当て馬ポジションに転生してしまった件について

かんな

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三章〜出会いと別れ〜

六十四話 『バイトと修羅場?』

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バイトも塾も上手くいっている。
バイトは慣れてきたし、今日は美穂ちゃんの弟である颯斗くんと二人っきりでバイトだ。
美穂ちゃんとか瑛太くんと三人がかりでバイトをしてきたので二人がかりなのは初めてだ。


まぁ、今日はお客さんが少ないし、多分大丈夫だろうけど。


「あ、今日はよろしくね。颯斗くん」


「あ、城ヶ崎さん……はい、こちらこそお願いします」


挨拶を交わす私達の間に微妙な空気が流れる。
何か話さなきゃいけない気がするんだけど、何を話したらいいのかわからない! そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼はいつも通り淡々と仕事をこなしていく。


どうしよう……颯斗くんってばクールだし、何を考えているのか全然わかんないよ………今までは美穂ちゃんとか瑛太くんがいたから話し相手に困らなかったんだよね……。


私が一人モヤモヤしている間に、 


「城ヶ崎さん?どうかしました?」


いつの間にか颯斗くんに心配されていたらしい。うう……まともに話せない自分が情けないわ……!


「いいえ。何でもないです……」


「そうですか。なら良いんですが。ちゃんと仕事に集中してくださいね?」


笑顔なのに怖いなー!でも、颯斗くんが正論過ぎて何も言い返せないし。ここは素直に……


「すみません……」


謝るしかないじゃないか……!!私はそう思いながら頭を下げると、


「ったく。姉さんのお願いだから仕方なく手伝いをしているのに。迷惑かけんなよ……」


ボソリと呟かれた言葉を聞き逃さなかったぞ!?今明らかに面倒くさそうな声色だったもん!しかも小声で言ったつもりかもしれないけど聞こえてるからね!?


「え…」


「あ、ごめんなさい。つい本音が出てしまいました」


これ嘘では?だってこの人、すっごく爽やかな笑みを浮かべているもの。こんな顔して言う台詞じゃないと思うんだけど。


「今までは姉さんがいたから言えませんでしたけど俺はまだ認めてませんからね!姉さんのことをそそのかして何をするつもりなんですか?!あんたお嬢様なんだろ?!こんな店で働かなくてもお金に困ってなんかいないはずだ!」


そう言いながら颯斗くんは私のことを睨んでくる。……別に何もしないよ?ただ仲良くなりたいだけなんだよなぁ。


「確かに私の家は裕福だけど、私は働くのが好きだからそれにここで働いている方が楽しいし!!」


これは本音だよ。働いた分の給料も貰えるし、何より皆んなが喜んでくれるから嬉しいし。お客様が喜んでいる姿を見るともっと頑張ろう――って思えるし。


「………じゃあ、姉さんを利用して何かをする気はないということですね?」


美穂ちゃんを利用して……?美穂ちゃんはしっかりしていて大人っぽい子だと思う……けど。


「美穂ちゃんを利用するなんて考えてもないですよ?美穂ちゃんとは友達として仲良くなりたいだけですから」


「…本当でしょうね?」


疑い深い目で見てくる颯斗くん。もう!疑り深すぎるよ!そこまで信用できないかな?!私!


「ええ。私は美穂ちゃんのこと大好きですから!」


本当だよ!本当に心の底から好きだと思っているんだから! すると颯斗くんはますます怪しい目つきになってきて、


「………姉さんは昔、友達に裏切られたことがあったんですよ。それ以来人と関わることを避けていた時期があったんです」


……原作でも何かチラッと触れてたような気がするけど詳しくは覚えていないや。


「だから姉さんは一匹狼みたいな存在になっていて、周りからは近寄り難い雰囲気を出していたんです。まぁ、それを変えたのは瑛太なんですけど」


美穂ちゃんって一匹狼だったんだ。今はあんなに明るくて可愛い女の子なのにね……もしかしたら番外編らへんに描かれているのかもしれないけど……見たことがないからわからないわ。


「だから不安なんです。城ヶ崎さんが本当は悪い人で、姉さんを騙したり利用したりしようとしているんじゃないかって……」


うーむ……どんな裏切り方されたのかわからないけど、それは酷い話だね……。私にはそんなことは絶対に出来ない自信があるんだけどな……まぁ、原作の城ヶ崎透華はそういうことしそうだけど私はしないよ。


「颯斗くん。安心して下さい。私は決して美穂ちゃんを騙したりはしませんし、利用することもありません。だから信じて欲しいです」


真っ直ぐ颯斗くんの目を見つめて真剣に話す。これで颯斗くんが納得してくれるといいんだけどなぁ。本当に利用する気がないのが伝わったらいいな。


「………そうですか。まだ信用してない部分もありますけど、一応信じることにします」


良かった……!颯斗くんもわかってくれたみたいだ。美穂ちゃんの弟である颯斗くんにも嫌われたくないからね。


「ありがとうございます。颯斗くん」


「いえ。こちらこそすみません」


お互いにペコリと頭を下げ合う私達。なんだかんだ言って颯斗くんは優しいんだよね。 


「……すみませーん。注文いいですか?」


そんなことを考えていると、お客さんから声をかけられた。


「はい!今行きます!颯斗くん、仕事に戻りましょうか!」


「わかりました」


こうして私達は仕事に戻った。


△▼△▼



今日は比較的お客さんが少なかった為、いつもよりも早くバイトが終わったし、勉強する時間もあるし図書館に行こうかしら。


「あら。透華様ではありませんか?」


そんなことを思っていると、後ろから声をかけられた。振り向くとそこには――


「あら。佐川さん」


佐川里見。体育祭のときはめちゃくちゃ敵対心剥き出しだったけど、体育祭以降は何か懐いてきた?というか、よく話しかけられるようになったんだよね。


よく分からないけれど、めちゃくちゃ距離詰めてくるし。正直苦手なタイプなんだけど……
そんな私の気持ちなど知る由もなく、ニコニコしながら近づいてくる佐川。


「と、透華様……水瀬さんと一緒じゃないんですか?」


「美月さん……?いえ、一緒じゃないですけど?私はバイト帰りなので」


「え!?」


何故か驚いた顔をしている。そんなに私がバイトしていることが意外なのかしら――?


「えっと…お母様が言っていたのですが透華様のお母様が透華にバイトなんてさせるわけない、と仰っていましたので……」


「あー……あれはお母様の見栄です」


お母様って見栄っ張りなところあるからね。自分の娘が働いているなんて知られたくなかったんでしょうね……


「そうなんですか……?」

そう言って佐川が首を傾げた瞬間――


「あら?透華様?」


美月さんと鉢合わせてしまった。
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