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第四章:星の海を行く城

第四六話:淫らな個人授業 魔性の女教師・真央―― 28歳

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「作戦タイムだ! しばし、待ってくれ」

 とにかくだ、この状況をなんとせねばならん。
 俺は白目をむいて、無重力空間を浮遊しているエルフの千葉の足首を掴む。
 細い足首だ。そして、そのまま引きずり下ろした。

「起きろチバァァア!!!」

 耳元で絶叫する俺。

「あああ、アインか……」

 グリンと黒目が戻り、意識を回復する。
 手で頭を押さえ、首を振った。エメラルドグリーンの長い髪が揺れる。

「目を覚ましたか! 千葉!」
「いったい何が……」

 俺の許嫁たちに高濃度の殺意に晒され、気を失い、記憶にも混濁があるようだ。
 現状を認識できていないのかポカーンとしている。
 俺はすかさず、現状の説明をする。

「千葉…… 先生が来た。なんか、先生が召喚された――」
「先生?」

 先生の出現を確認しているはずの千葉だが、やはり混乱しているようだ。

「池内先生。池内真央先生だよ」
「なんだとぉッ!」

 美しきエフルは、上半身を起こして、エアメガネをかけ直すポーズをする。
 その視線の先には、ボンテージ姿の人外の英語教師がいた。
 目に鮮やかなブロンドに、角を生やした英語教師。
 俺たちの高校の担任だった魔性の女教師・真央先生だ。
 異世界に転移したときに、偶然魔王かなにかと融合してしまったらしい。

 思春期の少年のエロ中枢をとろけさせる視線で俺たちを見ている。
 下がり気味の艶っぽい目。絶妙な配置のなきボクロ。
 胸の双丘はプルンプルンと揺れている。指で触れればどこまで沈み込んでいく柔らかさを持っている。

「うふふ、千葉くんたら、相変わらず、天成君と仲良しなのね。先生ちょっと妬けちゃうわ、うふ(ああん、ダメよ真央、ここは大人の女としての余裕を見せるの。そうよ、天成君だって、大人の女の良さを知りたいと思っているの―― ああ、28歳の私のこの体を、天成君に知って欲しいの)」

 知りたくもない先生の年齢情報までダダ漏れ。
 自分で言いだしておいてなんだが、この先生に頼ってこの状況を打破できるのか?
 凄く不安になってきた。
 確かに、人外の存在になったので未知の力を持っている可能性があるのだが。
 こっちに来たということはだ。向こうに帰ることも出来ておかしくないだろう。
 
「…… なぜ、先生が?」
「だから、なぜか、俺が召喚してしまったようなのだ。意味不明だと思うが、事実だ。で、どうすればいい?」
「なぜ、召喚した本人が俺に聞く?」
「だって、なんで先生が出てきたか、俺しらんから」
「俺も知らん。しかし……」

 千葉はその細く芸術品のような指で自分の顔をカバーする。
 そして、うつむき加減で思考に入った。
 幻想的なエルフの思考のポーズであった。
 そして、ふわっと手を離し、先生を見つめた。

「先生―― なんで普通に歩いてるんですか? ここ無重力空間なんですが……」

「ああん、千葉君たら、アナタはお利口さんな生徒なのね。よく気付いたわ、うふ。でも、それは大人の女の秘密よ(ああん、この千葉君も可愛いわ。どうしましょう。真央ったら、天成君一筋じゃなかったの? ああん、でもこんなに可愛い千葉君も放っておけないの)」

 真央先生は、艶っぽい動作で人差し指を立てると、それを自分の唇に咥えた。
 すっと指に舌を這わせていく。テラテラとした透明な液体が指に塗り込まれていく。

「先生、その動作になんの意味があるんですか?」
「ああん、天成君はもっと先生のことを知りたいの? いいのよ、先生の事、じっくり教えてあげても、ううん。天成君に教えてあげたいの(うふ、天成君たら、そんな目で先生を見つめて。やっぱり男の子ね。大人の女のことを知りたくてしょうがないのね、うふ―― いいわ、真央が教えてあげる)」

 俺の知りたいのは、ここから、あの星に戻ることだけなんけど。
 以前の俺なら、個人教授で徹底的に教えて欲しかったが、今の俺には3人許嫁がいる。
 3人とも超絶的な美形だが、その凶暴性も超絶的だ。おまけに戦闘力も。
 真央先生に個人授業を受けたら、俺は殺される。
 たった一人の嫁にぼろ屑のようにされている俺のオヤジ以上の惨劇を味わうことになる……

「先生、重力操作ができるのですか?」
「ああん、千葉君の言っていることはよく分からないわ、日本語でお願い、うふ」

 千葉の普通の日本語が理解できない。
 どうして、この人が教員免許をもらえたんだ?
 なぜ英語教師なのだ?
 つーか、なんで採用されたんだ? 大丈夫か千〇県教育委員会――

「いや、先生、歩いてますよね。2本の脚で」

 俺はフワフワと浮きながら、先生に言った。

「ああん、天成君たら、先生に四つん這いになれっていうのね…… 犬に…… 先生に犬になれっていうの? だめよ、天成君。高校生には早すぎるわ」

 全然、論点が違う。
 どーすんだよ、千葉ぁぁぁ!

『めんどくさいから、私が殺す? アイン――』
『いいから、物騒なこと言わんでいいから!』
『ふーん、でもこの女、ちょっと手ごわそうね……』

 俺の体内に引きこもる精霊のサラームがまたしても最終解決手段を提案しだした。
 しかし、手ごわい?

『サラーム、先生強いのか?』
『この淫売(いんばい)みたいな女、魔力回路を体内に16個持っているわ』
『16個?』
『普通の人間は1個だわ。アインもパワーはあるけど1個。高位の魔族あたりでも二桁は見たことないわ』

 俺はサラームとの脳内会話を打ち切る。

「先生! 池内先生、魔法です。魔法を使えるんですよね! 重力を生み出しているのも魔法ですよね」
「うふ、大人の女は誰でも魔法を使えるものなのよ。天成君にもかけてあげようかしら、うふ(ああん、可愛いわ、天成君。もう、先生どうしたらいいのかしら。大人の女の魔法をかけてあげたいの)」
「いえいえいえ! 先生!!」

 思い切り首をプルプル振って拒絶する俺。
 得体のしれない魔法は勘弁してくれ。

 池内先生は目をつぶっていて。そして、その妖艶な口元から、人間が発音するのが不可能な旋律の言語とも歌ともとれないものを紡ぎ出していた。

『なにこれ? こんな膨大な魔力が…… なに? 空間を!』
 サラームが叫んだ。

「あれ! なんだ!!」
「うぉ! アイン、一体?」
 
 俺はストンと落下した。そう。落下して城壁に立った。
 千葉もだった。

 俺は振り返った。

 シャラートが不審げな顔で地面をつま先でトントンしている。
 
「あはッ! アインか? アインがやったのか? フワフワするの無くなったね」
 
 ライサがトントンと軽くジャンプしていた。

「あんたね…… 何者なのよぉ、一瞬、なんかすごい魔力が流れたのよぉ……」

 斬れるような眼差しで、真央先生を見つめるエロリィ。
 さすがに「禁呪使い」だけあって、この現象が先生の力によるものと見破ったようだ。

「重力の発生―― 先生は重力を操ることができるのか」

 エルフの千葉がひとり語ちるように言った。
 確かに重力だ。重力が生じている。先ほどまで、無重力だった物理結界内のエリアに地面に対し下向きの重力が発生していた。

『サラーム、なにが起きた?』
『この淫売の売女が…… 空間を捻じ曲げて固定したわ。私だって捻じ曲げくらいならできるけど、固定? なんなのよ? コイツ』

「先生! 先生は重力を、つまり空間制御を…… 16次元の紐構造の揺らぎに干渉して、宇宙誕生時の原初の力を……」
「ああん、千葉君は言ってることが難しくて、先生分からないわ。私は英語教師で、社会は専門外なのよ――(でも、大人の男女の社会学なら、かなり自信があるのよ。千葉君たら、興味津々なのね、うふ)」

 先生――
 千葉の言っていることは全然「社会」じゃないです。完全に理系です。
 それに、ダダ漏れの内容が頭おかしいです。

 しかし、空間を捻じ曲げる?
 よー分からんな。

「なあ、千葉、重力って空間を捻じ曲げて作るのか?」
「アイン。最新の物理学では、重力とは空間の歪みであると認識されている。その理解は正しい」

 千葉は、手でエメラルドグリーンの髪をかき分け、俺に説明してくれた。

「じゃあ、空間を曲げれば、この城ごと、動くんじゃね?」
「ああ、それは『重力場エンジン』という考えになるな。しかし―― できるのか? アイン!」
「いや、俺じゃなくて先生。先生ができるんじゃね?」
「む! 確かに!」

 キュンと千葉は池内先生を見た。
 
「あら、どうしたのかしら、うふ」
「先生、重力です。今みたいに重力を発生させ、この城ごと、動かしてあの星に戻るんです! 先生!」
「ああん、千葉君、なにを言っているか分からないわ。そんなに、焦ったら女の人は逃げてしまうわよ、うふ」
「つーか、私はもう女なのですよ! アインの婚約者になったんです! かぁぁっぁアアア!! どうでもいいから、やってください!」
「ああん、そんあギラついた目で先生を見つめるなんて…… 千葉君ってそんな男の子だったの?」
「だから、今は女なんですよ! しかもエルフになったんです!」

 千葉と池内先生の不毛で不条理な会話を呆然と聞く俺。
 ダメだ…… 
 この先生に、現状を理解させ、正常に魔法を使わせるのは無理だ……
 だって、コミュニケーション不能だもん。
 外見も人外だけど、精神構造はもっと人外だよ。

『私がやってやるわ! 淫売にできて、精霊王になる私にできないわけがないわ!』
『え? 出来るのかよ? サラーム』
『空間を捻じ曲げて、重力を発生させる。でもって、この城を星に激突させればいいんでしょ? 要するにコロニー落としね!』
『アホウか! コロニー落としじゃねーよ。着地だ! 穏便に着地だ!』
『まあ、いいわ。とにかくやってやるわ』

 なんか先生の不条理な行動がサラームの対抗心に火をつけたようだ。
 よし、これで帰れるか……

『じゃあ、あの淫売から魔力を奪うのよ! アイン!』
『魔力? なんで?』
『アイツの体の中、魔素よりも魔力でパンパンだわ。それを吸引すれば、あっという間にこっちも魔力パンパンだわ』
『まて? どーやって?』
『同じよ、口から吸引すればいいわ! 簡単だわ』
『アホウか! できるか! この状況でぇぇぇ!』
『なんで?』
『シャラート、ライサ、エロリィがいるんだぞ! そんなことしたら、殺されるわ!』
『チュウぐらい平気でしょ。だって、アイツら他の女がチュウしても我慢してるわよ?』
『それは、許嫁エッチ拡散制限条約があるから……』
『じゃあ、この売女も許嫁にすればいいわ。名案ね!』
『アホウか! その時点で、俺が終わりだ。殺される』

 くそう……
 どうすればいいんだ?
 先生と2人きりになれれば……

『ああん、天成君たら、先生と2人きりになりたいなんて…… もう、2人きりになって何をしたいの? うふ――』
『ちょぉぉぉ!! 先生! なんで、なんで脳内にぃぃ!』

 先生の脳内通信割り込みにパニくる俺。

『いいのよ、天成君。ここは大人の女の…… ううん、教師である私が導いてあげる。個人授業ね。個人授業よ。天成君。 甘い個人授業の始まりよ、うふふ』

 先生の淫靡な声音が脳内に響いた。そして――

「なんだこれ! ここはどこだ!」

 一瞬にして、目に映る光景が変わった。
 どこかの一室だ……
 全体に、ピンク色ぽい感じのする部屋。
 
 ベッドがある。
 あれ? 丸いベッドだ。
 これ、回転するんじゃね?
 なにこれ?
 
 水の流れる音がした。
 いや、シャワーだ。シャワーの音だ。なんだこれ。

「ふんふんふんふん、うふふ♪」
 
 シャワーの流れる音に混じってご機嫌な鼻歌が聞こえてきた――

「ああん、天成君、一緒にシャワー浴びましょう、もう、照れちゃって、うふ。可愛いわ――」

 どうやら、俺は先生の淫靡空間に囚われてしまったようだった。
 やばい。
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