蒼の魔法士

仕神けいた

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蒼の魔法士-本編-

Seg 20 君であり君でなく -03-

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 かれはさらに短冊たんざくを取り出してユウにりつけた。それはゆらゆらとつかみどころのない水人形にも容赦ようしゃなくうでにつく。
「なにこれ!?」
 青い文字がかびがる。

「“こおおに”」

 井上坂いのうえさか短冊たんざくった部分からユウのうでこおりつき、くだけてしまった。

「ギャアアアア!」

 ユウの姿に合わぬ悲鳴に、井上坂いのうえさかはさらに短冊たんざくを投げつけ、周辺の水人形を全てこおらせてしまった。

「……さあ、次はだれの番?」

 かえり様に井上坂いのうえさかが言う。

 こおった水面は、どこからかあふれる水がすぐさまおおい、次々とユウが生まれてくる。
 全身を赤く染めながららぎ、それは井上坂いのうえさかおそかってきた。

「自らつかまりにくるか?」

 ユウの姿をした水人形たちは、するどつめばし、きばいて井上坂いのうえさかてんと向かいくる。
 頭、心臓と、的確に急所をねらっているにもかかわらず、攻撃こうげきはすべてかれに難なくけられてしまった。それどころか、つかまり氷けにされていく。

伊達だてにこのとし字綴じつづり屋はやってないよ。
 ……さあ、”おにさんこちら、手の鳴る方へ”」

 からかうように手をパチパチ鳴らすと、言葉通り挑発ちょうはつにのった何体かの水人形は、井上坂いのうえさかに向かって突進とっしんしてきた。

 そのすきに、残りの何体かは、げようとしていた。

「“どんなにげても、つかまえてやるよ”」

 短冊たんざくが、げる水人形の背に次々とりつく。

 井上坂いのうえさかは、一度それらに背を向けて、
「“だぁるまさんが、こーろんだ”」
 再びくと、水人形たちがぴたりと静止する。

 時が止まったかのように、らぎ一つしない水人形たち。
 水人形どころか、辺り一帯動くものも音すらもなくなり、井上坂いのうえさかは自身の耳鳴りに少し顔をゆがませた。


「これで全部か……」

 さて、どうやって門の中へかえしたものかと井上坂いのうえさかが思案していたその時。


 ドゴォオオオン


 突如とつじょ、背後から爆音ばくおんおそった。

「!?」
 音だけでなく、衝撃波しょうげきはまでせてきたものだから、井上坂いのうえさかは背中がくだけたかと錯覚さっかくしてしまった。

 思わず背の方を見ると、再び爆音ばくおん衝撃しょうげきが届く。そこで初めて、しゅつづりの門が悲鳴をあげていることに気付いた。

 ユウであろうか。しかしそうだとして、これはとても子供の力で出せるとは思えない音と衝撃しょうげきだ。

 思考をめぐらせる間にも、立て続けに地響じひびきを立てて門が破られようとしている。

 静止していた水人形たちは、一斉いっせいに声をあげる。

「バケモノだ! そこから出しちゃダメだよっ!」

 憤怒ふんぬの色になった水人形のユウがさけぶと、門にかんぬきが現れた。

 ――自分自身をめる気か!?

 しかし、かんぬきはすぐにヒビが入り、ボロボロにくずれ去る。それを見て、水人形たちはあせってさけぶ。
「やめてよ! でてこないでよ!」

「出てこいっ!」

 井上坂いのうえさかが門に手をかけてさけぶ。

「早く……早く出てこい!」

 ガコン、と門が少し開いた。

 その様子に、水人形たちは口々にささやきだす。
「どうして?」
「どうして出ようとするの!?」
「なんで?」
「なんでそんなことするの?」
「ないよね?」
「ボクは、ひつようないよね!」 

 次々とうったえる水人形たちは、赤からどす黒いやみにどんどん身体をませていく。
 唯一ゆいいつ、赤く残されたひとみがギョロリとにらむ。

「自分で自分を否定したら、生きづらいに決まってるだろ」
 井上坂いのうえさかは、少し開いた門をさらにこじ開けようと力をめる。

「こいつはここから進もうとしているのに……それをこばんだりするな!」

 井上坂いのうえさかに言われ、水人形たちが一斉いっせい破砕はさいする。

 ガラスのような、氷のような破片はへんをまき散らし、一番門に近い水人形が一人ひとり残された。
「そんなこといったって! ここにいちゃいけないボクなんか、ひつようないだろっ!」



「……必要だよ……!」



 門の向こう側で声がする。ユウだ。




※次回、残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。
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