黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

中七七三

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第三章:パンゲア王国の危機

第二八話:宿の部屋割り

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 「ああん、アイン可愛いの! 可愛いわ! アイン、どうしてこんなに可愛いの。もう、ママはスリスリしちゃうわぁぁん。もう、天才で、可愛くて、女の子大人気だから、スリスリスリスリ――」

 俺たちはジジイに誘われた旅館に行くことになった。
 ファンタジーなら宿屋と言うべきなのか?
 しかし、そこはヨーロッパ的な内装ではなかった。
 どちらかというと、中央アジアか? 
 よー分からんが、家は石ではない。周辺に森があるで、木の資源が多いのだろう。木造の家だ。
 しかも、下は分厚い絨毯が敷き詰められている。
 凄まじく高そうな絨毯だった。
 外履から用意された室内用の靴に履き替えた。
 スリッパみたいなのだ。

 そして、部屋割りで俺は両親と同じ部屋になった。
 ダートリンク家の家族旅行と化している。
 で、俺の母親ルサーナが早速、俺をスリスリするのであった。
 まずはほっぺたを合わせたスリスリから始まり、今はおっぱいで顔をスリスリされている。柔らかい胸が頬をスリスリする。
 全然エロい気持ちにならない。もう、いい加減にしてくださいお母様という言葉がのど元まで出る。
 だって、パパが見ているよ。俺を殺意のこもった目でみているから。
 もう、息子を見る目じゃないと思うし。

『まるで、森薫が描いたような絨毯だわ』
 異世界出身の精霊とは思えない感想を垂れ流すサラーム。俺の育てたヲタ精霊だ。
 確かにじっと見ていると目が痛くなりそうだ。
 
『ねえ、アイン』
『なんだ?』
『私、もうアナタの中にいる必要ないわよね?』
 唐突にサラームが言った。
 確かにそうだ。
 12年も一心同体だったので忘れていた。
 この世界の魔素の濃度なら、精霊は体の維持ができる。
 よって、俺の中にいる必要はない。
 うーん、出て行くのか…… 
 ちょっとさびしい気もするが、仕方ないか。
 俺としてもプライバシーを守れるというメリットはある。
 サラームは千葉のアニメで心をつなぎとめればいい。
 一心同体である必要もないよな。

『ためしに出てみたらどうだ――』
 俺はルサーナにスリスリされながら、脳内で答える。
『そうね……』
 しかし、出てこない。
『どうしたんだ? サラーム』
『うーん…… 外が怖い…… アニメ見たい…… 漫画読みたい…… ネットみたい』
『お前、なんだよ! 出たいんじゃないのかよ』
『出たいんだけど! 出れないのよ。なんか怖いわ。なんで?』
『引きこもりか! 精霊の引きこもりか!』
『アンタ、ニートじゃん』
『俺は、引きこもってなかった。コンビニでエロ漫画を買っていた』
 勝ち誇るように言う俺。
『うーん、勇気を出して出てみるわ』
『よし、出てみろ! 一歩踏み出せばいいんだ。勇気を持て!』
 ニートに励まされる精霊。
 
 ぬるっと俺の胸の部分からサラームが出てきた。
 そして、煌めく4枚の羽をはばたかせ宙に浮いた。
 あれ?
 なにそれ?

『おい、サラーム……』
『なに?』
『尻尾があるぞ』
『尻尾?』

 サラームの腰の辺りから、細い紐のような物が伸びている。
 それはそのまま、俺の胸にから生えていた。
 さっき、サラームが出てきた当たりだ。

『ア…… アンビリカルケーブル?』
『多分違うな。いや、そうかもしれんが……』
『なんなのこれ?』
『切ってみれば分かるんじゃね?』
『ぎゃああああ!! 嫌よ! 殺す気なの? ダメよ! 切ったらダメ!』
 ここまで、うろたえたサラームを見たのは、初めてだった。新鮮だ。
 ヒュンとサラームは俺の胸に飛び込んで、ズブズブと入って行った。
 リスかネズミが巣穴に入るみたいだった。
『しばらくは一緒だわ。いいわね、アイン』
『まあ、いいけど』
 というわけで、俺とサラームはまだ一心同体が続きそうだった。

「しかし、こんなのんびりしてていいのか…… パンゲア王国が……」
 雇用主の心配をするお父様だった。 
「雷鳴の勇者」ことシュバインだ。

 つーか12年間無断欠勤だから、クビになってんじゃねーの。
 まあ、お母様のコネでなんとでもなりそうだけど。

「アナタが魔道回路を錆びつかせなければよかったのです!」
 俺の頭をぎゅっと胸に抱きかかえ、お母様が言った。
「銀髪の竜槍姫」ことルサーナだ。
 シュバインには容赦なく厳しいルサーナだった。
 
「お母さん、オヤジをあんまり責めないでほしい」
 ここで、親の喧嘩というか、一方的な蹂躙は見たくない。
 一応、オヤジをかばう俺。

「ああああ! なんて優しいの! アイン! 私のアイン! 天才で可愛くて、そして優しいのね、完ぺきね! もう完ぺきだわ! もう絶対に離したくないの! でも、私のことはママって呼んで、アイン」
 俺をおっぱいでスリスリするルサーナ。勘弁してくださいお母様。

「こうしている間にも、ガチ※ホモ王国が……」
 シュバインはつぶやいた。
 あああ…… そのろくでもない国の名前聞きたくないんだけど。
 ろくなことになってないだろ。多分。
 
 しかし、この部屋にいたら、俺の顔がすり減ってしまう。
 一日中、スリスリというのは耐えらん。

「ママ、ちょっとゴメン」
 お母さんと呼ぶとどうせ「ママ」と呼べというのだ。もう、最初からママと呼ぶことにした。
 俺はルサーナから離れた。
「ああ! どこ行くのアイン! また消えないで!」
 その言葉が、チクっと胸に突き刺さる。この異常とも思える母親の行動も、12年間離れ離れになっていたことがあるのかもしれん。
 子どもが可愛い時期に、その時間を奪われたのだ。再開したといっても、時間は戻ってこない。
 だが、スリスリは止めてほしい。

「千葉のところに、ちょっと。すぐ戻ってくるから」
「ちゃんと戻ってきてね! アイン! そうじゃないと……」
「そうじゃないと?」
「自分を押さえられそうにないわ……」
 俺には決して見せたことの無い、笑みをみせるルサーナ。
 怖いよ、ママ。

 とにかく、俺は部屋を出た。
 気分転換だ。
 別に、おっぱいスリスリが嫌という訳ではないがやり過ぎはよくない。
 週一回くらいなら十分許せるのだが……

 俺は宿の中を移動する。結構でかい宿だ。
 一階が食堂になっていて、冒険者で結構賑わっている。
 風呂も一階にある。確かにデカイ風呂だった。
 男子と女子とに分かれて、早々に入った。
 全員、あまりも汚れていたし。数週間ぶりの入浴だった。

 1階の奥の部屋まで行く。大きな部屋が2つあり、そこが女子の部屋になっている。
 確か、千葉は女子と同じ部屋にいるはずだ。
 女子は2つの部屋に分かれて泊まっている。
 
 俺は、一方の部屋をノックした。反応がない。なんどもノックしたが反応がない。
「あああ、あ、天成だ、だけど、あ、あけるぞ……」
 女子の部屋を開けるので、少しだけどもった。
 そおっと、ドアを開けた。
 あれ? 
 誰もいない。
 温泉でもいったのか?

「仕方ないな…… も一つの部屋かな」
 俺はもう一つの部屋に行った。ここは外からすでに女子の声が聞こえていた。
 俺はノックをして、了解を得て、ドアを開けた。

「千葉は?」
「千葉君……」
「そう、千葉君、エルフになった千葉君。出席番号18番の千葉次郎君。どこ?」
「千葉君……」
 そういうと、その女子は少し言葉を濁した。
「アイツ、私たちをビッチだとか、腐れメンタとか、3次元の女は負け組とか、責めるのよ…… あの姿で」
 市原という女子が言った。
「ちょっと、家が恋しいとか言うと、演説はじめるし…… 『凡俗死ね』とか『日常を突き破れ』とか」
「ほう……」
「で、みんな、こっちに避難したの。あっちの部屋にいると思うよ」
「いないよ。誰もいない」
「いないの?」
「いない」
「ねえ! 千葉のバカがいなくなったって、キャハハハハ! 受けるぅぅ! ねえ、戻ろうよ!」
 市原が言うとゾロゾロと、女子たちが部屋に戻って行った。
 なんか、すれ違いざまに、「チッ」と俺に対し、舌打ちする女子がいた。
 俺、恨まれてるの? なんで? あんなに頑張ったのに……
 辛い。心が折れそうになる。

 しかし、千葉だ。肝心なのは千葉がどこにいるかだ……
 異世界で行方不明とか、勘弁して欲しい。あいつのノーパソは、この世界では、同じ重さの純金以上の価値があるのだ。

 俺は、婚約者チームの部屋に行った。
 シャラートに相談した方がいいだろう。
 ノックをした。返事があったので入る。

「なあ! 千葉が! って…… なんでここにいる? 千葉」
 そこには、エルフの千葉がいた。絨毯の上に座っていた。
 エメラルドグリーンの髪の毛をしたエルフの美少女が精緻な絨毯の上にチョコンと座っている。
 それはそれで、幻想的な光景だが、中身は千葉君だ。
「いや、誰もいないと寂しいのでこっちに来た」
「『こっちに来た』じゃねーだろ! 女子を追い出したのオマエだろ? つーかなんで、俺の……」
 言葉に詰まる俺。「俺の許嫁の部屋にいるのか?」という言葉を飲み込む。だって、千葉も婚約者だから。
 この言葉は意味がない。
 千葉になんといえばいいのか、考える俺。ん~。
 まあ、面倒だしいいか。千葉も今は女だしな。同じ部屋にいるくらいはいいだろ。
 エロリィとかに手を出そうにも、どう考えても、エロリィの方が強いだろうし。

「あはッ! アインも同じ部屋にすればいいのに、お義母様と一緒じゃいキツイだろ?」
 長い脚を放り出して座っているライサが言った。小麦色の素足がまぶしい。

「いや、それはちょっと……」
「わたしは一向にかまわんッッ!!」
 クイッとエアメガネを持ち上げ、エルフの千葉が言った。
『烈〇王ね。ありふれているわ』
 サラームが厳しい。
「そうね! かまわないわよ。このエルフは私の下僕だし」
 金髪ツインテールを揺らし、エロリィが断言した。
 もう、そこまで関係が出来上がってるのか?

「はいッ! ご奉仕させていただきたく、お願いいたします!」
 ビシッとエロリィに対して美しい土下座を決めるエルフの千葉君。

 まずいだろ……
 やっぱまずい。
 こいつと、エロリィを一緒にするのはかなり危険だ。
「やはり、アインもこっちに来るべきでしょう」
 シャラートが言った。
 なんか、呼吸が荒くなってるのは気のせいですか? お姉様。
 湯上りでほんのり桜色になっているおっぱいの谷間がエロいんですけど。

「では、ここは私、不肖エルフの千葉(仮称)が、お義母様を説得してきましょう」
 エルフの千葉が立ち上がった。ビシッと旧帝国陸軍の敬礼をする。
「アホウか! バカ! 余計な事すんな、殺されるぞ!」
「あはッ! いいだろ、アイン、行かせてやれよ」
 千葉を止めようとした俺をライサがぎゅっと抱え込んだ。良い匂いがするが、圧力が半端ない。
 ベアハッグという技にしか思えない。
「では、行ってまいります!」 
 千葉だったエルフはそう言うと部屋を出ていった。
 バカ…… 下手なこと言ったら、殺されるぞ。
 生粋の暗殺者のシャラートでさえ、俺の母親に対する言葉は、目上の人間や義母に対する以上のものだ。
 どーみても、畏怖がこもっている。
 お前らだって、怖いだろ? 正味の話。

 スリスリの溺愛ママから、俺を引き離すのは無理だ。
 俺は、千葉君のご冥福をお祈りした。
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