当て馬ポジションに転生してしまった件について

かんな

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三章〜出会いと別れ〜

四十一話 『お誕生日』

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明々後日はお兄様の誕生日だ。そして、お兄様が中学を卒業する年でもある。
だから私は卒業の意味を込めて花束を送ろうと決めていたのだ。


だが……どれがいいのか全く分からない。


「んー……どうしようかな…?」


どんな花を渡してもお兄様は喜んでくれるだろうけど……。やっぱり一番似合うものを渡したいよね? そう思いながら店内の花を見渡していると、


「……あれ?透華さん?」


そんな声が聞こえてきたので振り返るとそこには美穂ちゃんの声が聞こえてきた。えっ……!?


「み、美穂ちゃん……?」


何でここに美穂ちゃんが……!?私が驚いていると美穂ちゃんも口に手をやり目を大きく見開いて私を見てくる。
それからしばらくするとお互い落ち着きを取り戻して美穂ちゃんが口を開いた。


「いらっしゃいませ、お客様、何かお困りごとでしょうか?」


そしてまるでマニュアル通りに接客するかのように笑顔を浮かべる。その変わりように少し驚きながらも私も同じように返すことにした。
うん、さっきまでの慌てた様子は全くないね!流石美穂ちゃん!!


「……そ、その…お兄様に花束を贈ろうと思っていて……」


「なるほど……花束を……予算はどれくらいをお考えですか?」


「えっと…三千円程度を考えています」


「三千円ですか……」


「……た、足りませんか……?」


最近無駄遣いしすぎちゃったからあんまりお金がないんだけどなぁ……でも、お兄様への誕生日プレゼントだし……三千円じゃ足りないならもっと頑張らないと……。
しかし、私の心配とは裏腹に美穂ちゃんは首を横に振って微笑んだ。


「いえ、大丈夫ですよ。三千円でもご用意できますよ……それでお兄様の好きな花とかありますか?」


お兄様の好きな花……うーん、考えたことなかったかも……だってお兄様と花の話なんてあまりしないし……。


「す、すみません……分かりません……」


「な、なら……好きな色とかは……」

好きな色……?……それなら分かるかもしれない! 私は美穂ちゃんに聞かれたことに答えるために頭の中で整理しながら、


「色……そういえばお兄様前、紫色が好きって言ってました!」


「……紫……ですか。なら、ビオラとからどうでしょうか?」


ビオラ……聞いたことあるような気がするけど、詳しくは知らないな……今更だけど……私お嬢様なのにそういうところ知らなすぎだろ……花とか稽古辞めて興味無くなってからは全然勉強してないし……。


「ビオラというのはスミレ科スミレ属に分類される一年草ですね。冬から春まで長く咲く春のガーデニングには欠かせない一年草で、花言葉は揺るがない魂、思慮深さ、誠実です」


淡々と説明してくれる美穂ちゃんの説明を聞きながら私は関心していた。花言葉もお兄様に合っているし、美穂ちゃんも勧めてくれている。なら、これに決まりかな!


「では、そのビオラでお願いします!」


「ありがとうございます。花束にしておきますね」


こうして無事に私はお兄様への誕生日プレゼントを買うことができた。正直安心した。私1人だとどんな花を選べばいいのかよく分からないし。それにしても、


「美穂ちゃんはここでバイトしてるの?」


「え?ええ……バイトというか……「ねえちゃん!」


美穂ちゃんが何かを言いかけたところで奥の方から誰かの声が聞こえてきた。そしてその声の主であろう男の子が走ってきた。顔立ちは美穂ちゃんに似ているからきっと弟くんだろう。


「颯斗。どうしたの?」


「母さんが呼んでるよ。姉さん……ってあ、すみません…お客様がいらっしゃいましたか……」


美穂ちゃんの弟である颯斗君は私を見て申し訳なさそうな顔をする。別に気にすることないのにね。


「気を使わなくて大丈夫ですよ。後は花束にするだけですから」


「なら良かったです……じゃあ、僕がお客様の花束作るから姉さんは母さんのところに行ってあげて」


「……いいかしら?透華さん」


美穂ちゃんは私を見ながら聞いてくる。私はうんと強く首を縦に振った。お母さんの方を優先させて欲しいし。


「じゃあ、任せたわね」


そう言って美穂ちゃんは店の奥へと入っていくのと同時に颯斗くんはテキパキと移動しながら、笑顔でこう言った。


「では、お客様こちらへどうぞ。花束が出来上がるまでは当店自慢のケーキも食べれますから是非お召し上がりください」


何と!それは凄く楽しみ!私はワクワクしながら席につき、早速ケーキを注文した。


暫くして男の子がやってきた。あれ?この子どこかで見たことがあるような…?
私の疑問とは他所に男の子は笑顔でこう言った。


「ご注文の品をお持ちしました。苺ショートです!」


ハキハキと元気な声でそう言うと男の子はテーブルの上にケーキと紅茶を置いた。


「……あれ?紅茶は頼んでないんだけど……」


「紅茶はサービスです、では、ごゆっくり」


そう言って男の子は去っていく。成程。サービスか……サービスしてくれるなんて良いお店だなぁ。
そんなことを考えながらケーキを食べていると凄く美味しくてつい、笑顔になってしまう。


ショートケーキでシンプルなのだが、生クリームが重くなく、さっぱりしていてとても食べやすい。スポンジはフワフワで甘く、甘酸っぱいイチゴとマッチしている。


これで300円!しかも紅茶付き!安すぎでは?もっと取っても文句は言われないだろう。
私が満足しながらケーキを完食すると丁度花束が完成したようだ。
私は会計を済ませ、美穂ちゃん弟の颯斗君から花束を受け取ると、2人にお礼を言って家に帰った。



△▼△▼



今日はお兄様の誕生日だ。沢山の人が集まってみんなが盛り上がっている。香織様も華鈴様も玲奈様も美月さんも裕翔様もみんな楽しそうだ。……二人を除いて。


「……つまらん。ぶっ壊したい」


「冬馬。流石にそれは……」


そう、二人……王子と西園寺である。二人ともこの時ぐらい笑えよ……とは思うけど、しょうがないよね……華鈴様がお兄様と親しく話してるから西園寺の機嫌は悪いし……王子は言わずもがなだ。


……高校生になるまで立ち直れるのか心配になって来たぞ……この調子じゃ美穂ちゃんと出会っても立ち直らないのでは?拗らせていくのかな……。


そんな王子の姿を見たいと言えば見たいけども……こんな感じなのによくお兄様の誕生日パーティーに来たな……


「透華」


と、思っているとお兄様に話しかけられた。いつも通りの優しい表情で私を見る。はぇー、カッコイイ。


「お兄様、誕生日おめでとうございます、これプレゼントの花束です」


本当は一番目に渡したかったけどねぇ。でも、恋人である香織様が一番初めに渡した方がお兄様も嬉しいだろうし……と思ってパーティーまでは我慢してたけど、みんな次々にプレゼント渡すから結局最後になってしまった。
お兄様は私から花束を受け取り嬉しそうな顔をしているし、よかった……!


今度プレゼントする機会があったらまた美穂ちゃんのところに行こうかな……!と思った直後、


「ほーら、西園寺くーん、姉さん譲ってあげるから元気出しなよー」


と、言いながら玲奈様は西園寺の腕に絡んだ。


「元々、元気はあるけど……白鷺さんがそう言ってるのならしょうがないね」


「もうー、白鷺じゃなくてさ、玲奈って呼んでよー、たまにどっちを呼んでるのか分からなくなるからさー、それに敬語も外してよ~」


そう言って甘える玲奈様。西園寺じゃなく、そこら辺の男子だったなら即落ちだろう。現に周りにいる男子たちは羨ましそうな目で見ているし。


「はいはい、分かったから腕離してくれない?」


「もうー!姉さんしか眼中にないんだから~!こんなに愛されてる姉さん羨ましいなぁ!ねえ、透華ちゃん?」


「へ!?あ……そ、そうですね……」


急に話を振られて咄嗟に肯定してしまった……ま、原作でも西園寺は華鈴様に一途だし?そこら辺は何も変わってない。


同人誌だと『王子の嫁』とか腐女子にネタにされてたしねぇ。本人が見たら多分ブチギレ不可避だけど。お互いが特別な存在というのは確かだけども。そんなことを思っていると、パーティーも終盤になり、お兄様と香織様は二人でバルコニーに出た。
ここから先は邪魔したらいけないので私は退散することにしたが、問題は王子だろう。


恋人同士になったからって諦めていないだろうし。お兄様頑張れよ!私応援してるから!王子は止めないけどな!


そう思いながら私は華鈴様達と一緒に主役不在の二次会を楽しんだ。
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