黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

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第四章:星の海を行く城

第四五話:お前らそろってチョロすぎる

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「こんなところに、先生を呼び出すなんて…… 天成君たら…… 先生をどうしたいの?(うふ、かわいいわ、ちょっと照れちゃって。でも大人の女をこんな強引に呼び出して、ただで済むと思っているのかしら…… ううん、だめよ真央―― 私は教師で天成君は生徒なんだから、うふ。ああん、でもそんな目で私を見て…… 体の芯が痺れてきそう)」

 真っキンキンのウェーブを描いた金髪からうねるように伸びる角。
 巨大なおっぱいを無重力に揺蕩え、目じりの下がった淫靡そのものといった瞳で俺を見つめる先生。
 無重力にもかかわらず、クネクネと歩く。腰が揺れている。
 そのボディラインは、デフォルメされた女体という淫らな感じを結晶化したようなものだった。
 耐性の無い男であれば、先生をみただけで前かがみになってしまうだろう。

「あはぁ~ん、もう、先生はどうすればいいのかしら。大人の女を困らせないで(ダメ、天成君。アナタには可愛い婚約者が3人もいるのに…… ああ、でも、若い娘には無い、大人の女の良さを私が教えてあげることもできるの、うふ)」

 無重力の中で普通に歩くという理外の存在である。それに、垂れ流し放題の内面描写も理外。端的にいって人間じゃない。もはや別のなにかだ。

 宇宙空間を見上げながら、「私を月まで連れてって」を歌いだした。英語の歌詞だ。無駄に艶っぽいし、完ぺきな発音。人外の英語教師。

『ああ! 私も歌う!』
 
 俺の脳内でサラームまで歌いだした。
 いい加減にしろ! ヲタ精霊!
 舌足らずな、英語発音がイラつく。

 唐突に首筋に刃突きつけられた感覚に襲われた。
 固まる俺。
 これは刃だ。視線の刃だ。俺には分かる。
 頸椎が「ギギギギギ」と軋むような音をたてる。俺は振り向いたのだ。

 シャラートが闇から吹き出す漆黒の瞳で俺を見つめていた。絶対零度の刃の視線だった。
 ライサが炎のような紅いルビーの瞳で俺を見つめていた。罪人を焼き尽くす火刑の炎の視線だった。
 エロリィが吸い込まれそうな碧い瞳で俺を見つめていた。魂ごと断罪にかける審判の視線だった。

「おい…… アイン…… 俺は…… 逃げていいか……」

 ガクガクと震えながら、エルフの千葉が言った。
 置いてくな。俺を置いてくなよ。心の友よ。
 涙目になって、プルプルと首を振る俺。千葉の手をギュッと握る。死ぬときは一緒だ。
 千葉がイヤイヤをした。

 自分の婚約者と思っている男が目の前で、別の女を口から召喚したように見えるだろう。
 この場合、どうなんだ?
 どういう言い訳ができるんだ?
 俺の脳がフル回転するが何にも浮かばない。
 頼りの千葉は、殺意の濃度の濃さに、耐えられず鼻血を吹き出し失神していた。

 凄まじい殺気だった。

 殺意の濃厚な塊が空間を占拠している。
 俺の3人の許嫁たちの発する殺意。完全に怒りの炉心を融解させ、周囲に殺意ダダ漏れ。
 常人であれば即死レベルの濃度に達していた。

 ゴクリと喉が動く。脈が速くなった。
 カクカクと膝が震える。

「アイン、この女はなんですか? 殺していいですか――」

 シャラートが口を開いた。 メガネの奥の目が完全に殺人者のものとなっている。
 血塗られた暗器のような言葉が、お姉様の口から紡ぎだされた。

「殺すかぁ! この女殺せばいのか? なあ? え?」

 パンパンになった殺意で、ライサの周囲の空間がグニャァと曲がって見える。
 握りこんだ拳には、メリケンサックが装着されている。

「もうね、殺すわよぉぉ! アイン、このホルスタインを殺すわよ」

 殺意は俺に向かっている物ではなかった。
 ターゲットは先生だ。なんでだよ? 

「あのぉ~ 殺すのはまずいと…… 一緒にお風呂も入った中じゃないか……」
 
 俺の声がかすれている。
 なんでだよ? 
 フィナーバッシュヘルズセンタ村では、一緒の部屋に泊まって、一緒にお風呂入った仲だろ?
 なんでだよ?

「アイン――」
「なんでしょうか。お姉様」

 研ぎ澄まされた黒曜石のような艶を見せるメガネの奥の瞳。
 全ての分子が運動を停止する温度の切れ長の眼差しだ。
 
 俺は無重力空間で直立不動だ。

「私たちの前にその売女(ばいた)のような女を、わざわざ呼び寄せたのはなぜですか?」

 ニィィィと酷薄な笑み。目だけは笑ってない。
 痴女で暗殺者の俺の婚約者が静かに言葉を吐きだしていた。

「いや、俺呼んでないから! 勝手に出てきたから! しらねーよ。本当に知りません。魔素で魔力作って「ラマーズ砲」発射したら、暗黒物質が出てきて――」
「過程は関係ないのです。その女が出てきたことが気に入らないのです。宿では生かしておく方が便利と思っていたのですが……」

 確かにそうだった。
 池内先生がいたから、お風呂が貸切に出来たんだ。
 でもって、色々できたわけだ。
 それで、遠慮していたのか? 殺意を隠していたのか?
 やべぇよ……
 ため込んでいたのか、殺意を……

 シャラートの両手にはいつの間にか円形の刃が握られていた。
 チャクラムだ。投げることも、斬りつけることも思いのままの彼女の武器。
 そこにいるのは、完全無欠の天才的な暗殺者だ。

「あはッ! せめて痛みを感じさせず、肉塊(ミンチ)してやるよ! 乳牛でも肉になる――」

 緋色の髪をなびかせ、無重力の中をゆらりと間合いを詰めてくるライサ。
 右手には赤黒く染まった釘バットが握られていた。
 当然、メリケンサックも装着済だ。
 美少女の形をした殺戮兵器が動き出した。

「きゃははははッ! 殺すわよ、もうね、殺すしかないのよッ! アホウのホルスタインは私の禁呪で殺すのよぉぉ!」

 甲高い絶叫の声が響き渡る。エロリィの体から青白い魔力光が立ち上がってくる。
 ビリビリと巨大な魔力の持つ圧力を俺は感じていた。
 高性能魔力生成システムを持った、禁呪の破壊兵器が起動開始だ。

 エルフとなった千葉は俺の許嫁の出す殺意の奔流に、完全に失神。
 ブクブクと口から泡を吹きながら、時々ビクビクと痙攣している。
 やばい。千葉まで死んでしまうかもしれない――

『サラーム! なんとかしろ!』
『無理だわ』
『なんで?』
『ラマーズ砲を発射したら魔力が無くなったわ。溜まるまでなにもできないわ』
『てめぇぇぇぇ! なんだよこれは! 考えてみれば、てめぇの「ラマーズ砲」が元凶じゃねーか!』
『しらないわ! なんで私のせいになるの? 出したのはアインだわ!』
『つーか、どーすんだ! 千葉が死んだら、アニメが! アニメが見れなくなるぞ! 俺、ノーパソのパスワードしらねーぞ!』
『えー!! アイン! なんとかしてよ! 早くなんとか! 死ぬ前に聞きだしなさいよ!』
『アホウか! できるか! お前には情がねーのか!』

 あるわけなかった――

『どーすんのよ!』
『しらねーよ!』

 脳内で高速会話する俺とサラーム。その間0.5秒だ。
 
 いいわけだ―――
 言いわけを考えるんだ?
 俺の脳細胞よ! 動け! 動くんだ! 今、言いわけを思いつかないと、みんな死んじゃうんだよ! そんなの嫌なんだよ! 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ~」

 俺の口からは意味のない音だけが漏れていく。
 
「この状況を打破するためだ! 先生ならできるんだ! あの星に帰るためだ!」

 ビシッと俺は宇宙空間に浮かぶ青い星を指さす。

 なんで俺はこんなことを口走っているんだ?
 極限状態におかれた俺の脳細胞のシナプスが暴走し、意識の外側で思考の埒外の言葉を吐きだしていた。
 なじゃそれ? なんで先生にそんなことできるんだよ? 自分で言って自分で突っ込む俺。

「アイン―― アナタは天才です。天才でワタシの大事な弟であり、良人になる男なのです――」
「うんそうだね! シャラート。その通り! 俺、天才だから! 天才の俺を信じろ! 天才だよ俺! 紛(まご)うことなき天才! 知ってるよな?」

 俺は真正面からシャラートを見つめる。シャラートの瞳から徐々に殺気が薄らいでいるのが分かった。
 もう一押しか!!

「愛している! シャラート! 愛している! 一緒にあの星に帰ろう!」
「アイン――」

 そこには、暗殺者ではなく、俺にガチ惚れの俺の姉であり、俺の婚約者であるメガネのクールビューティがいた。

「私も愛しています――」

 ふわりとよろめくように俺に向かってくるシャラート。
 潤んだ瞳で俺を見つめる。長い黒髪がハラハラと揺れる。

 意外にチョロかった。

「てめぇ! 乳メガネ! まずはてめぇを殺すぞ! 殺す! 死なす! 絶対に殺してやる! ド畜生がぁぁぁ!」
「無駄に胸に肉のついた女はまとめて殺すのよ! もうね、1人も2人も同じなのよぉぉ!」

 ビリビリとした絶叫。それが重なり合い、結界内のパンゲア城まで震えている。いや、空間そのものが震えていた。
 殺気と殺意のアンサンブルだった。
 
「ライサ、エロリィ―― 俺はふがいない男かもしれん」
 
 俺は2人に向き合った。こぇぇぇ――― 眼差しだけで一般人即死だ。俺も座り小便寸前だよ……
 しかしだ――
 ここで、踏みとどまらなければ死ぬ。俺は死ぬ。千葉も死ぬ。みんな死ぬ。
 なにも考えない。なにも言わない骸になる。いや、肉片か…… 消し炭かもしれない……

「俺はそれでも、愛しているんだ! ライサ! 愛している。その瞳に恋してる――」
「あはッ! アイン」

「エロリィ! 好きだ! 大好きだ! 愛してる! 俺はお前にガチ惚れだ! 離れたくない――」
「なによ! アイン……」

 俺の言葉で、殺気が一瞬で消えた。
 こいつらも、チョロかった。やべぇ、チョロすぎて不安になってきたぁぁ!

「俺は、愛しているんだ! エロリィ! そして、ライサ! シャラート! 3人とも大好きだ! 愛してる! 選べない! 今の俺は選べない! この俺は……」

 無重力の中、なぜか崩れ落ちる俺。
 ガンと床を叩く。
 作用反作用の法則で、俺の体がフワフワと宙に浮く。

「ただ、その愛は真実なんだ!」

「「「アイン……」」」

 ライサとエロリィが俺の方にふわりと俺に近づいてきた。

「アイン……」
 
 身長と同じ長さのある金髪ツインテールがキラキラと星の輝きのような光をこぼす。
 碧い瞳がジッと俺を見つめる。

「で、あの女で元の世界にもどれるのぉ?」

 ビシッと池内先生を指さした。
 意外にコイツが一番、冷静だったぁぁぁ!
 一番、狂気に犯されてると思ったのにぃぃぃ!

「アインは天才なのです。アインが戻せるというなら、あの女を使えば戻せるのです」

 シャラートが言った。
 疑わしそうに、池内先生を見つめるエロリィ。

「なんだ? 糞みたいに乳のデカイ同士で同盟か? ホルスタインコンビか?」

 ライサの言葉に、シャラートのこめかみがピクピクしだした。だめですよぉぉ! しわになります! お姉様ぁぁ!

「大丈夫だ! 俺を信じろ! この宇宙から、あの星に帰還する! 池内先生の力ならそれができるのだぁぁ!」

 なぜ俺はこんなことを言っているのか?
 自分で自分の言っていることが分けわからん。

「あらあら、天成君たら、この私にそんなに甘えたいのかしら、うふ。ああ、私でいいの? 私を選ぶなんて…… ああん、ダメ、私の女の部分がうずいてきそう(ああああ、だめよ、天成君、そんなぁぁ、私を―― いいの? 私で、私は教師であなたは生徒なのよ。ううん、分かってるわ、天成君は本気なのね、うふ)」

 もはや、俺に逃げ場なかった。
 口から泡を吹き、白目を見せているエルフの千葉がクルクルと無重力空間を浮いていた。

 人外となった教師の18禁の内面描写がゆるゆると無重力空間に流れていくようであった――
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