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三章〜出会いと別れ〜
二十九話 『名前と電話』
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あれから一ヶ月が経った。意外なことに西園寺様はここには来なかった。華鈴様曰く、「あいつのことだから何か仕掛けてきそう」ということだが、何も仕掛けてこなかった。
「………可笑しい。何も仕掛けて来ないなんて」
華鈴様は神妙な顔で言う。……なんだかんだ言って……
「なんだかんだ言って姉さんってば西園寺くんのことが好きだよねー」
私の気持ちを代弁するかのように、玲奈様はそう言った。
「はぁ?」
しかし、肝心の華鈴様は侵害だ、とでも言うように玲奈様に鋭い視線を向ける。
「そんなわけないじゃない!」
「…でも、いつも気にかけてたじゃん。それに……最近、よく携帯見てるし」
玲奈様はそう言うと、華鈴様はハッとした様子になる。
「……え?!ちょっ……」
そして慌て始めた。まさかバレているとは思ってなかったようだ。
「悠真お兄ちゃんのことはもういいの?」
「……先生のことは……」
「どうでもいいですけど先生って呼び方だと何か禁断の恋している感じがしません?」
私はふと思ったことを口にする。すると、玲奈様はニヤッとした表情で華鈴様に向かってこう言った。
「確かにそうだね~~!透華ちゃんナイスっ!これを機に呼び方を変えよう?」
「え?!」
いきなりの提案に華鈴様は目を丸くさせる。
そして助けを求めるように私を見た。
「……私は賛成ですわよ?」
私は笑顔で答える。
「透華さんまで……」
「ほら!透華ちゃんもこう言ってることだし変えちゃおう?」
玲奈様はニコニコしながら華鈴様の肩に手を置いた。
「うぅ……分かったわよ……」
観念したのか、華鈴様は渋々と玲奈様の言葉に従う。
「やったー!!それじゃ将来恋人同士になると仮定して…」
「……恋人……今のところお兄様は野球が恋人ですからねぇ」
私がそういうと玲奈様は苦笑いを浮かべる。
いやだってそうなんですもの。今は野球のことで頭がいっぱいみたいですし。
「……野球を越えなくちゃいけないの?無理ゲーすぎない?」
「まぁ、そこは頑張ってくださいとしか言いようがありませんね」
「そっかぁ……」
玲奈様は残念そうだ。まあ、私もお兄様のことを思っている人と結婚してほしいし、華鈴様でも構わないけど。
「……じゃあ、まずは身近な人から参考にしていこう!まずは~……アベルさんとシャーロットから!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やぁ、シャーロット。今日のお昼一緒にどうだい?」
「アベルさん…もちろんですわ」
シャーロットは笑顔でそう言うと、アベル様もニコッと笑う。
「……柔らかくなりましたわね。シャーロット。自分の気持ちを隠さなくたっていうか」
前まではアベル様だったのにアベルさんに変えてるし。
「ええ。呼び捨てにしてもいいと思うけど……まぁ、いいや、それより姉さん、これは?」
「……先生から悠真さんって呼べばいいの?」
華鈴は困惑したような表情でそう聞く。
「ええ!そうよ!さぁ、悠真さん!はい!リピートアフターミー!」
玲奈様は華鈴様を煽ると、戸惑いながらも、華鈴様は口を開く。
「ゆ、悠真さん……」
華鈴様は顔を真っ赤にさせながらそう言った。恥ずかしそうにしている姿はとても可愛い。
「じゃあ、次は本人の前で……」
「ほ、本人!?」
華鈴様は更に顔を赤くする。そんな反応を見て玲奈様はニヤニヤしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー……楽しかったわ!やっぱり姉さんをいじるのは楽しいわね!」
満足げな顔で玲奈様はそう言った。……この人はSなのかしら?そう思っていると、玲奈様はこう言った。
「例え、失恋したとしても、姉さんには笑ってほしいしねー……姉さんも分かってるんだよ、九条先輩に勝てないってこと」
玲奈様はそう言ってため息をつく。
「……そうですね……」
有利な状況なのは間違いなく、香織様だ。しかし、それでも期待は持ってしまう。
それは、香織様も同じだろう。私達は香織様に勝ち目があると思っているけれど、本人はもしかしたら逆なのかもしれない。
「……まぁ、結局、決めるのは全部お兄様なんですけどね」
「──そうね」
玲奈様は再びため息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私がここの聖フローラ学園に通ってもう三ヶ月は経っていた。本来なら二週間なのに随分と長くそして濃い時間を過ごした。そんなある日のことだった。
「……ん?あれ、お母様から電話だ……」
私は不思議に思いながら携帯に出る。すると、慌てた様子のお母様の声が聞こえてきた。
『もし、もしもし!!透華!大変なの!!』
「どうしたの?」
私は首を傾げる。こんなに慌てているなんて珍しい。お母様はいつも冷静で慌てることなんてなかった。
『それが……その……』
「……落ち着いて、ゆっくり話して?」
私は優しく言うとお母様は深呼吸をして、落ち着いた声で言う。
『……悠真が交通事故にあったらしいの……!』
「……え?」
私は一瞬言葉を見失った。今何て……?私の脳は理解することを拒んでいる。私は震える声で聞き返す。
なんで……?どうして……? 私は混乱した。
「……トウカ?」
部屋で話していたので、隣にいたシャーロットが心配そうに声をかけてくる。
大丈夫だよっと、そう言いたいのに喉からは何も出ない。
お兄様が……事故……?お兄様が……いなくなる?頭の中で何度も繰り返されるその事実が嫌でも分かってしまう。
お兄様がいなくなったら……私はどうなるのだろうか。想像ができない。
「……透華?」
シャーロットがまた不安そうな表情で私の名前を呼ぶ。きっと、私の顔色は酷いことになっているんだろう。
「私日本に帰る!お母様!すぐに飛行機のチケット手配してくれる!?」
私はお母様に向かって叫ぶように言うと、お母様はすぐに答えてくれた。
『えぇ!すぐに用意させるわ!』
「ありがとう!」
私はお礼を言うと、シャーロットが私の腕を掴む。
「トウカ……急にどうしたの?日本に帰るだなんて…」
シャーロットは驚いたような顔で私を見る。まぁ、確かにいきなりだったもんね…… 私はシャーロットの頭を撫でながら、こう言った。
「……本当はもっとシャーロットの隣にいたかったけどお兄様が交通事故で大怪我をしたみたいだから……」
「……え?」
シャーロットは目を大きく見開きながらも、こう言った。
「そうなのね……ならしょうがない。だって大切な家族なんでしょ?トウカにとって……」
「うん……」
「……ねぇ、トウカ。もし、トウカじゃ嫌じゃなかったら──」
シャーロットは私に耳打ちをする。その内容を聞いて、私は驚きながらも、
「私は嬉しいけど……いいの?」
「ええ、アベルさんも事情を話せば分かってくれるでしょ」
私はシャーロットの提案を受け入れることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「僕のビジネスジェットを使いたいって言われた時はびっくりしたけど……そういう事情なら仕方ないよね」
そう言ってアベル様は苦笑いする。
「ごめんなさい……どうしても早く日本に帰りたくて……」
私は申し訳なさそうな顔をすると、アベル様は慌てたようにこう言った。
「勘違いしないで欲しいんだけど、僕は怒ってないよ?ただ……少し寂しいなって思っただけさ。だって君だけじゃなく、玲奈さんや華鈴さんまで帰るんだから」
「あー……」
私は納得したように呟く。確かにそうだ。まぁ、二人ともお兄様大好きだからね。そりゃ帰りたいだろう。
「アメリカから日本まで行くとなると……ここからは10時間は掛かるね」
「……はい」
10時間……長い。お兄様が無事かどうかも分からない状態で待つには長すぎる。
「じゃあね。お兄さんの無事を祈っているよ?」
「またここに遊びに来てよね」
そう言ってアベル様とシャーロットは空港を出て行った。それを見届けてから、私達は飛行機に乗り込む。そして、飛行機は日本に向けて飛び立った。
「……お兄様……どうか、ご無事で!」
羽田空港まで後10時間。お兄様のことを考えると不安になってきた。
「………可笑しい。何も仕掛けて来ないなんて」
華鈴様は神妙な顔で言う。……なんだかんだ言って……
「なんだかんだ言って姉さんってば西園寺くんのことが好きだよねー」
私の気持ちを代弁するかのように、玲奈様はそう言った。
「はぁ?」
しかし、肝心の華鈴様は侵害だ、とでも言うように玲奈様に鋭い視線を向ける。
「そんなわけないじゃない!」
「…でも、いつも気にかけてたじゃん。それに……最近、よく携帯見てるし」
玲奈様はそう言うと、華鈴様はハッとした様子になる。
「……え?!ちょっ……」
そして慌て始めた。まさかバレているとは思ってなかったようだ。
「悠真お兄ちゃんのことはもういいの?」
「……先生のことは……」
「どうでもいいですけど先生って呼び方だと何か禁断の恋している感じがしません?」
私はふと思ったことを口にする。すると、玲奈様はニヤッとした表情で華鈴様に向かってこう言った。
「確かにそうだね~~!透華ちゃんナイスっ!これを機に呼び方を変えよう?」
「え?!」
いきなりの提案に華鈴様は目を丸くさせる。
そして助けを求めるように私を見た。
「……私は賛成ですわよ?」
私は笑顔で答える。
「透華さんまで……」
「ほら!透華ちゃんもこう言ってることだし変えちゃおう?」
玲奈様はニコニコしながら華鈴様の肩に手を置いた。
「うぅ……分かったわよ……」
観念したのか、華鈴様は渋々と玲奈様の言葉に従う。
「やったー!!それじゃ将来恋人同士になると仮定して…」
「……恋人……今のところお兄様は野球が恋人ですからねぇ」
私がそういうと玲奈様は苦笑いを浮かべる。
いやだってそうなんですもの。今は野球のことで頭がいっぱいみたいですし。
「……野球を越えなくちゃいけないの?無理ゲーすぎない?」
「まぁ、そこは頑張ってくださいとしか言いようがありませんね」
「そっかぁ……」
玲奈様は残念そうだ。まあ、私もお兄様のことを思っている人と結婚してほしいし、華鈴様でも構わないけど。
「……じゃあ、まずは身近な人から参考にしていこう!まずは~……アベルさんとシャーロットから!」
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「やぁ、シャーロット。今日のお昼一緒にどうだい?」
「アベルさん…もちろんですわ」
シャーロットは笑顔でそう言うと、アベル様もニコッと笑う。
「……柔らかくなりましたわね。シャーロット。自分の気持ちを隠さなくたっていうか」
前まではアベル様だったのにアベルさんに変えてるし。
「ええ。呼び捨てにしてもいいと思うけど……まぁ、いいや、それより姉さん、これは?」
「……先生から悠真さんって呼べばいいの?」
華鈴は困惑したような表情でそう聞く。
「ええ!そうよ!さぁ、悠真さん!はい!リピートアフターミー!」
玲奈様は華鈴様を煽ると、戸惑いながらも、華鈴様は口を開く。
「ゆ、悠真さん……」
華鈴様は顔を真っ赤にさせながらそう言った。恥ずかしそうにしている姿はとても可愛い。
「じゃあ、次は本人の前で……」
「ほ、本人!?」
華鈴様は更に顔を赤くする。そんな反応を見て玲奈様はニヤニヤしていた。
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「あー……楽しかったわ!やっぱり姉さんをいじるのは楽しいわね!」
満足げな顔で玲奈様はそう言った。……この人はSなのかしら?そう思っていると、玲奈様はこう言った。
「例え、失恋したとしても、姉さんには笑ってほしいしねー……姉さんも分かってるんだよ、九条先輩に勝てないってこと」
玲奈様はそう言ってため息をつく。
「……そうですね……」
有利な状況なのは間違いなく、香織様だ。しかし、それでも期待は持ってしまう。
それは、香織様も同じだろう。私達は香織様に勝ち目があると思っているけれど、本人はもしかしたら逆なのかもしれない。
「……まぁ、結局、決めるのは全部お兄様なんですけどね」
「──そうね」
玲奈様は再びため息をついた。
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私がここの聖フローラ学園に通ってもう三ヶ月は経っていた。本来なら二週間なのに随分と長くそして濃い時間を過ごした。そんなある日のことだった。
「……ん?あれ、お母様から電話だ……」
私は不思議に思いながら携帯に出る。すると、慌てた様子のお母様の声が聞こえてきた。
『もし、もしもし!!透華!大変なの!!』
「どうしたの?」
私は首を傾げる。こんなに慌てているなんて珍しい。お母様はいつも冷静で慌てることなんてなかった。
『それが……その……』
「……落ち着いて、ゆっくり話して?」
私は優しく言うとお母様は深呼吸をして、落ち着いた声で言う。
『……悠真が交通事故にあったらしいの……!』
「……え?」
私は一瞬言葉を見失った。今何て……?私の脳は理解することを拒んでいる。私は震える声で聞き返す。
なんで……?どうして……? 私は混乱した。
「……トウカ?」
部屋で話していたので、隣にいたシャーロットが心配そうに声をかけてくる。
大丈夫だよっと、そう言いたいのに喉からは何も出ない。
お兄様が……事故……?お兄様が……いなくなる?頭の中で何度も繰り返されるその事実が嫌でも分かってしまう。
お兄様がいなくなったら……私はどうなるのだろうか。想像ができない。
「……透華?」
シャーロットがまた不安そうな表情で私の名前を呼ぶ。きっと、私の顔色は酷いことになっているんだろう。
「私日本に帰る!お母様!すぐに飛行機のチケット手配してくれる!?」
私はお母様に向かって叫ぶように言うと、お母様はすぐに答えてくれた。
『えぇ!すぐに用意させるわ!』
「ありがとう!」
私はお礼を言うと、シャーロットが私の腕を掴む。
「トウカ……急にどうしたの?日本に帰るだなんて…」
シャーロットは驚いたような顔で私を見る。まぁ、確かにいきなりだったもんね…… 私はシャーロットの頭を撫でながら、こう言った。
「……本当はもっとシャーロットの隣にいたかったけどお兄様が交通事故で大怪我をしたみたいだから……」
「……え?」
シャーロットは目を大きく見開きながらも、こう言った。
「そうなのね……ならしょうがない。だって大切な家族なんでしょ?トウカにとって……」
「うん……」
「……ねぇ、トウカ。もし、トウカじゃ嫌じゃなかったら──」
シャーロットは私に耳打ちをする。その内容を聞いて、私は驚きながらも、
「私は嬉しいけど……いいの?」
「ええ、アベルさんも事情を話せば分かってくれるでしょ」
私はシャーロットの提案を受け入れることにした。
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「僕のビジネスジェットを使いたいって言われた時はびっくりしたけど……そういう事情なら仕方ないよね」
そう言ってアベル様は苦笑いする。
「ごめんなさい……どうしても早く日本に帰りたくて……」
私は申し訳なさそうな顔をすると、アベル様は慌てたようにこう言った。
「勘違いしないで欲しいんだけど、僕は怒ってないよ?ただ……少し寂しいなって思っただけさ。だって君だけじゃなく、玲奈さんや華鈴さんまで帰るんだから」
「あー……」
私は納得したように呟く。確かにそうだ。まぁ、二人ともお兄様大好きだからね。そりゃ帰りたいだろう。
「アメリカから日本まで行くとなると……ここからは10時間は掛かるね」
「……はい」
10時間……長い。お兄様が無事かどうかも分からない状態で待つには長すぎる。
「じゃあね。お兄さんの無事を祈っているよ?」
「またここに遊びに来てよね」
そう言ってアベル様とシャーロットは空港を出て行った。それを見届けてから、私達は飛行機に乗り込む。そして、飛行機は日本に向けて飛び立った。
「……お兄様……どうか、ご無事で!」
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