、胸が締め付けられるようだったが、だが、それもいい―― ちょっと、興奮したぞ! なあ、アイン――」

「なあ、アインじゃねーよ」
 
 中身が特濃ヲタ&重度ロリコンのエルフの千葉が透明感のある声音で最低のセリフを吐いた。
 性別すら不確定性理論の真っただ中にいる俺の許嫁4号だ。

「転移はしたのですか? ガチ※ホモ城に? エロリィ姫?」

「し、してないのよぉぉ~。 マグマが噴き出して飛ばされて、禁呪が完成しなかったのよぉ~」
 
 碧い眼の周りを赤くはらして、エロリィが言った。

「じゃあ、あれはなんですか?」

 青い星を指さし、ルサーナは言った。

「お義母様! そこは私、不肖、アインの婚約者であるエルフの千葉がご説明いたします」

 ビシッと見事な敬礼をして、エルフの千葉が言い放つ。
 
「あれは、自然災害なのです」

 ぽつりと千葉がまごうことなき、真実を語った。完ぺきな真実だった。反論の余地が全く無い。
 エメラルドグリーンの瞳が遠くを見ている。さすがに心の友であった。

「自然災害?」

「そうです。我々は、偶然にも、城の直下の巨大火山の爆発に巻き込まれ、この宇宙空間に飛ばされたのです」

「宇宙空間?」

「そうです。あれは我々のいた。そう、パンゲア王国のあった世界。星なのです」

 すっと優雅な動作で青く輝く星を指さすエルフの千葉。

「あの星こそ、我々の故郷なのです――」

「では、ガチ※ホモ城への特攻は?」

「自然災害に邪魔され、エロリィちゃんの「禁呪」が発動してません。よって特攻はこれからです」

「では! 特攻です―― エロリィ姫」
 
 ビクンとエロリィが反応する。上目づかいで恐る恐るルサーナを見つめる。

「いえ! お義母様! エロリィちゃんの「禁呪」では難しいのです。宇宙ですので」

 千葉が助け船を出した。

「では? どうやって、特攻するのですか? 城内ではすでに特攻の準備で盛り上がっているのです」

「お母様」

「あああん! だめ! アインは『お母様』はだめなの! ママよ! ママって言って!」

「はい、ママ――」

『アイン、ちょっといいかしら?』
『なんだ、ルサーナ』
『思うんだけど、アンタの母親って、あの淫売とキャラがかぶってない?』
『しらねーよ! うるせーよ! 俺の母親デスるんじゃねーよ!』 
 
 温厚な俺でも、この優しい母親を人外英語教師と同列に扱われるとちょっと怒るよ。
 まあ、池内先生も悪い人じゃないけどさ…… つーか、人じゃないか。

『つーか、サラーム、今なら空間捻じ曲げて、この城を星に戻せるんだよな?』
『まかせてよ! かんたんだわ』
 
 サラームの太鼓判はそれはそれで、不安もあるが、まあ大丈夫だろう。

「ああ、ママ、俺がこの城ごと、星に戻すよ」

 母親と同じ銀色の方の髪の毛を指でふわりとさせながら、俺は言ってやった。

 ちょっとかっこいいだろ? 
 
 俺は許嫁たちを見た。
 
 3人とも呪詛のような言葉を吐き続けているだけで、こっちなんか見てなかった。

「ああん、天成君。私が注ぎ込んだもので、そんなに元気になって、うふ。でも、元気な男の子って、私すごく好きだわ(ああん、天成君との熱い一夜が忘れれないわ。大人の女の体に火をつけて、このままで済むのかしら? ああん、教師の私を牝にして、ここまで堕してしまったのは、アナタなのよ―― うふふ)」

 金髪から角の生えている人外の英語教師のグズグズの内面描写がダラダラと垂れ流しだった。

 シャラートの目からまた血涙が噴き出していた。 

 勘弁してくれ。

        ◇◇◇◇◇◇

「いいのか? アイン? 本気か?」

 マジマジと緑の瞳で俺を見つめるエルフ。男子高校生、千葉次郎という存在が異世界で転生した姿である。
 
 この城を特攻させるまで、しばらく時間があった。その時間を利用して、千葉と今後の作戦タイムであった。
 
 千葉は少し呆れたように言葉を続けた。

「俺を含め、婚約者は4人。これで5人になるが…… 人数はともかく、あの先生を…… まあ、見た目は抜群であるが」

 つーか、オマエを含めて、俺の婚約者は全員見た目は抜群だよ。超Sクラスの美形揃いだよ。
 だがな、中身に関して言えば、どれもヤバいから。同じくらいヤバいよ。

 暗殺者で痴女でサイコのクールビューティお姉様。
 シリアルキラーで殺意の塊で武装がチンピラの超絶美少女。
 幼女にしてビッチで狂乱の禁呪使いの北欧の妖精。
 中身が濃厚ヲタの男子高校生のエルフの美少女。
 
 もう今さらだよ。

 で、5人目がこれになるわけだ。

 正体不明の人外でフ〇ンス書院内面描写ダダ漏れで淫売レベルの英語教師28歳が加わっても大勢に影響ないだろ?

「こうすれば、丸く収まるんだよ」
 
 俺はチラリと3人の婚約者たちを見やって言った。
 3人とも棒立ちで、相変わらずブツブツと呪詛を吐きだしていた。

「いいか? 千葉、お前がエルフになった時のこと覚えているか?」

「ああ、覚えているが」
 
「エルフになってしまったオマエを連れて帰って来たとき、3人とも泣いたよな」

「ああ、確かにな」
 
「しかしだ――」

 俺は、顎に指を当て、思案気にして言ってやった。

「オマエを婚約者にしてからは、それがない。なぜだ?」

「ん―― 確かに……」

「オマエのおかげで、婚約者エッチ拡散条約を締結でき、比較的婚約者の間では安定した関係が続いている。オマエには感謝している」

「フッ、友に向かって水臭い――」

「まあ、それはそうとだ。あの3人は婚約者とそれ以外の女との対応が違う―― おそらくだ。先生も婚約者にしてしまった方が、いいんだ。彼女たちは部外者と俺が関係を持ったと思うと、情緒の安定が一挙に崩れる。おそらくであるが――」

「その仮説は、確かに、一考の余地があるが…… いいのか? 本当に?」

「ああ、それで行きたいのだ。俺の安定したハーレム生活を作るためには、不安要因は内部に抱えた方が対処しやすい」

「分かった。根回しは私に任せてくれ――」

「千葉――」

「アイン」

 俺は繊細な芸術品のようなエルフの手をとった。お互いの指が絡み合った。
 すっと、エルフの千葉が頬を染めた。美しく幻想的な姿であった。

 ということで、俺は先生を婚約者に加えることを決心したのであった。
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