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三章〜出会いと別れ〜

三十六話 『三ヶ月の月日が経った』

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その後の朝食は一切会話もなく、無言で食べ続けた。


口の中に入った食べ物の味が全くしない。こんなことは初めてだった。
お兄様に視線を向けると、お兄様も同じ気持ちなのか悲しげな目をしていた。


「……さて、食べ終わったし、美月さん、行きましょう、学校」


「ええ……そうですね」


これ以上ここにいたら余計に辛くなるだけだ。そう思って立ち上がり、その場を後にした。



△▼△▼



学校につき、私達はため息を吐きながら教室に入った。

入ったのはいいのだが――、


「……おい」


何故か王子に絡まれた。それにみんなの空気が変わり、ザワザワと騒いでいる。
面倒臭いなぁと思っていると、王子は何故か頬を硬くしている。一体何を言われるんだ。私は今お兄様のことで頭がいっぱいだから何も考えたくないんだけど……。


「……その……昨日は悪かった」


「………昨日?」


何かあったっけ……?と私が首を捻っていると、


「か、顔を上げてください。伊集院様!」


「や……しかし、水瀬と城ヶ崎に謝っておかないと、俺の気が済まない」


「俺もそうだったんだけど……なんか城ヶ崎さんはそれどころじゃないって顔してない?冬馬」


西園寺の言葉に私は思い出した。そういや、この二人お兄様を拷問しようとしてきた奴らじゃん。


「あ……そういえば……そうでしたね……でも、私に謝るより先にお兄様に謝ったほうがいいのでは?いや、美月さんには謝って欲しいですけど」


王子達が謝罪すべき対象はお兄様の筈だ。なのに、どうして私のところにきたのか理解出来ない。


美月さんが怖がらせたことは許せないけど、お兄様にいち早く謝って欲しいと思ったのだ。
だけど、二人は黙り込んでしまう。
何なのだろうか、この煮えきらない態度は。


それに口下手な王子はともかく、コミュ力カンストの西園寺まで口を開かないなんて珍しい。


「……まあ、うん……謝ったよ?謝ったんだけど、何か上の空というか……悠真先輩も城ヶ崎さんも水瀬さんもみんな俺らのこと忘れてたっぽいし、何かあったのかなーって」


……ああ、そういうことか。
多分あの後、王子達は香織様に連れられて自分の家に帰ったと思う。そのときに香織様に謝っておくのよ!とか言われたのだろう。


「そうですか。でも、今の私そんなのもうどうでもいいんです。謝ってくれてありがとうございます」


「…お前らの間に何があったんだ……?」


「……伊集院様と西園寺様がお兄様のことを拷問しかけたことなんかより凄く重要なことです。でもその重要なことは私の口からは言えません。お兄様に聞いてください」


そう言って私は席に着いた。王子が何か言いかけようとしていたが、その後すぐに先生が入ってきたから会話は終了した。



△▼△▼



その後、王子からも西園寺からも声をかけることも、声をかけてくることもなく、ただ時間だけが過ぎて行った。


事情を察したのか、何なのか知らないが、王子の目が少し同情的な色をしていたのがムカついたが、それに口を出すこともなく、お兄様と私が血のつながらない件も口に出すことなく、更に三ヶ月が過ぎた。


え?三ヶ月とか急に飛び過ぎだって?しょうがないじゃないか。だって本当に何もなかったんだもの。


特に大きい事件もなかったし、変わった出来事もない。強いて言えば、美月さんのお母様があっさりお泊まりの件を許してくれたこととお兄様と香織様の距離が少しだけ……いや、凄く近付いたぐらいだ。


お兄様と香織様の関係は良好なせいで王子の表情がどんどん暗くなっていったことと、王子の取り巻きの女の子達の視線が鋭くなったこと以外は、平和そのものなのだ。


と思っていると、


「透華ちゃーん!おはようー!」


「あ、おはようございます……って……え!?玲奈様!?」


突然背後から抱き着かれて驚きながらも振り返ると、そこには何故か満面の笑みを浮かべている玲奈様がいた。


「れ、玲奈様……なんでここに……」


玲奈様は今、聖フローラ学園にいるはずだ。だからここにはいないはずなのに……。


「……シャーロットがさ、最近腑抜けになってつまんないからさ、こっちに来ちゃった。今日からここに通うことにしたからよろしくね」


「……し、シャーロット?腑抜けた?」


「そう!あいつってば!口が開くとアベルアベルアベルって……本当、つまんない」


それはつまんない……と言うより、シャーロットに構って貰えず拗ねてこちらに来たんじゃ……?と思ったのだが、それを言う前に、


「嘘をつくのは辞めなさい、シャーロットに構って貰えなくて寂しかったんでしょ?」


「ちっ違うわよ!!何言ってるのよ!姉さん!」


「あ、華鈴様、おはようございます」


「……おはよう、透華さん」


後ろを振り向くと、そこにはいつも通り無表情な華鈴様が立っていた。


「……そんなんじゃないから!!私は本当に!……シャーロットがつまんなくなったから、暇潰しに日本に戻ってきただけだもん」


「はいはい、分かったから」


そう言いながら華鈴様はため息を吐き、私達に背を向けて歩き出す。
それを見て、私達も一緒に教室に向かったが、


「本当よ!透華ちゃんは信じてくれるよね?ね?」


と言って、玲奈様は私に詰め寄ってくる。
確かに、シャーロットはずっと玲奈様にべったりだったし、この半年でシャーロットもアベル様に素直に甘えることが出来たみたいだし、その反動が一気に来て、今まで以上にべったりしているのかもしれない。


「……はぁ、そうですか……玲奈様がそこまで言うのなら信じます」


私がそう呟くと、玲奈様は上機嫌になりながら私に抱きついてくる。
……やっぱり拗ねているようにしか見えない。
しかし、そんなことを言ったらまた怒られそうだと思って黙っていると、


「何してるの?透華さん、早く教室に入りなさい」


華鈴様に先生みたいなことを言われ、慌てて足を進めた。



△▼△▼



「それでね!美月ちゃん!シャーロットってば酷いのよ!私のこといない扱いするし!」


授業が終わった後の休み時間、玲奈様は美月さんにシャーロットの愚痴を言い続けていた。


他人の愚痴なんてうんざりしていてもおかしくない筈なのに、美月さんの表情は優しく、慈愛に満ちたものだった。


「そうですか。……ふふっ。玲奈様は本当にシャーロットさんのことが好きなんですね」


美月さんの言葉を聞いた瞬間、玲奈様の顔が真っ赤に染まった。
そして恥ずかしそうに顔を伏せた。
何これ。何この可愛い生き物たち。天使かな?


「そ、そんなことないし!別に好きとかじゃ……シャーロットなんて……」


そう言って慌ててたけど、もうバレバレだ。やはり、アベル様に取られたのが悔しくて日本に来たのだろう。
乙女だ。とても乙女だ。


「そうですか?でも、シャーロットさんのことを話すときの玲奈様はとても楽しそうですよ?」


更に美月さんは追い討ちをかけていく。更に顔が赤くなってやがる!自分で自白していくスタイル! 何なんだ。ここは天国か? 可愛すぎるぞ。
思わず悶えそうになったが、何とか堪えて二人の様子を眺めていると、


「………透華」


「……え?」


お兄様の声が聞こえた。
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