蒼の魔法士

仕神けいた

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蒼の魔法士-本編-

Seg 36 朱き囃子の禍つ声 -01-

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もうわけありません。注意して開けたのですが」
 木戸があわててとびらの向こうへもどめる。

「タイミング……ばっちりやぁん……」
「みっちゃん…………大丈夫だいじょうぶか?」
 かれほおには、たてに赤いすじがくっきりとついていた。勢いつけてもうとしていたところへ、とびらの角が当たったようだ。

「それにしても、なして木戸はんが? わしらがここ居るん何でわかったん?」
 今度はそっと入ってきた木戸。
 スーツの内ポケットから保冷ざいとハンカチを出して、手際てぎわよくみっちゃんの手当をはじめる。

 ――わぁお……保冷ざいふところから出てきたァ……

 ほおを冷やされながら、ふところ神秘しんぴれるみっちゃん。

 木戸はかれ患部かんぶを冷やしつつ、ユウを見た。
「ユウ様、かぎをお使いになったでしょう。それで居場所を把握はあくできましたので、おむかえにました」
「居場所がわかるって……すごい……そんなこともできるんだ!」
 かぎの能力に、尊敬そんけい感嘆かんたんの声を上げる。

「いえ……わたしなどまだまだです。それより、どちらへ向かうおつもりですか?」
「そうだっ! ミサギさんは!? 木戸さん、みっちゃんにメールをくれて、それでヘルプが朝ごはんで行こうとしたら屋敷やしきかぎで――」

 はらを鳴らしながら早口で言っているユウ。先ほどあんなに食べたのに、まだ空腹くうふくで頭が回らないようだ。

「まてまてまてユウどん! 説明が説明になっとらんで」
「だっておなか空いてんだもんっ!!」
「逆ギレすなやっ!」

「ユウ様は今朝けさ屋敷やしきで朝食をられてなかったためでしょう。少々お待ちを……」

 木戸は、スーツの内ポケットをさぐり、かれの手のひらほどもある大きなチョコチップクッキーを取り出した。

「わあ、クッキー! 木戸さんの手作り!?」
「はい」
 ひとみかがやかせて受け取る。ユウからすると、自分の顔ほどもある巨大きょだいクッキーだ。

「いざという時のために、用意しておいてよかったです」
「いやなんでどうやって入ってんねん! しかもれずに持っとくとか!」

わたしの特製ですから」
 表情はサングラスで分からないのに、ドヤ顔しているように見えたのは、みっちゃんの気のせいだろうか。

 かれの方がよっぽど未来のロボットのようだった。

 時間がっているのに、焼きたてのかおりをただよわせ、サクサクと小気味よい食感のココア生地きじ。たっぷりまれた大粒おおつぶのチョコチップが口の中でなめらかに転がる。

 クッキーのサイズが規格外のせいで、ユウの食べ方はさながらリスがクッキーをかじっている風体ふうていになった。しかし食べる速さは一瞬いっしゅんだ。
 みっちゃんののうが、早回しした映像えいぞうを見ているのかと錯覚さっかくする。

「っぷはぁ~、元気チャージ完了かんりょう

「さっきまでの朝ごはん、どこに消えたのん……」
 大量の食事でも満腹まんぷくにならなかったのに、クッキーの一枚いちまいで満足とは。

 いたい出費までしてユウの空腹くうふくを満たそうと努力したみっちゃんの心は、ポッキリと折れてしまった。

「それで、ユウ様とミシェル殿どのは、わたしのメールを見て、急いできてくれようとなさったのですね」
「うん、そう! それでかぎを使おうとして……」
「いや状況じょうきょう把握はあく能力!」

 折れていてもツッコミをわすれないみっちゃん。根性こんじょうである。

「てか、ワッシさっきからツッコんでばかりやんっ! ボケ担当たんとうがワシの役目なのにぃ……」

 苦悶くもんのみっちゃんをよそに木戸は、改めてかぎとびらむ。
「ユウ様がかぎを使ってくれて助かりました。お二方の居場所がわからなかったので、どのようにおびしようかと思っておりましたので。
 ここから現場へ直接参ります。アヤカシのいる危険きけん区域くいきとなりますので、ミシェル殿どのわたしからはなれないよう充分じゅうぶんお気を付けください」

「ちょ……ちょお待ちぃ! ユウどんまで連れてくんか?」
「はい、ミサギ様のご希望です」

「ゴキボウて……言うても、ユウどんにミサギどんの現場は、キツいなんてモンやないで」

 ユウがみっちゃんの背中せなかをポンポンッとたたく。
「いざとなったら、みっちゃんが何とかしてくれるんでしょっ? 『オトナ』の力、たよりにしてるよ!」
「……うぅ~」
頑張がんばりください」
 木戸もみっちゃんのかたに手をそっと置いた。
「ヌシさんはわっしと一緒いっしょにユウどん守る側じゃろうがっ!
 ……アカン、またんでもうた……」
 ぬうぅ……とうなって頭をかかえるが、

「あー! もうこなったらドンと来いじゃっ!」

 意を決して仁王立におうだちになるみっちゃんに、二人ふたりも改めてとびらに向かう。

「では、参ります」
 木戸はかぎをガチャリと回してとびらをゆっくり引いた。

「!?」

 ユウは、扉が開かれた瞬間、その先を見る間もなく、顔を背けた。
 炎が、熱と痛みをめいっぱいに叩きつけてくる。

 腕で顔を覆っても、目を閉じても痛みが襲う。皮膚から口から体内へと滑り込もうとしていた。
 少し空気を吸い込むだけで喉が痛み、言葉の代わりに針を吐き出している錯覚に陥る。
 ユウは咄嗟に息を止めた。
 しかしそれでも吹きつけてくる痛みに耐えられず、身体は自然としゃがみ込み、身を守るように丸く縮こまっていく。

「大丈夫かっ?」
「一度、戻りますか?」

 二人の声が心配そうにする。
 すぐ近くにいるのはわかっているのに、声が遠い。
 ユウが答えらえずにいると、首元が淡く光り出した。
「? あれ?」
 急に痛みが和らぎ、ユウは自身を見回した。
「なんだ? 楽になった……?」
 光のもとを辿って首元に手をやると、ミサギからもらった石が指先にあたる。
「それは、ミサギ様の護石ですね。アヤカシの脅威から身を守るものです」
「ミサギさんの――」
 意図せず、ユウの顔がほころぶ。

「……ありがとう、ございます」

「近くにおらんでも、ミサギどんは頼りになるのぅ」
「うん」
「ユウ様、このまま参りますか?」
「もちろん」
 ユウは立ち上がった。
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