黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

中七七三

文字の大きさ
上 下
40 / 122
第四章:星の海を行く城

第四〇話:異世界も青かった。ただし一部赤黒い

しおりを挟む
「ちかくぅ?」
「そう、地殻だ」

 エルフとなった千葉が揺れる城壁を踏みしめゆっくりと立ち上がった。
 流れるような優雅な所作だ。
 中身は男子高校生の千葉君であるが、キャラづくりにかける執念なのだろうか。
 一つ一つの動作が恐るべき水準になっている。完成された幻想世界のエルフがそこに存在していた。

「地殻が粉砕されたようだな」
 クイッとエアメガネを持ち上げる動作をしながら、エルフの千葉が言った。
 その声音は冷静さを取り戻していた。

「地殻が粉砕されたの?」
「ああ、地下のマントルが噴き出している」
「なんで?」
「いや、オマエが瓦礫を超高速でぶち込んだからだろ」

「ガガガーーーン」と大地がブッ裂けて、巨大な火柱が何本もぶちあがっていく。

『きゃはははは! エ〇ァね! まるで、劇場版一作目の〇ヴァン〇リヲンのラストシーンみたい! すごいわ! ねえ、もっとやろうよ!』

 勘弁してくれ……
 アンビリカルケーブルのような物でつながったままの精霊様が大爆笑していた。
 パタパタと四枚羽を震わせ、ホバリングしている。
 真っ赤に燃える無数の巨大な火柱は確かにその名作アニメを想起させるものだった。
 で、どーすんだよこれ?
 俺、しらねーよ。

『なあ、サラーム』
『なによ、アイン?』
『これ、結構ヤバいかもしれんな』
『そうなの?』
『ああ』

「なあ、千葉、これ不味の? やっぱ?」
「まずいな。かなりまずい」

 細く優雅な腕を緩やかなラインを描く胸の下で組む千葉と言う名のエルフ。
 小首を傾け、思考している。
 灼熱のオレンジの光の奔流の中、エメラルドグリーンの髪が揺れる。

「この世界の惑星の構造は不明であるが……」

 千葉はここで一度、言葉を切った。
 そして、ビシッと巨大な火柱を指さす。

「このまま地殻の崩壊が進めば、この星全体が『地殻津波』で、終焉を迎えるのではないかと思う――」
「はい? ちかくつなみ?」
「うむ、惑星の地殻が吹き飛び、それが高さ1キロ以上の津波となり、この星を覆い尽くすのではないかと思うのだ。現段階では推測ではあるが」
「それって、大変なんじゃね?」
「端的に言って、世界が終る。異世界終了宣言ですな」
「アホウか……」

『バカみたい! 石ころ撃ちこんだくらいで世界が終るとか、惑星って脆すぎて笑っちゃうわね!』
『アホウか! こっちは泣きたいよ! なんで、こうも次から次へと難題がやってくるんだよ! ガチホモどころじゃねーよ!』
『光速の70%の速度で石ころ撃ちこんだくらいで、世界が終るけないわ! 人間は滅ぶかもしれないけど』
『おま! 俺が死んだら、お前も死ぬぞ! 切るぞ! むしるぞ! このアンビリカルケーブルを!!』

 俺はサラームに向かって伸びているアンビリカルケーブルを握りしめる。
 以外に細いので、力を込めたらきれそうな気もする。

『ぎゃぁぁぁぁ! やめてよ! 分かったわよ! 大丈夫よ! この城は物理障壁で囲ったから! 安全だわ!」

 サラームが俺の手にしがみ付いて叫ぶ。必死だった。
 この引きこもり精霊様は、12年間俺の中に棲み続けていたせいで、俺と完全にくっついてしまっている。
 アンビリカルケーブルを切ると死ぬかどうかは分からないが、凄まじく危険な感じがするのだろう。サラームにとっては。

 俺はゆっくりと手を離した。

『俺たちが助かるってのは、まあいいけど……』

 周囲は更に酷いことになっている。
 火柱と火山弾ような巨大な岩石が吹っ飛び、地面はマグマでグツグツを沸騰していた。
 地獄絵図と言う言葉が生ぬるい。もはや15万人のガチ※ホモ軍などどこに行った分からん。
 人の力など、自然災害の前には全く無力であることが分かった。
 本当に怖いね、自然災害。

 しかしだ。事態は、ガチ※ホモ軍の侵略とかそんなレベルの話じゃなくなっているんじゃね?
 これ、この異世界全体の問題になりつつあるんじゃね?
 どーなの?

「あはッ! スゴイなアインは! 一瞬で全滅だ! 私の出番なんかないね」
 
 釘バットを肩に担いでライサが言った。
 地獄が現出したかのような灼熱の爆炎の出す紅い光の中、彼女の緋色の髪も舞っている。
 この地獄のような光景を見て、うっとりとしている。この破壊を俺の力だと信じて、さらに俺に惚れていくのだろう。
 まあ、それはそれで歓迎すべきことではあるが、その前提となる異世界がヤバい。

「天才です―― アインはやはり天才…… いいえ、新世界の王になるべき存在です」

 シャラートのメガネのレンズが灼熱の光を反射している。その奥の涼やかな眼差しが潤んでいる。
 はぁはぁと呼吸が荒くなっているのが分かる。
 呼吸に合わせ、特上のおっぱいがゆっくりと揺れる。俺専用のおっぱいだ。
 目の前の惨劇が、このクールビューティのお姉様の欲情スイッチをオンにしてしまったようだ。
 
「シャラート……」

 彼女は俺にしなだれかかってきた。柔らかな胸が当る。
 すっと細く白い手を俺の首に回してきた。真正面から俺を見つめてきた。造形に隙のない美女。
 切れるような美貌のお姉様が、俺にぞっこんだった。
 でも、周囲の状況はそれどころではない。

「乳メガネ! 離れなさいよ! もうね、まだ作戦は終わってないのよッ!」

 薄青い魔力光に包まれながら、金髪ツインテールを揺らすエロリィ。
 キッっと碧い瞳でシャラートと俺を見つめる。
 珍しく正論だった。

 そうだ。この後は、城をガチ※ホモの居城に特攻させる作戦なんだ。
 つーか、今となってはその作戦がありがたい。
 もうね、とっととこの場を城ごと離れた方がいいと思う。ここに止まっていてもろくなことは無いと思うから。

「そうですね―― ここはロリ姫様の言う通りかもしれません」

 すっと俺からシャラートが離れた。素直だ。だけどメガネの奥の目はスッと細くなっている。
 抑えきれない殺意がその双眸から漏れてきているようだった。
 さすがに、ここでチャクラムを投げつけることはしなかったが。

「アイン――、続きは、ガチホモを皆殺しにしてからです――」

 艶のあるうっとりとした声音で、物騒なことをのたまう。俺の腹違いの姉で婚約者。
 欲情を殺意に転換させ、感情を制御したようだ。
 
「そうでございますね。ガチ※ホモ王国に突撃でございます」
 頭を下げながら、侍従のセバスチャンが言った。この事態にも全く動じていない。
 さすが俺の祖父の曖昧な国王の侍従をやっているだけのことはあった。

「じゃあ、とりあえず、突撃だな! ガチ※ホモ王国に! エロリィ! 行くぜ!」

 さあ、早くこの現場から逃げよう。この際、ガチ※ホモ王国でもどこでもいいよ。
 やりたくなかった特攻作戦であるが、今や大歓迎だ。
 この自然現象のカタストロフが、ガチ※ホモ王国まで及んでいくのかどうかは知らん。
 まあ、その時はそのときだ。考えるのが面倒だ。

 エロリィが腰を落とし、すっと両手を広げた。すでにその白く繊細な両腕の周囲にはリングのような複層魔法陣が展開されている。
 その魔法陣が燐光のような光を放ちゆっくりと回転している。

「ああああん、らめぇ、らめなのぉぉ。だって、魔素をいきなり注ぎ込むなんて、そんな奥にピュッピュされたら、私の魔力回路が、らめになっちゃうのぉぉ、あひゃ~ん。らめ、らめぇ、らめぇ、魔力回路の奥をコツコツしないでぇ、そんなとこに魔素をドピュドピュされたら、魔力が溢れ出ちゃうのぉぉ、出来ちゃう、もう出来ちゃうのぉォぉ、すっごい、魔法が出来ちゃうののぉぉぉ。すきぃ、魔法が好きなのぉぉ、飛ぶのぉぉ、飛んじ――」

 エロリィの金色のツインテールが重力に逆らい全身が魔力光に包まれたその瞬間だった。

 凄まじい爆音と振動。空間そのものがビリビリと振動した。
 薄れ行く意識の中、俺は凄まじいGを感じていた。城壁の床に体全体が押し付けられ、のしイカになっていくような感じがした。
 俺が耐えられる限界を超えた。凄まじいい加速度が生み出すGだ。 
 周囲の視界が暗くなる。

 俺は、ブラックアウトした。

        ◇◇◇◇◇◇

『アイン! アインたら、ねえ、起きた方がいいわよ』

 脳内に声が響く。
 俺の体内に引きこもっている精霊様だ。サラームという自称精霊王候補だ。

「ん~ん…… サラーム…… どうなったんだ? いったい。転移成功?」
 
 俺は頭を押さえて、ゆっくりと立ち上がった。まだクラクラする感じが抜けない。
 なぜか、体重が無くなって、体がフワフワするような気がした。

「あれ?」

 城壁にはシャラート達がまだひっくり返っている。
 目を覚ましたのは俺が一番最初のようだった。
 
 つーかそれより大きな問題があった。
 俺はその光景を見下ろしているのだ。
 俺の足もとのかなり下に、城壁がみえるわけなんだが……

 俺はゆっくりとであるが、城壁から離れ空を飛んでいた。
 完全に宙に浮いている。
 すっごく体が軽いんだけど?
 おい、なにこれ?

 俺は首を回してゆっくりと周囲を見た。
 空が黒い。星が出ている。
 夜? 
 でも明るいんだけど――

 そして俺の視界にあるものが映る。
 青い球体。まるで漆黒の闇に浮かぶ、青い宝石のような球体だ。
 よくみると、一部赤黒くなって、放射状に閃光のようなものが吹きあがっている。
 なんだろうね……

 俺は更に周囲をよく観察した。
 なんか、球形のドームのようなものに城全体が包まれているように見えた。
 サラームの言っていた物理結界と言う奴か?

 俺は思い切り深呼吸して、数を数えた。4まで数える。

「サラーーーーーム!! なんじゃこりゃぁぁ!!」

 俺の渾身の絶叫が異世界の宇宙空間に木霊した。
 吐きだした絶叫の威力で俺の体が無重力状態の中、クルクル回り出した。
 慣性の法則を実感した。

 異世界は青かった。ただし、一部赤黒かったけど。
しおりを挟む
ツギクルバナー

WEB小説執筆や書評(小説、漫画、一般書)などあれこれ書いています
ネット小説書きの戯言
よろしければどうぞ。
感想 19

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...