23 / 73
蒼の魔法士-本編-
Seg 22 在りし絆、綴りて証 -01-
しおりを挟む
※流血等、残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。
先ほどまで、ビクともしなかった重厚な門はその力を失い、ユウと井上坂に開けられていった。
重たそうに押し開けていくユウに対し、井上坂は外から引いて手伝う。
普段、力仕事など全くしない細身の彼だが、そこは体格の差だろう。苦もなく引き開ける。
「大丈夫か――!?」
「あ、井上坂さん……」
ようやく現れた小さな子供の姿に、彼は息をのむ。
自身の姿に気付いていないのか、申し訳なさそうに頭を下げるユウは、凄惨そのものだった。
頬を伝い滴る赤い雫。
激しい戦いでもあったのか、どこもかしこもボロボロになった服。そこから覗く手足は切り裂かれたのか、赤黒い筋が幾重も走り赤い液がとめどなく溢れ出ている。
夏の空を映し出す澄んだ海のようなきれいな青い髪は、無残に赤黒く染まっていた。
文字通り、見た通り、全身真っ赤である。
「ケガ……ってか……だ、大丈夫、か?」
心配をするが、どうかしたらこちらの方が気を失ってしまいそうだ。
労わる言葉も、目眩に襲われてうまく声にならない。
「すみません、ついていくのが遅く、ふぇ……!?」
急に襲う浮遊感。ユウは、何が起こったのか一瞬わからなかった。
「ケガが痛むだろうが、少し我慢しろ」
井上坂の顔がすぐ近くにあった。
「はっ……? え……!?」
まだ状況が把握できずにいるユウを、井上坂は『お姫様抱っこ』していた。
「すまない、急いで離れるぞ」
言うや石畳を一蹴り。
「うわっ!」
走るというには、一歩分の推進力があまりに強く、スピードが速い。ジャンプというには、高さがなく前方への距離が長かった。
井上坂は、とにかく急いでいる様子で、鳥居から離れていった。
急な加速で、耳に風の音がビュウビュウなだれ込んでくる。ユウは彼の首元にしがみつかなければ吹き飛ばされてしまいそうだった。
彼の肩越しに向こうを見やれば、ぐんぐん遠くなっていく鳥居は、淡い光を放ち始め、その形を崩していく。
「巻き込まれたら、一緒に消滅してしまうからな」
ユウは、風の切れ間から聞こえる彼の言葉にゾッとして、しがみつく手に力を込める。
その一方で、彼はユウが落ちてしまわないように、ギュッと自身へ抱き寄せた。
井上坂の言葉を証明するかのように、鳥居は蛍が舞うように小さな光になってゆっくりと消えていった。
完全に消滅したのを目で確認し、井上坂はようやくスピードを落とす。参道脇で灯籠を背もたれにユウを座らせた。
どこから処置すればいいやら、そも、触れていいのか、見れば見るほど赤黒いユウの頬を服の袖でそっと拭う井上坂。
「何をどうしたらこんな血まみれになるんだ……!」
「あの……ボクは大丈ぶっ……」
「どこがだっ! 大人が見てもビビるぞ!」
「ぽにょぷらい、ぺあのぷににぱにゃりまぷぇっ」
子供特有のやわらかいほっぺをぷにんぷにんと拭われ、うまくしゃべれないユウ。
拭う側は、まだ乾ききらず髪から服から滴る赤い液の量に青ざめている。
先ほどまで、ビクともしなかった重厚な門はその力を失い、ユウと井上坂に開けられていった。
重たそうに押し開けていくユウに対し、井上坂は外から引いて手伝う。
普段、力仕事など全くしない細身の彼だが、そこは体格の差だろう。苦もなく引き開ける。
「大丈夫か――!?」
「あ、井上坂さん……」
ようやく現れた小さな子供の姿に、彼は息をのむ。
自身の姿に気付いていないのか、申し訳なさそうに頭を下げるユウは、凄惨そのものだった。
頬を伝い滴る赤い雫。
激しい戦いでもあったのか、どこもかしこもボロボロになった服。そこから覗く手足は切り裂かれたのか、赤黒い筋が幾重も走り赤い液がとめどなく溢れ出ている。
夏の空を映し出す澄んだ海のようなきれいな青い髪は、無残に赤黒く染まっていた。
文字通り、見た通り、全身真っ赤である。
「ケガ……ってか……だ、大丈夫、か?」
心配をするが、どうかしたらこちらの方が気を失ってしまいそうだ。
労わる言葉も、目眩に襲われてうまく声にならない。
「すみません、ついていくのが遅く、ふぇ……!?」
急に襲う浮遊感。ユウは、何が起こったのか一瞬わからなかった。
「ケガが痛むだろうが、少し我慢しろ」
井上坂の顔がすぐ近くにあった。
「はっ……? え……!?」
まだ状況が把握できずにいるユウを、井上坂は『お姫様抱っこ』していた。
「すまない、急いで離れるぞ」
言うや石畳を一蹴り。
「うわっ!」
走るというには、一歩分の推進力があまりに強く、スピードが速い。ジャンプというには、高さがなく前方への距離が長かった。
井上坂は、とにかく急いでいる様子で、鳥居から離れていった。
急な加速で、耳に風の音がビュウビュウなだれ込んでくる。ユウは彼の首元にしがみつかなければ吹き飛ばされてしまいそうだった。
彼の肩越しに向こうを見やれば、ぐんぐん遠くなっていく鳥居は、淡い光を放ち始め、その形を崩していく。
「巻き込まれたら、一緒に消滅してしまうからな」
ユウは、風の切れ間から聞こえる彼の言葉にゾッとして、しがみつく手に力を込める。
その一方で、彼はユウが落ちてしまわないように、ギュッと自身へ抱き寄せた。
井上坂の言葉を証明するかのように、鳥居は蛍が舞うように小さな光になってゆっくりと消えていった。
完全に消滅したのを目で確認し、井上坂はようやくスピードを落とす。参道脇で灯籠を背もたれにユウを座らせた。
どこから処置すればいいやら、そも、触れていいのか、見れば見るほど赤黒いユウの頬を服の袖でそっと拭う井上坂。
「何をどうしたらこんな血まみれになるんだ……!」
「あの……ボクは大丈ぶっ……」
「どこがだっ! 大人が見てもビビるぞ!」
「ぽにょぷらい、ぺあのぷににぱにゃりまぷぇっ」
子供特有のやわらかいほっぺをぷにんぷにんと拭われ、うまくしゃべれないユウ。
拭う側は、まだ乾ききらず髪から服から滴る赤い液の量に青ざめている。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
イカロスの騎士【帝国篇】
草壁文庫
ファンタジー
在位50年の騎士王プロクス=ハイキングは、「ロバの騎士様」と呼ばれ、王より下賜された小さな領地で穏やかに過ごしてきた。周囲は騎士王のことを、引退間際の老人だと思い込んでいた。しかし、その正体は不老の精霊人<マーブルス>。18歳の年のまま、素顔を隠して生きてきた女性。長く戦い続けてきた騎士王の夢は、海を渡り大切なひとがいる楽園に行くこと。だが、退位を前にして彼女を狙う者たちが暗躍し始める…!
ふだんはもふもふファンタジー絵本を描いている作者の初長編です!穏やかで優しい主人公と息子(弟?)のような弟子、主人公に恋する異形の弟子、隙あらば彼女を噛みまくる弟子(♀)が登場します。
投稿は毎週火曜〜日曜・21時、人物紹介を不定期更新
※戦闘描写、暴力描写、残酷描写等あるお話には(※)をつけます。
※こちらの作品は、カクヨムにて掲載しておりました完結作品の再編集版です。帝国篇の掲載後、魔界篇を登録予定。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる