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三章〜出会いと別れ〜
三十九話 『前座』
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お兄様と香織様が付き合い始めて数日が経った。周りの反応は様々だった。
やーっとくっついたのかよー!とか、長かったねー!とか、おめでとー!みたいな感じの反応がほとんどだった。
中には香織様のガチファンとお兄様のガチファンが喧嘩していたり、それを他の生徒が宥めたりと、ちょっとした騒ぎになっていたけど、最終的には『香織様ならしょうがない』と『城ヶ崎ならしょうがない』という結論に至ったらしい。
……そして華鈴様と玲奈様は――。
「あちゃー、姉さん失恋しちゃったか……」
「まぁ、こうなることは分かっていたわ」
華鈴様は清しく、玲奈様はどこか悲しそうな表情をしていたけども、それでも二人は前を向いていた。まぁ、華鈴様は美人だし、西園寺と恋人同士になる未来は確定しているようなものだし?
華鈴様の未来は明るいし、私が心配することは何も無い。後は西園寺次第だ。
そして最大の問題である、王子の方はというと、案の定、かなり荒れていた。それはもう、見てられないくらいに。
今では無気力状態になり、魂が抜けたように生きているだけの人形のようになっていた。
そんな彼に近寄る人は誰もいない。
あの西園寺ですらも、王子に話しかけようとしない。
あまりにも不憫すぎて、見ていられなかった。だからといって声はかけないけども。
「…もう!いつまでそんなになってるのよー!伊集院くん!」
「げっ……白鷺玲奈……」
突然の玲奈様の乱入により、王子の表情が一気に面倒くさいと言った表情に変わった。
だがしかし、玲奈様は全く気にしていない様子だった。
さすがは玲奈様。あの王子の相手ができるなんて……。
「いい加減にしてよね!九条先輩が悠真お兄ちゃんに取られたから拗ねるのはわかるけどさー!」
「す、拗ねる!?俺が拗ねる!?」
「そうでしょうが!だって好きな人が取られて悔しいってことでしょ!?」
うわぉ。凄いド直球な言い方ですね。流石です玲奈様。私達が言いたいことを代表してくれました。
それにしても王子のこの驚きよう。まさか自覚してなかったとは……。
「言っておくがな!俺は拗ねてない!これはただ単にショックが大きいだけだ!」
…そこは認めるんだ。まぁ、ショックなのは分かるけどさ。でも認めたら負けだと思うんだけど。
「あ、ショックなのは認めるんだー。ならささっと立ち直ったらー?このままだと九条先輩も悠真お兄ちゃんも伊集院くんのこと気にするだろうしー」
「余計なお世話だ!それに……!」
チラリと王子は華鈴様の方を見る。その視線には少しだけ哀愁が漂っていた気がした。
「あ、姉さんのこと?姉さんはどっかの誰かさんと違って立ち直ってますよー。だからさ、あんたも早く立ち直りなさいよね!」
ビシッと指を刺された王子は苦虫を噛み潰したような顔になった。これは時間が相当かかりそうだな……下手したら高校生になるまで引きずっているかも……
「ん?あれ?」
そこまで思った時、違和感があった。何かが違うと思ったのだ。一体何がおかしいのか分からないけれど、変な引っ掛かりを私は覚えた。
何が可笑しい?何が引っかかった? 考えろ。考えるんだ。思い出せ。
そして気づく。今までの出来事を思い返していくうちに、一つの答えに行き着いた。
「(これ原作だと高校生であの二人付き合うんじゃ……)」
原作では確かそうだった。香織様とお兄様が付き合い、王子が失恋し、そこから王子は美穂ちゃんによって元気を取り戻していくという流れになるはずなのだ。
でも、香織様の恋人なのにお兄様って原作に出てないよね……いや、私が記憶にないだけで実は出てたのかもしれない。こんだけ主要キャラと仲良かったら出ていてもおかしくないし。
まぁ、私も原作を読んだのも随分前だし、忘れている可能性もあるか。それにスピンオフまで流石に読んではいないし、多分知らないと思う。
でもそうなると、これからの展開はどうなるのだろうか。
原作ではこの後王子は美穂ちゃんに恋をする流れなんだけどもさ。これどうなるんだろ。この二人、まだ出会ってすらいねーぞ……?
出来れば二人には出会って恋仲になってほしいんだけどな……
そんなことを考えながら二人の様子を見つめていると、
「あ、チャイムが鳴ったねー?ま、早く立ち直りなよー?伊集院くーん」
「…お前に言われなくても分かってるよ」
そう言いながら、王子はどこか不機嫌そうにそう言って授業の準備をしていた。
△▼△▼
あれから一ヶ月が経ち、季節は秋になった。あれから事件は特になく、王子が殺意の目でお兄様を見ることぐらいしか変化はなかった。
本当にそれ以外変化が無く、玲奈様とシャーロットの喧嘩もまだ続いていた。
そして今現在、私は……
「私、城ヶ崎さんの学校に行こうと思っているの」
私は今美穂ちゃんの相談を受けていた。主人公兼ヒロインでもある美穂ちゃんと当て馬である城ヶ崎透華が一緒にいること自体本来ならありえないことだ。
しかも、相談を受けているだなんて……原作では絶対にありえない光景であるが、この世界は原作ではなく、パラレルワールドみたいなものだ。
だからこうなったとしても不思議ではない……と開き直ってみた。
華鈴様が美穂ちゃんの第一号の友達にならない時点で今更感はあるが……
「……じ、城ヶ崎さん?あの……」
「はっ!す、すみません!」
咳払いをしながら私は息を吸い込む。危ない、危ない。今は考え事なんてしている場合じゃなかった。
「えっと、なんでまた急に?確かにうちの学校は高校生になると外部生が入学出来る仕様がありますが……」
「それなんです。私の家貧乏で、高校に通えるお金が無いので……でも、城ヶ崎さんの学校なら成績が優秀だと授業料も免除されるし、食事とかも成績が10位以内に入っていれば支給されるって聞いたので……それでどんな所なのかなって」
「そういうことですか」
まぁ、確かにそうだ。あそこ……白鷺学園は成績重視だからね……何なら、成績が優秀なら金も貰えるし。雀の涙程度だとみんな言うけど金銭感覚がバグっている人達が言うだけであって庶民……と言うと聞こえは悪いけど、まぁ普通の家庭にとっては十分すぎる額だ。
「本当、あれ以来、会っていなかった城ヶ崎さんにこんなこと聞きづらかったんですけど」
あれ以来……というと、『極上のカカオ』を送った時だろう。そうか……あの日以来会ってなかったのか……あれも1年前以上の出来事だもんな……そりゃそうか……
「いえ、別に気にしてなかったのでいいですよ。そんなことより……うちの学園は環境も良いし、設備も充実していますよ。ただ……」
「ただ……?」
小首を傾げ、こちらを見つめてくる美穂ちゃんに少しだけドキッとした。
……可愛いなぁ。やっぱりこの子凄い可愛いわ。お人形みたいに小さい顔立ち。大きな瞳。ぷっくりと膨れた唇。そしてニキビも毛穴も一つもない白い肌。うん、やっぱ可愛い。
「……城ヶ崎さん?」
「はっ!すみません!」
見惚れていてしまった私は慌てて我に帰る。あぶねぇ。つい意識がどっかに飛んで行ってしまった。私は息を吸い込みながら、
「さ、先の話の続きをするとですね……確かに、白鷺学園は成績優秀者なら多少融通は効きますし、ずっと優秀なら食事もタダになりますが……ただ……その外部生ってあまり良い印象を持たれないんですよ……特に女子からは」
そう、これが問題なのだ。
白鷺学園はお金持ちの令嬢やお坊ちゃんが通う名門校。そこに外部から入ろうとする者はいるにはいるけどそれはイジメのターゲットになる確率が高いのだ。
例に漏れず、美穂ちゃんも原作では城ヶ崎透華……つまり私にいじめられてたし…まぁ、美穂ちゃんがいじめられたとしても王子が助けてくれるんだけどもさ。
「後、単純に入試が難しいです。学力は勿論のこと、面接とかもあるので。多分月坂さんは大丈夫だと思うのですが……」
美穂ちゃんはこの世界の主人公であり、メインヒロインでもある。原作でもこの世界でもトップレベルの頭脳だ。
だから彼女が落ちることはほぼありえないと思うのだが、一応伝えておいた方が良いと思って伝えた。
「……やっぱり難しいですよね。でも……それでも私は……母さんと弟を楽にさせたくて」
美穂ちゃん……いい子~~!めっちゃくちゃいい子じゃん!知ってたけど!王子には勿体無いくらいの女の子だよ!マジで!
「そうなんですね」
私が関心しながら頷くと美穂ちゃんは申し訳なさそうに、こう言った。
「はい……だからこの一年間、勉強と店の手伝いをしていたので全然城ヶ崎さんと連絡取れなくて……ごめんなさい」
何で謝ってるの!?別に美穂ちゃんが悪いわけじゃないのに!!
「いや、月坂さんは何も悪くないと思うのですが……?」
「でも、こんな時だけ連絡するのは迷惑かなって思って……」
美穂ちゃんはまた俯いた。
うーん……確かに美穂ちゃんの気持ちは分かるよ?でも、一年前に会わなくなった友人が相談に来るってよくあることでは?
いや、よく分かんないけど。前世では友達がいない疑惑のある私だから漫画受け売りの知識しかないからなー……そう思いながら私は美穂ちゃんにこう言った。
「月坂さん、そんなこと気にする必要性ないですよー、友達なら当然のことだと思いますし」
「………友達…?」
えっ!?美穂ちゃん、首傾げてる!やば……言葉選びミスった?!
「なーんてね……と、突然何言ってるんだろうね、あはは……」
私が苦笑いを浮かべると、彼女は慌ててこう言った。
「い、いえ、そう言う意味ではなく。その……う、嬉しかったです。ありがとうございます!」
美穂ちゃんは笑顔を見せた。あぁ、よかった。友達だと思っていて…
「そ、それなら良かったです。でも、もし何かあったらいつでも頼ってきてくださいね?」
「はい。分かりました……後その……私のこと美穂って呼んでくれませんか?」
「ふぇっ……?」
思わず変な声が出てしまった。だって、いきなり名前呼びしろだなんて……心の中じゃ呼んでるけども……いざ口に出すとなると恥ずかしいし……
それに……
「駄目ですか?」
うっ……そんな可愛い顔されたら断れないよ……
私は息を吸い込みながら、
「分かったわ。これからは美穂ちゃんって呼ぶわね。でも、それなら私のことも透華と呼んでくれないかしら?」
「あー……そうですよね。分かりました。透華さん」
サラリと名前を呼ばれてしまい、少しだけドキッとした。
やっぱり可愛いなぁ。美穂ちゃんは。でも、美穂ちゃんと仲良くなると、必然的に原作は壊れるけど。
それは今更だし、まぁいっか。うん、それでいこう。
美穂ちゃんは満面の笑みでこちらを見つめている。
彼女の表情を見て、私は思った。
それにしてもこの子は可愛い。本当…王子には勿体無いくらいの良い子だ。
ああー!あんな野球馬鹿にこんな可愛い子あげたくねーよ!何でこんな可愛い子があんな野球馬鹿のものになるんだよ……!
「あの……透華さん?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたわ」
「そ、そうですか。……先の話に戻りますが、私やっぱり白鷺学園に受験します。狭い道だし、難しいとは思うけど……それでも頑張ります」
ああ……やっと本編が始まるのか。原作通りに進めることはもう出来ないけど。それでも――。
「私、応援してます。白鷺学園の受験は難解ですが、美穂ちゃんならきっと大丈夫です。頑張ってくださいね?」
「はい!」
美穂ちゃんを応援するこの気持ちだけは嘘ではないから。それだけは美穂ちゃんに知っておいて欲しい、と私がそう思いながらそう言うと、美穂ちゃんは元気よく返事をした。
やーっとくっついたのかよー!とか、長かったねー!とか、おめでとー!みたいな感じの反応がほとんどだった。
中には香織様のガチファンとお兄様のガチファンが喧嘩していたり、それを他の生徒が宥めたりと、ちょっとした騒ぎになっていたけど、最終的には『香織様ならしょうがない』と『城ヶ崎ならしょうがない』という結論に至ったらしい。
……そして華鈴様と玲奈様は――。
「あちゃー、姉さん失恋しちゃったか……」
「まぁ、こうなることは分かっていたわ」
華鈴様は清しく、玲奈様はどこか悲しそうな表情をしていたけども、それでも二人は前を向いていた。まぁ、華鈴様は美人だし、西園寺と恋人同士になる未来は確定しているようなものだし?
華鈴様の未来は明るいし、私が心配することは何も無い。後は西園寺次第だ。
そして最大の問題である、王子の方はというと、案の定、かなり荒れていた。それはもう、見てられないくらいに。
今では無気力状態になり、魂が抜けたように生きているだけの人形のようになっていた。
そんな彼に近寄る人は誰もいない。
あの西園寺ですらも、王子に話しかけようとしない。
あまりにも不憫すぎて、見ていられなかった。だからといって声はかけないけども。
「…もう!いつまでそんなになってるのよー!伊集院くん!」
「げっ……白鷺玲奈……」
突然の玲奈様の乱入により、王子の表情が一気に面倒くさいと言った表情に変わった。
だがしかし、玲奈様は全く気にしていない様子だった。
さすがは玲奈様。あの王子の相手ができるなんて……。
「いい加減にしてよね!九条先輩が悠真お兄ちゃんに取られたから拗ねるのはわかるけどさー!」
「す、拗ねる!?俺が拗ねる!?」
「そうでしょうが!だって好きな人が取られて悔しいってことでしょ!?」
うわぉ。凄いド直球な言い方ですね。流石です玲奈様。私達が言いたいことを代表してくれました。
それにしても王子のこの驚きよう。まさか自覚してなかったとは……。
「言っておくがな!俺は拗ねてない!これはただ単にショックが大きいだけだ!」
…そこは認めるんだ。まぁ、ショックなのは分かるけどさ。でも認めたら負けだと思うんだけど。
「あ、ショックなのは認めるんだー。ならささっと立ち直ったらー?このままだと九条先輩も悠真お兄ちゃんも伊集院くんのこと気にするだろうしー」
「余計なお世話だ!それに……!」
チラリと王子は華鈴様の方を見る。その視線には少しだけ哀愁が漂っていた気がした。
「あ、姉さんのこと?姉さんはどっかの誰かさんと違って立ち直ってますよー。だからさ、あんたも早く立ち直りなさいよね!」
ビシッと指を刺された王子は苦虫を噛み潰したような顔になった。これは時間が相当かかりそうだな……下手したら高校生になるまで引きずっているかも……
「ん?あれ?」
そこまで思った時、違和感があった。何かが違うと思ったのだ。一体何がおかしいのか分からないけれど、変な引っ掛かりを私は覚えた。
何が可笑しい?何が引っかかった? 考えろ。考えるんだ。思い出せ。
そして気づく。今までの出来事を思い返していくうちに、一つの答えに行き着いた。
「(これ原作だと高校生であの二人付き合うんじゃ……)」
原作では確かそうだった。香織様とお兄様が付き合い、王子が失恋し、そこから王子は美穂ちゃんによって元気を取り戻していくという流れになるはずなのだ。
でも、香織様の恋人なのにお兄様って原作に出てないよね……いや、私が記憶にないだけで実は出てたのかもしれない。こんだけ主要キャラと仲良かったら出ていてもおかしくないし。
まぁ、私も原作を読んだのも随分前だし、忘れている可能性もあるか。それにスピンオフまで流石に読んではいないし、多分知らないと思う。
でもそうなると、これからの展開はどうなるのだろうか。
原作ではこの後王子は美穂ちゃんに恋をする流れなんだけどもさ。これどうなるんだろ。この二人、まだ出会ってすらいねーぞ……?
出来れば二人には出会って恋仲になってほしいんだけどな……
そんなことを考えながら二人の様子を見つめていると、
「あ、チャイムが鳴ったねー?ま、早く立ち直りなよー?伊集院くーん」
「…お前に言われなくても分かってるよ」
そう言いながら、王子はどこか不機嫌そうにそう言って授業の準備をしていた。
△▼△▼
あれから一ヶ月が経ち、季節は秋になった。あれから事件は特になく、王子が殺意の目でお兄様を見ることぐらいしか変化はなかった。
本当にそれ以外変化が無く、玲奈様とシャーロットの喧嘩もまだ続いていた。
そして今現在、私は……
「私、城ヶ崎さんの学校に行こうと思っているの」
私は今美穂ちゃんの相談を受けていた。主人公兼ヒロインでもある美穂ちゃんと当て馬である城ヶ崎透華が一緒にいること自体本来ならありえないことだ。
しかも、相談を受けているだなんて……原作では絶対にありえない光景であるが、この世界は原作ではなく、パラレルワールドみたいなものだ。
だからこうなったとしても不思議ではない……と開き直ってみた。
華鈴様が美穂ちゃんの第一号の友達にならない時点で今更感はあるが……
「……じ、城ヶ崎さん?あの……」
「はっ!す、すみません!」
咳払いをしながら私は息を吸い込む。危ない、危ない。今は考え事なんてしている場合じゃなかった。
「えっと、なんでまた急に?確かにうちの学校は高校生になると外部生が入学出来る仕様がありますが……」
「それなんです。私の家貧乏で、高校に通えるお金が無いので……でも、城ヶ崎さんの学校なら成績が優秀だと授業料も免除されるし、食事とかも成績が10位以内に入っていれば支給されるって聞いたので……それでどんな所なのかなって」
「そういうことですか」
まぁ、確かにそうだ。あそこ……白鷺学園は成績重視だからね……何なら、成績が優秀なら金も貰えるし。雀の涙程度だとみんな言うけど金銭感覚がバグっている人達が言うだけであって庶民……と言うと聞こえは悪いけど、まぁ普通の家庭にとっては十分すぎる額だ。
「本当、あれ以来、会っていなかった城ヶ崎さんにこんなこと聞きづらかったんですけど」
あれ以来……というと、『極上のカカオ』を送った時だろう。そうか……あの日以来会ってなかったのか……あれも1年前以上の出来事だもんな……そりゃそうか……
「いえ、別に気にしてなかったのでいいですよ。そんなことより……うちの学園は環境も良いし、設備も充実していますよ。ただ……」
「ただ……?」
小首を傾げ、こちらを見つめてくる美穂ちゃんに少しだけドキッとした。
……可愛いなぁ。やっぱりこの子凄い可愛いわ。お人形みたいに小さい顔立ち。大きな瞳。ぷっくりと膨れた唇。そしてニキビも毛穴も一つもない白い肌。うん、やっぱ可愛い。
「……城ヶ崎さん?」
「はっ!すみません!」
見惚れていてしまった私は慌てて我に帰る。あぶねぇ。つい意識がどっかに飛んで行ってしまった。私は息を吸い込みながら、
「さ、先の話の続きをするとですね……確かに、白鷺学園は成績優秀者なら多少融通は効きますし、ずっと優秀なら食事もタダになりますが……ただ……その外部生ってあまり良い印象を持たれないんですよ……特に女子からは」
そう、これが問題なのだ。
白鷺学園はお金持ちの令嬢やお坊ちゃんが通う名門校。そこに外部から入ろうとする者はいるにはいるけどそれはイジメのターゲットになる確率が高いのだ。
例に漏れず、美穂ちゃんも原作では城ヶ崎透華……つまり私にいじめられてたし…まぁ、美穂ちゃんがいじめられたとしても王子が助けてくれるんだけどもさ。
「後、単純に入試が難しいです。学力は勿論のこと、面接とかもあるので。多分月坂さんは大丈夫だと思うのですが……」
美穂ちゃんはこの世界の主人公であり、メインヒロインでもある。原作でもこの世界でもトップレベルの頭脳だ。
だから彼女が落ちることはほぼありえないと思うのだが、一応伝えておいた方が良いと思って伝えた。
「……やっぱり難しいですよね。でも……それでも私は……母さんと弟を楽にさせたくて」
美穂ちゃん……いい子~~!めっちゃくちゃいい子じゃん!知ってたけど!王子には勿体無いくらいの女の子だよ!マジで!
「そうなんですね」
私が関心しながら頷くと美穂ちゃんは申し訳なさそうに、こう言った。
「はい……だからこの一年間、勉強と店の手伝いをしていたので全然城ヶ崎さんと連絡取れなくて……ごめんなさい」
何で謝ってるの!?別に美穂ちゃんが悪いわけじゃないのに!!
「いや、月坂さんは何も悪くないと思うのですが……?」
「でも、こんな時だけ連絡するのは迷惑かなって思って……」
美穂ちゃんはまた俯いた。
うーん……確かに美穂ちゃんの気持ちは分かるよ?でも、一年前に会わなくなった友人が相談に来るってよくあることでは?
いや、よく分かんないけど。前世では友達がいない疑惑のある私だから漫画受け売りの知識しかないからなー……そう思いながら私は美穂ちゃんにこう言った。
「月坂さん、そんなこと気にする必要性ないですよー、友達なら当然のことだと思いますし」
「………友達…?」
えっ!?美穂ちゃん、首傾げてる!やば……言葉選びミスった?!
「なーんてね……と、突然何言ってるんだろうね、あはは……」
私が苦笑いを浮かべると、彼女は慌ててこう言った。
「い、いえ、そう言う意味ではなく。その……う、嬉しかったです。ありがとうございます!」
美穂ちゃんは笑顔を見せた。あぁ、よかった。友達だと思っていて…
「そ、それなら良かったです。でも、もし何かあったらいつでも頼ってきてくださいね?」
「はい。分かりました……後その……私のこと美穂って呼んでくれませんか?」
「ふぇっ……?」
思わず変な声が出てしまった。だって、いきなり名前呼びしろだなんて……心の中じゃ呼んでるけども……いざ口に出すとなると恥ずかしいし……
それに……
「駄目ですか?」
うっ……そんな可愛い顔されたら断れないよ……
私は息を吸い込みながら、
「分かったわ。これからは美穂ちゃんって呼ぶわね。でも、それなら私のことも透華と呼んでくれないかしら?」
「あー……そうですよね。分かりました。透華さん」
サラリと名前を呼ばれてしまい、少しだけドキッとした。
やっぱり可愛いなぁ。美穂ちゃんは。でも、美穂ちゃんと仲良くなると、必然的に原作は壊れるけど。
それは今更だし、まぁいっか。うん、それでいこう。
美穂ちゃんは満面の笑みでこちらを見つめている。
彼女の表情を見て、私は思った。
それにしてもこの子は可愛い。本当…王子には勿体無いくらいの良い子だ。
ああー!あんな野球馬鹿にこんな可愛い子あげたくねーよ!何でこんな可愛い子があんな野球馬鹿のものになるんだよ……!
「あの……透華さん?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたわ」
「そ、そうですか。……先の話に戻りますが、私やっぱり白鷺学園に受験します。狭い道だし、難しいとは思うけど……それでも頑張ります」
ああ……やっと本編が始まるのか。原作通りに進めることはもう出来ないけど。それでも――。
「私、応援してます。白鷺学園の受験は難解ですが、美穂ちゃんならきっと大丈夫です。頑張ってくださいね?」
「はい!」
美穂ちゃんを応援するこの気持ちだけは嘘ではないから。それだけは美穂ちゃんに知っておいて欲しい、と私がそう思いながらそう言うと、美穂ちゃんは元気よく返事をした。
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