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蒼の魔法士-本編-
Seg 17 言葉綴りし者たち -04-
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朱綴り。朱色で綴られた門で、字綴りの試練ともいっていい。それは綴ってもらう者が挑まなければならない、自分自身との葛藤である。
ある者は、コンプレックスが再現され、また別の者は恐怖とするものが現れる。
しかし、必ずしも誰もが挑むわけではない。言の葉屋が言織に朱色で言葉を綴ると現れるのだ。
先程、中身を確認していた井上坂は不思議に首をかしげる。
と、いうのも、言織には朱綴りはなかったのだ。
しかし、試練は始まってしまった。
この門の中では、ユウに対する試練が始まっているはず。それが何かは、字綴りをする井上坂すらわからない。
わからないはずだが、天から微かだが声が降ってきた。
――似てない……お兄さんに……
――もとが青い髪……おかしい……
「なんだ? 何が起きている?」
長年、字綴りをしていた井上坂にとっても初めての現象だった。
不快な声はさらに降り注ぎ、その言葉に井上坂も苛立ちを募らせる。
――さっきの怪我がもうない……
――バケモノ……まだ包帯巻いて白々しい……
――あいつだけ違う……
「これは……あの子の試練……? いや、記憶?」
――あの子の周りでだけ、おかしなことが起きるよ
――奇妙な……呪われているのでは?
――恐ろしい……
ユウを否定する声に空を仰いでいると、井上坂の足元からも声が聞こえてきた。
――ボクはただ、こわくないよって言いたいだけなんだ
「!」
石畳の一つが波紋のように揺らぎ、そこから生まれ出た滴が人の形を成す。
水の揺らぎを持ったまま、それはユウの姿となった。
「ボクって、そんなにこわいこと、してる?」
「……」
「おなじことでも、きちんとしていても、ボクがするとみんなはこわがるんだ……ダメだっていうんだ」
ユウは今にも泣きそうな表情だ。締め付けられるものがあるのか、両手で胸を押さえている。
「ちがっても、おなじでも、ボクではダメってみんないうんだ」
「……っ」
井上坂は危うく言葉を発しそうになったのを手で押さえた。
本能が、応えてはいけないと云っている。
恐らくこれはユウの試練だ。
試練である以上、ユウ自身がやらなければならない。
彼が行動をした瞬間、言葉を発した途端、予想もできない事態が起こるだろう。それが何なのかわからない。
だが、今までにない事態が起きている以上、迂闊なことは出来ない。
――あの子は?
朱綴りの門を振り返る。堅く閉じられたままだ。
――どうすればいい? あの子がこちらへ来ないと……
「ボクは、バケモノでしかない」
水のように揺らぐユウが泣き出してしまった。
――化け物
その言葉に、井上坂の心臓が大きく脈打った。
ある者は、コンプレックスが再現され、また別の者は恐怖とするものが現れる。
しかし、必ずしも誰もが挑むわけではない。言の葉屋が言織に朱色で言葉を綴ると現れるのだ。
先程、中身を確認していた井上坂は不思議に首をかしげる。
と、いうのも、言織には朱綴りはなかったのだ。
しかし、試練は始まってしまった。
この門の中では、ユウに対する試練が始まっているはず。それが何かは、字綴りをする井上坂すらわからない。
わからないはずだが、天から微かだが声が降ってきた。
――似てない……お兄さんに……
――もとが青い髪……おかしい……
「なんだ? 何が起きている?」
長年、字綴りをしていた井上坂にとっても初めての現象だった。
不快な声はさらに降り注ぎ、その言葉に井上坂も苛立ちを募らせる。
――さっきの怪我がもうない……
――バケモノ……まだ包帯巻いて白々しい……
――あいつだけ違う……
「これは……あの子の試練……? いや、記憶?」
――あの子の周りでだけ、おかしなことが起きるよ
――奇妙な……呪われているのでは?
――恐ろしい……
ユウを否定する声に空を仰いでいると、井上坂の足元からも声が聞こえてきた。
――ボクはただ、こわくないよって言いたいだけなんだ
「!」
石畳の一つが波紋のように揺らぎ、そこから生まれ出た滴が人の形を成す。
水の揺らぎを持ったまま、それはユウの姿となった。
「ボクって、そんなにこわいこと、してる?」
「……」
「おなじことでも、きちんとしていても、ボクがするとみんなはこわがるんだ……ダメだっていうんだ」
ユウは今にも泣きそうな表情だ。締め付けられるものがあるのか、両手で胸を押さえている。
「ちがっても、おなじでも、ボクではダメってみんないうんだ」
「……っ」
井上坂は危うく言葉を発しそうになったのを手で押さえた。
本能が、応えてはいけないと云っている。
恐らくこれはユウの試練だ。
試練である以上、ユウ自身がやらなければならない。
彼が行動をした瞬間、言葉を発した途端、予想もできない事態が起こるだろう。それが何なのかわからない。
だが、今までにない事態が起きている以上、迂闊なことは出来ない。
――あの子は?
朱綴りの門を振り返る。堅く閉じられたままだ。
――どうすればいい? あの子がこちらへ来ないと……
「ボクは、バケモノでしかない」
水のように揺らぐユウが泣き出してしまった。
――化け物
その言葉に、井上坂の心臓が大きく脈打った。
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