蒼の魔法士

蒼の魔法士-本編-

Seg 06 狭間の世界～ミラクルワンダーランド～ -01-

　ユウの前に現れたのは、怪あやしげな金髪きんぱつサングラス男だった。

　丸く、顔の半分くらいの面積を占しめる黒いサングラス。雑にまとめてポニーテールにしたゆるやかふんわりした金髪きんぱつ。
　極きわめつけは、よれよれのワイシャツに黒ネクタイ、黒いズボンといった、冴さえないサラリーマン様相だ。
　怪あやしくないわけがない。

「ミッサギどーん♪　おヌシの好っきな肉まん買ってきたなりぃ～♪」

「うわっわ!?」
　間一髪かんいっぱつ、ユウは身を反らして迫せまりくる頭突ずつきを避よけた。

　その反動で、再び仰向あおむきにこける。

　金髪きんぱつの男は、肉まんが入っているらしい袋ふくろを片手で振ふり回まわしながら部屋へや中を走り回る。そして、散々走り回った後、男はようやく転げたユウに初めて気が付く。

「んぬっ、ミサギどんは？　そして、おヌシは？」

　いきなり床ゆかを突つき破やぶって出てきた変な……いや、ものすごく不審ふしんな男に応こたえる必要はないのだが、ユウは思わず応こたえてしまった。

「ボ、ボクは春日かすがユウ……です。いきなり床ゆかから出てきたあなたは？」

「おうっ！　わっしはみっちゃんぜよ！」
　逃にげるか攻撃こうげきするかどうするか悩なやんだが、ユウの脳裏のうりでは、いきなりわいてきた彼かれの正体への興味が勝利をかっさらった。

「みっちゃん、さん。なんで床ゆかから出てきたんですかっ？」
「んむ？　そりゃ、ミサギどんにサプラ～イズ♪　するためやん！」
「ミサギさん、ここにはいないですよ」
「なんてことっ！」
　くるくる回ったり、ショックを受けたり、頭上に豆電球が出現しピコンと光ったり、忙いそがしい人だな、と思ったユウ。

「んじゃ、探しに行くわいな～！」
「？」
　みっちゃんは、キョトンとするユウの手をいきなり引っ張った。

「わたっ!?　ちょ、何なん……うわあっ！」

　バランスを崩くずして、彼かれの開けた穴に落っこちた。暗く、狭せまい床下ゆかしたへ頭をぶつけるはずだったのだが――ぶつからない。

　思わず閉じた目をうっすらと開く。

「……え？　えっ!?」
　ぽっかり空いた床ゆかの下には、あるべきものがなかった。

「ミラクルワンダーランドへよ～ぅこそぉ～♪」

　一瞬いっしゅん、無重力感がユウの体を包む。そして、急に襲おそってくる引力と抵抗ていこうの風。

　それを知るのに、ユウの脳では数秒を要した。

「お、落ち……!?　落ちっつて落ちぁああああああああ！」
　ユウは底なしの闇やみの中を落ちていた。

　上を見ると、落ちてきた穴がなくなっている。

「な、何でぇえええぇぇええ!?」

「ここなあ、木戸はんが作り出した空間やね～ん」
　呑気のんきな声が隣となりからやってきた。
　空中を落下しつつ平泳ぎしながらこちらへくるみっちゃん。

「……器用だ」

「木戸も一応魔法士まほうしやからなあ。空間を操あやつんねん。屋敷やしきも、外のだだっ広い草原も、ついでに太陽まで自分の空間なら自由自在なんよ～」

「空間を操あやつるって……てか、落ちてるんですけどー！」
「おお！　この状況じょうきょうで冷静なるそのツッコミ！　なかなかやるのぅ！」
　そう言って親指を立ててニカリと笑う。

「つ、突つっ込こんでる、わけじゃ……！」
　落下の圧でしゃべりにくい。

「そういや、どこぞの童話にもこれと似たようなのがあったのう～」
　金髪きんぱつサングラスは懐なつかしげに明後日あさっての方を見上げる。

　ユウはその顔をじっと見た。

　――何でだ!?　何であのサングラスはこの風圧ではずれたりしないんだっ!?

　ユウの感じる限り、今までにない速度で落ちているにも関かかわらず、まったくずれさえしない男のサングラス。

　そこだけ冷静にツッコんでいる場合ではないとわかってはいたが、つい考えてしまう。

　男は、ユウの視線に気付いたのか、赤く染めた頬ほおにてをあてて恥はずかしげな仕草を見せる。